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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2758件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.38 5点 薪小屋の秘密- アントニー・ギルバート 2009/01/28 15:08
(ネタバレなしです) 70冊近いミステリーと20冊近い非ミステリーを書いた男性風のペンネームのイギリスの女性作家アントニー・ギルバート(1899-1973)による1942年発表のクルック弁護士シリーズ第10作の本書は本格派推理小説としてはかなり毛色が変わっており、それが一般受けしにくい理由になっているように思います。前半は完全にサスペンス小説の展開ですが、後半になると謎解き小説の要素が強くなってきます。容疑者数を極端に絞り込んでおり、犯人当てとしてではなく何が起こったのかという網羅的な謎解きとして楽しむべき本格派でした。私は楽しんだというよりあまりに異色なプロットに面食らった方ですが。

No.37 10点 世界ミステリ作家事典 [本格派篇]- 事典・ガイド 2009/01/28 14:37
この種の本だと普通は翻訳された作家と作品のみの紹介に留まるのですが、1998年発表の本書はまだ日本に未紹介の作家まで数多く紹介しているのが凄いです。初版で7000円以上の高額にもかかわらず本書を買ったことは全く後悔していません。自分がまだ読んでない面白そうな作品がこんなにあるのかと嬉しくなりました。ネタバレにならないように配慮していますのでビギナー読者にもお勧めです。何度も読んでぼろぼろになってしまい、ついに買い直しました(それも後悔してません)。

No.36 2点 黒死館殺人事件- 小栗虫太郎 2009/01/28 09:47
(ネタバレなしです) 小栗虫太郎(おぐりむしたろう)(1901-1946)が1934年に発表した法水麟太郎シリーズ第1作である本書は日本ミステリー3大奇書の1つとして伝説的な存在ですが、同時代に書かれた夢野久作の「ドグラ・マグラ」(1935年)が混乱系なら本書は頭痛系(笑)。ヴァン・ダインのファイロ・ヴァンスシリーズに影響を受けた本格派推理小説であることは確かですがとにかく難解で読みにくいです。現代では使われない用語が沢山使われているのも理由の1つでしょうが、甲賀三郎が文章の難解さを指摘しているぐらいですから発表当時の読者にも読みにくかったのでしょうね。これまた甲賀三郎の受け売りになりますが、作者のあまりの膨大な学識に振り回され、読者は犯人を推理する余裕がないでしょう。

No.35 9点 見えないグリーン- ジョン・スラデック 2009/01/27 09:54
(ネタバレなしです) 1977年発表のサッカレイ・フィンシリーズ第2作の本格派推理小説で密室、消えた犯人、アリバイなどの豊富な謎に加えて容疑者同士の推理合戦など盛り上げ方も充実、気の利いた手掛かりも巧妙で、前作「黒い霊気」(1974年)に比べると格段の進歩が見られます。警察があまりにも重要な手掛かりを重視しない(気づいてはいる)のが不自然だとか細かい弱点もありますけど、フィンの鮮やかな推理で不可能犯罪が不可能でなくなる謎解きは素晴らしい効果を上げています。これほどの傑作が本国アメリカではほとんど評価されず、本書以降はスラデック(1937-2000)がミステリー作品を書かなかったのは本当に不幸なことでした。

No.34 7点 仮面山荘殺人事件- 東野圭吾 2009/01/27 09:18
(ネタバレなしです) 1990年発表の本格派推理小説です(シリーズ名探偵は登場しません)。後年デビューする石持浅海の作品を髣髴させるような風変わりなクローズド・サークル内の事件が印象的で、緊迫感あふれる展開の中に謎解き伏線を巧みに配置しどんでん返しも切れ味鋭いです。スムーズな語り口と(講談社文庫版で)300ページにも満たないコンパクトな分量のためあっという間に読み終えますが中身は充実しています。騙しの基本的な仕掛けは本書以前にも前例があるものですが私はまたまた騙されてしまいました。

No.33 9点 くたばれ健康法!- アラン・グリーン 2009/01/26 16:58
(ネタバレなしです) 米国のアラン・グリーン(1906-1975)の1949年発表のデビュー作である本格派推理小説です。派手なスラプスティック(どたばた劇)は好き嫌いが分かれるかもしれませんが、たかがユーモア本格派推理小説と侮ってはいけません。ギャグ漫画的なノリの中にもしっかりと手掛かりを潜ませ、全盛期のエラリー・クイーンに匹敵するほど論理的な推理による説得力ある謎解きが用意されているのですから。密室トリックもよく考えられています。

No.32 10点 死人はスキーをしない- パトリシア・モイーズ 2009/01/26 16:47
(ネタバレなしです) 長編19作が全てヘンリ・ティベット主任警部(後に主任警視)シリーズの英国の女性作家パトリシア・モイーズ(1923-2000)の1959年発表のデビュー作です。個人的にはちょっと気に入らない箇所もあるのですが、それでも満点評価できると思います。個性豊かな登場人物の描き分け、美しい自然描写、ユーモアとサスペンスのバランス、フェアに隠された手掛かりに基づく推理と本格派推理小説としての完成度は極めて高いです。

No.31 6点 死を開く扉- 高木彬光 2009/01/26 16:10
(ネタバレなしです) 1957年発表の神津恭介シリーズ第7作で密室にこだわり抜いた本格派推理小説です。密室殺人トリックは実現性にやや疑問があるような気もしますが(実現してもすぐにばれるでしょうし)アイデアとしてはなかなか面白いです。でももっと印象に残るのが密室放火トリックの方でした。すごく簡単に実現できそうですね。(仮に実現可能だとして)模倣実行犯が出ないことを切に祈ります(笑)。ワトソン役の松下研三は相変わらず役立たずですが今回はちょっと同情したくなります。神津の伝言があれではねえ。

No.30 7点 水車館の殺人- 綾辻行人 2009/01/26 15:58
(ネタバレなしです) 1988年発表の館シリーズ第2作の本格派推理小説です。前作の「十角館の殺人」(1987年)や次作の「迷路館の殺人」(1988年)と比べると、「読者の意表をつく」ところが弱いためか特にマニア読者からの評価は低いようです。確かにそういう評価もあるとは思いますが、安心して謎解きが楽しめる王道路線の本格派推理小説として個人的には十分以上に満足できました。何よりも後年の作品でもよく見られる幻想的な雰囲気が魅力的です。

No.29 6点 りら荘事件- 鮎川哲也 2009/01/26 14:39
(ネタバレなしです) わずか3長編と14の中短編の登場ながら根強い人気を持つ星影龍三シリーズの1958年発表の長編第1作で鮎川全作品の中でもかなりの人気作です。フェアに謎解き手掛かりが用意され論理的な推理で犯人が明らかになる、王道的な犯人当て本格派推理小説としては完成度が非常に高いです。それだけに最後の殺人が蛇足というか美しい着地でないのが(と個人的には感じました)惜しいです(これもよく考え抜かれてはいるのですが)。

No.28 8点 サファリ殺人事件- エルスペス・ハクスリー 2009/01/26 13:43
(ネタバレなしです) 英国の女性作家エルスペス・ハクスリー(1907-1997)は生まれはロンドンながら子供時代のかなりの部分を(当時はイギリス植民地だった)ケニアで過ごしており、アフリカに関する著作も書いています。ミステリー作品は1930年代にやはりケニアを舞台した3作のヴェイチェル警視シリーズで知られています。本書は1938年発表のシリーズ第2作で、何ともタイトルがお手軽過ぎというのが第一印象でしたが、読んでみるとこれ以外にふさわしいタイトルは考えられないと思えるほどにサファリの雰囲気一杯の本格派推理小説でした(英語原題は「Murder on Safari」です)。獲物の皮を剥いでいたというアリバイ証言なんか普通の本格派ではまずお目にかかれないでしょう。単に異国情緒頼りの作品ではなく、同時代のアガサ・クリスティーに遜色ない出来映えの謎解きもうれしいです。

No.27 5点 バイバイ、エンジェル- 笠井潔 2009/01/26 11:42
(ネタバレなしです) 笠井潔(1948年生まれ)は学生時代に学生運動組織に参加していた過去を持つためか、連合赤軍集団リンチ事件を機に政治活動から身を引いたとはいえどこか思想家的な雰囲気を引きずっている作家です。謎解きと哲学を融合したと評される矢吹駆シリーズ第1作の本書(1979年発表)は「現象学」とか「本質直観」とか私には難しい用語が連発されながらも本格派推理小説としては正統派で、第3章で提示される六つの謎を明らかにする第6章の説明はわかりやすいです(ネタバレ防止のために詳細は書きませんが魅力ある謎の提示に対して何でもあり的な真相はちょっと残念ですが)。しかし本書のクライマックスはその第6章の後半部の思想対決で、半端なハードボイルド小説など及びもつかないほどの冷酷さと非情さを感じさせます。これは笠井潔にしか書けないであろう、作品の個性でもありますがちょっと近寄りがたいかも。

No.26 7点 傾いたローソク- E・S・ガードナー 2009/01/26 11:35
(ネタバレなしです) 1944年発表のペリー・メイスンシリーズ第24作で本格派推理小説としてのプロットがしっかりしています。細部を丁寧に検証しているため、ややもすると退屈になり気味ですが現場見取り図を使って謎のポイントをわかりやすくしたのがいい工夫です。ちょっとした着眼点の違いでどんでん返しを演出しているのが非常に巧妙で、私も検事と一緒に「しまった」と内心で舌を巻きました。なお本書の最後はシリーズ次作の「殴られたブロンド」(1944年)へとつながる締め括りとなっています。

No.25 6点 二つの密室- F・W・クロフツ 2009/01/26 10:13
(ネタバレなしです) 地味で退屈というのがクロフツの一般的評価だと思います。もっとも最近のミステリーは筋がすごく複雑で登場人物も多いものが珍しくないので、クロフツも相対的には読みやすく感じるようになりましたが。1932年発表のフレンチシリーズ第8作の本書はその中では読みやすく、入門編として勧められるのではと思います。捜査するフレンチの視点だけでなく事件関係者のアンの視点も絡めているのが構成の工夫になっており、家庭内悲劇を描いているのも(クロフツとしては珍しい)新鮮です。密室トリックはあまり期待すると失望すると思いますが無理なトリックに走っていないのが堅実なクロフツらしいですね(ちなみに英語原題は「Sudden Death」です)。

No.24 5点 不連続殺人事件- 坂口安吾 2009/01/26 09:23
(ネタバレなしです) 純文学畑の坂口安吾(1906-1955)は推理小説愛好家でもありましたが1948年発表の本書は何と犯人当て懸賞小説で、作者の「正解者選後感想」によれば完全正解1名を含む8人が犯人を的中したそうです。江戸川乱歩や松本清張も絶賛し、もはや伝説化した本格派推理小説ではあるのですが今でも読む価値があるのかというと微妙かもしれません。個性的な登場人物が揃っていますがみんな変人ばかりのためか却って誰が誰だかわかりにくく、しかも人数が無駄に多いです。互いのののしり合いに終始するようなプロットも案外と変化に乏しくてサスペンスが盛り上がりません。言葉遣いの汚さが極端過ぎで、本書に比べると同時代の横溝正史はエログロ表現は使っていても節度をわきまえていたなと今更ながらに見直しました。

No.23 9点 こわされた少年- D・M・ディヴァイン 2009/01/23 11:31
(ネタバレなしです) 1965年発表の長編第4作の本格派推理小説です。短気な私は事件性がなかなかはっきりしない失踪系はどうも苦手で、名手ディヴァイン作の本書でも前半は読んでてちょっと辛かったです。しかし後半になってようやく事件らしい事件が起きてからは挽回し、最後はさすがディヴァインと唸るような謎解きが楽しめました。

No.22 7点 人狼城の恐怖- 二階堂黎人 2009/01/23 11:03
(ネタバレなしです) 1996年から1998年にかけて出版された講談社文庫版で実に4巻2500ページ超から成る大作、いや巨大作の二階堂蘭子シリーズ第5作の本格派推理小説です。量も凄いが内容もぎっしりで、いたずらにページを水増ししている感じはうけません。怪奇小説風になったりSF風になったり巨大な悪の存在がほのめかされたりグロテスク表現がかなりきつい箇所もあるし、締めくくりも端正な本格派とは程遠いので肌が合わない読者もいるでしょうが大変な力作には違いありません。読み終えた時の充実感はかなりのものです(あまりの厚さに読み始めるのに覚悟が必要ですが)。なお「地獄の奇術師」(1992年)のネタバレが作中にあるのでまだ未読の人は本書を後回しにすることを勧めます。

No.21 6点 ロートレック荘事件- 筒井康隆 2009/01/22 12:40
(ネタバレなしです) 1990年発表の手掛かり脚注付きで真相が説明される本格派推理小説です。大変トリッキーな作品で書評も賛否両論ですが、(確かに万人受けはしないとは思いますが)個人的には問題なしです。ただトリックのカモフラージュに気を回しすぎたか、小説としては(新潮文庫版で)200ページ少々の短い長編にも関わらず読みにくくなってしまったのは残念でした。最終章は(好き嫌いは別にして)なかなか味わい深いものがありますが。

No.20 10点 被害者を捜せ!- パット・マガー 2009/01/22 10:23
(ネタバレなしです) 米国の女性作家パット・マガー(1917-1985)のデビュー作で犯人探しではなく被害者探しの謎解きを楽しむ異色の本格派推理小説です。このアイデア自体はレオ・ブルースの「死体のない事件」(1937年)が先行採用していますが、作品としての面白さは圧倒的に1946年発表の本書が上回ります。当時としては珍しいであろう企業ミステリー要素もあり、個性的な人物描写、犯人(最初から読者に知らされています)を取り巻く人間関係がだんだんおかしくなる展開のサスペンスが実に魅力的です。ゲーム感覚で謎解きに挑む探偵役の海兵隊員たちのユーモラスな会話もいい味出しています。

No.19 7点 七人の証人- 西村京太郎 2009/01/21 16:58
(ネタバレなしです) 孤島を舞台にして十津川以外の警官が登場しない、かなりの異色作です(十津川も警察の組織力を使わないので本書は警察小説とは言えないでしょう)。有罪判決を受けた犯人(と認定された者)の無罪を証明し、なおかつ真犯人を突き止めるというミステリーは書くのがとても難しいと思います。まず有罪判決に説得性がなくてはいけなく、さらにそこからひっくり返すのですからこれは本当に至難の業です。しかし1977年発表の十津川警部シリーズ第5作である本書は無実の証明も真犯人探しも緻密で、論理的に謎解きされる本格派推理小説の傑作に仕上がっています。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2758件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(79)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)