皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.29 | 4点 | 大胆なおとり- E・S・ガードナー | 2020/01/09 22:43 |
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メイスンの勧告にもかかわらず、依頼人が自分に疑いがかからないよう勝手に何やら画策し、そのためかえって警察に疑われる羽目に陥ることの多いシリーズですが、本作の依頼人は基本的に冷静な若い社長ということもあるのでしょう、下手なことは一切せず、メイスンの指示に従っています。
しかし、それにもかかわらず今回その社長が容疑者になってしまう原因は、ちょっと複雑すぎます。そのような結果を生み出した犯人でないある人物の行動の動機には、さすがに無理がありますし、行うことも手が込みすぎていて不自然です。さらに凶器でなかった拳銃のからくりは、偶然の多用でいたずらに事件を複雑化させているだけで、入れない方がよかったでしょう。 それにしても今回のバーガー検事、慎重なトラッグ警部はもとより、直情型のホルコム部長刑事さえ自制しているのに、粗暴な振る舞いが多すぎます。 |
No.28 | 6点 | 運のいい敗北者- E・S・ガードナー | 2019/07/21 23:33 |
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冒頭に工夫を凝らしてくれることの多いシリーズですが、今回最初の依頼は、ひき逃げ事件裁判を傍聴して、意見を聞かせてくれというもの。ところがそれが実は殺人事件だったことが後でわかるというのは、まあよくある展開と言えるでしょう。
殺人事件裁判が始まった直後にメイスンが提示する法律上の問題点には、死体再調査の時点で疑問を感じたのですが、メイスンに指摘されるまで法律の専門家である裁判官や検事がそれに気づかないのは、あり得るのかなと思ってしまいました。これは他にも例があるアイディアですが、なかなかおもしろい使い方です。最終的な真相は、これも有名アイディアのヴァリエーションですが、手順にちょっと煩雑すぎるところはあるものの、かなり鮮やかに決まっています。 それにしても今回のバーガー検事は、ただ間抜け役を演じるために裁判の最後の方で登場するだけ。この人初期には厳格さが好感の持てる検事だったんですが。 |
No.27 | 5点 | 怯えるタイピスト- E・S・ガードナー | 2019/05/08 20:19 |
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メイスン、ついにバーガー検事に敗れる?
今回ガードナーがやりたかったのは、これでしょうね。普通だと裁判の途中でメイスンによって真犯人が明らかにされ、告訴が取り下げられることになるのですが、本作では陪審員の評決まで出て、その後裁判長による判決言い渡しの場で真相が明かされることになります。この最後のどんでん返しは、シリーズ中でもおそらく最も意外なのではないでしょうか。 その意外性はいいのですが、そのためずいぶん無理をしているのが難点です。バーガー検事が密かに握っている事実は、もっと早くわかっていて当然のことなのですが、この事実を警察が厳密に調査すれば、ネタが割れてしまいます。だからと言って、読者に隠しておきさえすれば不自然さがなくなるというわけではありません。タイトルのタイピストのオフィスでの事件への関わり方も不自然ですし、共犯者が多すぎるのも減点対象です。 |
No.26 | 4点 | 埋められた時計- E・S・ガードナー | 2018/12/03 00:03 |
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最初の3章はメイスンが登場せず、さらに途中第14章もメイスンの視点から書かれていない作品です。まあ、ストーリー上からはその方がわかりやすいとは言えるのですが、なんだか中途半端な感じがします。その4つの章は、太平洋戦争で負傷して復員してきた青年の視点から描かれているのですが、彼のその経歴が特に意味を持ってくるわけでもなく、作中での役割があやふやなのです。
冒頭から登場する、ブリキ容器に入れて埋められた目覚まし時計の意味が最大の謎になっていて、メイスンもずいぶん悩むのですが、最後に明かされてみるとなんだかねえという感じでした。時計をあらかじめ埋めておく必要もないように思えますし、実際にはどうやったらそれがうまくいくのか不明です。拳銃と薬物に関する部分は、複雑にしすぎていますし、第14~15章の医師の行動もほとんど無意味としか思えず、不満点の多い作品でした。 |
No.25 | 5点 | 駈け出した死体- E・S・ガードナー | 2018/10/09 23:46 |
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2人そろって現れた依頼人(実際にはその1人は依頼人ではないということが後で法律的な問題を提起することになるのが、興味深い点です)の話はこのシリーズとしてはたいしたことはない感じでした。それであまり気乗りしないまま読み進んでいったのですが、タイトルどおりの出来事が起こってからは、一気におもしろくなります。なお原題で使われている言葉Runawayの直訳「逃げ出した」の方が内容に合っています。
法廷(予備審問)場面が長く、2/3にもならない時点で予審が始まってしまい、また地方検事がメイスンの言葉によれば「ハッタリをやらない」「正直者」であるのは、本作の特長です。法廷で2人の医師が死因となる毒薬について完全に食い違う意見を陳述するところが、非常に意外です。ただしその謎の解決には少々失望しました。冷静に考えてみると犯人の計画に首尾一貫性がないのも不満です。 |
No.24 | 6点 | なげやりな人魚- E・S・ガードナー | 2018/06/25 23:22 |
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文庫化時に『あわてた人魚』に改題された作品で、読んだのは文庫版の方です。最後にデラが事件をファイルにする時に、おもしろい題名を思いついたと言うのですが、”negligent” ですから本来は「なげやりな」の方です。まあ被告人が無頓着だったから洗濯屋のマークを付けっ放しにしていたと考えても、あわてていたからそのバスタオルを置きっ放しにしたと考えてもよさそうです。
依頼人登場から始まるのではなく、最初からアクション・シーンが出て来て、メイスンがそれに巻き込まれるという発端です。その盗難事件をメイスンがうまく法廷で処理した後、盗難被害を届け出ていた富豪が殺される事件が起こる展開です。被告人の嘘によって、メイスンが法廷で苦境に立たされるところ、メイスンの内面に踏み込んで描かれるのは珍しいと思います。最後バタバタと新事実が明らかになるところはご都合主義な気もしますが、とりあえずこの点数。 |
No.23 | 6点 | 用心ぶかい浮気女- E・S・ガードナー | 2018/02/12 15:21 |
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ペリー・メイスン・シリーズは奇妙な依頼などで冒頭に意表外なシチュエーションを設定する場合が多いですが、本作は少なくとも既読作の中では最もとんでもない謎を提出してくれます。
ただし第1章は依頼人の登場ではありません。メイスンは既に交通事故の損害賠償に関する依頼を受けていて、ひき逃げした自動車を追っている状況から話は始まります。その自動車のナンバーについての匿名の手紙をドレイク探偵が受け取るのですが、これが何とも怪しげな手紙で、さらにメイスンの事務所に事故の目撃者なる女が現れて、その手紙の内容を否定する証言を行う展開には、さすがのメイスンも頭をかかえることになります。 真相は込み入っているようでいて意外に明快な筋が通っています。ただ、バーガー検事があまりにメイスンをやっつけることにばかり拘泥して本筋の殺人の証拠固めが疎かになっているのは、いかがなものかと思われますが。 |
No.22 | 4点 | 放浪処女事件- E・S・ガードナー | 2017/07/14 22:31 |
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『義眼殺人事件』と並び、ペリー・メイスン・シリーズには珍しいタイトルは、ポケミスに入ったガードナーとしてはまだ『奇妙な花嫁』に続く2作目ということもあるのでしょうか。
せっかちな依頼人からの電話に始まる、殺人にまで至る事件展開は意外性があり、おもしろいのですが、その後どうも切れ味がなくなってきます。小出しにしてくる疑問点に対する解決が、どうもありきたりなのです。特に後半予備審問が始まってある証拠品が持ち出されてくる部分は、その質問からしてメイスンはもう殺人事件の重大ポイントを押さえているのだろうなと思っていたら、そうではなく、かなり後になってその点に気づくのには、がっかりです。放浪する処女の役割にしても、もっとひねってくるのかと期待していたのですが。さらにこの真犯人の設定、ヴァン・ダイン20則中現在でも通用する条項に違反の疑い濃厚ですしねえ。 |
No.21 | 5点 | 黒い金魚- E・S・ガードナー | 2017/01/16 23:46 |
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原題は "The Case of the Golddigger's Purse"。 金鉱探しと何の関係があるのだろうと思っていたのですが、辞書を引いてみると、gold digger には金目当ての女の意味もあるんですね。なるほど、それならメイスンが弁護することになる被告人のことで、納得いきます。
その女を弁護することになるまでの展開がかなり複雑な事件です。邦題の黒い金魚に関する最初の依頼は殺されることになる男からのもので、さらに殺人事件の後もいろいろあって、メイスンとしては逮捕されたその女の弁護を、依頼を受けたからでなく自ら買って出ざるを得なくなるのです。そこまでは充分楽しめるのですが、予備審問が終わる前に結局解き明かされる事件の真相はさすがに複雑にし過ぎです。 また、決定的証拠と思える被告人の指紋の件も、またもう一つ被告人に不利な時刻の件も、このようないい加減なご都合主義はいただけません。 |
No.20 | 4点 | 餌のついた釣針- E・S・ガードナー | 2016/09/22 09:41 |
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ペリー・メイスンにはさまざまな依頼人がありますが、本作の依頼人は仮面をつけていて一言もしゃべらず、正体が全く不明という状態(実際に話をするのはその仮面の女に付き添う男ですが、彼もまた最初は偽名でメイスンを真夜中に呼び出します)、さらに依頼内容さえ明かされないままの依頼なんていう、とんでもない話です。メイスンがそれを受諾したのも、怪しげなところに興味を持ったからでしょう。
で、当然のごとく殺人が起こるわけですが、今回はなかなか逮捕者が出ません。そのうち謎の依頼人が誰であるかも判明し、8割近くになって、やっと逮捕が行われます。その後が目まぐるしい展開になり、恒例の法廷場面はないまま決着を迎えるのですが、さすがに急ぎすぎ、詰め込みすぎで、全体のバランスを崩しているとしか思えません。メイスンが逮捕されそうになる証言は省いた方がすっきりしてよかったのではないでしょうか。 |
No.19 | 6点 | 怒った会葬者- E・S・ガードナー | 2016/06/10 21:38 |
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かなり以前に原書で買って読んだものを再読してみました。ガードナーの英文はやっぱり読みやすいと再認識。法律用語も文脈からすぐ見当がつきます。
今回の事件は、メイスンが休暇中に滞在中のホテルで依頼を受けるというものです。都会の有名な弁護士を相手にするというので、検察側もやたら気負っているのが微笑ましい感じもします。タイトルの会葬者については、その人を発見する過程が、かなりまぐれ当たり的かなという気はします。しかしその他の点については、足跡の問題、壊れた鏡の問題など、全体的にかなりうまくまとまった作品だと思いました。最後は、法廷でメイスンが真犯人を指摘するいつものパターンではなく、被告人は無罪の可能性が高いことを示す証言があったところで、判事が検事とメイスンを控室に呼んで話し合い、さらにその後デラとポール・ドレイクへの説明という形で真相は明かされます。 |
No.18 | 6点 | そそっかしい小猫- E・S・ガードナー | 2015/12/14 23:56 |
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事件の発端となる電話とほぼ同時刻にタイトルの猫が毒を盛られる(死にはしない)という、なかなか魅力的な謎で開幕する作品です。その後殺人は起こるのですが、クライマックスでの裁判は、なんとこの殺人事件についてのものではないというのが、本作の工夫です。途中で殺人の容疑者が逮捕されることもありません。
実はメイスンが事件に関わることになる部分には重大な疑問点が残ったままなのですが、ガードナーには有名作にもどこか論理的な穴がぽっかりあいていたりします。本作では考え方が不自然だという程度でしょうか。 全体の裏については、明らかにその可能性もあると最初からわかっているようなものですが、それでも展開の面白さで巧みに引っ張ってくれます。法廷でメイスンが指摘する手がかりは、猫の行動の理由を考えてみろということで、猫好きの陪審員もその指摘ですぐ気付くような、わかりやすい伏線でした。 |
No.17 | 6点 | カナリヤの爪- E・S・ガードナー | 2015/08/29 23:22 |
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ガードナーが考え出した事件解決までのタイム・リミットは、なんともとぼけたものでした。最終章でメイスンとデラが間一髪で間に合ったのには苦笑もの。次の事件の予告を入れるいつもとは全然違う大げさにロマンチックな終わり方でした。
事件の方はというと、タイトルのカナリヤの爪の問題は、ごく早い段階で簡単に解決してしまい、その後例によって殺人事件へと展開していきます。しかし今回は珍しく容疑者が3人もいて、一時は3人とも警察に逮捕されてしまいます。で、検察送りになるのは結局そのうち1人だけですが、その人物が被告人の裁判が始まる前に、もう一つの殺人事件の検死審問で事件は解決してしまいます。真相の背景は、ちょっと見当がつかないだろうというものでした。 それにしても、ドレイク探偵の「そうじゃないでしょう。まだだろう」という台詞に代表される阿部主計氏の統一のとれていない翻訳は、問題です。 |
No.16 | 5点 | 奇妙な花嫁- E・S・ガードナー | 2015/03/31 23:05 |
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訪れてきた依頼人が、自分自身のことを友だちから尋ねられたことだと偽ったことに対して、メイスンがわざと尊大ぶった冷ややかな態度をとったことを反省して、調査に乗り出すというところから事件は始まります。
殺人事件の本筋には、露骨過ぎると言ってもいい伏線が早い段階であり、誰もそれを問題にしないのが不思議なぐらいです。しかし、裁判でも重要視される建物の入り口のベルを鳴らしたのが誰かという点については、2人のうちの1人が結局どうだったのか、あいまいなままに終わってしまっています。また、メイスンがそのベルに関して行うあることに関しては、その音の響きの偶然、検察側の態度の偶然等に頼っていて、鮮やかに法廷戦略をきめることのできる確率は低いと思わざるを得ません。それにその行為が本当に適法範囲内なのか、非常に疑問でもあります。話はおもしろくできてはいるのですが、完成度は今ひとつ。 |
No.15 | 6点 | 吠える犬- E・S・ガードナー | 2014/10/04 10:13 |
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かなり以前に読んだ時は、あまり感心しなかった作品です。
今回再読してみて、見解が完全に変わったわけではありませんが、前回の不満点はかなり解消されました。理由は、この犯人の意外性を許容できるようになったことと、メイスンの法廷戦術がはっきり理解できたことです。特に法廷戦術の方は、これまでに読んだこのシリーズの中でも極めつけの荒業です。後から、あれは証人に対する反対尋問だったのだとメイスンが説明する策略は、検察側の常套的なやり方を見越しての綱渡りですが、確かに違法ではないんだろうけど、と驚かされました。作中でのメイスンについての「聖者と悪魔の申し子」との評にも納得。 それでも、犬は吠えたのかどうか、また吠えたとしたらその理由は何かという点に関してのメイスンの推理は、根拠薄弱だと思えました。また、最後のどんでん返しも一応明確な伏線はあるものの、ちょっと唐突な感じがします。 |
No.14 | 5点 | ビロードの爪- E・S・ガードナー | 2014/06/08 16:08 |
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内容は全く記憶になかった作品ですが、再読してみると、シリーズ第1作らしく、ペリー・メイスンが弁護士としての自分の信念を語るところがかなりあります。他の作品でも自分を闘士だと言うことはあるのですが、これほど闘志をむき出しにして、人をぶんなぐることまでする(話の展開としては意味のないところで)のは、他に思い当りません。
タイトルはデラが依頼人を評した言葉で、その嫌な性格がりゅうさんも書かれているようにうまく活かされています。ストーリーは快調ですし、読み終えてみると彼女の言動に説得力があるのは高く評価したいのですが、実はメイスンの最後の推理には矛盾点があります。手がかりの一つ、読者の記憶にもはっきり残る方が、犯人の行動を辿ってみればあり得ないことがわかります。凶器について指紋が全く問題にされていないのも、論理的には不満なところです。 |
No.13 | 7点 | 偽証するおうむ- E・S・ガードナー | 2013/11/29 22:14 |
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ペリー・メイスン・シリーズの中でもおもしろかったと記憶していた作品ですが、今回再読してみると、冒頭部分から少々驚かされました。例によって依頼人の登場から始まるわけですが、本作ではすでにメインの殺人事件が新聞記事に載っていて、しかも依頼人はその容疑者と目されているわけではないという状況なのです。そして依頼人は、警察には言っていないが殺人現場にいたおうむは被害者が飼っていたものではないと主張します。
殺人事件についての手がかりはそのおうむを始め豊富で、真相は単純ながら鮮やかですし、真犯人判明後にもう一つ意外で爽やかな結末を用意しています。実はこの最後の意外性は検死法廷の1~2日後には警察にも知られるはずで、そうなるとメイスンの犯人指摘推理も必要なくなるだろうというところはありますが、欠点というほどでもないでしょう。短い作品ですがきれいにまとまった秀作だと思います。 |
No.12 | 6点 | 転がるダイス- E・S・ガードナー | 2013/08/19 23:44 |
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ペリー・メイスン・シリーズには以前に読んだかどうか、記憶の定かでない作品がいくつかあるのですが、本作は未読だと思っていたら、犯人の弄したトリックと、それを証明するメイスンの推理が記憶に残っていました。これはかなり目立つような書き方がされています。しかしそれ以外の点については、探偵役が誰だったのかさえ完全に忘れていました。
最初に依頼人の伯父が精神病院に監禁されてしまう事件とその一応の解決については、その後に起こる殺人事件との結びつきが弱いと感じました。また、過去の事件の顛末が今ひとつあいまいなままですし、それに関連して最後のページの意味がよくわかりません。この過去の事件についてのメイスンの新聞広告を利用した策略は、おもしろいアイディアですが。 原題は辞書を引いてみると、小説の内容との関連で様々な意味にとれそうです。 |
No.11 | 5点 | 孤独な女相続人- E・S・ガードナー | 2013/03/20 11:59 |
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ペリー・メイスンものでは、本筋の事件以外にもちょっとした法律的な雑学などがおもしろいところがありますが、本作では若い警察官がメイスンの鼻をあかすところが楽しめます。メイスン自身、やられたとわかった時には笑い出しています。本筋の方では、デラが重要な手掛かりに気づくところが記憶に残ります。考えてみれば、常識的な物事の進め方からしても、確かにそうでなければならないはずです。
本作はかなり前に原書で読んだことがあったのですが、覚えていたのはその2点だけでした。今回邦訳で再読したのですが、やはり真相はあまり印象に残らないかなあと思えました。犯人の意外性はありませんし、その犯人の計画はいたずらに複雑なだけで、必要性が感じられないのです。冒頭の依頼は例によって興味深いものなのですが、その依頼人が途中でメイスンを困らせる妙な行動も、無意味にしか思えません。 |
No.10 | 6点 | 殴られたブロンド- E・S・ガードナー | 2012/03/16 23:49 |
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タイトルの「殴られた」の部分は原題では”black-eyed”、つまり殴られて目のまわりに青あざのできた、ということです。
メイスンものの中でも、カバー作品紹介にも書かれているように特に劇的な展開を見せる作品です。最初のうちは、ブロンドの依頼人登場から事件がどう転がっていくのか、見当もつきません。一瞬、このシリーズでまさかこんなことが、と思わせる殺人を起こしておいて、いかにもなパターンに戻したりしもます。さらに真ん中あたりですでに、予審ではありますが裁判になってしまうのです。これ以後延々と裁判シーンになるなんだろうか等と思っていたら、裁判の途中(裁判はもちろん何日もかけてやっていくわけですから)、法廷外で事件は新たな展開を見せます。 設定を複雑にしすぎて、小説としての全体のつながりが今一つすっきりしなくなってしまっているのが難点ですが、なかなか楽しませてくれました。 |