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空さん
平均点: 6.12点 書評数: 1490件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.30 9点 破戒裁判- 高木彬光 2008/12/12 23:23
百谷弁護士シリーズの中でも、ほとんど法廷シーンのみで構成されたこの作品は、神津恭介ものの短編を長編化した作品です。事件の概要はそのままなのですが、水増しで内容が薄まったという感じは全くありません。
犯人が誰かということは、すぐに想像がつくでしょう。トリックと言えるほどのアイディアはありません。裁判劇としての緊迫感、そしてラストに向けて一気に押し寄せる感動の盛り上がりがこの作品のすべてです。著者が目頭を熱くしながら書いたと言うだけのことはある力作です。

No.29 8点 フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン 2008/12/11 21:12
最後に延々40ページにもわたって披露される推理の一部は、既に小説半ばまででクイーン警視に対して説明されているのですが、重複を厭わず、事件関係者全員を集めた場で繰り返されます。好きな人には、このくどいぐらいの論理性がたまらない、ということになります。似たところのある後の『Zの悲劇』では省略されていますね。
ただ、犯人を直接的に指し示す手がかりは2つあるのですが、犯人の名前を言わないままで、それらの手がかりから導き出される推理を述べるところは、さすがにちょっと歯切れが悪くなっていると思います。歯切れが悪くなってでもあえてクイーンがやろうとしたことは、小説のラスト1語(姓・名分ければ2語)で初めて犯人の名前が明かされる、という趣向でした。

No.28 8点 猫と鼠の殺人- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/11 20:57
不可能犯罪の巨匠が今回挑んでくれたのは、密室などの「不可能」性ではなく、嫌疑がかかった冷酷な判事の証言をめぐり、心理的にはどう考えても矛盾が出てきてしまうという「不可解」な状況です。個人的にはこういう謎の方にむしろ魅力を感じます。
1回偽の解決を示した後で明かされる真相は、フェル博士自身も言うように突拍子もないものです。
これはいくらなんでも信じられない、と言う人もいるとは思いますが、矛盾点がさらりと解消されるこの結末はとんでもない意外性とあいまって鮮やかです。

No.27 7点 殺しの双曲線- 西村京太郎 2008/12/10 22:34
動機は例によっての西村流怨念で、少々うんざりしますが、最初から宣言している双子を使ってのアイディアはうまく考えられています。クリスティーへのオマージュ的展開も楽しく、当サイトで、西村作品の中で圧倒的に書評数が多いのも納得の一作です。
itokinさんも指摘されているように、最後の数行は後を引く味があります。

No.26 4点 ベンスン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2008/12/10 21:03
この著者の第2作以降やクイーンを何冊か読んだ後で、この作品に初めて接したのですが、さすがに格調の高さは感じられるものの、後続の諸作に比べると、事件自体に特徴的な魅力がなく、歴史的意義以上のものは感じられないなというのが、正直な印象です。
事件に関わる前から個人的にその人物の性格を知っていたから、というのが、ファイロ・ヴァンスが真犯人を見破るきっかけだったというのでは、『カナリア殺人事件』と違ってアンフェア以外のなにものでもないでしょう。犯人がしかけたトリックの提出タイミングも、もうちょっとなんとかならなかったものかな、と思えます。

No.25 5点 天井の足跡- クレイトン・ロースン 2008/12/09 22:25
今までに読んだロースンの3作品はいずれもその傾向があるのですが、これには特にごちゃごちゃした感じを受けました。
この人の作品はメインになるアイディアを中心に物語を構成するというのではなく、様々な謎にそれぞれ解決をつけていくという多元的な構造になっているという気がします。タイトルの天井の足跡の謎も、このストーリーの中に本当にこの現象が必要だったか、疑問です。そのため、謎解きの説得力はあるのですが、どうもカタルシスを感じさせる収束感に欠けるように思われるのです。

No.24 7点 時間の習俗- 松本清張 2008/12/09 21:41
いつもは動機の社会的背景を重視する作者ですが、これだけ練り込まれたトリックを思いつけば、かえって社会性は邪魔になると判断したのではないでしょうか。シリーズ探偵を使わない著者が『点と線』と同じ2人の刑事を4年ぶりに起用して、アリバイ崩しに徹してくれます。
写真を使ったアリバイは共犯者がいれば簡単に実現できますが、それを単独犯でいかにして行うかが眼目です。逆に社会派的動機であれば、共犯者がいてもおかしくないわけで、そのあたりが松本清張のバランス感覚でしょう。
ただ、『点と線』に比べて、このアリバイのある人物が真犯人だと目星をつける根拠が弱い点は、気になりました。

No.23 7点 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/08 22:34
カーの作品中、読んでいて最も怖かったのがこの作品です。訳文の問題もあるでしょうが、途中の謎めいた不気味な雰囲気は『火刑法廷』以上だと思いました。ただ、トリックについては、隠されていた秘密は非常に意外なのですが、それ以外にありえないという論理的な詰めがないのが、不満ではあります。
なお、この作品の後に『ガストン・ルルーの恐怖夜話』を読めば、たぶん驚くのではないでしょうか。あの元祖密室長編『黄色い部屋の謎』を書いたルルーの傑作短編集です。

No.22 7点 殺人は容易だ- アガサ・クリスティー 2008/12/08 22:26
作者がどういう方向に読者の疑いを持って行こうとしているかは簡単にわかってしまったのですが(似たパターンをクリスティーは後の作品でさらに巧妙に使っていて、そっちを先に読んでいましたので)、それでもやはりおもしろく読めるのは、さすがに小説技巧のうまさですね。わかっていながら、誘導に乗りそうになってしまいます。
バトル警視(『ひらいたトランプ』等)が、ほんのちょい役でゲスト出演。

No.21 6点 絞首台の謎- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/07 17:47
フェル博士もののような大トリックや論理性は最初から期待しない方がいいです。
むしろ、はったりをきかせた不気味な謎を次々に繰り出しておきながら、その解明に意外性や鮮やかな論理性がほとんどない(一応説明はつけているのですが)ところなど、江戸川乱歩や横溝正史の通俗長編に近いものがあると言えるでしょう。
特にカーの場合は、ビジュアルな効果を出すのがうまく、雰囲気は楽しめましたし、意表をつく皮肉なラストも鮮やかでした。

No.20 6点 魔術師- 江戸川乱歩 2008/12/07 17:05
真面目に謎解きを考えていたら、最初の事件で、この作品のちょっと後に書かれたクイーンの有名作を思い出すかもしれませんね。
肉仮面のくだりとか、その章で復讐鬼が「使命を果たすほかに、人の命をあやめたくない」と言っておきながら、本来復讐の対象者でない人をマジック・ショーの中で惨殺するなど(このシーンにはとんでもない偶然も重なります)、もう嘘っぱちやりたい放題といったところです。
それでいて、最後にはかなりまともに辻褄合わせをしているところが、「私の通俗長篇のうちでは、やや纏りのよいものの一つ」という自己評価になってくるのでしょう。

No.19 8点 ひらいたトランプ- アガサ・クリスティー 2008/12/07 14:06
前年に書かれた『ABC殺人事件』の中で、ポアロがこのような事件を扱ってみたいと言っていたプロットまさにそのままの作品です。
ヘイスティングズも不満をもらしていたとおり地味な事件で、オリヴァー夫人(他の作品にもたまに登場するクリスティーの分身ともいうべき作家)が犯人だったなどというような大技も全くありません。それでもミスディレクションを張り巡らせておいて、終盤にはスリリングな展開まで見せ、鮮やかな解決で納得させてくれるのですから、さすがにミステリの女王、センスの良さは抜群です。
ブリッジのルールは知らないのですが、ほとんど気になりませんでした。

No.18 7点 日本庭園の秘密- エラリイ・クイーン 2008/12/06 19:21
『中途の家』で国名シリーズ打ち切り宣言をした直後の作品であり(原題The Door Between)、読者への挑戦もやめるにふさわしい事件でした。日本趣味を取り入れて雰囲気を出したところも、ラストの心理的推理に至る構成も、この後に続く軽めの3長編を飛び越して『災厄の町』以降の作品群につながっていくような印象があります。
この節目の作品でクイーンが初めて挑戦した密室(そうですよね!)のアイディアはまあまあ程度で、だからこそのこの終わり方なのではないかと思えます。

No.17 6点 連続殺人事件- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/06 19:18
第1の事件におけるトリックの問題については、私が中学生の時に、カーと同じ勘違いをしていた人が、クラスに1/3ぐらいはいたことを思い出します。別の効果を指摘する人もいますが、普通の部屋では、この方法で殺人を行おうとしても全く不可能です。
実は別の作家が、この別の効果をある特殊な状況の下で利用して、殺人をたぶん可能にしています。しかしカーの場合勘違いをしていたことは、p.208~211のトリック説明部分を読めば明らかです。(「たんと××んでよかったなあ!」なんてね)
もう一方の密室構成方法もたいしたことはないのですが、ストーリーはなかなかよくできています。カー名義では、久々に笑いをふんだんに取り入れた作品で、なかなか楽しめます。

No.16 6点 チャイナ蜜柑の秘密- エラリイ・クイーン 2008/12/06 10:54
そこまでやるか! と思いながらも、あべこべ殺人を説明する強引な論理には圧倒されました。この何とも奇妙な謎とその解答が本作の最大の(また唯一の?)見所でしょう。ただ、あべこべにしなければならない事態が生じなければ、犯人のある細工は非常に目立っていたはずだというところ、犯人の当初の殺人計画自体に無理があるのが気になります。
国名シリーズの中では、分量的に最も短いわりに、ストーリー的に最も間延びした印象があるのも減点の対象ですね。

No.15 7点 ホッグ連続殺人- ウィリアム・L・デアンドリア 2008/12/06 10:50
本来なら、こういった書評などに触れる前に読んでもらいたい作品です。
この小説で賞賛されるところは、おそらく一点だけでしょう。決して他の部分がつまらないというわけではありません。全体としてはすっきりとまとまっていて普通におもしろいのですが、どこが良かったかをまともに書こうとすると、全く知らない方が楽しめるその一点にある程度触れざるを得ないのです。
妙な期待などせずに、気楽に読み始めるのが一番かもしれません。

No.14 6点 東京空港殺人事件- 森村誠一 2008/12/05 21:25
東京空港内での密室殺人捜査と、飛行機墜落事故の原因究明とをからめて、話は進んでいきます。
後者の、正に社会派の王道とも言うべき問題提起はさすがに読みごたえがありますし、密室トリックも偶然を利用した部分は少々気になりましたが、悪くありません。ただ、その2つの事件がどう結びついてくるのかという点については、期待していただけに拍子抜けでした。

No.13 7点 悪魔のような女- ボアロー&ナルスジャック 2008/12/05 21:00
この2人がコンビを組んだ第1作だけに、ストレートな構造ですので、ホラーでなくミステリだということを知っていれば、結末は簡単に想像がつくでしょう。冷めた目で謎を分析しながら読むのではなく、ホラーのように雰囲気や文章を味わうべき作品だと思います。心理的に追い込まれていくクライマックス部分には息苦しくなるような緊迫感がありました。
原題の意味は「もう存在しなかった女」ですが、邦題は、小説の設定を逆にしたアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の映画の邦題を採用しています。しかし、「悪魔のような女(複数形)」で映画にも小説にも意味が通じてしまいます。

No.12 3点 かくして殺人へ- カーター・ディクスン 2008/12/04 21:43
カーが時々試みる悪ふざけ的なアイディアが空回りした作品ではないでしょうか。
動機の着想にはかなり感心したのですが、犯人の「意外性」でこの手はないでしょう。それと関連しますが、読者が知りようのない手がかりをH・M卿が握っていたというのも、嘘は書いていないなどと作中で言い訳することのあるカーにしては珍しいアンフェアぶりです。

No.11 5点 チベットから来た男- クライド・B・クレイスン 2008/12/04 21:00
メインの密室トリックは原理だけなら現代ではおなじみのものですが、それを成立させるための手順は、なかなかうまく企まれています。ただし、実は第1の殺人について普通に考えてみれば、謎は残るにしても、犯人は簡単にわかってしまいます。
小説的には、中途半端すぎる三角関係や幕切れの落ち着きの悪さなど、粗が目立ち、結局、チベット旅行の話の部分が一番おもしろいというのが正直な印象でした。

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空さん
ひとこと
ハンドルネームの読みはとりあえず「くう」です。
好きな作家
E・クイーン、G・シムノン
採点傾向
平均点: 6.12点   採点数: 1490件
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