皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.45 | 8点 | オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン | 2008/12/21 14:56 |
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本の中にメモを書ける余白をあけたページを入れるなんて(少なくとも創元推理文庫版は)よくもこんなことやりますね。ホントに何かメモを取る人、いるんでしょうか。生真面目な感じだった前2作に比べ、各章のタイトルの凝り方にしても、知的遊戯を楽しむ余裕が感じられます。
推理プロセスの面白さだけでなく、犯行方法の工夫も見られるようになりましたが、やはり本書の目玉はなんといってもタイトルにもある一足の靴から導き出される推理です。それに対して第2の事件の方では、同一犯人による犯行だとの証明が欠けている点がちょっと弱いのではないかと思いました。 |
No.44 | 6点 | 死が二人をわかつまで- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/21 11:14 |
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密室を構成するのにあるものを使っていたという点が、不可能犯罪の巨匠らしくないと不満を言う人もいるかもしれません。しかし、今回の密室の最大のポイントは、そんなものを使える余地がなかったと錯覚させる工夫でしょう。「毒殺魔」(創元推理文庫版のタイトル)疑念に対する解決も、きれいに決まっていますし、その疑念と密室殺人とを結びつける手際が巧妙です。
ただ、第2の事件はサスペンスを盛り上げるために無理に付け足したような印象がありました。 |
No.43 | 7点 | 笑わない数学者- 森博嗣 | 2008/12/20 12:32 |
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逆トリックについて書かれたものをいくつか読んでみたのですが、どうもピンときません。テーマということなら、考えどころのあるミステリだと思うのですが、「逆トリック」と言われると、納得できないのです。そんな難しいことを考えなくても単純に、この小説全体の構成からすると、事件の中心にあるトリック(オリオン像消失)はこれくらいシンプルな方がいいのではないかという気がします。
公園の謎の二人によるリリカルな雰囲気もあるラスト・シーン、特に最後の一言が印象的ですね。答(本作中で提示される謎に対する)が「不定」の時にはただネガティヴに不定だと突き放すのでなく… タイトルは「数学者は笑わない」ではないな、とも思ってみたりして。 |
No.42 | 6点 | カナリヤ殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2008/12/20 12:13 |
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機械的密室トリックは、現在ではあまりにも初歩的という感じかもしれません。もう一つのトリックも、同時期クリスティーの某作品で使われているのと同工異曲ですが、クリスティーの犯人が巧みに殺人現場から証拠品を持ち去るのに対し、こちらでは平然とそのまま残しています。これはいくらなんでも危険過ぎないか、という不満はあるでしょう。
ポーカーによる心理分析によって犯人が特定できても、犯人が使った後者のトリックは不明なままです。最後に殺人現場を再度検証した際、唐突にトリックが判明するという段取は、ヴァン・ダインがこの作品までは、後のクイーンのような、読者との知恵比べという意識がなかったことを示しているように思われます。 |
No.41 | 8点 | Yの悲劇- エラリイ・クイーン | 2008/12/18 21:45 |
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バーナビー・ロス名義で発表されたこの作品の中で、作者はクイーン流推理への自信を表明していますが、実はその推理も含め、いくつか不満のある作品でもあります。
あくまでX、Zに比べればですが、中だるみの印象がありますし、レーン得意の変装が結局活用されないままなのにも拍子抜けしました。さらに、ルイザが犯人に触れたことから導き出される推理についても、レーンが「難しい」と主張していたことは、実際にやってみればわかりますが、簡単にできるのです。 などと文句もつけてみましたが、上記は犯人特定の推理のごく一部ですし、何といっても初期作品群の中では最も重厚感のある本書は、やはり読みごたえ充分です。ラスト数行も、言外の内容を実に鮮やかに伝えているという意味で記憶に残ります。 |
No.40 | 7点 | 殺人者は21番地に住む- S=A・ステーマン | 2008/12/17 22:04 |
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別に謎として提示されているわけではないのですが、最後近くになってやっと、探偵役が誰であるかわかるいう意外性もありました。その探偵役によって犯人の正体が指摘されるシーンはなかなかスリルがあり、劇的な効果をあげています。
大胆な犯人の意外性のアイディアというと、まず叙述トリックを思い浮かべると思いますが、そうではなくて、あくまで犯人の策略によるものであるところも好ましく、「読者への挑戦」が入っているのも納得の謎解きミステリです。 |
No.39 | 9点 | オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー | 2008/12/16 22:27 |
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オールスター・キャストで原作に忠実に映画化するには、確かにもってこいの作品でしょう。同一製作者によるクリスティー・シリーズ最初の映画になったのも納得できます。
冷静に考えれば、バカミスもいいところのアイディアです。がちがちの謎解きを期待して読み、その期待にたがわずポアロが論理的に解き明かしてくれるからこそ、とてつもない意外性があるのだとさえ言えるでしょう。 ただ、このアイディアを実現するためには、ある程度仕方がないのかもしれませんが、若干ストーリーに起伏がとぼしい気がしました。 |
No.38 | 6点 | 出雲伝説7/8の殺人- 島田荘司 | 2008/12/16 21:37 |
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派手な猟奇殺人を扱ってはいても、かなりまともなトラベル・ミステリという感じですが、共犯者が殺人自体も行ったのではないかという説に対する反証が、意外に記憶に残ります。個人的には、アリバイを作るために共犯者を使う設定は、何でもできそうという気がして好きになれないのですが(クリスティーのような意外な共同正犯は別です)、偶然が関与しているとはいえ、このような明快な反証があれば、納得できます。
動機にもなったヤマタノオロチ伝説の起源に関する論考もおもしろかったですね。 |
No.37 | 5点 | 月明かりの闇- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/15 22:23 |
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冒頭部分に出てくる謎の人物の正体が、結局事件を解き明かす鍵なのですが、これがなかなかわからないようになっています。人間関係が事件を複雑にして読者を惑わせておいて、最後にうまく説明をつけるあたりはさすがですが、最後までカーがこだわっていた不可能殺人トリックの方は、さっぱり冴えません。
それにしても、章の切れ目で毎回劇的なことを起こして、何が何でも話を盛り上げようとするサービス精神には、笑ってしまいますね。 |
No.36 | 5点 | タラント氏の事件簿- C・デイリー・キング | 2008/12/15 22:12 |
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全体的に話自体もトリックも、なんとなく堅苦しい印象を受けました。同時代の巨匠たちの短編はそんなことはないので、古い作品だからというわけでもないでしょう。
密室トリックとしては珍しいパターン「釘と鎮魂曲」、ぞっとさせる真相(科学的にはあり得ませんが)の「第四の拷問」、いかにもの不可能犯罪「消えた竪琴」あたりが楽しめました。最後の「最後の取引」は全くミステリではなく超自然的なテーマを扱っていて、小説としては悪くないのですが、このような連作短編集の最後に入れるべき作品であったかどうか、疑問は残ります。 |
No.35 | 8点 | 白昼の悪魔- アガサ・クリスティー | 2008/12/14 18:28 |
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読み始めてまもなく(殺人が起こる前)、あれっと思いました。このシチュエーションの元になった短編を以前に読んでいたからです。
しかしさすがはクリスティー。元の短編も傑作だったのですが、それに新たなアイディアをたっぷり盛り込み、見事に長編化してくれていました。最後にポアロが関係者たちのアリバイをかたっぱしから崩していくところも驚きで、犯人が最初からわかっていても充分楽しめました。 |
No.34 | 9点 | Xの悲劇- エラリイ・クイーン | 2008/12/14 15:39 |
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第1の殺人事件の段階で犯人の見当はついてしまいました。というのも、実は似たアイディアを思いついたことがあったものですから。と思っていたら、続いて起こる事件でさっぱりわけがわからなくなりました。同じパターンのヴァリエーションをクイーンはいくつか書いているのですが、まんまと騙されました。
論理の積み重ねの見事さは、言うまでもないでしょう。ラスト1語に謎解きの最後の1片を当てはめてみせるのは『フランス白粉』と似た趣向ですね。個人的には『Yの悲劇』よりも好きな作品です。 |
No.33 | 6点 | 真夜中の意匠- 斎藤栄 | 2008/12/13 12:31 |
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1つの殺人・1人の容疑者にもかかわらず、まさにアリバイのつるべ打ち。鮎川哲也のような鉄壁のアリバイではなくて、崩しても崩しても新たなアリバイが主張される、ほとんど漫才のような趣向です。
漫才ですから、リアリティを言い出すのは野暮というものでしょう。刑事たちは真面目に捜査を進めていきますが、笑いながら読むのが一番だと思います。 |
No.32 | 5点 | アラビアンナイトの殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/13 12:21 |
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カーの作品中たぶん最長のミステリは、奇妙なユーモアを漂わせながら、うんざりするという人がいるのももっともなくらいゆったりと進んで行きます。
殺人の不可解な状況に合理的な説明をつけていく第3の語り手ハドリー警視の捜査と推理は緻密で、説得力がありました。すべてが説明し尽くされたように思えますが、それで終わってしまってはフェル博士の出番がありません。そこで、作者はメタ・ミステリ的な構造をとって、別の犯人を指摘させています。ただ、その推理は安易な手がかりを基にしていますし、どんでん返しというほどでもなく、少々がっかりでした。 |
No.31 | 8点 | ABC殺人事件- アガサ・クリスティー | 2008/12/12 23:34 |
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初めて読んだ時は、クリスティーとしては特にすぐれているとも思わなかったのですが、再読して評価を改めました。
本作のメイン・トリックに似た発想は、すでにチェスタートンにあり、ブラウン神父とポアロが同じことわざを引用しています。そしてこの後いろいろな形で応用されて行くわけですが、本書で注目すべき点は、なんと言ってもカスト氏の設定だと思います。彼の性格づけも、ヘイスティングズの手記への挿入の仕方もさすが匠の技で、このあたりが単に謎を複雑化して読者をだませばいいと思っている作家とは違うところでしょう。 |
No.30 | 9点 | 破戒裁判- 高木彬光 | 2008/12/12 23:23 |
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百谷弁護士シリーズの中でも、ほとんど法廷シーンのみで構成されたこの作品は、神津恭介ものの短編を長編化した作品です。事件の概要はそのままなのですが、水増しで内容が薄まったという感じは全くありません。
犯人が誰かということは、すぐに想像がつくでしょう。トリックと言えるほどのアイディアはありません。裁判劇としての緊迫感、そしてラストに向けて一気に押し寄せる感動の盛り上がりがこの作品のすべてです。著者が目頭を熱くしながら書いたと言うだけのことはある力作です。 |
No.29 | 8点 | フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン | 2008/12/11 21:12 |
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最後に延々40ページにもわたって披露される推理の一部は、既に小説半ばまででクイーン警視に対して説明されているのですが、重複を厭わず、事件関係者全員を集めた場で繰り返されます。好きな人には、このくどいぐらいの論理性がたまらない、ということになります。似たところのある後の『Zの悲劇』では省略されていますね。
ただ、犯人を直接的に指し示す手がかりは2つあるのですが、犯人の名前を言わないままで、それらの手がかりから導き出される推理を述べるところは、さすがにちょっと歯切れが悪くなっていると思います。歯切れが悪くなってでもあえてクイーンがやろうとしたことは、小説のラスト1語(姓・名分ければ2語)で初めて犯人の名前が明かされる、という趣向でした。 |
No.28 | 8点 | 猫と鼠の殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/11 20:57 |
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不可能犯罪の巨匠が今回挑んでくれたのは、密室などの「不可能」性ではなく、嫌疑がかかった冷酷な判事の証言をめぐり、心理的にはどう考えても矛盾が出てきてしまうという「不可解」な状況です。個人的にはこういう謎の方にむしろ魅力を感じます。
1回偽の解決を示した後で明かされる真相は、フェル博士自身も言うように突拍子もないものです。 これはいくらなんでも信じられない、と言う人もいるとは思いますが、矛盾点がさらりと解消されるこの結末はとんでもない意外性とあいまって鮮やかです。 |
No.27 | 7点 | 殺しの双曲線- 西村京太郎 | 2008/12/10 22:34 |
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動機は例によっての西村流怨念で、少々うんざりしますが、最初から宣言している双子を使ってのアイディアはうまく考えられています。クリスティーへのオマージュ的展開も楽しく、当サイトで、西村作品の中で圧倒的に書評数が多いのも納得の一作です。
itokinさんも指摘されているように、最後の数行は後を引く味があります。 |
No.26 | 4点 | ベンスン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2008/12/10 21:03 |
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この著者の第2作以降やクイーンを何冊か読んだ後で、この作品に初めて接したのですが、さすがに格調の高さは感じられるものの、後続の諸作に比べると、事件自体に特徴的な魅力がなく、歴史的意義以上のものは感じられないなというのが、正直な印象です。
事件に関わる前から個人的にその人物の性格を知っていたから、というのが、ファイロ・ヴァンスが真犯人を見破るきっかけだったというのでは、『カナリア殺人事件』と違ってアンフェア以外のなにものでもないでしょう。犯人がしかけたトリックの提出タイミングも、もうちょっとなんとかならなかったものかな、と思えます。 |