皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2849件 |
No.129 | 6点 | 名探偵に薔薇を- 城平京 | 2010/02/01 16:18 |
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(ネタバレなしです) 1998年発表の本書は、城平京(しろだいらきょう)(1976年生まれ)の長編デビュー作となる本格派推理小説ですが強力な個性を感じさせます。新種の毒薬というSF的設定は本来は私の好むところではないのですが、本書の場合は全く弱点に感じません。独立した2つの物語で構成されており、第一部は見立て殺人を扱っていますが謎解きよりも事件に巻き込まれた人々の苦悩描写が印象的です。登場人物の大半を第一部と共通にした第二部は名探偵の苦悩を描いており非常に個性的で、どういう解決になっても誰かが傷つきそうな悲劇的設定が強烈です。デビュー作でこんなに悲劇性を漂わせた名探偵ものはちょっと記憶にありませんが、こんな深い作品を発表した作者の今後はどうなるんだろうと余計な心配したくなります。 |
No.128 | 5点 | 警官の証言- ルーパート・ペニー | 2010/01/18 18:28 |
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(ネタバレなしです) 1938年発表のビール主任警部シリーズ第5作でペニーの代表作とされています。宝捜し、密室殺人、名探偵を語り手にした1人称形式と読者への挑戦状の両立などパズル好きな読者を喜ばせそうなネタ満載の本格派推理小説です。しかしそれ以外の長所を見出すのが難しい作品で、会話だろうと地の文だろうと延々と説明調の文体が続くので小説としての盛り上がりを犠牲にしています。人物描写も相変わらず生彩がありません。また密室トリックについてはマニアや評論家には受けがいいようですが個人的には(トリック成立のためのある条件が)あまり感心できませんでした。 |
No.127 | 7点 | ロジャー・マーガトロイドのしわざ- ギルバート・アデア | 2010/01/14 20:43 |
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(ネタバレなしです) 英国のギルバート・アデア(1944年生まれ)は「作者の死」(1992年)や「閉じた本」(1999年)などのサスペンス小説の作家であり、また批評家としても知られる存在ですが2006年発表の本書はアガサ・クリスティーへのオマージュとして書かれた本格派推理小説三部作の第1作です。「アクロイド殺害事件」(1926年)のオマージュとして書かれた作品と評価されていますが、物語の締めくくりこそ「アクロイド」を彷彿させるもののそれほどの共通点はなく、容疑者たちが一堂に集まった状態で1人ずつ自分の過去を供述していく中盤までの展開はむしろ「そして誰もいなくなった」(1939年)の方を連想しました。カーター・ディクスンの某作品を思わせる「ひねり」がなかなか印象的です(好き嫌いはちょっと分かれるかも)。14章で密室トリック(ややリスキーかな?)が解明され、次章で犯人の名前が明かされることを予告する「読者への挑戦状」的な演出は謎解き好き読者の心をくすぐるでしょう。「アクロイド」を読んでいなくても十分に楽しめます。 |
No.126 | 6点 | 亜愛一郎の狼狽- 泡坂妻夫 | 2009/12/27 20:59 |
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(ネタバレなしです) 泡坂妻夫の1976年のデビュー作「DL2号機事件」を筆頭に1977年までに書かれた作品を集めて1978年に出版された亜愛一郎シリーズ第1短編集の本書は非常に個性的な作品揃いです。本格派推理小説の短編ですがかなりひねったプロットの作品が多く、そこが独創的だと評価されるのももっともですが一方で何が何だかよくわからないままに終わってしまったと感じることもあると思います。何度か読み直す内にそのよさがじわじわとわかってくるタイプだと思います。個人的なお勧めは発想の飛躍が効果的な「DL2号機事件」、本書の中では伝統的な謎解きの「右腕山上空」、ユーモア濃厚な「黒い霧」です。 |
No.125 | 5点 | 薔薇の女- 笠井潔 | 2009/12/07 18:58 |
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(ネタバレなしです) 「バイバイ、エンジェル」(1979年)や「サマー・アポカリプス」(1981年)では何よりも犯人の強烈極まりない内面描写に圧倒されましたが、1983年発表の矢吹駆シリーズ第3作の本書は犯行の異常性という外面的要素が特徴になっています。これはこれでありだと思いますが過去2作品のように他の作家には真似できそうにもないほどの個性は感じられませんでした(苦手なので私はあまり読んでいませんが猟奇的犯罪のグロテスク描写に力を入れたミステリーは他にも沢山ありそう)。矢吹駆も普通の探偵役にしか見えません。 |
No.124 | 5点 | 黒いトランク- 鮎川哲也 | 2009/11/19 16:24 |
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(ネタバレなしです) 鬼貫警部シリーズ第1作の「ペトロフ事件」(1950年)やいくつかの短編が書かれたもののまだ知名度は上がらなかった鮎川にとって1956年発表のシリーズ第2作となる本書が出世作にして代表作とされています。「りら荘事件」と共に代表作として名高い作品ですが作風は全く違います。本格派推理小説ではあっても地道なアリバイ捜査の結果、犯人は自然に早々と見当がついてしまいます。その代わりにトリックは緻密で複雑、読者の評価もこのトリックで好き嫌いが分かれるようです。私は光文社文庫版の芦辺拓によるトリック解説を読んでも半分ぐらいしか理解できませんでした。探偵役(鬼貫警部)と被害者や容疑者が顔なじみというのが珍しいですが心理描写にそれほど力を入れていないのでこの設定は十分活かされたとはいえないと思います。 |
No.123 | 6点 | 騙し絵- マルセル・F・ラントーム | 2009/11/05 09:18 |
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(ネタバレなしです) フランスのマルセル・F・ラントーム(1902-1988)はミステリー黄金時代の巨匠の作品を読破していただけでなく、第二次大戦中に捕虜収容所の中でボブ・スローマンを探偵役にした3冊の本格派推理小説を書き上げたという筋金入りのミステリー・マニアでした。その3冊は戦後にめでたく出版されたのですがフランスでは評価されなかったらしく2度とミステリーを書かなかったのは本当に残念です。1946年発表のシリーズ第2作にあたる本書は戦時色を全く描写しないで謎解きの楽しさのみを追及した本格派推理小説で、「読者への挑戦状」まで付いています。メインの謎は盗難事件(殺人もありますが付随的な扱い)ですが劇的な展開を見せるので退屈しませんでした。トリックは意外と複雑で、これは読者が完全に見破るのは難しいと思いますが。最終章のボブの感想は結構味わい深く、強い余韻を残します。 |
No.122 | 5点 | 世界名探偵倶楽部- パブロ・デ・サンティス | 2009/10/26 16:12 |
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(ネタバレなしです) 既に普通小説や児童小説を何冊も発表していたアルゼンチンのパブロ・デ・サンティス(1963年生まれ)が2007年に発表した本書は、19世紀のパリを舞台に世界の名探偵12人が集まる本格派推理小説です。しかしアントニイ・バークリイの「毒入りチョコレート事件」(1929年)やマリオン・マナリングの「殺人混成曲」(1954年)のような華麗なる探偵の推理競演を期待すると肩透かしを食らいます。多くの探偵は探偵というより傍観者または容疑者的な態度をとっています。また動機、機会、手段という王道的な手掛かりを求める探偵活動はほとんど見られず、哲学問答みたいなやりとりが多くて謎解きの面白さを十分味わえませんでした。一応は推理で犯人を指摘してはいますが説得力に富むというレベルに達していないのも残念です。 |
No.121 | 5点 | 警察官よ汝を守れ- ヘンリー・ウエイド | 2009/10/26 11:09 |
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(ネタバレなしです) 1934年発表のプール警部シリーズ第3作でウェイドの代表作と評価される作品ですが初めてウェイドを読もうとする読者にはちょっと勧めにくい面もあると思います。警察署内の殺人という、あまりにも派手な序盤がウェイドとしては異色で、中盤以降の地味にこつこつ捜査を進めていく展開(こちらはウェイドらしいです)とのギャップがビギナーにはなじみにくいかもしれません。感情描写を控え目にしてドライに淡々とした筋運びながら終盤にしんみりした場面が用意してあるのも唐突感を覚えます(非常に印象的な締めくくりではありますが)。 |
No.120 | 5点 | 首挽村の殺人- 大村友貴美 | 2009/10/19 19:49 |
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(ネタバレなしです) 大村友貴美(1965年生まれ)が2007年に発表した藤田警部補三部作の第1作にしてデビュー作の本格派推理小説です。地方色を出しており、それを上手く謎解きに絡めています。ただ探偵役としては藤田警部補は存在感が薄いし雰囲気の盛り上げ方にもまだまだ改善の余地があると思います。本書(角川文庫版)で「21世紀の横溝正史」と激賞されたことがこの作家の重荷にならなければいいがと心配になります。まだデビューしたばかりで「横溝とはここが違う」という指摘が多いのにはちょっと同情したくなります。 |
No.119 | 6点 | 狂人の部屋- ポール・アルテ | 2009/10/19 19:26 |
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(ネタバレなしです) 「棺をあけたら何がある?」という衝撃的な一行で始まる1990年発表のアラン・ツイストシリーズ第4作の本格派推理小説ですが前半は他殺かどうかもはっきりしない事件のアリバイ調べという、アルテにしては地味な内容です。しかしこの作家がそのままで終わるはずもなく、終盤になると(23章あたりから)まさかという出来事が続発します。それを合理的に片付ける手腕はさすがですね。真相に関しては偶然が重なり過ぎだし(エピローグで作者自身も認めてます!)、「それは反則では」と注文つけたくなるようなトリックが使われているのも残念ですが全体としては面白く読めました。物語全体を包む独特の怪しげな雰囲気が何とも魅力的でした。 |
No.118 | 8点 | 帽子から飛び出した死- クレイトン・ロースン | 2009/10/19 15:03 |
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(ネタバレなしです) 自身がアマチュア奇術師として舞台に上がったこともあるためか米国のクレイトン・ロースン(1906-1971)は不可能犯罪を扱った作品を得意としています。1938年に発表されたデビュー作の本書はまさしく本格派黄金時代の作品です。2つのメイントリックは本来なら時代遅れでもう通用しないはずのトリックですが探偵役の奇術師マーリニの推理説明を聞くとまだまだ十分使えるトリックに見えてくるから不思議です。密室トリックをめぐる議論また議論が謎解き好き読者にはたまらない趣向で、しかもジョン・ディクソン・カーの「三つの棺」(1935年)で有名な密室講義の改訂版を作中に挿入するほどの凝りようです。犯人当てとしても緻密に伏線を張っています。 |
No.117 | 6点 | QED ベイカー街の問題- 高田崇史 | 2009/10/19 09:41 |
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(ネタバレなしです) QEDシリーズは日本文学史や日本史の謎解きを織り込んだ本格派推理小説ですが2000年発表のシリーズ第3作の本書は海外文学、それもシャーロック・ホームズを取り上げているのが異色と評価される所以です。日本史に弱い私はこのシリーズとは相性があまりよくないのですが今回はホームズというなじみやすい題材を使っていたので比較的理解しやすかったです。ただホームズに関する謎解きはマニア読者を意識し過ぎたか相当強引な結論に持っていったように感じられ、それは現代の謎解きの方も同様でした。 |
No.116 | 7点 | 死が招く- ポール・アルテ | 2009/10/15 11:11 |
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(ネタバレなしです) 1988年に発表されたアラン・ツイスト博士シリーズの第2作です。前作の「第四の扉」(1987年)に比べるとトリックは小粒な印象を否めませんが、演出の上手さでは勝るとも劣りません。絵になる死体発見場面(実際に見たいとは思いませんが)、出来立ての料理と死後長時間経過した死体が組み合わされた密室など魅力的な謎に事欠きません。あと思わずにやりとしてしまったのが、最終章の謎解き場面での「名探偵も想像もつかない〇〇があったことは、幸い読者諸氏の知るところである」という文章。できの悪い本格派推理小説で、名探偵だけが知っていて読者には解決前には知らされず「アンフェアな謎解きではないか」と不信感を抱かせてしまうことが残念ながらよくありますが、作者は意図的にこの逆を突いたわけです。こういう遊び心も本格派ファンの心をくすぐります。 |
No.115 | 6点 | ルルージュ事件- エミール・ガボリオ | 2009/10/13 11:28 |
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(ネタバレなしです) 1830年代以降のフランスでは新聞連載小説が大流行し、バルザック、デュマ(父)、ジョルジュ・サンドなど錚々たる作家がしのぎを削っていましたが、エミール・ガボリオ(1832-1873)もそんな時代の落とし子というべき作家でした。1866年に連載された本書は(異説はあるかもしれませんが)「世界最初の長編推理小説」と評価されています。本書は5作書かれたルコック刑事シリーズの1作目でもありますがルコックは完全に脇役で最初の2章ぐらいしか登場せず、タバレが探偵役です。コナン・ドイルの「緋色の研究」でシャーロック・ホームズがガボリオ作品の探偵の非効率ぶりを批判していますが、ドイルよりさらに後年のF・W・クロフツの「足を使って地道に捜査する探偵」の原点はここにあると思います。ロマンスやお家騒動の描写がいかにも19世紀のロマン小説風でまわりくどく、人物のせりふもまるでオペラのように大袈裟です。タバレの推理も説得力に乏しく、しかも偶然に助けられているところが多いのもミステリーとしては弱いです。もっとも現代ミステリーと比較するのはライト兄弟の飛行機を航続距離が短くて非実用的だと断じるのと同じでフェアな評価ではないでしょう。前半やや冗長ですが中盤からは引き締まったストーリー展開になり案外読みやすかったです。 |
No.114 | 4点 | マーチ博士の四人の息子- ブリジット・オベール | 2009/10/13 11:04 |
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(ネタバレなしです) フランスのブリジット・オベール(1956年生まれ)はジャンルという枠に縛られない女性作家と評価されていますがどちらかといえばホラー、サスペンス系ではないかと思います。1992年発表のデビュー作の本書は本格派推理小説とされていますがかなり風変わりな作品です。犯人の日記と主人公(メイドのジニー)の手記を交互に配したプロットがユニークで、動きや表情の描写は皆無に近いですがテンポのいい展開のため退屈しません。恐さや不気味さも(デビュー作のためか)控え目です。ただ謎解きとしては大胆な真相を成立するためにトリックにかなり無理があるように思えました(トリック成立の説明が十分でない)。 |
No.113 | 4点 | 霧と雪- マイケル・イネス | 2009/10/05 12:39 |
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(ネタバレなしです) 1940年発表のアプルビイシリーズ第6作です。作者は第2章でわざわざ「家系図を出さないことをお許し願いたい。(中略)単純な散文でも全体をはっきりできることができることを信じている」と言い訳していますが、登場人物リストはやはり作ることを勧めます。しっかりしたプロットのようで回りくどさを感じさせ文章も軽妙でありながらどこか捉えどころがなく、特に事件が起きる前の序盤はかなり読みにくいです。真相も大胆といえば大胆ですが短編ならまだしも長編でこれは読者を馬鹿にしていると立腹する人がいるかもしれません。そういうところがイネスらしいと言えなくもありませんが、ビギナー読者には薦めづらい本格派推理小説です。 |
No.112 | 10点 | 兄の殺人者- D・M・ディヴァイン | 2009/10/05 11:34 |
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(ネタバレなしです) 書かれた作品がわずか13作ながら駄作なしと評価の高い英国のD・M・ディヴァイン(1920-1980)の1961年発表のデビュー作です。謎解きと物語がどちらも高い水準で両立した、文句なしの本格派推理小説の傑作です。アガサ・クリスティーも絶賛しただけあって読者を騙すテクニックは巧妙で、どんでん返しの面白さを堪能できます。人物描写も個性豊かです。ウイリアム・アイリッシュの「幻の女」(1942年)の有名な冒頭シーンを連想させる場面をエンディングに持ってきているのには思わずにやりとしました。 |
No.111 | 5点 | 放課後- 東野圭吾 | 2009/09/14 11:25 |
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(ネタバレなしです) 東野圭吾(1958年生まれ)の記念すべきデビュー作が1985年発表の本書です。「青春推理」と宣伝されていますが確かに高校を舞台にしているとはいえ主人公の教師の1人称形式の物語で、読者が学生気分を味わうタイプではなく私には普通の本格派推理小説にしか感じませんでした(無論それが悪いというのではありません)。珍しい動機についてはどこまで読者が真剣に捉えるかで賛否両論あるようですが私はミステリーとしてはありだと思います。ただ動機の謎解き伏線が十分でないことには不満ですし、またミスディレクションはアンフェアに近い稚拙な手法だと思います。 |
No.110 | 5点 | 修羅の終わり- 貫井徳郎 | 2009/09/09 20:27 |
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(ネタバレなしです) デビュー作の「慟哭」(1993年)からして完成度の高さに感心しましたが、1997年発表の本書はその「慟哭」をさらに発展拡大したかのような印象を受けました。強力な個性を持つ3人の主人公を軸にして複雑に絡み合うプロット、講談社文庫版で800ページ近い長大さ、それでいて文書には無駄がなくて読みやすく最後までテンションは落ちません。にもかかわらずこの採点にとどめたのは(結局は好みの問題なのですが)本格派推理小説としてはあまりにも標準型とかけ離れたからです。最後の1行で明かされる秘密にしてもそもそも謎として明快に提示されていない秘密なので謎解きのスリルを感じませんでした。汚さと卑劣さに満ち溢れたどす黒いストーリー展開も私には「やり過ぎ」にしか感じられませんでした。 |