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ミステリー三昧さん
平均点: 6.21点 書評数: 112件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.10 5点 三つ首塔- 横溝正史 2009/10/14 13:58
<角川文庫>金田一耕助シリーズの代表作です。
特筆すべき点として「女性」視点で描かれていることが挙げられます。他の作品とプロットは何ら変わりないが、幾分サスペンス調が増し、鬼気迫る展開が印象的でした。また、官能的サービス精神も過剰に盛り込まれているため、推理小説ではなく「風俗小説」の名が相応しい。特にキスの描写がいやらしいです。「激しく唇を吸った」とか「全身にキスの雨をそそぐ」とか・・・
三重殺人に始まり実に多くの人間が殺害されるわけだが、それに対しての「動機」が突拍子もない。フーダニットの論理性も皆無で、トリックと呼べるモノもない。間違いなく「本格推理」と「メロドラマ」の融合は失敗しているので、評価が大きく下がる。でも、ハッピーエンドで安心した。

No.9 5点 女王蜂- 横溝正史 2009/09/30 17:41
<角川文庫改版>金田一耕助シリーズの代表作です。
「絶世の美女」の登場はシリーズの定番であり、物語の中心に置かれることが多い。今回もその類に漏れず、全身の血が騒ぐような惨劇が繰り広げられる、といったお決まりのパターンで物語が進む。しかも『犬神家の一族』とダブリ過ぎ。
ただ、ヒロイン役の「智子」に関しては官能的な描写が過剰に続くこともあり、一際美しい女性を想像してしまった。きっと今までで一番の美人だと予想される。なんせ「女王蜂」ですからね。まぁ、そんな話題は「映像を観た人」向きだろうから無意味でしょう。
事件は推測だけで場当たり的に解決するため、説得力に欠ける。当然、読者に向けられた伏線はなく「本当に解決したのか?」と思わずにいられない。金田一さんに苦言したい。「せめて犯人だけは守りましょう」と・・・
余談ですが、コナン君の名ゼリフ「犯人を推理で追い詰めて自殺させる探偵は殺人者と変わらないぜ、バーロォー」は金田一耕助に向けられた言葉と判断して差し支えないでしょうね。

No.8 7点 悪魔の手毬唄- 横溝正史 2009/09/20 00:38
(激しくネタばれ)<横溝正史自選集6>金田一耕助シリーズの代表作です。
特に目新しい発見(驚き、感心)もなく正直「単調さ」を感じました。「見立て殺人」は原作よりも映像の方がインパクトあるだろうし、横溝作品においては「サスペンス」を湧かせる小道具の一部でしかない。との結論に達した。
私的には「犬神家」>「獄門島」=「手毬唄」の順で「見立て」に対して納得がいった。
横溝作品は「犯人は?トリックは?」ではなく「惨劇の奥底に見え隠れする背景(動機)」に重点が置かれている作品が多いです。ただ、その部分に単なる「読み物」とは言わせぬ緻密性が凝縮されているので評価が難しい。特にラストで明かされる奇跡に近い「偶然の一致」が絡む真相に対してパズラー要素を見いだすことができます。この作品には<「四人の婦人が同じ年に子供を産む」→しかも「全員女の子」→さらに「すべて異母姉妹」>という悪魔的な一致が惨劇を産むというプロットが根本にあり、これが本来推理小説にない大きなカタルシスを産むため万人受けする名作に成り得たのではないかと思います。

(謎の中心となる「十カ条」に対して少し触れます)
おりんに扮した「謎の老婆」の存在は蛇足でした。私的には『獄門島』の焼き回しとしか思えず、評価に苦しむ。
一見どうでも良さそうな「魚」の謎→ホントにどうでもよい。けど、少し笑った。
「死体は恩田or源次郎?」の真相は一番の読み所となりました。直接、動機にも繋がるプロットの緻密性が濃厚でした。

No.7 6点 悪魔が来りて笛を吹く- 横溝正史 2009/09/07 14:35
<横溝正史自選集5>金田一耕助シリーズの代表作です。
復讐を誓った経緯(犯行の動機)が一番の読み所になります。「〇親〇〇」ですべてが語れる悲しい物語でした。物語としては『悪魔の手毬唄』『獄門島』『八つ墓村』などと肩を並べる名作なのかもしれないが、著しく「オドロオドロしさ」が欠如している点で少し作風が異なる。舞台が閉鎖された空間(人里離れた村)ではなく「館」であることが大きい。圧迫された環境でないが故に金田一耕助が非常に能動的に活動します。そして、途中「トラベルミステリー」を思わせるのんびりとした描写が続き「猟奇性」が極端に薄くなります。でも悪魔の紋章やフルートの音を小道具とした「戦慄的」な恐怖に怯える登場人物が印象的でした。
密室殺人は不必要なオマケで、その他「本格的要素」に対して褒めるべき点がありません。
この作品並びに『悪魔の手毬唄』『獄門島』『八つ墓村』は映像を観た方が楽しめるかも・・・

No.6 9点 夜歩く- 横溝正史 2009/09/04 02:02
<角川文庫改版>金田一耕助シリーズの代表作です。
今にもハチ切れんばかりの憎悪・嫉妬が渦巻くドス黒い人間関係の大爆発・大崩壊が一番の読みどころです。特にラストの大どんでん返しが圧巻。この時代からこの手法があったことに嬉しさを感じます。まさかの大発掘でした。真相は強引ですが、偶然を頼らぬ完全犯罪系として高く評価したい。
この作品は、首切りトリックと「夜歩く」病(夢遊病)が重要なキーとなっていて、特に前者は申し分のない出来栄えでした。「被害者は誰か?」で二転三転するプロットの質の高さと首切りの必然性に十分納得できた点で不満が見つかりません。後者もミスディレクションの骨格として十分な役割を果たしていました。特に第一の殺人では、ある点に関して完全にミスリードされたので、犯人を称賛する他ない。
ただフェアな作品とは言い切れないので、あまり推理せず、ピンと張りつめた息苦しい人間関係の崩壊と細部まで血が通った完全犯罪の構図に期待して読むと評価を下げずに済む。
(2009/10/20追記)
私的横溝No.1作品です。この作品で語られる真相が最も印象的でした。トリッキーな犯罪・意外な犯人・終盤のドンデン返し・探偵の秀才ぶり・・・など本格的要素が他の横溝作品に比べて高い。小説世界でしか楽しめない作品です。
ただし、読者によって新鮮度が違ってくる。真相に既出感を感じる可能性があり、平均点が低いのも納得できる。早めに読むべき作品です。

No.5 8点 犬神家の一族- 横溝正史 2009/08/19 16:48
<横溝正史自選集4>金田一耕助シリーズの代表作(長編/1950)です。
横溝正史の代表作に相応しく「オドロオドロしさ」+「謎の合理的な解決」の融合を見事に成功させた作品です。珠世への疑惑、顔を隠した男、三つの手形(指紋)、斧琴菊の呪い、大山神主の大暴露・・・などなど数え切れぬほどの伏線・レッドへリング・ミスディレクションが物語の骨格を成し、やがて語られるであろう驚愕の真相に向かって物語を形成していく様は巧妙かつ鮮やかなロジカルの極みと言えます。特に人物相関図(家系図)の変わり様は凄まじく、読み所の一つです。
以前まで印象の薄かった金田一耕助も今回はしっかり探偵としての役割を果たしてくれました。探偵の言動は謎の魅力を前面に押し出す効果があり、推理小説の質を高める上で非常に重要な役割を担っています。日記形式による古典独特の語り口は読者を惹き付ける上で必須となる演出です。その二つの相乗効果が推理小説としての質の高さを決定づけました。

No.4 6点 八つ墓村- 横溝正史 2009/08/16 23:06
<横溝正史自選集3>金田一耕助シリーズの代表作(長編/1949)です。
私にはなぜ推理小説と呼べるのか理解できません。一番の謎は被害者のミッシングリンクを軸にした犯行の目的にあると思うのですが、伏線が不十分で説得力が薄かったです。そもそも謎を前面に押し出した作風ではないので探偵の必要性がありません。また、この物語を合理的な解決のある推理小説として仕上げる必要性もありません。物語として読む方が評価を下げずに済んだし、大量猟奇殺人自体に合理的な解決などあり得ないと思っています。人がバンバン死ぬからという理由で推理小説らしいと感じることもありません。ある程度の限度がなければ、動機に関しての説得性も薄れてきます。期待していただけに残念ですが、まだあります。
評価を下げた最大の要因は解決編を「蛇足扱い」にしたことです。「初めから犯人を知っていた」というセリフで金田一耕助に対する好感度も非常に下がりました。そのセリフを入れたことによって殺人事件自体が盛り上げの一部でしかなかったと勝手ながら感じてしまいました。解決編は金田一の言い訳作りのためにあったようなものと判断しました。
よって「宝探しを絡んだ冒険小説」+「主人公の周りを取り巻くラブロマンス」を融合したエンターテイメントと確定し、この点数にしました。謎をテーマとした本格推理小説とはかけ離れていて掴みどころが難しい横溝流推理小説にイマイチ馴染めない私がいます。

No.3 6点 獄門島- 横溝正史 2009/08/08 12:27
(ネタばれ気味です。)
<横溝正史自選集2>金田一耕助シリーズの代表作(長編/1947)です。
見立て殺人の必然性に納得できません。結局お偉い様の信念と美意識を貫いただけですよね。見立て殺人の意味よりも死の風景に読者が魅了されれば、それには意味があったと言えますが、色彩の美が感じられない原作では意味を成さないです。「気違いじゃが仕方がない」の本当の意味に関しても特に何も感じなかったし、フーダニットも納得できません。いつでも誰でも殺せたことになるだろうし、金田一耕助には止める術はなかったのでは。というか探偵らしくないし、頼りないです。なんだか今回は物語の惹きたて役に徹していました。第一印象としては自己主張がなく、受け身な探偵です。
私的には推理小説ではなく「悲惨な物語」でしかなかったです。三つの条件の一致が惨劇を起こしたという真実と吊鐘を使ったアリバイ偽装工作トリックには多少魅力を感じましたが。序盤から中盤にかけては推理小説を読んでる心地がなかったのも評価を下げた要因です。点数が低いのは、推理小説として評価した結果です。期待しながら読んだだけに残念でした。私的には『本陣殺人事件』に遠く及びません。

No.2 6点 蝶々殺人事件- 横溝正史 2009/07/28 17:26
<横溝正史自選集1>初期の代表作(中篇/1946)です。
金田一耕助シリーズではありませんが、横溝正史自選集1に収録されていたので読んでみました。遺体の移動トリック(アリバイ偽装工作)がメインの物語です。「読者への挑戦状」付きの本格推理物で、犯人を当てるには「原さくらはどこで殺されたか?」を推理する必要がありますが「入れ物」を利用したミスディレクションやその他多くのダミー解答が盛り込まれている為に難易度は高めです。「犯人当て」の懸賞を行ったそうですが、満足できる解答は一通もなかったそうです。
この作品にて「時刻表に合わせて思考を組み立てる作業が苦手」であることが判明しました。トリックに魅了されなかったのは単に理解できていなかっただけです。「紙と鉛筆を使って時系列を整理しながら読む」ことの重要性を教えてくれた作品でした。でも、それが面倒臭いから「アリバイ崩し」系は嫌いです。ただクロフツの『樽』はいずれ読みます。

No.1 9点 本陣殺人事件- 横溝正史 2009/07/25 11:11
(多少ネタばれあり)
<横溝正史自選集1>金田一耕助シリーズの代表作(中篇/1946)です。
純日本式の家を舞台とした密室殺人がメインです。現実性に欠けるトリックなので、その描写の理解に苦しみました。これは考え付かないですが、小道具の使い方が素晴らしく、不自然さも感じさせないのでトリックに不満はありません。機械トリックではありますが存在価値は大いにあります。また、日記形式のメタな物語で、文そのものがミスリードを誘っています。その手際の良さが用意周到で巧いです。レッドへリングとしての三本指の男の存在も効果的でした。彼の描写には盲点ともいえる絶妙な言い回し(ミスディレクション)があり、特に読者の心理を突いた「あの一言」が憎たらしいほどに効果を発揮しています。ちなみに作中には多くの海外ミステリーの名が登場します。『本陣殺人事件』自体、海外ミステリーの古典に影響されている節があるので、それらの作品もいずれ読むことにします。
(2009/10/20追記)
唯一無二の密室トリックが楽しめる作品として印象深かったです。中篇らしく無駄をそぎ落としたストレートな本格物なので、横溝正史の本格推理に対する意欲と素養が最も感じられる作品でした。

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