皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2865件 |
No.145 | 6点 | 猫は知っていた- 仁木悦子 | 2010/04/07 18:24 |
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(ネタバレなしです) 仁木悦子(1928-1986)の作品は長編はわずか12作(1作はジュニア向けミステリー)に対して短編は100作を超すので短編ミステリー作家といっても差し支えないでしょうけど、1957年発表の長編第1作(仁木兄妹シリーズ第1作)である本書を読む限りでは長編を苦手にしているようには思えません。。「日本のアガサ・クリスティー」と評価されることもある作者ですが軽妙な文章と会話重視のプロット、そして充実した謎解きはなるほどと納得させるものがあります。防空壕の残る庭など時代性を感じさせる部分も散見されますが小説としてしっかりしているので現代読者の鑑賞に堪えられる作品です。トリックは実現性に問題ありかと思いますがなかなかユニークです。 |
No.144 | 5点 | 蔵書まるごと消失事件- イアン・サンソム | 2010/04/03 09:38 |
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(ネタバレなしです) 英国のイアン・サンソムが2005年発表したデビュー作でユーモア本格派推理小説です。何度もとんでもない目に遭って悲鳴と頭痛薬を欠かさない主人公描写(しかも推理は暴走気味)から目を離せません。主人公以外にも個性的人物が多数登場し、まるでクレイグ・ライスのマローンシリーズの世界です。もっともライスほどには羽目を外さず、文章にどこか抑制が効いているところはイギリス作家ならではでしょうか。映像化したらかなり派手なものになりそうですが。殺人の起きない謎解きは物足りませんが気軽には読める作品です。 |
No.143 | 6点 | 逃げ出した死体 伊集院大介と少年探偵- 栗本薫 | 2010/03/27 00:20 |
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(ネタバレなしです) 「伊集院大介と少年探偵」の副題をもつ、2006年発表のシリーズ第28作です。本格派推理小説らしさを感じさせるところもありますが巻き込まれ型サスペンスの要素も強く、謎解き伏線が解決前に読者へ十分提供されているわけではありません。とはいえ主人公の少年(14歳)のモノローグ(独白)が延々と続き、物語の4分の3近くまで彼以外に生身の人間として登場しているのはアトム君ぐらいというプロットはなかなか個性的です。少年のキャラクターに共感できない場合は全くつまらなく感じてしまう危険性がありますけど。余談になりますが余命あと数ヶ月で書かれた講談社文庫版(初版)の作者あとがきは痛々しさがひしひしと伝わってきて読むのが辛かったです...。 |
No.142 | 6点 | クッキー交換会の隣人たち- リヴィア・J・ウォッシュバーン | 2010/03/09 13:20 |
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(ネタバレなしです) 2008年発表のフィリス・ニューサムシリーズ第3作で、コージー派としてはプロットがしっかりしており、(やや見破りやすいながらも)伏線もちゃんと用意されて本格派推理小説としての謎解きを楽しめます。展開に派手さはありませんが文章は滑らかで読みやすいです。 |
No.141 | 4点 | 龍臥亭事件- 島田荘司 | 2010/03/08 12:35 |
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(ネタバレなしです) 1996年発表の本書は御手洗潔シリーズ番外編でワトソン役の石岡和己を主人公にしています(「アトポス」(1993年)のように最後になって御手洗潔登場、という風にはなりません)。作者の大作主義は留まることを知らず光文社文庫版で上下巻合わせて1100ページを超すボリュームですが、さすがに長すぎかなと思います。特に後半で挿入される3章200ページに渡るドキュメンタリー風の物語は、コナン・ドイルの「緋色の研究」の構成を連想させるもので物語の流れを中断させてしまったように感じました。またエピローグで「ある事実」が判明するのですがこれは他の島田作品を読んでいないと読者にはぴんとこない事実です。メインの謎解きに関係ないとはいえ、1つの作品内で全てが完結するようにしてほしいですね。 |
No.140 | 8点 | 「化かされた古狐」亭の憂鬱- マーサ・グライムズ | 2010/02/25 11:46 |
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(ネタバレなしです) 1982年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第2作の本格派推理小説で、前作の「『禍いの荷を負う男』亭の殺人」(1981年)に比べるとプロットがすっきして格段に読みやすくなっています。ジュリーもちゃんと名探偵らしくなりました。代わりにメルローズ・プラントが地位を下げましたが(笑)。舞台描写も卓抜で、霧や風そして暗さを巧妙に描いて寒村の雰囲気をたっぷり味わせてくれます。丁寧な謎解き説明も好感を持てます。 |
No.139 | 5点 | 死びとの座- 鮎川哲也 | 2010/02/22 11:49 |
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(ネタバレなしです) 鮎川哲也(1919-2002)の作家としての活動は1991年まで続きますが鬼貫警部シリーズに関しては1983年発表のシリーズ第17作の本書が最終作となりました。メイントリックはなかなかよく考えられておりハウダニットの謎解きはよくできた部類だと思います。しかし鬼貫警部の登場シーンが非常に少ない上に犯人当てに関しては容疑者の1人が途中から探偵役に切り替わって謎解きしているのが唐突に過ぎるように思います。山手線や総武線の駅名にちなんだ人物名が多いのは作者のお遊びとしても東京事情を知らない読者にはぴんと来ないでしょうし。 |
No.138 | 6点 | ベヴァリー・クラブ- ピーター・アントニイ | 2010/02/22 10:50 |
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(ネタバレなしです) 1952年発表のヴェリティシリーズ第2作で、前作「衣裳戸棚の女」(1951年)と比べると地味でユーモアも控え目です。アリバイと動機を丹念に調査するという、ひたすら普通の本格派推理小説に徹しています。しかし結末は決して普通ではなくかなり独創的な真相を用意しており、この独創性(といっても本書より先に書かれた某国内作家の某作品に似たアイデアがありますが)の評価は分かれるかもしれません。マニア読者なら受けるかもしれませんがビギナー読者は拒否反応の方が多くなりそうな気がします。 |
No.137 | 4点 | 殺人ピエロの孤島同窓会- 水田美意子 | 2010/02/17 10:33 |
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(ネタバレなしです) 水田美意子(1992年生まれ)の2006年発表のデビュー作です。その早熟ぶりが話題になりましたが実は12歳の時に完成させていたとか。登場人物が30人以上もいますが単純計算すれば10ページに1人の割合で殺されていくので、覚えておくべきなのは意外と少人数ですみます。最後には本格派推理小説ならではの推理要素もありますが物語のほとんどはノンストップで派手な殺人描写が連続するホラー小説風な展開で、たまにはリアリティーを無視しまくったB級ミステリーを読むのも悪くはないけれど、これはちょっとしつこいかなとも思います。 |
No.136 | 7点 | 密室の鎮魂歌- 岸田るり子 | 2010/02/15 17:16 |
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(ネタバレなしです) 十代のほとんどをフランスで過ごした岸田るり子(1961年生まれ)の2004年のデビュー作である本書は創元推理文庫版で300ページ程度とコンパクトで登場人物も決して多くはありませんが重厚さを感じさせる本格派推理小説です。心理サスペンスの要素も濃厚な作品で、クリスチアナ・ブランドの某短編を連想させるような幕切れは結構衝撃的です。謎解きが粗くて説明が少々中途半端なところがブランドレベルにはまだ到達していませんが、デビュー作としては上等の出来映えだと思います。 |
No.135 | 6点 | QED 東照宮の怨- 高田崇史 | 2010/02/15 17:02 |
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(ネタバレなしです) 文学史に疎い私にはこのシリーズはあまり相性がいいとはいえなかったのですが、2001年発表の桑原崇シリーズ第4作の本格派推理小説である本書は結構面白く読めました。文学史の謎解きは(今回は三十六歌仙で、果たして全部の歌が紹介されています)相変わらず私には難解過ぎでしたけど、スリリングな現代の謎解きとうまく融合している上に歴史の謎の真相にスケールの壮大さを感じることができたからかもしれません。 |
No.134 | 7点 | ABAの殺人- アイザック・アシモフ | 2010/02/15 16:53 |
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(ネタバレなしです) ABA(アメリカ図書販売協会)の大会に作家や出版関係者が参加する中で起こった殺人事件の謎解きを描いた1976年発表の本書はこれはといった特徴は何もないのですが総合点では高く評価できる本格派推理小説です。文章のテンポがよく、登場人物も深い心理描写はないけれどきちんとキャラクター分けされており、ユーモアも過不足ありません。謎解き伏線もフェアに用意されて納得できるものです。ビギナー読者にお勧めできるスタンダードとして最右翼の作品です。 |
No.133 | 6点 | 幽霊屋敷の殺人- キャロリン・G・ハート | 2010/02/15 16:42 |
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(ネタバレなしです) 1992年発表のデス・オン・デマンドシリーズ第8作ですがこれまでのシリーズ作品とは異なりユーモアはほとんど見られず、スタンダードな本格派推理小説だったのには驚きました。あの能天気なマックスさえも本書ではかなりシリアスなキャラクターになっています。後期のアガサ・クリスティーが得意とした、「回想の殺人」を扱って家庭内悲劇の描写に成功しています。コージー派の作家扱いされるのを嫌がった(らしい)作家が意地を見せたというところでしょうか。個人的にはなかなかいい作品だと思いますが、これまでのシリーズ作品を気に入っている読者がこの変化を好意的に捉えるかは微妙かもしれません。 |
No.132 | 6点 | 死のスカーフ- E・S・ガードナー | 2010/02/15 16:35 |
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(ネタバレなしです) 1959年発表のペリイ・メイスンシリーズ第59作でサスペンスと謎解きのバランスがとれた佳作です。謎解き伏線が現代ではちょっとなじみにくい手掛かりに立脚しているのが時代性を感じさせますが、法廷外裁判の駆け引きの面白さは今も色褪せていません。 |
No.131 | 5点 | ウォンドルズ・パーヴァの謎- グラディス・ミッチェル | 2010/02/12 18:48 |
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(ネタバレなしです) イギリスのグラディス・ミッチェル(1901-1983)はミセス・ブラッドリーを探偵役にした本格派推理小説を60冊以上も発表した女性作家です。その作風はすらすら読めるクリスティーとは対照的で文章自体は決して難解ではありませんが、特に初期作品ではプロットが突拍子もない展開を見せたりします。1929年発表のシリーズ第2作の本書もその典型で、まだ大した事件が起きないうちから色々な登場人物に怪しげな行動をとらせたかと思うと後になって実は殺人が既に起きていたらしいという、起承転結の「起」を省略して「承」から開始したようなところがあってとても読みにくかったです。手掛かり脚注に現場見取り図を使っての謎解きはいかにも本格派推理小説を読んだという気分にさせてくれますがあれほど複雑な真相なら現場見取り図はもっと早い段階で提示してほしかったです。 |
No.130 | 6点 | 船富家の惨劇- 蒼井雄 | 2010/02/03 09:01 |
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(ネタバレなしです) 蒼井雄(1909-1975)は本業がサラリーマンのアマチュア作家で作品数は非常に少ないですがスリラー小説が全盛だった戦前国内ミステリー界において本格派推理小説を書いた数少ない作家の1人として知られています。1936年発表の本書は丁寧な捜査描写にアリバイ崩しが特色のため英国のクロフツと比較されているようですが、後半のどんでん返しは(作中でも言及されているように)フィルポッツの「赤毛のレドメイン家」(1922年)の影響が濃厚です。もしかすると初めて時刻表を取り入れた国内ミステリーかもしれません。トリックこそさすがに古色蒼然としていますが、当時としてはかなり緻密なプロットだと思います。 |
No.129 | 6点 | 名探偵に薔薇を- 城平京 | 2010/02/01 16:18 |
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(ネタバレなしです) 1998年発表の本書は、城平京(しろだいらきょう)(1976年生まれ)の長編デビュー作となる本格派推理小説ですが強力な個性を感じさせます。新種の毒薬というSF的設定は本来は私の好むところではないのですが、本書の場合は全く弱点に感じません。独立した2つの物語で構成されており、第一部は見立て殺人を扱っていますが謎解きよりも事件に巻き込まれた人々の苦悩描写が印象的です。登場人物の大半を第一部と共通にした第二部は名探偵の苦悩を描いており非常に個性的で、どういう解決になっても誰かが傷つきそうな悲劇的設定が強烈です。デビュー作でこんなに悲劇性を漂わせた名探偵ものはちょっと記憶にありませんが、こんな深い作品を発表した作者の今後はどうなるんだろうと余計な心配したくなります。 |
No.128 | 5点 | 警官の証言- ルーパート・ペニー | 2010/01/18 18:28 |
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(ネタバレなしです) 1938年発表のビール主任警部シリーズ第5作でペニーの代表作とされています。宝捜し、密室殺人、名探偵を語り手にした1人称形式と読者への挑戦状の両立などパズル好きな読者を喜ばせそうなネタ満載の本格派推理小説です。しかしそれ以外の長所を見出すのが難しい作品で、会話だろうと地の文だろうと延々と説明調の文体が続くので小説としての盛り上がりを犠牲にしています。人物描写も相変わらず生彩がありません。また密室トリックについてはマニアや評論家には受けがいいようですが個人的には(トリック成立のためのある条件が)あまり感心できませんでした。 |
No.127 | 7点 | ロジャー・マーガトロイドのしわざ- ギルバート・アデア | 2010/01/14 20:43 |
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(ネタバレなしです) 英国のギルバート・アデア(1944年生まれ)は「作者の死」(1992年)や「閉じた本」(1999年)などのサスペンス小説の作家であり、また批評家としても知られる存在ですが2006年発表の本書はアガサ・クリスティーへのオマージュとして書かれた本格派推理小説三部作の第1作です。「アクロイド殺害事件」(1926年)のオマージュとして書かれた作品と評価されていますが、物語の締めくくりこそ「アクロイド」を彷彿させるもののそれほどの共通点はなく、容疑者たちが一堂に集まった状態で1人ずつ自分の過去を供述していく中盤までの展開はむしろ「そして誰もいなくなった」(1939年)の方を連想しました。カーター・ディクスンの某作品を思わせる「ひねり」がなかなか印象的です(好き嫌いはちょっと分かれるかも)。14章で密室トリック(ややリスキーかな?)が解明され、次章で犯人の名前が明かされることを予告する「読者への挑戦状」的な演出は謎解き好き読者の心をくすぐるでしょう。「アクロイド」を読んでいなくても十分に楽しめます。 |
No.126 | 6点 | 亜愛一郎の狼狽- 泡坂妻夫 | 2009/12/27 20:59 |
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(ネタバレなしです) 泡坂妻夫の1976年のデビュー作「DL2号機事件」を筆頭に1977年までに書かれた作品を集めて1978年に出版された亜愛一郎シリーズ第1短編集の本書は非常に個性的な作品揃いです。本格派推理小説の短編ですがかなりひねったプロットの作品が多く、そこが独創的だと評価されるのももっともですが一方で何が何だかよくわからないままに終わってしまったと感じることもあると思います。何度か読み直す内にそのよさがじわじわとわかってくるタイプだと思います。個人的なお勧めは発想の飛躍が効果的な「DL2号機事件」、本書の中では伝統的な謎解きの「右腕山上空」、ユーモア濃厚な「黒い霧」です。 |