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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.694 8点 ヘラクレスの冒険- アガサ・クリスティー 2015/07/25 04:42
(ネタバレなしです) 1947年に出版されたエルキュール・ポアロシリーズの短編集で、何とポアロが探偵からの引退を決意してギリシャ神話のヘラクレスの冒険にちんだ12の事件を解決して探偵活動に幕を引こうとします。ペットの誘拐、指名手配犯の追跡、失踪人探し、怪しげな宗教団体調査、盗難品の回収など多彩な事件が扱われているのは短編ミステリーならではです。ポアロが口コミの噂という難題に挑む「レルネーのヒドラ」、怪奇色の濃い「クレタ島の雄牛」(クリスティーとしては異例の動機が扱われている)、靴の手掛かりが印象的な「ヒッポリトスの帯」、余韻の残るエンディングの「ヘスペリスたちのリンゴ」などが私のお気に入りです。ちなみにポアロは本書の最後の事件を解決した後も引退はしません。まだまだ活躍は続きますのでご安心を。引退はどうした、と作者やポアロを責めたりはしないで下さいね(笑)。

No.693 6点 修道女フィデルマの探求- ピーター・トレメイン 2015/07/25 04:24
(ネタバレなしです) この短編集は「From Hemlock at Vespers」というタイトルで15の短編を上下巻で2000年に出版していたのが本国オリジナルで、日本ではその中から5作品を選んで「修道女フィデルマの叡智」というタイトルで最初に出版し、次いで「修道女フィデルマの洞察」で更に5作品、そして本書の5作品でついに15作品全部が読めることになりました(だったら最初からまとめて紹介してよと言いたいところですけど)。本書でまず目を引いたのは「ウルフスタンへの挽歌」で、珍しく密室の謎解きがあることも注目ですがそれに加えて中立地帯での敵対民族同士の静かな対立という背景も非常に魅力的で、長編ネタにしてもおかしくないと思います。オカルト色濃厚な(無論解決は合理的です)「不吉なる僧院」、愛憎のもつれが印象的な「汚れた光輪」もお勧めです。

No.692 6点 縛り首の塔の館- 加賀美雅之 2015/07/25 03:55
(ネタバレなしです) シャルル・ベルトランシリーズの中編5作品を収めて2011年に出版された初の短編集で、どの作品も怪異と不可思議な謎に満ち溢れた本格派推理小説です。ほとんどの作品が作者の敬愛するジョン・ディクスン・カーの影響が強く、もうパロディーと言ってもいいぐらいにカー(カーター・ディクスン名義も含む)の諸作品の演出やトリックが再利用されています。コナン・ドイルやモーリス・ルブラン、横溝正史や高木彬光を連想させる場面もあり、これこそ懐古趣味以外の何物でもありません。トリックのためのトリックに終始したような作品もあり、「妖女の島」(2009年)のトリックなんかは呆れるほど好都合に成立させているのですが(失敗する確率の方が高いと思います)、カーが大好きという読者ならそれさえも許してしまいそうです。「風果つる館の殺人」(2006年)以来久しぶりのシリーズ作品で健在ぶりをアピールしたかに思えましたが、まさかわずか2年後に作者(1959-2013)が亡くなって本書が生前出版の最後となってしまったとは!

No.691 5点 スイート・ティーは花嫁の復讐- ローラ・チャイルズ 2015/07/21 01:43
(ネタバレなしです) 2013年発表のお茶と探偵シリーズ第14作のコージー派ミステリーです。「オーガニック・ティーと黒ひげの杯」(2011年)でセオドシアは犯人を追い回していましたが、本書でもまたまたティドウェル刑事の制止を聞かずに犯人を追跡しています。本書でのセオドシアは名探偵とは到底思えないのですが、作中人物たちはすご腕の素人探偵と大絶賛です(笑)。まあ終わりよければ全てよしというのがコージー派では定番ではあるのですが。

No.690 6点 日本大使館殺人事件簿- 高柳芳夫 2015/07/20 09:18
(ネタバレなしです) 1981年から1982年にかけて発表された草葉宗平シリーズの中編4作を収めて1983年に「プラハの花嫁」(4作の1つでもあります)というタイトルで出版されたシリーズ第二短編集です。「日本大使館殺人事件簿」への改題は賛否両論あるかと思いますが、この作者は同じ地名を使ったタイトル作品が多くて紛らわしいのでこれはこれでありかと思います。時代性と(決して観光描写でない)舞台を活かした、個性豊かな作品揃いで、官僚や政治家でも被害者になったり容疑者になったりしているのがこの作者らしいです。基本的には本格派推理小説の短編集ですがその中では「プラハの花嫁」は共産圏時代のチェコスロバキアを舞台にしておりスパイスリラー色が濃厚です。草葉の推理場面もありますが、事件の幕引きは組織的ですっきりしない読後感を残します。最も本格派らしさを感じさせるのが「ペーター・ハルチンクの碑」で、多彩な容疑者たちに地図まで添付した贅沢な造りの謎解きを楽しめますが整理がちょっと不十分に感じられます。この内容なら長編作品に仕立ててもよかったのではと思います。

No.689 4点 さかさ髑髏は三度唄う- 司凍季 2015/07/12 21:46
(ネタバレなしです)  1993年発表の一尺屋遥シリーズ第3作の本格派推理小説です。タイトルはデビュー作の「からくり人形は五度笑う」(1991年)を連想させますが内容的には全く関係なく、どちらを先に読んでも影響ありません。複雑な人間関係を描いているのですが人物描写があまり上手くないのでそれが十分に読者に伝わらず損をしています。トリックもこれまでのシリーズ2作品と比べると小さくまとまった感があります。また語り手役と一尺屋の友情も、これで本当に友人なのかと疑問を抱く場面がしばしばでした。最後は強引にまとめていますけど。

No.688 6点 死体あります- リア・ウェイト 2015/07/12 21:34
(ネタバレなしです) 2002年に本書でミステリーデビューした米国の女性作家リア・ウェイト(1946年生まれ)は三代続いた古美術商の家に生まれ、自らもアンティーク図版の商売を手がけています。つまりこのシリーズでアンティーク図版専門店「シャドー」を営むマギー・サマーは作者自身をモデルにしているわけです。マギーが商売の合間を縫ってにわか探偵として犯人探しをする様子が軽快な文章で描かれていてとても読みやすいコージー派の本格派推理小説です。使われているトリックが専門的知識を求めているなど謎解きとしては感心できない点もありますが、それよりも動機がとてつもなかったことにびっくりしました。 似たような動機は綾辻行人の某作品でも使われていますが、軽い筆致で書かれているだけに本書の方がむしろ衝撃度は上かも。

No.687 5点 彼の個人的な運命- フレッド・ヴァルガス 2015/07/12 07:55
(ネタバレなしです)  1997年発表の三聖人シリーズ第3作の本格派推理小説で、シリーズ前作の「論理は右手に」(1996年)で主役だったルイ・ケルヴェレールも再登場しています。前半の主人公はそのルイですが後半になると三聖人(マルコとリュシアン)の存在感が増していきます(マティアスは最後まで影が薄いです)。シリーズキャラクター以外では(容疑者の)クレマンの個性も強烈です。ヴァルガスは本当に風変わりな人物を創作するのがうまいですね。解決はやや唐突で、決め手に欠ける推理のような気もしますが一応は謎解き伏線が用意されています。主役級を何人も揃えるストーリーづくりは難しいのか、三聖人シリーズはこの後は書かれなくなり、アダムスベルクシリーズに創作の中心が移ります。

No.686 6点 猫の手- ロジャー・スカーレット 2015/07/12 07:49
(ネタバレなしです) 1931年発表のケイン警視シリーズ第3作(新樹社版では警部と訳されていますが警視が正しいようです)の本書は中盤まで事件が起きずやや退屈しますが、事件発生後は本格派推理小説としての謎解きサスペンス濃厚な展開となり十分に楽しめました。結末がやや風変わりな幕引きとなっている点は読者の好みが分かれるかもしれません。

No.685 3点 電話の声- ジョン・ロード 2015/07/12 07:46
(ネタバレなしです) 1948年発表のプリーストリー博士シリーズ第47作の本格派推理小説。しかしプリーストリー博士は完全に脇役扱いで、本書の名探偵役はジミー・ワグホーン警視です(世界推理小説全集版ではジミイと表記)。犯罪研究家でもあったロードならではでしょうか、本書は実際の犯罪を下敷きにした作品とのことです。リアリティーを重視し過ぎたためかあまりにも地味なストーリーになってしまい、相変わらず個性のない人物描写と相まって退屈の方が先立ってしまったような気がします。ジミーが犯人をびしっと名指しした場面ではさすがに引き締まりますが、よく読むと推理よりもはったりの方が多いみたいですね。まあそれも名探偵の条件かもしれませんけど(笑)。

No.684 6点 死の序曲- ナイオ・マーシュ 2015/07/12 07:29
(ネタバレなしです) 1939年発表のアレン警部シリーズ第8作である本書はそれほど高い評価は得ていないようですが、容疑者数を絞り込んでコンパクトにまとまっており、代表作とされる「ランプリイ家の殺人」(1940年)よりも個人的には気に入っています。27章から構成されていますが、「唐草模様」というタイトルの入った第7、12、25章での容疑者たちのやり取りやモノローグがなかなか面白く、この中の誰が犯人だろうという読者の興味をさらに刺激しています。

No.683 6点 マローン殺し- クレイグ・ライス 2015/07/12 07:25
(ネタバレなしです) クレイグ・ライス(1908-1957)の死後の1958年に出版されたマローンシリーズ第一短編集で10作品が収められています。粗い謎解きの作品も少なくありませんがライスならではの人情物語は短編でも十分堪能できます。謎解きのまとまりがいいのは「永遠にさよなら」だと思いますが、ライスならではの個性が1番発揮された作品なら悲哀の色濃い「邪悪な涙」だと思います。いつも控え目な秘書のマギーが健闘する「マローン殺し」や女性レスラーが登場する「恐ろしき哉、人生」なども面白いです。

No.682 5点 魔神の遊戯- 島田荘司 2015/07/12 06:44
(ネタバレなしです) 2002年発表の御手洗潔シリーズ第9作の本格派推理小説で舞台はスコットランドです。魔神の伝説、魔神の咆哮、魔神に引きちぎられたような死体とスケールの大きな謎が用意されているところは島田らしいのですが過去作品、例えば「暗闇坂の人喰いの木」(1990年)と比べると作風が微妙に違います。猟奇的な殺人が起きますがグロテスクな描写は相当抑えられています。狂気描写も同様です。これを読みやすくなったと好意的に評価する人もいれば、物足りないと批判する人もいるでしょう。私は個人的には肯定派です(ただ一方で「暗闇坂の人喰いの木」にはどこか魅かれるところもあるのですが)。謎解きには不満点が多く、肝心の魔神トリックに魅力がありません。犯人の計画も随分と念を入れているのですが細工を弄し過ぎていて失敗リスクが高く、これが成立したというのはあまりにも好都合過ぎる展開にしか思えませんでした。犯人と御手洗潔の最後の問答も締め括りとしてはキレがありません。

No.681 5点 音のない部屋の死- ハーバート・レズニコウ 2015/07/12 05:36
(ネタバレなしです) 1987年発表の非シリーズもの本格派推理小説です。謎解きプロットに父子ドラマを織り込もうとし、音響メーカーの音響実験室(無響室)という凝った犯罪現場でしかも準密室状態、秘密主義の被害者のため動機の謎解きも難航と、実に色々詰め込みかつ丁寧に謎解きしてはいるのですがもう一工夫欲しかったです(私がぜいたくなのかなあ)。建築家出身の作家ならではの緻密な描写ではあるのですが理解力のない私としては現場見取り図はぜひ欲しかったです(図があれば不可能犯罪性もそれを打破するトリックももう少しわかりやすかったと思います)。同じように企業を舞台にした本格派推理小説を得意としたエマ・レイサンと比べてしまうと人物描写の弱さで損してしまい、誰が誰だかよくわかりにくかったです。

No.680 4点 ふたりで探偵- 平岩弓枝 2015/07/12 04:43
(ネタバレなしです) 1987年に発表された短編集で旅行記や紀行文を書く作家の夫と旅行社の添乗員である妻の活躍する8作が収められています。妻の旅行先での経験や情報を聞いた夫が推理で謎を解くプロットパターンが多いので本格派推理小説といっても言いのですが、大したことのない謎に大したことのない推理とミステリーとしては薄味です。点数評価が低目なのはそのためです。但し旅行描写(ほとんどが海外旅行)と人情談はなかなか読ませるものがあり、手応えのある謎解きを期待しないで読めば楽しめると思います。(新潮文庫版で)40ページに満たない作品ばかりで気軽に読みます。

No.679 6点 死角に消えた殺人者- 天藤真 2015/07/05 22:35
(ネタバレなしです)  1976年発表の長編第7作(鷹見緋沙子名義の「わが師はサタン」(1975年)もカウントすれば第8作)の本格派推理小説です。互いの関連性を見出せない4人の被害者の誰が狙われたのかというユニークな謎解きが特色で、この種のプロットでは笹沢左保の「死人狩り」(1965年)という前例もありますが本書は(登場人物の1人が指摘しているように)「世間知らずの温室娘で、することなすこと頼りなくて、そのくせ気だけは強くて自分のすることが全部正しいと思いこんでる」女性を主人公にしているのが個性になっています。他の登場人物もかなりクセのあるキャラクターが多く、読者の好き嫌いは分かれそうですが彼らが衝突したり協力したりを繰り返していく展開は読み応え十分です。

No.678 6点 呪われた穴- ニコラス・ブレイク 2015/07/05 22:26
(ネタバレなしです) 「旅人の首」(1949年)から久しぶりとなる、1953年に発表されたナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第10作となる本格派推理小説です。ハヤカワポケットブック版の巻末解説で「人物描写と堅実な推理」を誉めていますが私もそれに賛同します。ジョン・ディクスン・カーを彷彿させるところがあり、村を舞台にした匿名の手紙事件というプロットがカーター・ディクスン名義の「魔女が笑う夜」(1950年)と共通していますし、ある小道具で某作品(作品名は伏せます)のメイントリックを思い浮かべる読者もいるでしょう。しかし全体の仕上げはやはりブレイクならではのもので、特に最終章でのナイジェルの推理と村人たちの行動を交互に描写した構成と劇的な結末の効果は見事です。長らく絶版状態のハヤカワポケットブック版(ナイジェルがナイゲルと表記されています)は半世紀以上前の1955年翻訳なのでそろそろ新訳版が待ち望まれます。

No.677 5点 『風と共に去りぬ』殺人事件 - ジャックマール&セネカル 2015/07/05 22:15
(ネタバレなしです) 1981年に発表されたサンソン&ステファノプーロスシリーズ第2作の本格派推理小説ですが、このコンビ作家の1人、イヴ・ジャックマール(1943-1980)は本書の出版時には既に世を去っています。何と驚き、本書の舞台はハリウッドです。このフランス作家が果たしてアメリカをどう描くかというだけでも興味津々です。映画に関する薀蓄(うんちく)もたっぷりで、好きな人にはたまらないでしょうが私のように映画をあまり知らない人には実在の映画関係者と物語の登場人物がちょっとごっちゃになってしまいました。ややB級ミステリー風な展開と専門的な知識が必要な謎解きは好き嫌いが分かれそうですが、なるほどこれはアメリカを舞台にする必要性があったなと十分納得できます。そして結末の悲劇的な演出も印象的で、やはりこの作家は私にとって「欠点も数多いがそれでも何かを期待させてくれる作家」の1人です。クリスティーの「鏡は横にひび割れて」(1962年)の謎解きネタバレをしているのはよくないなと思いますけど(シリーズ前作でもクリスティー作品ネタバレやってますが、あれは謎解きプロットと密接に絡むので例外的に仕方がないとは思います)。

No.676 5点 聖堂の殺人- S・T・ヘイモン 2015/07/05 21:57
(ネタバレなしです) 1982年発表のベンジャミン・ジャーネットシリーズ第2作で、CWA(英国推理作家協会)のシルバー・ダガー賞を獲得しています。本格派推理小説に属する作品ですが、万人受けするタイプではありません。宗教色が滲み出ていること、さほど生々しい描写ではないものの被害者がむごたらしい殺されていることなどは好き嫌いが分かれるでしょう。ハードボイルド小説ほど過激ではありませんが暴力的な場面もあります。最終的には犯人の自白で事件は終わるのですがジャーネットが懸念しているように、その自白にさえもわが身かわいさの嘘が混じっているのではという疑念が最後まで払拭されませんでした。文章は読みやすく、時にはユーモアも見せるのですが後味の悪さが残る作品でした。

No.675 5点 ウィッチフォード毒殺事件- アントニイ・バークリー 2015/07/05 21:49
(ネタバレなしです) 1926年発表のロジャー・シェリンガムシリーズ第2作はユーモア豊かな本格派推理小説で、サスペンスには乏しくとも主役3人のやり取りがなかなか楽しくて退屈しませんでした。実際に起きた殺人事件からヒントを得ているそうですが、晶文社版の巻末解説を読むと実に多くのネタを作品に取り入れているかに驚かされます(借り物ネタが多いことに個人的に感心できないところもありますが)。最終章の「究極の答え」もビギナー読者をミステリー嫌いにしてしまう危険性のある結末だと思います(実験精神は誉めてあげたいところですが)。明らかにミステリー通向けの作品です。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)