皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ミステリー三昧さん |
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平均点: 6.21点 | 書評数: 112件 |
No.10 | 6点 | 盲目の理髪師- ジョン・ディクスン・カー | 2010/10/30 01:07 |
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<創元推理文庫>フェル博士シリーズの4作目(長編)です。
久しぶりのカー読書です。新版刊行となり比較的新しいということで衝動に駆られ購入。本作の最大の特徴としてカー全作品の中でも、とりわけユーモア色が濃く、酒と笑いに包まれドタバタとした展開が魅力であることが挙げられます。ですが私はその部分を無視して、違う観点で感想を述べさせていただく。。。もうひとつの特徴としてフェル博士が「安楽椅子探偵」として扱われていることが挙げられます。安楽椅子探偵といったら、もう本格推理小説が保証されたようなもの。というかそうでなくてはならない。ただ、話を聞くだけで事件が解決できるなら、それを聞いているというか読んでいる読者だって事件を解決することができるはず。それが安楽椅子探偵の面白みだと思っています。その観点で本作を評価すると、とりあえずクリアしているかなと。推理もしないくせに偉そうですが。。。 以前読んだ『孔雀の羽根』と同じ趣向が安楽椅子探偵のクオリティを保証する上で上手く機能していました。フェル博士が話を聞く段階で提示した16個の手掛かり。それで何が掴めるのかを、解決編ではページ索引付きで解説してくれるあたりがとても丁寧。ひとつひとつは弱いですが、これだけ揃えばこの人が犯人でしか有り得ないと盲目的になり得ます。これは安楽椅子探偵小説として成功の部類だと言えます。 |
No.9 | 9点 | 皇帝のかぎ煙草入れ- ジョン・ディクスン・カー | 2010/05/15 12:22 |
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<創元推理文庫>
フーダニットの真相は今まで読んできた中でNo.1かもしれません。もう15作近く読んできたけど、意外性と説得力、両方の面で成功している作品には出会えていなかったので、この真相には驚きました。見事に暗示にかかっていました。こんなシンプルなのに気付けなかった。まさか「あの一文」にこんな重要な意味があったとは。辛抱強く読んできた色恋沙汰にもミスディレクションとしての機能がしっかりあったし、最終的には本格ミステリの出来の良さが際立つ読後感に成り得ていたので、安心、安心。 確かにディクスン・カーの最高傑作かもしれません。悪い部分が見つからないので評価もしやすい。悪い部分があったらビシビシ突っ込む気だったけど、なかった(強いて言うなら、動機が微妙)。本当に安心してオススメできる作品。カーの作風には当てはまらないのが懸念材料だけど、カーにしてはトリックよりもロジックに重きを置く珍しいタイプの正統派本格ミステリなので、外せない一冊であることは言うまでもないでしょう。 |
No.8 | 8点 | 連続殺人事件- ジョン・ディクスン・カー | 2010/05/15 12:14 |
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<創元推理文庫>フェル博士シリーズ13作目です。
第一の転落事件について少し感想を。これが保険金目当ての殺人だとすると当然、密室トリックの謎を解かなければなりません。細かく現場の状況が記載されるp135~p140にかけての箇条書きは読者にやさしい面もあれば、逆に頭を悩ます種にも成りえることで皮肉の利いた演出になっていました。それによって密室の強固性が増し、自殺ならいいのに、という気持ちにさせられる。肝心な手掛かりも少ないですし、私はさっぱり分かりませんでした。 それにしても犬入れケースの中身には驚いたな。種を明かせば実に単純。なんで気付かなかっただろ。きっと、みなさん周知のトリックなので驚きは少ないだろうけど、この簡単なトリックに少しひねりを利かせて一筋縄ではいかないプロットに仕上げていた点は秀逸かも。おそらく一番の読み所はその質の高いプロットにありそう。それが第二の転落事件でも生かされ、第三の事件でも形を変えて登場する訳ですから、カーの余裕と遊び心が窺える。 タイトルが非常に地味で、第一印象で手に取りにくい作品でしょう(まぁそれ以前に絶版本ですが・・・)。事件も他殺なのか?自殺なのか?という面白みのない話題が中心なのが難点。けど、そこにカーの真骨頂である不可能興味・怪奇趣味・ドタバタ要素・ラブロマンスが盛り込まれ、なかなか奥行きの深い作品に仕上がっていた。読んだ後は、贅沢な気分にさせられる意外面の強い作品として好感色でした。私的にはカーの代表作だと胸張って言いたい。 |
No.7 | 8点 | 緑のカプセルの謎- ジョン・ディクスン・カー | 2010/05/15 12:11 |
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<創元推理文庫>フェル博士シリーズ10作目(有名な?)「毒殺講義」を含むカーの代表作
毒入りチョコレート事件というネーミングだけで一冊の小説が書けてしまいそうなほど、インパクト大な序盤の展開。そのテーマをためらいなく3章以降から脇に置いてきぼりにしてしまうカーの余裕とサービス精神が伝わる魅力に溢れた一冊でした。 肝心の真相なのですが、実際、毒入りチョコレート事件の真相は肩透かしでした。序盤の展開はなくても問題ない気がする。それだけに子供が可哀そう。 メインである実演会の実態なのですが、これは「おいおい、ありかよ!!?」といったズル賢さが満載。私としては盲点に引っかかりまくりで何一つ本質を見極められず、ホント頭が下がる思いでした。まぁ、深く考えたわけではないんですけど・・・ここで一つだけ苦言を呈すなら、このトリック「そんなに上手くいくかな?」というのが第一印象。確かに至る所に罠が散りばめられている分、ある突破口を指し示す手掛かりも同時に分散されている訳でアンフェアには成り得ないのですが、素直に納得できない部分が多少あってモヤモヤ気味。ただ、フーダニットはこの人でしかあり得ないという状況作りはかなり巧いですね。実演会で「実際起こったこと」が分かれば、犯人も分かる、毒入りチョコレート事件の真相も分かるという構成には間違いなくなっているので、何とも言えない細かなディティールの利いた傑作でした。 |
No.6 | 6点 | 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー | 2010/01/13 00:22 |
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<創元推理文庫>フェル博士シリーズの9作目(長編)です。
衆人環視による準密室を扱った作品です。同系の作品として『夜歩く』『魔女の隠れ家』『孔雀の羽根』を読んできましたが本作『曲った蝶番』が一番面白かったです。被害者は「本物or偽物?」で事件全貌をガラリと変えてしまうプロットがまず根底にあり、そこから「自殺or他殺?」を検討していく一連の流れは地味ですけど読み応えがありました。 また、終盤の捨て駒真相からのどんでん返しも予測していなかっただけに、嬉しいサプライズでした。正直、第Ⅲ部までは「4点」レベルです。なので第Ⅳ部の犯人の「独白形式」による驚愕の真相編が今回の高評価の対象になります。ただ、その対象ポイントは被害者が目撃した「犯人の造形」一点のみです。この驚愕度は未だかつてない。たった一つのインパクトだけで「8点」をを献上する結論に至りました。とにかく恐いです。本作はカーの作品の中でも「怪奇趣味」の強い作品と言われていますが、理由はその部分にあると思います。 が、しかしよくよく考えたら・・・ この事件の軸を担っていた「ある人物」の証言がどうしても許せない。そのせいでフーダニットが超難関になってしまっているのでロジックの整合性という面では評価が下がる。故に採点は私的アベレージな6点です。良くも悪くもカーってこのことですか? |
No.5 | 6点 | 死者はよみがえる- ジョン・ディクスン・カー | 2009/12/17 19:54 |
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※ネタばれあり<創元推理文庫>フェル博士シリーズの8作目(長編)です。
この作品は怪奇趣味・不可能興味を一切排除した分、フーダニットに特化した作品となっています。カーの作風を考えると異色作ともいえそうです。 前の方も書かれている通り、いくつかの真相に対して良い意味でも悪い意味でも「ええっ!?」となったことは認めます。でも、私の中ではバカミスの域には届いていない中途半端な作品に思え高評価ができない。(まだバカミスに対する見極めができていないかもしれませんが・・・) 許容範囲を超えたずっとずっと遥か彼方に(バカミスと称された珍品だけが集える)特別な聖域が存在するわけですが、そこを本職とするミステリ作家はもっとえげつないことをやってくれる気がします。 また、作中には「12個の不可解な謎」が提示されるわけですが、それらに対して要領の得ない解答があったことも評価を下げた原因です。 (ここからネタばれ感想) ホテルでの殺人事件が「外部からの犯行だった」という真相には驚きました。しかも「4章の見取り図」をヒントにフェアな論理展開がなされていた。そもそも外部からの犯行が事前に否定されていたので、疑いもしなかったです。この抜け道にはやられました。 ただフーダニットに対する意外性の演出が根本にあるため、かなり無理が生じてしまっている。「留置場の秘密の抜け道」は伏線を張っているとはいえ、許せません。 「左腕に麻痺がある」ため凶器としてタオルを使ったこと、トランクを利用したことには納得できましたが、ロドニー殺害の方法はイメージに苦労した。今でも、理解できていない。 犯人の行動が気まぐれ過ぎる。札に「女の死体」と書き残したことも「ドアノブに鍵を差し込んだまま」にしたこともゲイ邸での「狂言」も特に必然性が感じられない。 「ホテルの制服」と「警察の服装」が似ていた点も指摘されていましたが、納得できなかった。 その他いろいろありますが、長くなりそうなのでやめます。 |
No.4 | 6点 | 三つの棺- ジョン・ディクスン・カー | 2009/12/14 12:57 |
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※ネタばれあり<ハヤカワ文庫>フェル博士シリーズの6作目(長編)です。
類に洩れず不可能犯罪の数々が私を楽しませてくれます。けど、少しやり過ぎです。「意外性有り過ぎのフーダニット」と「鉄壁過ぎる不可能状況の演出」が根本にあるため至る所で無理が生じてしまった嫌いがあります。私的には(ご都合主義に対しての)許容範囲を超えてしまったので、高く評価できませんでした。名作と呼ばれていますが、世間の評価は参考意見としか思っていません。ミステリの価値観ってオンリーワンみたいなものですから、名作・駄作・傑作拘わらず読んでみないことにはわからないモノなんですよね。。。 余談ですが、17刷以前には致命的な誤訳があるそうです。私は回避できましたが・・・ また、ネタばれ被害が心配だったので、有名な「密室講義」は読みませんでした。 (ここからネタばれ感想) 「時間の錯誤」に関してですが、鐘の音から「犯行時間に錯誤がある」点を察することは難しい。確かに14章で鐘が鳴っている描写がありますが、それが11時に鳴ったものかどうかは予測できません。また、窓越しに見えた時計が「たまたまズレていた」点はさすがにご都合主義です。それが意外性に満ちたフーダニット演出の根本を担っているだけにズルイです。 また『第二の棺』での殺人も不可能状況を演出するためにご都合主義が見受けられます。被害者は医者の所に向かうため自ら外に出るわけですが、さすがに「血の出具合」が気になります。血の跡から本当の犯行現場が分かってしまう可能性が無視されている点は不可解です。 『第一の棺』で使われたトリック(奇術)は好感が持てました。大博打な気もしますが、仮面の男がレッドへリングとして巧くミスリーディング効果を発揮していました。「ジグ・ソー・ワーズ」にしっかり意味があったことには驚きです。ですが、鏡は大きい割に発見されるのが遅すぎです。共犯者がいた点は察する余地がない点で駄目です。建物は全面雪で覆われていたはずですが、犯人はトリックを用いることなく、足跡を残さず簡単に建物に侵入できている点で肩透かしを感じます。 もしかしたら、理解できていない部分もありそうです。とにかく複雑で読み応え抜群です。 |
No.3 | 5点 | 帽子収集狂事件- ジョン・ディクスン・カー | 2009/10/08 14:37 |
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<創元推理文庫>フェル博士シリーズの2作目(長編)です。
カー作品の作風には「不可能犯罪+論理的解決」が第一にあります。また「怪奇・猟奇性」「ラブロマンス」「ユーモア」を付加価値として作風に加えることもできます。 よって、以上5大要素が評価対象になるわけですが、この作品に関してはすべてが低ランク。淡々とし過ぎて、味気ない。私的には正直つまらない部類に入る作品でした。まず、密室以上の不可能トリック(解説にて)が納得できない。咄嗟に「不可能状況」が呑み込めず、読後もイマイチ構図が掴めない。そして「論理的な解決」も冴えません。偶然が絡んだ奇跡的な不可能状況が根本にあるため仕様がないが、伏線回収率も低く説得力が薄い。 また「怪奇・猟奇性」は極端に薄く、挙げるならば「帽子泥棒の行動」or「真相部分」のみで、物語全体を纏っているわけではない。「ロマンス」部分ではランポールがドロシーを新妻に迎えた点は朗報ですね。ただ、ランポールさんはもう少し発言しましょう。存在感なさすぎです。 初期の傑作らしいが、自分好みではなかった(理解に苦しむため)。 (2009/10/13追記)後で知ったが、この作品はアリバイ崩し系だったらしい。 |
No.2 | 6点 | 魔女の隠れ家- ジョン・ディクスン・カー | 2009/09/10 22:56 |
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(ネタばれかも)
<創元推理文庫>フェル博士シリーズの1作目(長編)です。 「嘘の手掛かり」を利用したミスリーディング術に賛美を贈りたい。「ネズミ」や「手すりのキズ跡」から機械トリックと思わせつつ、実際使われたトリックは・・・だったという真相には唸りました。本当の手掛かりとなる「現場状況の矛盾点」に気付くに至らなかった点が悔やまれる。同時に伏線を隠蔽することにも成功させていました。 ハウダニットに比べ、フーダニットは少し不丁寧で魅力を欠いていました。逆説推理と言える「完全無欠のアリバイ」を持った人間が犯人という点だけでは、意外性の演出だけで説得力がイマイチ。また、「ハンカチ」の件はあからさま過ぎて魅力に欠けます。決定的な証拠を指摘できない点も心残りです。フーダニットに満足できない点で評価を落としました。 |
No.1 | 6点 | 夜歩く- ジョン・ディクスン・カー | 2009/08/26 12:04 |
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<創元推理文庫>ディクスン・カーのデビュー作(長編/1930)です。
「ローランがいつ・どこで・誰に姿を変えたか?」は丹念に読まずとも変化がはっきり窺えるほど大量かつ大胆に伏線が張られていたにもかかわらず、分かりませんでした(笑)。意外に盲点を突いた真相です。密室トリックも種を明かせば実に簡単なトリックでした。ただし、ある点を考慮に入れる必要があるため、それがアンフェアの種になる恐れがあります・・・がそれを匂わせる伏線も結構大胆に張っていたので、特にミステリマニアならわかりやすい部分なのかもしれません。う~ん・・・でも、やはりこの手のトリックはどうしても好きになれない。ズルイと感じてしまう。 小粒ながらフーダニット・ハウダニット両方を兼ね揃えた本格推理小説となっていました。特に密室トリックは勉強になります。このシチュエーションなら「ここを疑え!」みたいな教訓が、いやでも身に付きそうです。読み始めは古くて堅苦しい文章に馴染めず、パリの街や人物の容姿がイメージしにくいアウェーな雰囲気に萎えが生じました。でも我慢すれば二度読みも楽しめる作品であり「流し読み」を許さぬプロットの妙・伏線の数々を堪能できる作品でした。 |