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ミステリー三昧さん
平均点: 6.21点 書評数: 112件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.13 6点 白昼の悪魔- アガサ・クリスティー 2011/08/29 10:56
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの20作目(長編)です。
以前読んだ『メソポタミヤの殺人』と同じ趣向であり、対比させて読むと面白い作品。『メソポタミヤの殺人』と本作の共通点は「絶世の美女」を主軸とした恋愛模様と人物描写にあると思います。初めてその美女が登場するシーンがとても印象的で、それから男性は虜になり餌となり、女性は嫉妬し憎み敵となりと、彼女を中心としてあらゆる感情が剥き出しになり、序盤からある兆し(殺人の予感)を感じずにはいられない展開となっています。
私的には、珍しくトリックを当てることができ、同時に犯人の正体も暴くことができました。トリックは単純だし、それが分かれば犯人の正体もおのずと分かるので難易度はそこまで高くないと思います。さすがにすべてのパズルのピースを完璧に当て嵌めることはできませんでしたが・・・

No.12 6点 検察側の証人- アガサ・クリスティー 2011/05/11 23:56
<ハヤカワ文庫>アガサクリスティの戯曲もの。
被告人の有罪・無罪を巡る法廷ミステリということで二転三転の展開と衝撃の結末がウリということですが期待ほどでもなかったです。私的には、何回ひっくり返ろうとどうでもよい。というのも、法廷ミステリでは当然あるべき自然なプロットであるため、予想内の範疇になっているし、また、有罪・無罪の判決には興味がなく、むしろその結論に行きつく過程が大事だと思っています。本書では、有罪・無罪を巡る二転三転の展開と被告人の妻の愛情と憎しみ両極端の感情をうまくリンクさせていた点が素晴らしかったですが、ほかは特になかったです。事件が単純で、また登場人物が少ない為、法廷劇を膨らませるのが難しく、被告人はやったのか、やってないのかに終始してしまう展開は仕方ないとは思いますが、それだけだと物足りないです。法廷ミステリの面白みは、さまざまな証言・物証が起爆剤になり、事件の様相に変化を与え、多くの登場人物を絡ませ複雑に混沌とさせつつ、ガタガタと形を崩し、誰も知らなかった本当の真実を形成していく過程であって、結果的に結末が衝撃的であればなお素晴らしいですね。

No.11 5点 ポアロのクリスマス- アガサ・クリスティー 2011/03/29 13:59
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの17作目(長編)です。
ハヤカワクリスティ文庫って、行間が適度にあって堅苦しくなくて実際に読みやすいんですけど、物語を軽く感じさせる何かがあるような気がします。読んだ達成感が涌かないのはなんでだろう。私的には、行間がきつきつに詰まっている創元推理文庫の方が好みですね。ある程度の集中力も要するので気を引き締めて読んでるせいか、物語に厚みを感じさせる。
クリスティのミステリってそもそも入門書みたいで軽さを感じるのですが、本の構成も軽さを助長させている気がしてきました。また、解説もそこまで充実していないと思う。本作は題名に「クリスマス」と付いていますが、物語にそれほどクリスマス感は出ていません。なのに解説ではクリスマス的趣向が素晴らしいと絶賛しているが、とても納得できない。
犯人の意外性と言う点では、成功している本作ですが、推理に全く説得力がないです。心理学的見地から家族を研究し、誰が犯人に相応しいかという推理の部分なんですけど、根拠が無さ過ぎて呆れてしまった。ミステリの解決編で「人間の性格」を重要視するのは、やめてほしい。

No.10 6点 ナイルに死す- アガサ・クリスティー 2011/03/29 13:17
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの15作目(長編)です。
長さの割に大したことがない。むしろ無駄に登場人物が多すぎて、ポアロが重要としている「会話」の部分が読んでてしんどかったです。特に事件が発生してからは、これから全員に聞き込みするのかと思うと、だるさを感じました。基本、聞く内容は同じで、ひらすら単調なんですよね。部屋に入ったのはいつ?音は聞いたか?誰か見てないか?といった質問を何回も繰り返しながら、手掛かりを掴むとともに登場人物の性格を分析するといったポアロの基本捜査が、好きではない。
ただ状況や境遇が創り出したミスディレクションは巧かったと思います。クリスティの狙いがハッキリとしていて分かりやすいプロットなのですが、犯人の意外性は十分あると思います。

No.9 6点 メソポタミヤの殺人- アガサ・クリスティー 2011/03/06 11:49
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの12作目(長編)です。
本作は「被害者はいったいどんな人物だったのか?」を探れば彼女は何故殺され、誰が犯人なのか分かるというテーマとなっています。関係者の証言により、被害者を中心とした人間関係図が頭の中で構築されていく過程は読んでて楽しめました。被害者は美人で心優しくてみんなに愛されていた、と思いきや読み進めるごとに、実は被害者は悪女であり、そして動機を持った人間は多く存在するということが分かってきて、だんだん関係者たちが怪しく見えてくる辺りはアガサ・クリスティらしいプロットだと思います。人間ドラマを創り出す巧さは高評価したいです。
ただ私的にはやっぱり6点止まりですね。というのもトリックにどうしても既出感を感じてしまう。大分前に『名探偵コナン』で読んだことがあります。それが初体験だったでしょうか。またドラマ『古畑任三郎』『ケイゾク』でも似たようなトリックが使い回しされていたのを覚えています。大変便利なトリックだと思います。もともと驚愕系ハウダニットで受けやすいし、利用してしまえば同時にアリバイも簡単に作れて意外なフーダニットも演出できる。本作ではさらに「何故、看護師を雇ったのか?」というホワイにも繋がってるし。でも、もうこのトリックには満足はできないですね。ただ既出感を感じただけで評価を落とした訳ではありません。本作のテーマに沿って推理しようと、結局トリックが分からなければ犯人も分からない構成になっていることに納得が出来ていない。逆を言えばトリックを知っていれば犯人が簡単に分かってしまうことにもなるし。驚愕トリックを用いることで、何故か物語の趣旨を壊している点で評価を落としました。

No.8 5点 ABC殺人事件- アガサ・クリスティー 2010/12/05 22:21
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの11作目(長編)です。
ホワイダニットの真相は読む以前から知ってますし、現代では「なぞらえ殺人」の1パターンとして「ABCパターン」とか言われちゃってますしね。正直、大したことないですね。暗示の力ってそんな凄いのか疑問に思いますし、犯人まだ別にいるじゃないかってくらいフーダニットに説得力がないし、今回はミスディレクションが機能しているとも思えなかった。〇〇〇が犯人ではないことぐらい、なんとなくわかるよ!(なんとなくって・・・)。「性格的に無理だ」っていう考え方も論理に欠けますね。心理的な面で説得力を持たせるのはなかなか困難だと思いました。ポアロの推理はエラリー・クイーンを読んでいると、どうも軽く感じます。そもそもアガサ・クリスティ作品って既出感があり過ぎて高得点が付けにくいです。なんか基礎の基礎が分かるテキストみたいな印象でとにかく軽い。
とりあえずは「どう料理するのか?」という部分で解説で法月倫太郎が挙げた『ABC殺人事件』を応用した作品群を余すことなく読んでいく。私にとって『ABC殺人事件』はただの出発点でしかない。後続作品がどう乗り越えるのかに楽しみを見いだしていきたい。

No.7 5点 三幕の殺人- アガサ・クリスティー 2010/12/05 22:19
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの9作目(長編)です。
単なるネタぼん。斬新なアイデアですけど頭の良い方法とは思えない。次も成功する保証はどこにもないわけだし。そんなわけで私は嫌いです。ホワイダニットの好き嫌いで評価がハッキリ分かれる作品だと思います。別に〇〇のための〇〇が駄目ということではなく、実行するからにはそれなりの理由と説得力が必要ということです。まぁ、某有名作に繋がる作品だったことを最近知ったので、読んで後悔はしていない。ラストの一文を含め、アガサ・クリスティにどっぷりハマった読者は外せない一冊になることでしょう。

No.6 6点 オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー 2010/10/30 01:06
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの8作目(長編)です。
列車を舞台としたクローズド・サークル状況下で起きた殺人事件をポアロが解き明かすというお話。まず、残念に思ったのが列車を停めてしまったこと。列車内クローズドサークルの醍醐味は「列車が目的地に到着する」までに事件を解決しなければならないというサスペンスフルな展開だと思うのですが。何故停めてしまったのでしょうか?結局、全面雪に覆われているが故のクローズド・サークルということで上記のような展開は皆無。国際性豊かなキャスティング作りが「オリエント急行」を扱った理由としては一番大きいでしょう。そのことについてはだから何?って感じなので特に語ることもありません。そこに楽しみを求めるのなら原作よりも映像を視聴するべきですね。
『アクロイド殺し』と同様にあまりに有名な作品の為、フーダニットの真相は読む前から知っていました。だから「6点」という訳ではなくて、多分知ってなくても高得点にはしなかったと思います。何でもアリになっちゃいますからね。このトリックは嫌いです。「いつもガラガラなのに満員」とか「12か所の刺し傷」など伏線はバッチリ張ってある点は良くできていると思います。

No.5 6点 エッジウェア卿の死- アガサ・クリスティー 2010/10/30 01:01
※ネタばれあり<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの7作目(長編)です。
フーダニットが意外でした。結末だけ知ったら何てことない真相だと思いますが、物語の作り方が巧いので、また騙されてしまいました。このパターンはアガサ・クリスティの中では、いわゆる常套手段なのでしょう。事件は『世界仰天ニュース』や『ザ・ベストハウス』に出てきそうなスキャンダル話です。スター女優が容疑者になって、あーなってこーなって驚くべき結末が明かされる・・・みたいな。よって本作もありふれた物語だと思います。でも、書き手によっては味わい深いミステリに成り得るということをまざまざと見せつけられた感じです。相変らずミスディレクションが巧い。解決部分だけで簡単に評価できる作品ではないでしょう。
ただ、ラストで明かされる動機がどうも納得できません。日本人には分からない理由ですよね、多分。私の教養がないだけかもしれないけど・・・。「代々英国国教会だということを思い出してください」と言われて「あぁ~なるほど」と容易くアハ体験できるのかな。。。








(ここからネタばれ感想)
勝手に名付けようかな、『〇〇〇〇〇荘』パターンと。まさかまさかの「最も疑わしい人物が犯人でした」2回目。アガサ・クリスティってケレン味に思いっきり逆らう趣向が上手いですね。わざとらしくハッキリと殺しの動機があり、さっそく疑われる人物ってのは大体レッドへリングに利用されることが多いと思います。その人が犯人だと分かりやす過ぎるから、普通は犯人にはしない。でも、盛り上げの一部としてとりあえずハッタリをかますというのはミステリでは有りがちな常套手段。だから、読者は作者の狙いにすぐ気付き、ミスリードせぬと思考をめぐらす。がアガサ・クリスティはさらに裏をかき、そのままの真相を突きつけ、読者を唖然とさせます。ミステリに慣れれば慣れるほど騙されてしまう趣向だと思います。これがアガサ・クリスティの作品だから、きっと凄い真相だろうと期待する。でも蓋を開けてみれば実に意外性のない真相。そのことが逆に意外だったという幕切れ。なかなか味わい深い作品だと思いますが、どうでしょう。
また彼女が犯人の場合、物語の最中に殺しの動機が解消される設定上もあって、他にどんな動機があったのか?は注目すべきポイントになります。それだけに日本人が納得できそうもない動機がラストに明かされる点は肩透かしでした。
次に映像の方も視聴したので、相違点を含め感想を(評価には反映しません)。結論として映像の方が出来が良かったと言わざる負えません。映像は原作とかなり相違点があります。それが原作の悪い部分を洗いざらい補っていると思います。これから原作と映像は中身が別物であり、映像を視聴しただけでポアロシリーズを分かった気にはなれないと主張する上でも、4つ相違点を挙げさせて頂く。まず、作品のキモである「5つの疑問」が異なります。5つ中2つ改変され映像版の方が的を得たモノになっています。故に真相もすんなり納得できました。2点目は「アルトンの扱い方」が異なります。原作ではアルトンは失踪するだけで存在感薄めでしたが、映像では失踪の末に転落自殺するという派手な展開がなされています(余談ですが、青いビニールクッションが見えていたことに苦笑)。3点目に「ポアロが真相を掴んだキッカケ」が異なります。原作では「通りすがりの偶然の一言」、映像では「ヘイスティングズの余計な一言」となっています。この場合、どちらが面白いかと聞かれれば後者でしょう。ヘイスティングズが「古畑任三郎の今泉」的な役割を演じていたことに嬉しさを感じました。最後に「手紙に対する気付き」が異なります。原作では「ビリビリ引き裂かれていた点」で、映像では「文字の跡が裏の紙に写っていた点」で手紙はもう一枚あったと察するに至ります。視覚的に後者の方が分かりやすいかなと。まぁ、遺言書やラブレターといった書類はポアロシリーズでは重要な手掛かりになっていることが多いですが、意図が掴めずスルーしているのでどうでもいいかな。余談ですが、ジェラルディン・マーシュがとても美人でした。これからも映像は視聴したいと思います。

No.4 6点 邪悪の家- アガサ・クリスティー 2010/10/30 00:48
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの6作目(長編)です。
あらすじを辿るだけでおおよそフーダニットがわかります。このプロットにおいて、もし意外性を追求するならこの人が犯人であれば面白いかなと、読み始めから簡単に予想が付いていたので(はい、自慢にはなりませんが。)犯人の名が指摘された瞬間はあまり驚きがなかったです。空気読み過ぎなくらいベタな展開だったと思います。ですが、フーダニットを覆い隠すためのミスディレクションの妙は楽しめたので、その点は評価したいです。とりあえず全員を怪しくさせる言動はもちろんのこと、ポアロの行動があてになっていない。少なくとも本作のポアロは一貫して、犯人に惑わされているので、ミスリードを誘発させる引き金を自ら読者に突きつけていると思います。表面上では読者に対して丁寧な気配りが成されていますが、裏を返せばそれを鵜呑みにするとミスリードを助長させる要因にも成り得ている辺りが巧いです。国内ミステリ(ドラマ、小説、アニメ、マンガを含め)でもありふれたプロットなので作者の狙いに気付きやすいけれども、表現悪いですが味付けがお上手なのでテンプレート的な作品として読む価値がありました。私的には評判通りの佳作止まりですが、国内ミステリを今後評価する上で参考になったので読んで正解でした。

No.3 6点 アクロイド殺し- アガサ・クリスティー 2010/08/12 21:28
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの3作目(長編)です。
ウーン。やっぱ遅かったですね。意外性と衝撃度をこれほどまでに兼ね揃えた、このフーダニット技法を事前に知った状態で読むとなると、あまり評価できません。私は歴史的な意義を配慮してまで高評価する気はなかったので、この点数にしました。本書のメイントリックのキモは「空白の時間を作ること」と「電話を使ったアリバイトリック」だと思います。・・・が、犯人にとっては何てことないですよね。最も疑われにくいポジションに居座り、なおかつ自由に物語を創ることができてしまうのですから。
また、先駆的作品にして最高峰の作品とも思えませんでした。横溝正史の某作品の方が衝撃的(初めて読んだということもありますが)でしたし、さらに東野圭吾の某作品でも二番煎じとは言わせぬ新たな使い道で驚きをもたらしてくれましたし。『アクロイド殺し』を超える作品が国内にはもっとあるでしょう。まぁ、ミステリを語る上で通るべき道はしっかり渡りたいので、読めて良かったです。

No.2 6点 スタイルズ荘の怪事件- アガサ・クリスティー 2010/08/12 21:20
(激しくネタばれ)<ハヤカワ文庫>記念すべきエルキュール・ポアロの1作目です。
アガサ・クリスティ作品は『そして誰もいなくなった』しか読んでいなかったので、シリーズ物は初体験。デビュー作と言うことで過度な期待は抱いていなかったのですが、意外や意外、なかなか質の高いミステリだったので驚きました。。。
一番印象に残ったことは、ポアロがいちいちオーバーリアクションなことですね。だから重要なシーンが分かりやすい。ポアロの表情の変化に気づき、ヘイスティングズが「どうしたのですか?」と問い質すシーンが結構見受けられました。でも、ポアロは基本ダンマリ姿勢。そのプロットがミステリらしくて、良い味を出していました。ポアロ以外でもいろんな登場人物が何かしらの思い詰めた表情を見せ、しかもその表情の変化にはしっかりとした意味が含まれていました。二度読みの際には、表情の変化に着目して読むとさらに楽しめそうですね。
フーダニットに関しては、作者の狙いがハッキリしていたので分かりやすい方なのでしょうか?私的にはアガサ・クリスティにまんまとやられてしまったこともあり、割と楽しめました。殺人犯の正体、毒殺トリックなどは正直、意外性があるだけで納得できる真相ではないですが、読者に向けられた数々のミスディレクションには唸らされました。犯行計画の裏側では犯人すら予期せぬ「ある企み」が遂行されているため真相がややこしくなっていました。よって殺人事件に全く関係のない手掛かりまで多く分散されている点がミソ。もしかしたらダミー側の真相の方が納得できたかもしれませんが、どちらにしても手抜かりのない上質なミステリとして高く評価できます。同じくミステリの名手として肩を並べるディクスン・カーもそうでしたが、読者を翻弄する技量に長けていそう、というのがアガサ・クリスティの第一印象です。
これから全作品から厳選して15作ほど読む予定ですが、充実したミステリ読みができそうです。「アクロイド殺し」「オリエント急行の殺人」「ナイルに死す」「白昼の悪魔」「ABC殺人事件」などなどタイトルを思い浮かべるだけでワクワクします。アガサ・クリスティを精通した読者からしたら『スタイルズ荘の怪事件』はどの程度の評価なのでしょうか?全然期待していなかった作品だけに気になります。デビュー作だから「しょうがない、読んでやろう」って考えだっただけに思わぬ収穫でした。





(ネタばれ感想)
前書きの「『スタイルズ荘の怪事件』によせて」では、フーダニットに関するヒントが最後に添えられています。それを踏まえ、アガサ・クリスティが狙った試みを自己満で考えてみようと思います。結論としてアガサ・クリスティが狙ったことは
①まず、最も疑わしい人物に読者の目を惹きつける
②そして、惹きつけたのも束の間であっさりと嫌疑の枠から外す
③でも、やっぱり最も疑わしい人物が犯人だった
でした。嫌疑の的がアルフレッド・イングルソープに集中するが、ポアロの力で容疑が晴れる。そのプロットがあるために、まんまと「最も疑わしい人物はやっぱり犯人ではない」と読者にミスリードを与えていた点は巧いかと思います。真相編の時点で「最も犯人らしい人物」は「犯人であるはずがない人物」に成り替わっています。そのことが第12章のラスト1行によって覆ってしまうために、驚きの真相と成り得たわけです。また、終始「犯人であるはずがない人物」でしたエヴリン・ハワードが協力していたことも意外です。被害者は二つの裏切りを知った割には冷静すぎる程に意外な展開です。
ですが私的には、意外性はあるけれども説得力に欠ける気がしました。ポアロが見つけた最後の環(決定的な証拠)というのは私には分かりにくい物でした。「あっ」と驚くほどでもなかった気がします。「マントルピースって何だ?」と逆に疑問が浮上してしまって、すんなり納得できる証拠物件でなかったことが大きいです。そもそも、協力プレイも納得できる真相ではないです。アルフレッドとエヴリンが愛で繋がっていたことには驚きましたけど・・・。
トリックに関してですが、法律を逆手に取った犯行計画には唸りました。さらに驚くことにポアロはその計画を早々と見破り、敢えて無罪を主張することで計画をぶち壊していた点も見逃せません。上記の②に関しては(作者による)読者をミスリードさせる狙いと同時に(ポアロによる)犯人を敢えて自由にさせて計画を破綻させる狙いも裏にあった訳です。
またフーダニットと同様、毒に関するトリックも意外性があるけど説得力が弱かったです。難しい知識が必要ですからね。そのことよりも私はコーヒーカップの話題もココアが入った鍋の話題もミスディレクションだったことに驚きました。犯行に全く関与していないメアリ・カヴェンディッシュのせいで、真相が複雑になっていました。事件解決のためにポアロは必死にコーヒーカップやココアの入った鍋を調べていましたからね。それだけに二つとも毒殺トリックには全く関係ない手掛かりだったとは思いもしなかったです。彼の目的は毒物の混入経路を発見することではなく、睡眠薬の混入経路を探すことだったとは、これはもう騙されるのもしょうがない。そもそもポアロの行動そのものがミスディレクションって狡猾な手段ではないか。私は素直に物語を読む方なので、この手法をやられると何回も騙される気がします。

No.1 7点 そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー 2009/07/31 12:40
<ハヤカワ文庫>言わずと知れた名作(長編/1939)です。
海外ミステリー初体験です。国内ミステリー初体験が『十角館の殺人』だったので、元祖であるこの作品を迷いなくセレクトしました。これは極上のサスペンス物ですね。読んでいる間は推理する隙も与えないほどのスピーディーな展開に魅入られページをめくる手が止まりませんでした。ただフーダニット、ハウダニットを意識して書かれた本格物ではなさそうです。犯人を当てることは難しいですし「本格物愛好者」が好んで読むものではなさそう。
最も褒め称えられるべき点は叙述的な部分なのですが、それがあまりにも巧みに盛り込まれていた為に翻訳者も気付かなかったのか。誤訳がいっぱいあることに泣けました。海外翻訳ものアレルギーになる人の気持ちも少しわかった気がします。正直、本気で楽しめませんでした。でも読んでいる間は「最高(10点)」でした。←1度使ってみたかったフレーズです。

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