皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.110 | 6点 | メグレとマジェスティック・ホテルの地階- ジョルジュ・シムノン | 2023/10/31 00:10 |
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何年も前に原書で読んだ作品を〔新訳版〕で再読。
『メグレ保安官になる』等によれば、メグレは英語も多少は使えるはずですが、本作では全くわからない設定です。一方被害者の夫クラーク氏はフランス語が全くできず、意思疎通が面倒なのがユーモラス。"Qu'est-ce qu'il dit?"(何と言ったんだ?)というセリフが何度となく繰り返されます。事件担当予審判事はボノーという新顔。確かにベテランのコメリオ判事では、成り立たないところがあります。 ただ、翻訳はねえ。 カフェトリ:Cafeterie。普通だと当然カフェテリアですが、日本語の意味あいとはイメージが違うにしても。 「そうか」:メグレが被害者の身元をホテル支配人から聞いて、もらす "Ah!" の翻訳。 さらに原作にない説明文を付け加えたり、段落を入れ替えて前後関係を変えたりと、部分的にはもう超訳を超えた翻案です。 しかしまあプロットがいいのでこの点数で。 |
No.109 | 7点 | ロニョン刑事とネズミ- ジョルジュ・シムノン | 2023/10/06 20:29 |
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(原書 "Monsieur la Souris" を読んでのコメント)
原題のSourisは英語ではMouseに当ります。つまり本来ミッキーみたいなかわいい奴なのですが、この二十日鼠氏、年老いた浮浪者です。シムノンの非メグレものの常からすると、ほぼこの浮浪者の視点から描かれることになると思われそうですが、そうではありません。メグレこそ登場しませんが、「無愛想な刑事と消えたロエム氏」とサブタイトルを付けてもいいような、メグレもののスピンオフ警察小説になっているのです。 瀬名秀明氏の「シムノンを読む」で無愛想な刑事ことロニヨンの初登場作だと知り、気になっていた作品です。ロニヨン以外にも、リュカが警視として、またジャンヴィエ刑事も登場。後半はロニヨンが何者かに頭を殴られ、二十日鼠氏は誘拐されという展開を見せ、クライマックスはほとんど『メグレ罠を張る』あたりにも匹敵する緊迫感があります。謎解き要素もしっかりできた、楽しい作品です。 |
No.108 | 5点 | Chez Krull- ジョルジュ・シムノン | 2022/06/24 21:55 |
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1939年に発表された本作の原題の意味は「クリュルの家で」。Chezは、「~の著作中では」といった意味にも使われる、広い概念の言葉です。
フランスの運河沿いの町(シムノンらしい!)で柳細工を作りながら食料雑貨店を営むドイツ人家族を、ドイツからハンスが頼ってやってくるところから始まりますが、途中から必ずしも彼が主役というわけでもなくなってきます。話の方は、まず運河から若い女の絞殺死体が見つかり、その犯人を捜すミステリになるかと思いきや… 読んでいて、ひょっとして後の『ベルの死』(1952)と同じパターンかとも思いました。実際殺人犯ではないかと疑われるという点では共通していますが、シムノンには珍しく時代に即した社会性を持った展開で、結末は違います。というか、なぜそうなるのかわけのわからない結末で、数年後設定のエピローグでも明確な説明のない、途中はおもしろいのに落ちつきの悪い作品でした。 |
No.107 | 6点 | Le rapport du gendarme- ジョルジュ・シムノン | 2022/05/03 17:47 |
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原題の意味は「憲兵の報告」。
田舎のかなり裕福な農家を舞台にした作品です。ロワ家の前の道で、見知らぬ男が自動車に轢かれて重傷を負っているのが発見されます。男はしばらく意識不明のままなのですが、彼はロワ家の住所が書かれた紙を持っていました。たぶんポケットから落ちたその紙を、ロワ家の主婦ジョゼフィーヌがこっそり拾い上げるのを見た憲兵のリベルジュは、疑惑を抱き、報告にもそのことを書きます。 男は何者なのか、そこに来た理由は何なのか、また誰に轢かれたのか。普通なら、その謎解きが中心になるでしょうし、実際最後までにはそれらの問いにも答は一応用意されているのですが、それよりもその男がロワ家で介抱されることになったことがきっかけで、疑心暗鬼がロワ家を包み、最後にはとんでもない事態になってしまうという、シムノンの中でも特に後味の悪い結末の作品です。 |
No.106 | 6点 | Les sept minutes- ジョルジュ・シムノン | 2021/07/12 23:31 |
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収録された『十三の謎』のG.7刑事もの中編3編は、雑誌「探偵俱楽部」にそれぞれ『消失三人女』『将軍暁に死す』『マリー・ガラント号の謎』の邦題で掲載されたことがあるそうです。この中編集タイトルは2編目 "La nuit de sept minutes"(7分間の夜)から採られています。なお、この作品で元将軍が死んだのは実際には午前2時ごろですけど。
このシリーズですから、当然本格派を期待していて、実際、島で次々に失踪する女たち、警察に監視された密室状況、放置された老朽船の不可解な出航と船から発見された身元不明死体、というようになかなか魅力的な謎を提示してくれてはいるのですが、実はそれ以外の点に驚かされました。2編目は、G.7が警察を退職するきっかけとなった事件であり、3編目は私立探偵としての最初の事件という大きな流れを持っているのです。 2編目のトリックは、初期メグレものにも似た発想の作品がありましたねえ。 |
No.105 | 6点 | メグレの回想録- ジョルジュ・シムノン | 2021/05/27 19:27 |
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クレイグ・ライスのユーモア感覚は自分には合わないと、『時計は三時に止まる』コメントには書きましたが、シリアスな小説の多い作者による本作には笑えました。「ジョルジュ・シム」のずうずうしさをぼやくメグレ、トランスの殉職の件…
文庫本にしたらおそらく150ページ程度でしょう、普通のメグレものよりも短いのです。もちろんミステリではありませんし(ドキュメンタリー風警察小説と言うのは、さすがに無理があります)、早川書房もよくもこんな異色作をミステリ全集に入れたなと思えます。せめて短編を1つ添えるぐらいのことはしてもらいたかったですね。『メグレ警視のクリスマス』等、候補はいくつもあります。 あと、この作品の著者、ジュール・メグレ名義で出版してもおもしろかったのではないかと思ってしまいました。シムノン自身、メグレものを始める前にはいくつものペン・ネームで小説を書いていたわけですし。 |
No.104 | 6点 | 北氷洋逃避行- ジョルジュ・シムノン | 2020/05/20 22:58 |
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京北書房から1946年に出版された後、1952年にメグレもの『運河の秘密』(『メグレと運河の殺人』)に併録されたことがあるそうですが、今では邦訳が最も入手しにくいシムノン作品のひとつでしょう。当然そんな古書を探す気などなく、読んだのは原書です。
この邦題からしても、また原題(英語なら THE passenger of Polarlys)からしても、その船客を主役とした犯罪小説系かと思っていたのです。しかしこれはメグレもの以上に謎解きミステリ系の作品になっていて、驚かされました。ノルウェーの町々に寄港していく客船兼貨物船ポラリス号で、まず客の一人が失踪、さらに途中から乗り込んできた警察顧問が殺されるという事件で、クローズド・サークルのフーダニットなのです。しかも最後の方には船が嵐に出会うスペクタクル・シーンまで用意されているというシムノンとは思えない展開は、意外に楽しめました。 |
No.103 | 10点 | 雪は汚れていた- ジョルジュ・シムノン | 2019/08/03 10:49 |
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シムノンの膨大な作品中でも一般的に最も高く評価されているのが、ジッドを驚嘆させたという本作でしょう。実際、犯罪小説らしい前半も充分面白いのですが、主人公が逮捕されてからの後半には圧倒されます。
しかし、シムノンらしい代表作とは言えないかもしれません。むしろ異色な要素もあるのです。まず長さですが、文庫本で200ページ前後のものが多い作家なのに、本作は約300ページと、普通の長編といった長さです。もっと長い、いわゆる大作だと、『ドナデュの遺書』、『フェルショー家の兄』、未訳の “Le voyageur de la Toussaint” 等もあるのですが。また、舞台の町がどこかが明記されないのも、珍しいことです。雪の積もった地方で、登場人物たちは主人公フランク・フリードマイヤー、隣人のゲルハルト・ホルストといったドイツ系の名前。 なお、読んだのは早川書房シメノン選集の永戸俊雄訳で、文章は古めかしいですが、作品評価としてはやはりこれで。 |
No.102 | 7点 | 猶太人ジリウク- ジョルジュ・シムノン | 2018/02/17 23:53 |
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『13の秘密』、『ダンケルクの悲劇』(13の謎)と同時期に書かれた、その2冊と同じくショートショートと言っていい長さの13の連作謎解き短編集です。原題は "Les 13 coupables"(13の犯罪者)。1937年に春秋社から出版されて以来新訳も出ず、日本では絶版状態が続いているもので、読んだのはそんな稀覯本ではなく、原書です。日本で永らく無視されていても出来栄えはなかなかのもので、他の2冊と比べて短くしやすい基本設定になっていて、「クイーンの定員」にも選ばれている短編集です。
主役はフロジェ判事。ただし裁判官ではなく、メグレ・シリーズでもお馴染みのコメリオ判事と同じく予審判事で、警察とも協力し容疑者を尋問して裁判に回すべきか否かを決定する役割です。表題作のジリウクを始めとして、様々な国籍の容疑者をフロジェ判事が尋問し、ほとんどがその場で事件解決となる構成で、ホワイダニットが中心となっています。 |
No.101 | 6点 | 仕立て屋の恋- ジョルジュ・シムノン | 2017/02/16 19:56 |
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先に映画を見た後で読んだ作品の再読。
パトリス・ルコント監督による映画の原題は、"Monsieur Hire"(イール氏)で、小説の原題よりさらにそっけないものです。コメディー映画から出発したこの監督の才能を証明する作品として絶賛された映画は、仕立て屋イール氏を演じるミシェル・ブランとその店を映す冒頭からどきっとさせるような映像派ぶりを発揮してくれます。小説の方の職業設定には、臣さんも書かれているように、実はこの邦題は合いません。 本書カバー写真からもわかるとおり、主役のブランは禿ですがむしろエレガントな紳士的風貌なのに、小説では「変人で、落ちつきがない」人物に描かれています。また小説ではだらしなさそうなアリス役のサンドリーヌ・ボネールは清楚な感じで、どちらも小説の印象とはかなり違います。 なお、本作はデュヴィヴィエ監督により "Panique" のタイトルで1946年に最初に映画化されています。 |
No.100 | 5点 | メグレと死体刑事- ジョルジュ・シムノン | 2016/05/03 15:18 |
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通常3期に分割されるメグレ警視シリーズの中で、本作は第2期に属するものです。1933年『メグレ再出馬』発表後、シムノンは一度メグレ打ち切り宣言をし、『ロンドンから来た男』など主に犯罪を扱った純文学寄りの作品(河出書房の表現では「本格小説」)を発表していきます。そして再びメグレもの長編に手を染めたのが1939~41年で、長編6冊発表後、また1945年までメグレ長編は休止するのです。その6冊中、2016年5月現在、日本語訳が単行本で出版されたのは本作だけで、他の5冊は雑誌掲載のみ。
メグレ第2期作品は今まで読んだ3冊に関する限り、他の時期に比べてちょっとひねったところがあるように思えます。本作でも中心事件の他に「死体刑事」の役割、事件の終結のさせ方、さらに複雑な気分にさせられる後日談など、事件の裏は多少複雑なことがあっても基本的にはストレートな小説構造が多い第1期、第3期とは若干異なる味わいです。 |
No.99 | 7点 | 証人たち- ジョルジュ・シムノン | 2016/02/01 23:41 |
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殺人事件の裁判長になった判事を主役にした、裁判前夜から裁判終結日の夜までの話です。ただしシムノンらしく、途中に主人公の過去の思い出や日常生活などをふんだんに取り入れて、そんな様々な記憶が法廷での彼の態度に影響を及ぼす様が描かれます。裁判劇中心ということで一応本サイトに登録しましたが、ミステリ度はかなり低い作品で、妙な期待を持って読むと、本格派ファンならずともこの結末にはがっかりするかもしれません。小説としてなら納得のいく判決ではあるのですが。さらに裁判終結の後に主人公を待ち受けていた衝撃には、感銘を受けます。
文学的テーマを別にすると、興味深いのがフランスの裁判制度でした。シムノンがどの程度現実の裁判に忠実に書いているのかはわかりませんが、本作を読む限り、ペリー・メイスンでおなじみのアメリカや、それに近い日本の制度とは全く違うところがあるのです。 |
No.98 | 6点 | O探偵事務所の恐喝- ジョルジュ・シムノン | 2014/03/29 12:36 |
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3編を収めたO探偵事務所事件簿の最終巻。
最初の『エミールとミンクのコート』は、事件をほとんどいやいや引き受けたトランス元刑事所長も言うとおり、雲をつかむような話から始まるところに、まず興味を引かれます。これまでにも感じられたグルメ志向が本作では顕著で、ベルギーの名物料理(シムノンはベルギー出身)が次々出てきて、そんな謎解きとは関係ない部分がかなり楽しめる作品になっています。その謎解きは、おいおいと言いたくなるような偶然が契機になって転がりだし、それなりの決着となっていました。 次の『不法監禁された男』は、監禁された人を救出できるかどうかのサスペンスが中心となる作品。 そして最後の表題作は、トランスの涙もろいところがクローズアップされ、O探偵事務所の所員たちみんなに華を持たせる、最後を飾るまさに大団円と言うにふさわしい結末で、鮮やかに締めくくってくれました。 |
No.97 | 5点 | 丸裸の男- ジョルジュ・シムノン | 2014/03/16 15:54 |
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O探偵事務所の事件簿第3巻に収録されている4編中、事件調査を依頼されて始まるのは最後の『ミュージシャンの逮捕』だけです。それさえ、所長のトランス元刑事の知人であるミュージシャンが逮捕されそうだと緊急の助けを求めてきたものです。この作品の真相は最初から明らかなのですが、証拠隠滅を図ったとしてトランスがパリ警視庁局長に呼び出しをくらい、冷や汗をかくことになるという、サスペンス系な展開です。
最初の表題作は有名な弁護士が一斉取り締まりで検挙された連中の中にいることにトランスが気づく、という出だしは魅力的ですが、解決はまあまあ程度。次の『モレ村の絞殺者』が同名を名乗る二人の老人が同夜に絞殺されるという冒頭の謎も、その謎解きもよくできています。ただし、かなり複雑な事件なので、もっと長くした方がよかったでしょう。『シャープペンシルの老人』は、まあこんなものかな、という程度でした。 |
No.96 | 6点 | 老婦人クラブ- ジョルジュ・シムノン | 2014/03/04 23:02 |
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赤毛のエミールが活躍するO(オー)探偵事務所の事件簿シリーズ第2巻には、3編が収録されています。
最初の『むっつり医者と二つの大箱』では、メグレもの常連のリュカ部長刑事がこのシリーズでは初登場して、司法警察での容疑者尋問という、それこそメグレものでは毎度おなじみのシーンも出てきます。この作品は、3編の中では最も正統的な謎解きパターンと言えるでしょう。真相はごく単純ですが、タイトルの医者のキャラクターが際立っています。 『地下鉄の切符』は探偵事務所を訪ねてきた男は既に瀕死の状態で、ダイイング・メッセージを残して死んでしまうという、期待を抱かせる発端ですが、解決は今ひとつでした。魅力的な発端と言えば、『老婦人クラブ』も奇妙な事件で、「犯人」は最初からわかっているホワイダニット系作品です。エミールが過去に会ったことのある人物が登場したりして、展開の意外性があり、なかなか楽しめました。 |
No.95 | 6点 | ドーヴィルの花売り娘- ジョルジュ・シムノン | 2014/02/18 23:37 |
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4分冊になった14の短編からなるO(オー)探偵事務所の事件簿シリーズその1で、4編が収録されています。全部まとめたずいぶん分厚い原書が、Amazonで売られていたのを見た記憶もあります。しかしこんなに小分けにしなくてもという気もします。
探偵事務所の所長は元刑事のトランス。メグレ警視の部下だった人で、そのことは作中で何度も繰り返されます。ただし翻訳版のシリーズ・タイトルからもわかるように、名探偵役はエミール(姓は不明)という赤毛の男で、彼が実質的な探偵事務所長。 最初の『エミールの小さなオフィス』は主要登場人物紹介にかなり筆を費やしています。ストーリーは全く違いますが、シリーズの最初に持ってくる作品としては、ドイルの『ボヘミアの醜聞』と共通するものがあります。続く3編ともあっさりめのパズラー系で、特に『入り江の三艘の船』はシムノンと思えないほど動機は付け足し程度でした。 |
No.94 | 5点 | メグレ最後の事件- ジョルジュ・シムノン | 2013/11/20 22:27 |
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邦題は、結局シムノン最後の小説(その後も回想録なんかはかなり書いていますが)だからというだけであって、内容とは関係ありません。原題を直訳すれば「メグレとシャルル氏」ですが、事件の発端となる失踪した公証人の名前は全然違うし、どこでシャルル氏は出てくるんだろうと首をかしげさせられます。まあ捜査を始めてみると、すぐにそれは判明するのですが。
半分ぐらいのところで死体がセーヌ川から発見されますが、その時期に発見されるのは完全な偶然で、これだけはご都合主義的な展開かなあという感じ。メグレに調査依頼に来た公証人夫人が個性的な人物として描かれ、事件に何らかの関わりがありそうだということは最初から予想がつきます。結末の意外性を期待すべきタイプの作家ではないので、それはそれでいいですし、夫婦間の葛藤はさすがですが、真相には少々安易なところが感じられました。 |
No.93 | 6点 | メグレ激怒する- ジョルジュ・シムノン | 2013/10/12 16:59 |
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メグレ第3期の開始作。原則未訳作品を集めた(絶版久しい作品の新訳本数冊あり)河出書房のメグレ・シリーズ50巻のうちには、なぜか収められないままになり、後に雑誌『EQ』(光文社)に初めての翻訳が掲載された後、河出文庫で出版されたという、妙ないきさつを持つ作品です。
今回のメグレは、退職して2年後、田舎でのんびり暮らしていたところを、個性的な老婦人から依頼を受けて事件の捜査を始めることになります。この老婦人、自己中心主義的でずいぶん勝手な思い込みもあるのですが、自分の間違いをあっさり認める冷静さも持っていることが依頼の段階で表現されています。 全体としてはちょっと珍しい事件で、メグレ自身は事件の最終的決着に関与しません。というか関与できないのです。それでも確かにメグレがいた方が話として収まるし、こういうミステリもあるのか、という感じでした。 |
No.92 | 4点 | メグレと匿名の密告者- ジョルジュ・シムノン | 2013/08/30 22:28 |
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訳者あとがきにも書かれているように、メグレ・シリーズには時々匿名の密告者が出てきます。前作『メグレとひとりぼっちの男』でもそうでしたが、その前作では密告者の正体は不明のままですし、密告は事件解決には必要なかったと感じたのでした。シムノンもその点に対する反省があったのか、今回はタイトルどおり、密告者が重要な役割を果たします。元(?)やくざであったレストラン・オーナーが殺された事件で、犯人指摘の密告者が誰であるかをつきとめ、その所在を探し出すのが、容疑者に対する調査と共にストーリーの中心になっているのです。そして最後には、密告者が殺人事件にも多少関わりがあったことが明かされることになります。
もう一人の本作の重要登場人物は、モンマルトルを知悉する初登場のルイ刑事で、なかなかいい味を出しています。ただし、小説としての面白味ということでは、前作に比べるとぱっとしません。 |
No.91 | 6点 | メグレとひとりぼっちの男- ジョルジュ・シムノン | 2013/07/22 22:17 |
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ぼろぼろの空家で暮らしていた殺された浮浪者は、なぜか髪や爪をきれいに手入れしていた。このなかなか魅力的な謎は、しかしすぐにあっさりと解き明かされてしまいます。当時のパリではそんなこともあったのかと、妙なところにびっくりしました。二人の匿名女から似たような問い合わせの電話がかかってくるという展開も興味をそそられます。
終盤になって明らかになる、被害者がメグレも驚くほど徹底して「ひとりぼっち」になった理由、被害者と犯人との関係、その犯人が最後にメグレの部屋で電話をかける場面など、ミステリ的というより文学的なと言いたいような意外性もあり、全体的にはかなり感心させられました。 ただし犯人を突き止める直接的なきっかけが安易な点は不満でした。そんなきっかけがなくても、メグレが一度犯人と会った後に行う調査をしてみたらどうかと思いつけば、それで解決できたはずだからです。 |