皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.53 | 6点 | チェスプレイヤーの密室- エラリイ・クイーン | 2023/08/31 21:25 |
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原書房から出版された外典コレクション3冊の実作者中では、ずば抜けて有名なジャック・ヴァンスによる作品です。と言っても、ヴァンスのSFは読んだことがないのですが。
訳者である飯城勇三の解説によれば、ヴァンスによる前作 “The Four Johns” の生原稿と出版されたものを比べると、「ほぼすべての文章に手が加えられていた」(たぶんリーにより)そうですが、本作を読んでみると、冒頭からリーだったらこんな書き方は絶対しないだろうと思える文章構成です。nukkamさんが「どこか冷めた雰囲気」と書かれているのもそういうことでしょう。 密室トリックはかなり早い段階からこのようなタイプではないかと想像してはいたのですが、大胆でありながらかなり現実的な方法です。しかしトリックが分れば犯人も自動的にわかるタイプではあります。 それにしても本来クイーンって不可能犯罪はあまり得意ではない作家だと思うんですけど。 |
No.52 | 6点 | 犯罪コーポレーションの冒険- エラリイ・クイーン | 2023/01/06 22:25 |
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このクイーンのラジオドラマ・シナリオ集第3作は前の2冊と違い、日本で独自に編集されたものだそうです。『死せる案山子の冒険』は読んでいないのですが、『ナポレオンの剃刀の冒険』に比べると全体的に軽い感じがしました。ただシナリオ集と言っても、11編中最後の『殺されることを望んだ男の冒険』だけはノベライゼーションです。巻末解説によればダネイ、リー以外の人によるダイジェスト版だそうで、最もつまらないと思ったのは、アイディアの問題だけでなくそのせいもあるでしょうか。
表題作は非常に意外な真相ですが、家の間取りが明確にされていないせいもあるでしょうか、矛盾点があると言わざるを得ません。どの作品もそれなりに見どころはあり、なんとなく予想できたものもありますが、完全にエラリーの推理と一致したのは『善きサマリア人の冒険』だけでした。タイトルどおりのなかなか気持ちのいい話になっています。 |
No.51 | 5点 | 熱く冷たいアリバイ- エラリイ・クイーン | 2021/01/26 20:42 |
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原書房から出版されたクイーンの外典コレクションでは3冊目ですが、原書の出版は本作が最も早い1964年なので、まずこれを読んでみました。作者のフレッチャー・フローラは全く知らなかったのですが、調べてみるとかなりの短編が雑誌やアンソロジーに翻訳されています。
巻末解説にはリーがプロット作りにかなりアドヴァイスしたから、これほど巧妙な作品として完成したのではないかと書かれていますが、読んでみた限りではどうなのか、よくわかりません。確かに人間関係を軸にした意外性の演出に工夫を凝らしてはいますけれど、それはクイーンに限らず、フーダニット系の作家であれば誰にでも当てはまりそうです。いずれにせよ外典のペーパーバック・シリーズは、書いた本人が基本的なプロットを考えたものでしょう。 邦題が意味するエアコン利用については、死亡推定時刻を大幅に狂わせるのはちょっと無理があると思いました。 |
No.50 | 7点 | ナポレオンの剃刀の冒険- エラリイ・クイーン | 2020/05/04 22:17 |
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ラジオドラマ版『エラリー・クイーンの冒険』シリーズって、『犯罪カレンダー』もその内から選んで小説化したものだとは知っていましたが、それ以外にもよくできたものがいろいろあるんですね。第2弾『死せる案山子の冒険』も併せた原書のタイトルは、皆さんに圧倒的に評判のいい『殺された蛾の冒険』(他ラジオ・ミステリ)が採用されています。この作品はドラマ・シリーズの中でも、本書中最も新しい1945年の放送作です。犯人はなんとなくこの人物が怪しいとは思ったのですが、蛾の死体から導き出される推理には全く思いいたらず、まいりましたというところです。堂々とこれが手がかりだと宣言しているところは、『オランダ靴』をも思わせます。
他には足跡トリックがわかっただけでは犯人を特定できない『呪われた洞窟の冒険』、メッセージを解読できてかえって混乱した『ブラック・シークレットの冒険』が気に入りました。 |
No.49 | 6点 | エラリー・クイーンの事件簿2- エラリイ・クイーン | 2014/06/23 22:58 |
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ラジオドラマ2本と映画1本のノベライゼーションですが、そのうち最もいいと思ったのはTetchyさんと同じく『<生き残りクラブ>の冒険』。実はこのアイディアを、クイーンは長編で2回部分的に、また短編でも使っていますが、今回はなかなか鮮やかです。訳者あとがきで、日本人には予備知識がないことが手がかりになっているとしているのはそのとおりですが、推理が明確で、さほど気になりません。むしろ、動機なき殺人の『殺された百万長者の冒険』の手がかりの方が、現代の日本人にはピンとこないでしょう。
元が映画の『完全犯罪』は、人間関係や犯人の設定については以前の某長編とほとんど同じです。しかし、犯行方法や手がかりなどは全く変えていて、むしろ本作の方がすぐれていると思えるところもありました。これは『事件簿1』の『消えた死体』が別の某長編のトリックを全く別設定で利用していたのと好対照と言えるでしょう。 |
No.48 | 3点 | 心地よく秘密めいた場所- エラリイ・クイーン | 2014/01/07 22:25 |
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マンフレッド・リーの死去によって結局クイーン最後の長編となった本作、構成は凝っていますし、最初のうちは、左右の問題とそれに対する解答など、なかなかおもしろく読ませてくれます。
ところが、最初の殺人事件が疑念を残したまま「一応」片付いた後、しばらくして第2の殺人が起こってからが、どうにも冴えません。パターン的には『最後の一撃』と似た、ミッシング・リンク的な謎なのですが、それほどと思えなかった『最後の一撃』と比べても、謎そのものに魅力がありませんし、その解決にも説得力がないのです。元々登場人物が少なすぎて、犯人には『真鍮の家』『最後の女』のようなそれなりの意外性もありませんし、かといって犯行計画もそんなに巧妙と思えません。そんなたいしたことのない計略にひっかかるエラリーの論理ミスも、ちょっといただけないものです。 どうも残念な出来の最終作でした。 |
No.47 | 5点 | 二百万ドルの死者- エラリイ・クイーン | 2013/08/27 22:55 |
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本作に始まるクイーン名義のペイパーバック・オリジナル作品群はかなりの数にのぼりますが、ホックにダネイが手を貸した『青の殺人』を除くと、二人はほとんどプロットと最終仕上げにOKを出していた程度のようです。小説としての仕上げは他の人にまかせても、プロット作りにはダネイが絡んでいたと思われる(リーがどの程度タッチしていたのかは知りませんが)『盤面の敵』等の作品とは全く異なる状況では、出来ばえや作風云々ではなく、クイーン名義とするには問題ありでしょう。ともかく本作の実作者はマーロウという人らしい…
久しぶりの再読で記憶も薄れていたのですが、それなりに楽しめました。似ている作家を強いて挙げるとしたら、次々に死体が量産されていく思いがけない皮肉な展開はハドリー・チェイス(『蘭の肉体』)でしょうか。よくもこれほどクイーンとは縁のなさそうなプロットを、最初の作品に選んだものです。 |
No.46 | 6点 | エラリー・クイーンの事件簿1- エラリイ・クイーン | 2012/08/29 13:47 |
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映画のノベライゼーションであることを意識して再読してみると、収録2作ともいかにも映画的な場面展開ですし、カーチェイス、尾行など視覚効果を意識した作りになっています。軽いノリは、少し前の『ドラゴンの歯』にも通じます。
『消えた死体』の元になった長編は小説らしい重厚な作品でしたが、全く異なるシチュエーションにして、なかなかよくできたヴァリエーションだと思えます。映画公開が1940年であることを考えると、あの原作長編を選んでこのような形に変えたのは、当時のアメリカ世情を考慮してのことかもしれません。 翌年製作の『ペントハウスの謎』は当時の中国政情を背景にして、スパイ小説的な味を加えています。しかし映画でも、電球に関する推理にはクイーンらしさがありました。 『靴に棲む老婆』より前、ニッキー・ポーターが別設定で登場する2作品でもあります。しかも『ペントハウスの謎』依頼人名はシーラ・コッブねぇ… |
No.45 | 9点 | ギリシャ棺の秘密- エラリイ・クイーン | 2012/03/07 22:39 |
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本作が出版されたのは1932年ですが、事件が始まるのが10月5日火曜日で、しかもエラリーがまだ大学を出て間もない頃というデータからすると、おそらく1920年のことではないかと思われます。
特にトリックと言えるのは、せいぜいすぐ明かされる死体隠匿方法ぐらいのものでしょうか。しかし、その死体発見に至る流れはうまくできています。そしてエラリーの最初の(失敗した)推理は、真相より犯人の意外性があると言ってもいいくらい。その後平凡な某人物犯人説を経て、「読者への挑戦」少し前あたりから盛り上がってくる謎解き興味は見事です。 ネクタイに関する設定には科学的な勘違いがありますし、タイプライターの手がかりは日本人にとっては(パソコンが普及していても)何のことやらですし、と不満の声もあるでしょうが、個人的にはクイーン節を最も長く楽しめる複雑さということで、最も好きな作品です。 ダ・ヴィンチの完成しなかった有名な壁画「アンギアリの戦い」の部分油絵が存在していたなんてホラ話設定も楽しめました。 |
No.44 | 5点 | 最後の一撃- エラリイ・クイーン | 2011/12/12 22:40 |
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クイーン作家暦30年目にして30冊目の長編で、そのことについては作中の名探偵兼作家のエラリーも疲れたとぼやいています。本作で長編創作を打ち切るつもりであったことは、タイトルも含め、はっきりうかがえます。結局クイーン名義長編が再開されるのは、M・リーが監修(内容確認)しただけの作品を除けば5年後になります。
そんな私小説的なため息も聞かれる本作の事件が起こるのは1929年で、エラリーは長編第1作を発表したばかりという設定です。国名シリーズの設定とは完全に矛盾していますが、作品相互間の矛盾はクイーンにはよくあることで。 作者がこれまで何度も書いてきたミッシング・リンク系プロットです。謎のふくらませ方はさすがですが、複雑化しすぎて、かえって不自然でキレが悪くなっているだけのような気がします。経験を積まなければ見破れない真相とも思えません。それより隠されていた過去の秘密が、いんちきっぽいとは言え意外な感じがしました。 |
No.43 | 6点 | 犯罪カレンダー (7月~12月)- エラリイ・クイーン | 2011/09/14 21:34 |
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クイーンの歳時記事件簿も後半になると、その月ならではというところが怪しい作品も出てきます。
7月は、夏である必要さえないような事件です。『新冒険』の某作品を連想させるところもありますが、こちらの方が自然だと思います。さらにクイーンには珍しいタイプのトリックも使われていて、まあまあの出来。 8月の宝探しは、殺人を絡めた上ひねりもあって、2月より好きです。ただしこれも8月でなくてもいいでしょう。 がっかりしたのが、9月の二番煎じ。これは上巻収録作の方が暦にちなんでいました。 10月は前半6作も含めた中で、最も気に入っている作品。クイーンらしいロジックが鮮やかです。ただし、現実的にはその状態を保っておくのは非常に困難ではないかという弱点はありますが。なおこの10月と11月は、他の作品とは違い、もったいぶった前口上がありません。 12月はやはりクリスマス。真相はすぐ見当がつきますが、怪盗による人形盗難が起こるまでの過程はなかなか楽しめました。 |
No.42 | 6点 | 犯罪カレンダー (1月~6月)- エラリイ・クイーン | 2011/09/04 23:20 |
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月ごとの記念日などにちなんだ事件をそろえた連作なのは当然ですが、ジョージ・ワシントン、カリギュラ、南北戦争など歴史的な由来などから書き起こしていて、そこにもこだわりを見せる短編集です。
最初の1月は結局ショート・ショート並みのクイズ的謎解きでがっかりでしたが、2月からの5編は少なくとも悪くありません。複雑さ難解さのみで言えば、4月がたぶん1番で、手がかりにはなるほどと納得させられます。また5月のストーリーと雰囲気、ミスディレクションはなかなかいいなという感じ。 しかし、個人的には3月が気に入っています。この作品、最後の推理はたいしたことはありません。それよりタイトルの私立探偵マイケル・マグーンについて、ボガードと比較してからかったり、事件が彼の所得税の確定申告書盗難で始まったりといったユーモアが楽しいのです。クイーン警視に、これが小説だったら誰を犯人にするかと聞かれて、エラリーがマイケルだと答えるところも、犯人を小説構成上から直感で指摘したがる読者への皮肉が感じられます。 |
No.41 | 5点 | 真鍮の家- エラリイ・クイーン | 2011/05/07 13:00 |
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『クイーン警視自身の事件』の続編となる作品です。警視が退職して再婚した話は、同時期の他作品との整合性を全く無視しています。まあ、クイーンは個々の作品の内部では非常に論理的であるにもかかわらず、ニッキー・ポーターの設定等、作品間では平気で矛盾したことを書いているのが、妙なところです。本作でもクイーン元警視夫妻が活躍しますが、今回は最終章で出てくるエラリーに、事件の謎の全面的な解明はゆだねられます。
最初に読んだ時はあまり冴えないように思ったのですが、再読してみるとクイーン警視の推理にも説得力はありますし、さらにそれをひっくり返していく構成はなかなか楽しめました。不思議な雰囲気もある館モノですが、その館自体を慎重に解体していくことになるというところにもひねくれぶりは見られます。殺人未遂に続いて殺人が起こるのに、中心的な謎はむしろ宝探しだというのも、妙なところです。ただし、事件の元になる館の主人の行動心理が分析されていない点は不満です。 |
No.40 | 7点 | 間違いの悲劇- エラリイ・クイーン | 2011/03/21 10:26 |
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最初に収められた中編『動機』は、田舎の小さな町(ライツヴィルよりだいぶ小さそう)を舞台に、名探偵エラリーの登場しない作品ですが、ミッシング・リンク・テーマを不自然でない形にまとめあげた秀作です。田舎町の雰囲気もよく出ています。ある意味リドル・ストーリーなのですが、あいまいな感じの残らないすっきりした解決になっていると思いました。
途中のショート・ショート6編は最後の1編を除き(ダイイング・)メッセージものですが、中ではホックが代作した『トナカイの手がかり』がよかったと思います。 そして最後に控えるのが、ダネイがリーに送ったままの形の長編『間違いの悲劇』梗概。タイトルからしても、レーン4部作を想起させますし、シェイクスピアをモチーフにしたところも特に『レーン最後の事件』との共通点があります。さらにこれは単なる偶然ですが、梗概の状態というのが『Yの悲劇』のヨーク・ハッターが書いた小説梗概を連想させます。ただし本作の方がはるかに細かい点まで書き込まれていて、人物造形も本編でこそはぶかれていますが、最初に置かれた登場人物紹介でかなり説明されています。 プロット、トリックについては、クイーン60年代以降の作品の中ではベストと言い切っていいほどの出来ばえで、ミスディレクションもなかなかのものです。最終的に小説化されなかったことが本当に惜しまれます。 |
No.39 | 7点 | レーン最後の事件- エラリイ・クイーン | 2011/01/14 22:08 |
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初志貫徹作品(シリーズを順番に読んでいけば意味はわかります)。
好評につき急遽入れたという説もあるらしい『Zの悲劇』の後、すなわち本来この作品が『Zの悲劇』と命名される予定だったということかもしれませんが、まさにシリーズの幕を引く作品です。その『Zの悲劇』からの連続性はよく指摘されますが、「そう言えば『Yの悲劇』でもやはり…」と思わせるところもあります。 確かに、まず殺人が起こる普通の「本格派」ミステリを期待して読み始めると戸惑うでしょう。しかし、老名優ドルリー・レーンが最後に扱うにふさわしい、シェイクスピア関係の古書を巡る奇妙な事件です。今回久々に再読してみて、最終章では直接には指摘しないままにあらかじめ読者に犯人を悟らせた上で、その根拠となる推理を披露、しかもその推理の中でも犯人を名指ししないという技巧が使われていることに気づきました。 奇妙な文字列の原因が『ギリシャ棺』での凡ミスを訂正するものだというのも興味深い点です。 |
No.38 | 6点 | ダブル・ダブル- エラリイ・クイーン | 2010/08/11 21:32 |
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このライツヴィル・シリーズ第4作は、前3冊のような重厚なテーマ性が感じられません。以前のような力作を期待しているとちょっと拍子抜けしてしまいますが、エラリーに事件調査を依頼するリーマの妖精的な人物像が前半を彩っていて、なかなか楽しい作品になっています。
クイーンの童謡殺人としては『靴に棲む老婆』に次ぐ2作目であることが解説にも書かれていますが、今回は童謡殺人であることがわかるのは半分を過ぎてからです。その点『僧正殺人事件』等とは違っていますが、童謡が使われる理由がわかれば犯人も判明するのが、クイーンらしいところです。しかし、犯人の目星をつけ難くしているのが動機の問題での偶然だけだというのは冴えません。それでも、この雰囲気は何となく好きなので、ちょっとおまけしてこの点数。 ハメットの亜流(スピレイン系のようです)に対して、リアリズムに関する皮肉たっぷりな批判が飛び出してくるのには笑わせられました。 |
No.37 | 3点 | 三角形の第四辺- エラリイ・クイーン | 2010/03/09 21:06 |
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プロットはやはり主にダネイが考えたのでしょうが、実際の執筆はエイヴラム・デイヴィッドスンの手になる、骨折のため入院中のエラリーがベッド・ディテクティヴにチャレンジする作品です。しかしその結果は…
三角関係のそれぞれの辺を構成する登場人物たちに順番に容疑がかかっていくという発想自体は、悪くないとは思うのです。しかし、最初の容疑者はともかく、その後もただむやみに逮捕を繰り返していくだけのクイーン警視の捜査ぶりは乱暴すぎます。 それに、こういう展開ならば最後にもっと鮮やかな意外性ある解決(たとえばクリスティーのようなタイプの)を用意してくれないとすっきりできません。エラリーを登場させないで、最後までデインの視点を中心にして構成していった方がよかったのではないかという気がします。 |
No.36 | 8点 | 災厄の町- エラリイ・クイーン | 2010/01/06 21:06 |
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ずいぶん前になりますが、本書を初めて読んだ時にはうならされました。『日本庭園の秘密』で多少萌芽が見えていたとはいえ、クイーンがこんな感動作を書いていたとは…第1章のクイーン氏のアメリカ発見というところからして、架空の町ライツヴィルの造形には驚きです。軽いユーモアも感じられますが、直前の3作のような笑わせではありません。
配達されなかった3通の手紙の発見からサスペンスを盛り上げていって、ついに起こる殺人。多少のご都合主義偶然には敢えて目をつぶって書き進められる、ハロウィーン・クリスマス・元旦・復活祭といった祭日をポイントにした構成が効果的です。最後の推理部分の設定も味がありますし、「今日は“母の日”だぜ!」というエラリーの幕引きせりふもお見事。 真相自体については、ある仮定に立てばすぐ見当がつくでしょう。また犯行方法には偶然もからんでいて、実行は微妙です。まあ状況からすれば、それを手元に用意してさえいれば、さりげなく何とかできないことはないと思いますが。しかし、その謎解きの問題点を差し引いても、作品としての充実度はやはりきわめて高いと思います。 |
No.35 | 4点 | クイーン犯罪実験室- エラリイ・クイーン | 2009/12/02 21:35 |
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例によってのダイイング・メッセージが実は殺人犯を示しているわけではなかった中編『菊花殺人事件』は、「MUM」の意味はともかくとして、犯人指摘の推理がクイーンにしてはあまりに平凡で高い評価はつけられません。
パズル・クラブの2作はクイズ的すぎ、小説としてのおもしろさが感じられません。 他のショート・ショートは『クイーン検察局』の水準作並でしょうか。『実地教育』がかなり印象的です。 最後の短編『エイブラハム・リンカーンの鍵』は初期某長編の二番煎じのアイディアがメインだなという感じはしますが、作者二人の趣味が出ていて悪くありません。 といったところで、まあ全体的には今ひとつといったところです。 |
No.34 | 6点 | 孤独の島- エラリイ・クイーン | 2009/08/30 10:43 |
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デビュー40周年記念と巻頭に記された本作は、クイーンの全作(ダネイ、リーが少なくともプロットを考えた作品に限る)の中でも、とびっきりの異色作です。エラリーが登場しないだけでなく、全然本格派でないのですから。映画『俺たちに明日はない』やボガード主演の『マルタの鷹』への言及がされていますが、小説のタイプ自体がそれらの映画をも思わせるハードボイルド的な感じのするサスペンスものです。
型通りの強盗殺人を犯した3人組。しかし死体がすぐに発見されてしまったことから、事件は意外な方向に転がっていきます。とは言え、隠れ家を見つけたり「犯人」を指摘するあたりにはクイーンらしい推理も多少見られますし、邦題の「孤独の島」というテーマもどことなくこの作者らしいところが感じられます。クイーン=論理的謎解きと決めつけて読みさえしなければ、緊迫感も最後まで持続し、楽しめると思います。 |