皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2865件 |
No.2465 | 5点 | 正直者ディーラーの秘密- フランク・グルーバー | 2022/01/12 22:00 |
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(ネタバレなしです) 1947年発表のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズ第9作で、舞台はラスベガスです。論創社版の巻末解説によると1940年代半ばに豪華なカジノホテルが続々と誕生したと説明されていますが、本書の第10章で「三つの巨大なカジノのあいだには手つかずの砂漠が広がる」という描写があることから現在のラスベガスに比べればまだまだ発展途上だったのではと推測します。このシリーズは本格派推理小説の謎解きを楽しめる作品もありますが本書に関してはその要素は希薄でした。デスバレーで殺された男の死に際に出会ったジョニーとサムが、「ニックに届けてくれ」というダイイングメッセージと男の所持品(トランプやポーカーチップなど)の秘密を探る展開になりますがニックの正体にしろ(登場人物リストにはニックが1名いますが...)、所持品の秘密にしろ場当たり的に明らかになってジョニーの推理の出番がありません。ユーモア・ハードボイルドとしては十分に読みやすい作品ではありますけど。他のシリーズ作品と違うのはいつもは金策に苦心しているのに本書ではジョニーがカジノで稼ぎまくってます。うーん、苦労せずに金儲けしているなんてのはファン読者の期待に反しているのではないでしょうか(笑)。 |
No.2464 | 6点 | 複数の時計- アガサ・クリスティー | 2022/01/11 01:22 |
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(ネタバレなしです) 1960年代のミステリーはスパイ・スリラーの台頭がありましたが、大御所クリスティーも時流に乗ったのか1963年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第29作の本書では秘密情報部員を登場させてポアロよりも登場場面を多くしています。それでも本格派推理小説の謎解きの方にウエイトを置いていますけど。第14章でポアロにミステリー評論めいたことをさせているのも本書の特徴ですが、紹介されている作家の約半分は架空の作家のようです。実在の作家名を出すと色々都合悪かったのでしょうか(笑)。ハードボイルドには非常に辛口ですけど、まあクリスティーの作風には合わないですよね。タイトルに使われている「時計」は死体を取り囲むかのように置かれていた時計を指すのですが、この謎解きがなーんだというレベルだったのは呆れたというより失笑ものでした。 |
No.2463 | 5点 | 椿姫を見ませんか- 森雅裕 | 2022/01/10 23:16 |
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(ネタバレなしです) 1986年発表の鮎村尋深(あゆむらひろみ)&守泉音彦シリーズ第1作です。本書では尋深が芸術大学の音楽学部の学生、音彦が美術学部の学生で友人以上恋人未満風な関係です。オペラの練習中に毒殺事件が発生し、生前の被害者から受けた相談電話を相手にしなかったことを後悔した音彦が謎解きに乗り出します。一方で意外にも尋深は謎解きにほとんど参加しませんが、容疑者たちとは複雑な関係がある模様で一時的ながら自身も容疑者になったりしていて探偵役というより事件関係者役です。主人公2人の青春小説要素が強くて時にミステリーらしさが希薄になりもしますが、終盤は本格派推理小説らしく音彦が(あまり論理的ではありませんが)推理で複雑な真相を明らかにします。しかしこれで解決ではなく、更にサスペンス溢れる展開が用意されています。 |
No.2462 | 6点 | 幽霊はお見通し- エミリー・ブライトウェル | 2022/01/09 22:11 |
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(ネタバレなしです) 1993年発表のジェフリーズ夫人シリーズ第3作の本格派推理小説です。作中時代は1887年1月。シリーズ前作の「消えたメイドと空家の死体」(1993年)が失踪事件に身元不明の死体とミステリーとしての展開が遅かったのとは対照的に本書はあっという間に殺人事件が起こります。ウィザースプーン警部補は強盗殺人と判断しますがジェフリーズ夫人たちは偽装強盗と疑います。ベッツィ、スミス、グッジ夫人、ウィギンズたちいつもの使用人メンバーだけでなく富豪未亡人のルティと彼女の執事ハチェットまで捜査に参加して謎解き議論が盛り上がります。第9章でジェフリーズ夫人が(当時の)社会問題について講義したい気持ちを抑えて謎解きに集中しているところも好ましく映ります(第7章では死体泥棒について蘊蓄を披露してますが)。ところで過去のシリーズ2作品を読んだ時にはこのシリーズは結末が次作の冒頭へとつながる趣向があるように思いましたが、本書の締め括りはそうではないようです。でもこの締め括り、ウイットとユーモアに溢れていてくすっと笑いたくなります。 |
No.2461 | 5点 | 堕天使の秤- 吉田恭教 | 2022/01/08 14:40 |
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(ネタバレなしです) 2014年発表の向井俊介シリーズ第3作です。交通事故に巻き込まれた偽造ナンバー車両には4人が乗っていましたが(3人死亡、1人重態)、前席の2人は医者で後席の2人は麻酔薬で眠らされていたことから誘拐事件が疑われます。一方向井俊介は本来業務でない年金不正受給調査に狩り出されます。2つの事件捜査が絡み合う展開に淀みがなく、複雑な内容ですが読みやすいです。凝ったトリックもありますし(第7章で解き明かされる理系トリックは怖いまでに印象的)、どんでん返しの謎解きもなかなかの出来栄えですが事件が明らかに組織的犯罪であることと、社会問題と必要悪について読者に考えさせる内容であることからジャンルとしては社会派推理小説かと思います。犯人たちにはある種の正義感がありますが真相に近づいた人物を殺してしまっているので共感できないという意見もあると思います。しかし正論と綺麗事だけでは解決できない問題もあることをしみじみ感じさせる作品です。 |
No.2460 | 5点 | 霊柩車をもう一台- ハロルド・Q・マスル | 2022/01/03 22:34 |
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(ネタバレなしです) 1960年発表のスカット・ジョーダンシリーズ第8作です。ハヤカワポケットブック版(1961年出版)の巻末解説によると国内に初めて翻訳紹介されたマスル作品で当時のシリーズ最新作でしたが、過去のシリーズ作品を読んでる読者にちょっとした衝撃を与える趣向があり、最初に読むべきシリーズ作品ではないように思います。その巻末解説で「たくみな構成」とほめていますが、5万ドルの持ち逃げ事件、警察とギャングの癒着疑惑、遺産を巡る富豪一族の争いが複雑に絡み合いながらも読みやすく仕上げられています。第18章のほろりとさせるエピソードの活かし方も巧みです。しかし本格派推理小説としては本書のジョーダンの推理はかなり粗くて犯人特定の証拠は弱く感じるし、他の容疑者についてただ「するわけがない」との説明では説得力不足でしょう。 |
No.2459 | 5点 | 三匹の猿 - 笠井潔 | 2022/01/02 22:33 |
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(ネタバレなしです) 1995年に発表された本書は私立探偵・飛鳥井(見落としたかもしれませんが名前は表記されていないように思います)を主人公にした長編ミステリーです。母子家庭で育てられた女子高生から母親に内緒で父親を捜してほしいとの依頼を受けるのですが、スキャンダルまみれの人間関係が徐々に明らかになっていく展開は典型的なハードボイルドのプロットです。謎解き伏線を回収しながらの推理場面があって本格派推理小説要素もあるのですけどあまりにも錯綜している真相の説明には十分でなく、結構憶測で補っているように感じられました。矢吹駆シリーズと比べると哲学要素がない分読みやすいのですが、謎解きの魅力がいまひとつ及ばないように思います。 |
No.2458 | 6点 | 湖畔荘- ケイト・モートン | 2021/12/29 22:15 |
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(ネタバレなしです) 「秘密」(2012年)に続いて2012年に発表された長編第5作で、創元推理文庫版で上下巻合わせて700ページを超す大作であるところも「秘密」と共通しています。心理描写が非常に丁寧なので大作であっても重厚さよりも抒情性を感じさせるところがこの作者ならではの作風ですね。メインの謎が1930年代に起こった赤ん坊(セオ)の失踪事件であることと現代(2003年)でその謎解きを試みるのが女性刑事のセイディであること(但し警察の組織力には頼れません)が本書の特徴ですが、事件発生前の複雑な家族ドラマ描写が長々と続き、いくつかの秘密や問題が示唆されて緊張感も徐々に高まるのですが、事件発生後の描写が短いためかミステリーらしさは希薄に感じられるかもしれません。それでも最後は本格派推理小説風に伏線を回収しての謎解きがあるのですが、真相については何度か作中で語られる「コインシデンス(偶然の一致)」をどう評価するかで読者の賛否が大きく分かれそうな気がします。 |
No.2457 | 5点 | 塗りこめた声- 曽野綾子 | 2021/12/18 17:23 |
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(ネタバレなしです) 曽野綾子(1931-2025)は純文学作品、ノンフィクション、エッセーなど幅広い執筆で知られていてミステリー作家のイメージはあまりありませんが、1961年発表の本書は珍しくも本格派推理小説です。全29章から構成され、各章の冒頭に他作家のミステリー作品からの引用が置かれていますが、有名作家だけでなくブルース・ハミルトン、ハリイ・オルズカー、ウイリアム・モール、ベルトン・コッブなどマニアックな作家もあって結構力を入れて書いた模様。しかし30人を超す登場人物の大半が書き込み不足で存在感が薄く、人間関係も曖昧な状況が終盤まで続くのでドラマとしても謎解きとしても盛り上がりを欠いてます(主人公などはちゃんと描かれているので書こうと思えば書けたはずですが)。終盤になって主人公が犯人がわかったと言いますが推理説明はほとんどせず、26章から29章に渡っての「役割のわからない疑問の人物」による自白で真相が判明するというのはユニークではありますけど後出し感の強い謎解き説明で、本格派としては不満があります。最後の事件もドラマとしてのインパクトはありますけど、ミステリープロット的には完全な蛇足にしか感じられないのも残念です。 |
No.2456 | 6点 | 風果つる館の殺人- 加賀美雅之 | 2021/12/16 21:56 |
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(ネタバレなしです) 2006年発表のシャルル・ベルトランシリーズ第3作の本格派推理小説で加賀美雅之(1959-2013)の最後の長編作品となりました。生前に出版されたのが長編3冊と短編集1冊のみなのが本当に惜しまれます。あとがきで横溝正史の「犬神家の一族」(1950年)へのオマージュであることが紹介されていますが、「犬神家の一族」に限らずいくつかの先行ミステリーを思い起こさせる場面がしばしばでした。それをパクリだとか焼き直しだと批判することも可能でしょう。雰囲気や描写が大げさだとか古臭いと思う読者もいるでしょう。本書を好きな読者は大好き、嫌いな読者は大嫌いとはっきり分かれると思います。私はもちろん前者です。第17章の2で「おそらく古今東西の犯罪史上に類例があるまい」と(パットが)驚く場面だって「いやいや、某米国女性作家の1930年代の本格派作品に類例があるでしょ」と突っ込みたかったです。でもそれも含めて大いに(そして懐かしく)楽しめました。 |
No.2455 | 5点 | ボニーとアボリジニの伝説- アーサー・アップフィールド | 2021/12/12 22:21 |
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(ネタバレなしです) アーサー・アップフィールド(1890-1964)晩年の1962年発表のボニー警部シリーズ第27作です。巨大なクレーターの中で発見された死体の事件を扱っていますが大自然描写はやや控え目です。とはいえアボリジニを大勢登場させて複雑な人間ドラマを形成させているところは十分に個性的な作品といえるでしょう。被害者の正体(登場人物リストには載ってません)が前もって把握されているにも関わらず捜査官のボニーには情報が伝えられていないという設定がかなり異様に映ります。まあそれだからボニーも自己流で事件処理しちゃうのですけど。犯人当てとか殺人動機とかはメインの謎でなく、どのような経緯で死体がクレーター内に出現したかの調査を謎解きの中心に据えているのも一般的な本格派推理小説とは大きく違うプロットで、万人受けタイプではないように思います。 |
No.2454 | 6点 | 死まで139歩- ポール・アルテ | 2021/12/08 22:47 |
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(ネタバレなしです) アルテを日本に紹介するのに貢献した殊能将之(1964-2013)が「狂人の部屋」(1990年)と並ぶ傑作と評価していたのが1994年発表のアラン・ツイスト博士シリーズ第10作の本書です。謎を盛り沢山にする作者ですが本書でもツイスト博士が「次々押し寄せる奇々怪々な出来事」と述懐するように謎また謎のオンパレードで圧倒します。真相も色々な意味で手が込んでおり、馬鹿々々しくて信じられないと感じる読者もいるでしょうけど本格ミステリの将来(作中時代は1940年代末)について議論したり、密室トリックのカテゴリー分けしたりと本格派推理小説にこだわりぬいた作品です。トリックについては小粒なトリックの組み合わせであまり印象に残りませんが、ツイスト博士が最後に解明した「狂気のなかにある論理」の悲しい結論は強く印象に残りました。 |
No.2453 | 5点 | 王女に捧ぐ身辺調査- アリソン・モントクレア | 2021/12/05 22:35 |
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(ネタバレなしです) 2020年発表のアイリス・スパークス&グウェンドリン・ベインブリッジシリーズ第2作ですが英語原題の「A Royal Affair」が示すように、王室スキャンダルの情報を持っていることをほのめかす脅迫状を巡って手紙の送り主とスキャンダルの正体を調べていくプロットでスパイ・スリラーに属する作品だと思います。登場人物リストに載っている人物以外にも重要人物が何人も登場し(リストが不十分ともいえますが)、後半になると依頼主(とその取り巻き)やアイリスの元上司(とその組織)までもが怪しく見えてくるなどかなり複雑な物語です。最後は「名探偵皆を集めて『さて』と言い」風にアイリスとグウェンが関係者を一堂に集めて(実際に『さて』とは言いませんが)、伏線を回収しながら(一部はその場の証言に助けられていますが)様々な謎を解いていく本格派推理小説風な解決です。「最終章」の演出も上手いです。 |
No.2452 | 5点 | 誰のための綾織- 飛鳥部勝則 | 2021/11/28 23:25 |
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(ネタバレなしです) ある事件に関わった人たちが集団誘拐されて島に集められる設定が西村京太郎の「七人の証人」(1977年)を彷彿させる2005年発表の本格派推理小説で、記念すべき第10作ということで絵画とあとがきが復活している意欲作ですが、盗作指摘(正しいらしい)で有名になって絶版になってしまいました(盗作箇所を削除改訂しての復刊の可能性はあるでしょうか?)。プロローグで「推理小説の禁じ手」議論があり、エピローグでも読者が納得するかどうかについて議論するなどフェアな謎解きかどうかぎりぎりの線をねらったような作品です。某国内女性作家の某作品(1960年代)をちょっと連想させるエピローグで解明される最後の謎は確かにユニークではあるけど、ゴルフに例えるならOB区域にあるボールを打っているような印象を受けました。ゴルフにはルールがあるがミステリーにはルールがないという主張を受け入れられる読者ならこれも許容範囲? |
No.2451 | 5点 | 極上の罠をあなたに- 深木章子 | 2021/11/27 23:41 |
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(ネタバレなしです) 2019年に4編の中短編を収めて出版された「極上の罠をあなたに」に更に4編が追加されて2021年に「罠」というタイトルで出版された連作短編集です。「極上の罠をあなたに」の4編だけでは締めくくりが中途半端で4編を追加したのは正解だと思いますが、このような後出しの追加改訂版の出版では最初に「極上の罠をあなたに」を買った読者は損な買い物をしたと感じるのではないでしょうか(私は「罠」版を最初に買いましたが)。登場人物のほとんどが悪人で、まさに悪の群像ドラマ風です。悪人たちがある時は結託しある時は対立し、そして邪魔な存在は殺したり殺されたりしています。角川文庫版のあとがきで作者は「謎解きに挑戦してみてください」と書いてますが、推理があってもそれは悪事成就のための推理なので悪だくみに共感しない限りは読者は自分で推理してみる気分にはなれないでしょう。ハードボイルド的な非情の世界描写はよくできているし、連作短編集としてのプロット構成もしっかりしていますけど本格派推理小説よりは犯罪小説要素が強く感じられる作風は個人的には好みに合わなかったです。 |
No.2450 | 3点 | 「北斗星」24時間の空白- 井口民樹 | 2021/11/25 18:53 |
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(ネタバレなしです) 私が初めて井口民樹(1934年生まれ)の作品を読んだのは1992年発表の本書です。謎はなかなか魅力的で、夕方に東京の上野駅を出発して翌朝に札幌へ到着する夜行列車「北斗星1号」に乗った女性が車中で出会った女性から勧められた酒を飲んで眠り込んでしまいます。目が覚めた時には問題の女性はいなくなっていて無事札幌に到着したのですが、なぜか日付は出発日の翌日でなく翌々日でした。しかも意識を失っている間に彼女の婚約者が殺されて有力容疑者になってしまいます。偶然北海道で彼女と知り合った友部夫妻が彼女の無実を証明するために奔走するプロットで、謎は場当たり的に明らかになるので読者が推理する余地はほとんどありません。そして問題のトリックなんですがこれはひどい!もうSFトリックとか魔法トリックとか超能力トリックのレベルです。そういう設定ありの作品世界ならまだ許せますが、普通の世界でこれはないでしょう。BIG BOOKS版の作者紹介で「トラベルミステリーの秀作を次々と発表して好評を博している」と書かれてますが、本書がたまたまはずれ作品だったのでしょうか?私にとっては(個人的に)不幸な出会いになってしまいました。 |
No.2449 | 5点 | <アルハンブラ・ホテル>殺人事件- イーニス・オエルリックス | 2021/11/20 23:33 |
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(ネタバレなしです) 米国の女性作家イーニス・オエルリックス(1907-1982)がデビューしたのはクレイグ・ライス(1908-1957)と同じく1939年、ライスも多作家ではなかったですがオエルリックスは輪をかけて寡作家でわずかに8作の長編ミステリーしか残していません。8作の内7作は牛乳配達人マット・ウィンターズシリーズですが、21世紀になってやっと日本に初めて翻訳紹介されたのは1941年発表の(唯一の)非シリーズ作品の本格派推理小説である本書でした。論創社版の巻末解説によれば英語原題は「Murder Makes Us Gay」で「人が殺されてしまうとなぜかわくわくしてしまう」という意味のようですが、陽気とかユーモアとかを感じさせる内容ではありません。重苦しいとか堅苦しい作品でもないですけど。1人の有力容疑者を大勢が犯人と決めつけてますがほとんどが感情任せです。決定的と思える証拠や証言はほとんどなく、他の容疑者の追及もそれほどでもなく、人物関係が錯綜していることもあって微妙にもやもやした展開ですが終盤はなかなか劇的です。謎解き伏線を回収しての推理説明もありますが、むしろ(犯人以外の)容疑者たちがそれまでの嘘や隠し事を入れ代わり立ち代わりで自白していく場面が印象的です。犯人でもないのになぜそんなことしたのかについては説得力ある説明になっていないように思いましたが。 |
No.2448 | 5点 | インド宮廷秘宝殺人事件- 新谷識 | 2021/11/16 04:17 |
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(ネタバレなしです) 新谷識(1921-2008)の最後のミステリー作品となった1995年発表の本書で活躍するのは阿羅悠介の姪・小川久美子です。小川由美子の間違いではと思われる読者もいるかもしれませんが、由美子の姉です。「ヴェルレーヌ詩集殺人事件」(1990年)にも登場していて謎解き議論の中で推理貢献しているのですが、積極的に捜査に首を突っ込む由美子と比べて地味な存在で私はすっかり忘れていました(恥)。間違いと言えば「ヴェルレーヌ詩集殺人事件」では世史子だった悠介の妻が本書では淑子になっているのはさすがに作者の間違いでしょう。インド宮廷秘宝展の開催準備に関わっていた宝石デザイナーが殺され、インド史に詳しい久美子が警察を助けるというプロットで後半はインドが舞台になります。インドに関わると思われるダイイング・メッセージの謎解きが中心なのはインド史研究家として名高い作者ならではの個性とは言えるのですが、ほとんどそれに終始しているため一般知識レベルの読者に受けるか微妙です。もっと説得力のある証拠が散りばめてあれば本格派推理小説として充実したものになったと思います。 |
No.2447 | 5点 | ぬれ手で粟- A・A・フェア | 2021/11/14 23:20 |
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(ネタバレなしです) 英語原題が「Up for Grabs」の本書は1964年に発表されたバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第25作です。交通事故の後遺症を装った保険金詐欺を疑われている男の尻尾をつかむために観光牧場へ招待するという計画にドナルドが加担するという何とも不思議な展開の異色作です。意外な殺人事件(?)が起きてもそちらの謎解きより保険会社からの依頼の方を優先していくドナルドがかなり意外な秘密を暴くのですが、あまりにも唐突な解決に加えて推理説明が十分でないので呆気にとられるばかりです。不思議と言えば弾十六さんのご講評でも紹介されていますが、ハヤカワポケットブック版の巻末解説はE・S・ガードナー名義の「使い込まれた財産」(1965年)が日本人に献呈されたことばかりに言及していて、本書についてはまるで触れられていないのも不思議ですね。 |
No.2446 | 5点 | 殺意のバカンス- 野村正樹 | 2021/11/12 08:03 |
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(ネタバレなしです) 野村正樹(1944-2011)はサラリーマン時代の1986年に本書を発表してデビュー、1995年に退社するまで兼業作家でした。初期はミステリー作品が多かったですが1990年代以降はビジネス関連本や趣味関連本の方が圧倒的に多くなり、ノンフィクションライターとして認知している読者の方が多いかもしれません。本書は1985年の夏に新幹線の中で起きた毒殺事件を扱った典型的なトラベルミステリーですが、それほどバカンスを感じさせる内容ではありません。緻密なアリバイ崩しが特徴の本格派推理小説で、最初の謎解き議論で有名な「最速のはずの列車に追いつく後発列車」トリックが浮かび上がったりしますがさすがにこれだけで解決するはずもなく、試行錯誤の上に複雑なトリックが図解付きでわかりやすく説明されます。トリックはよく考え抜かれていますが被害者の独身女性が妊娠中だったのに(犯人かどうかはともかく)父親捜しを後回しにしているなど謎解きプロットとしては甘いと感じる部分もあります。動機に関わる過去の出来事も後出し気味の説明ですが、当時の社会事情を知らない世代の読者を意識したのか時代背景がかなり詳細に語られておりここは社会派推理小説風です。 |