皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1530件 |
No.590 | 5点 | メグレの幼な友達- ジョルジュ・シムノン | 2013/01/20 18:24 |
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タイトルの幼な友達については、作中でメグレ自身が友達ではなくて同級生だと言っています。高校のころはむしろそのひょうきんぶりで人気者とも言えた嘘つきのフロランタンが、殺人事件に巻き込まれて、警視庁にメグレを訪ねてきます。話を聞いてみると、どうも怪しい。彼の話をそのまま信じることもできないけれど、だからといって愛人を殺すような男でないことも間違いないというわけで、仕事の話を家庭に持ち込まないメグレにしては珍しく、夫人にやっかいな事件だとぼやいています。
さらにフロランタンが墓石と呼ぶ無表情な女管理人がまた、なかなかインパクトのある人物なのですが、彼女の証言も怪しい。 その二人の他に容疑者が三人いて、さて真犯人は誰かという点については、完全にフェアプレイが守られているとは言えないものの、意外に論理的にフーダニットしている作品でした。 |
No.589 | 6点 | 太陽の坐る場所- 辻村深月 | 2013/01/16 21:12 |
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高校3年生時代の同級生5人のそれぞれの視点から描かれた5つの章に、プロローグとエピローグを付け加えた構成の作品です。
だましのテクニックは取り入れられていて、それが重要な要素になっているのですが、全体としてはあまりミステリという感じはしませんでした。むしろそれぞれの登場人物たちを描いていく心理小説というべきでしょう。前半は、まあよくもこんなに屈折した(特に由希の祖母に対する感情)者ばかり集めたもんだ、と思えるような展開です。 だましの方は、最初から明らかな違和感がありますし、不自然な書き方になって意味が取りにくいところもあって、その点が明かされるところでは、ああそういうこと、という程度でした。ただ、そこからラストに向かっての収束はなかなかのものです。小説が完結してみると、最初の2人の話が、全体の中で坐り場所を見失っているように思えるのは不満でしたが。 |
No.588 | 8点 | ダウンタウン・シスター- サラ・パレツキー | 2013/01/13 12:21 |
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本作は、英国推理作家協会シルヴァー・ダガー賞を受賞したということで、読んでみました。確かにこれはおもしろくできています。邦題のシスターとは、ヴィクに父親探しを依頼してくるキャロラインのことでしょう。ヴィクが子供のころに面倒を見ていたというこの妹分の強烈なキャラがなかなかの見ものです。なお原題は”Blood Shot”で、内容に則したハードな感じ。
ハードさということでは、今回ヴィクは本当に殺されそうに(殴られたり銃を突きつけられたりなんてお馴染みのものではなく)なります。謎解き的には二つの無関係に見える事件がどうつながっているのかというところが中心。 グラフトンのキンジーを自分と対比する場面もありますが、その他に作中で挙げられている名探偵はホームズを始めむしろパズラー系の人たちばかりです。なおジェームズ・レヴィン(40章)という名前も出てきますが、これは実在の指揮者レヴァインのことですね。 |
No.587 | 8点 | 九マイルは遠すぎる- ハリイ・ケメルマン | 2013/01/09 22:32 |
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序文によると、表題作は作者が学生に推論の課題として出した文が基になっているそうですが、今回再読して意外だったのは、その短さでした。まあ、1文から思いがけない推論を引き出すことも可能だと主張するニッキイ・ウェルト教授の推理のみでほとんど構成されてしまっているのですから、そんなに長くできないことは確かですが。
2作目からはもっとオーソドックスな、まず犯罪が起こってというミステリが続きますが、『おしゃべり湯沸かし』は、湯沸かしの音が隣室から聞こえてきたことから推理をふくらませていく、表題作に近いタイプです。いずれにせよ、発表誌EQMMの編集長クイーンを思わせる論理中心スタイルは守られています。 論理だけでなく、犯人による不可能犯罪トリックも仕込まれているものは2編。超自然的な『時計を二つ持つ男』と、最後の一番長い『梯子の上の男』です。 |
No.586 | 7点 | 密航定期便- 中薗英助 | 2013/01/06 12:17 |
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1963年に発表された本作は中薗英助の代表作と言われています。アンブラーの系列に属するスパイ小説ではありますが、アンブラーよりも冒険スリラー的な要素の強いシリアス・エンタテインメントになっています。
同時期の結城昌治の『ゴメスの名はゴメス』等と違い、日本を舞台にした国際謀略が描かれていて、労働心理相談所の調査員西条が大金を持って失踪した女の行方を捜査していくうちに、当時の韓国政情をめぐる事件に巻き込まれていく話です。朴正熙が大統領になって第三共和国体制が始まる直前の不安定な状況が裏にあることは、読後にWikipediaで見て知ったのですが、韓国の現代史を知らなくても充分楽しめる、政治に対する普遍的テーマを持った作品だと思いました。 ただ、西条が事件に関わりあうことになった事情は、最後に一応説明されてはいるものの、やはり弱いのではないでしょうか。 |
No.585 | 6点 | 大穴- ディック・フランシス | 2013/01/04 13:20 |
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今まで読んだディック・フランシスの中で、原題の意味が最もとりにくいのがこの作品です。against all odds だったら大きな困難にもかかわらずという意味になりますし、odds にはハンディキャップの意味もあるので、シッドの片手が使えないのを表しているようにも思えます。大穴(一般的にはもちろんdark horse)的な意味も含めて、様々なニュアンスを込めているのでしょうか。
フーダニット的な要素というと、クライマックスでちょっと意外な共犯者が現れるぐらいのことですが、トラック事故の起こし方や最後に悪役たちがどんな「事故」を画策しているのかといったあたり、ミステリ的な要素も冒険スリラー系としてはかなりあると思います。ただ、シッドを過少評価させる策略が活かされていないという点はminiさんに全く同感です。正体がばれそうになるはらはら感をもっと味わせてくれるのかと期待していたのですが。 |
No.584 | 6点 | メグレと殺人予告状- ジョルジュ・シムノン | 2012/12/26 22:27 |
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原題直訳は「メグレためらう」で、殺人予告状と言っても、その文面には『ABC殺人事件』等のような警察や名探偵に対する挑戦めいたところはありません。むしろ、運命の修繕人と呼ばれることもあるメグレに対して訴えかけるような手紙です。
殺人を行おうとしているのはその予告状を書いた人物自身なのか、誰が誰を殺そうとしているのか、というのが本作の中心的な謎だと言えます。便箋から簡単に、ある弁護士一家の誰かが書いたことは突き止められるのですが、問題をはらんだその家庭の状況を、事件は起こらないままにメグレは調べていきます。 ついに殺人事件が起こるのは、全体の2/3ぐらいになってからですが、被害者が決定されてみると犯人が誰であるかは容易に想像がつきますし、犯行の証拠も死体発見から数時間後には発見されるというわけで、殺人以降は長いエピローグとさえ思えるような構成です。 |
No.583 | 5点 | 烙印- 天野節子 | 2012/12/23 19:47 |
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1609年にスペイン船サン・フランシスコ号がフィリピンからメキシコへ向かう途中難破して、現在の千葉県御宿町に漂着したという実際に起こった事件を取り入れた作品です。その過去の出来事はところどころに少しずつ分けて挿入されているのですが、これは最初にまとめてしまってもよかったのではないかと思えました。現在の殺人事件との結びつきは、早い段階で見当がついてしまうのです。作中の刑事たちはもちろん400年も前に起こった難破事件のことなど知らずに捜査を進めていくわけですが。
容疑者もごく早い段階で浮かんできて、そのアリバイが問題になります。と言っても、意外なアリバイ・トリックというほどのものはありません。動機も、またその動機があることの証拠も、簡単にわかってしまいます。小説としてつまらないというわけではないのですが、これほどの長さが必要だったかなと思えました。 |
No.582 | 6点 | 技師は数字を愛しすぎた- ボアロー&ナルスジャック | 2012/12/19 22:28 |
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登場人物の不安な心理を執拗に描いて強烈なサスペンスを生み出すフランスのコンビ作家による異色作です。300ページ足らずの文庫本で不可能犯罪がなんと4回、それもすべて30秒以内という短時間に犯人が密室から消え失せるというよく似た現象が起こります。真相は最初の殺人を除くとがっかりだという人もいるでしょうが、偶然もうまくからめていて、個人的には好みにはまっています。
メインになるその最初の殺人については、カーの某作品との類似も指摘できますが、そういうことだったのかと納得させられました。まあその前段階の原理だけだったら、誰でもすぐ思いつくパターンですが。 ただ、今回は事件を担当したマルイユ警部の心理が描かれているのですが、不可能犯罪と核物質盗難に頭を悩ましているだけなので、他作品のような得体の知れぬ怖さが全くないところ、平板との批判ももっともだと思えます。 |
No.581 | 6点 | ダイエット中の死体- サイモン・ブレット | 2012/12/15 11:30 |
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近くの図書館にあったということで、シリーズ第4作を最初に読んでしまったわけですが、本作を読んだ限りでは、文章で読ませるキャラクター小説とでも言うか。パージェター夫人の設定とキャラが楽しい作品でした。夫人を取り巻く、亡き夫の協力者たちもなかなか魅力的です。
夫人が最初に聞く言葉は、誰が誰に対して言ったのか結局明確になりませんし、死亡した娘だとしたらそんなことが言える状態だったと思えないし、と疑問が残ります。犯人の正体はいかにもという感じで、意外性があるんだかないんだか、いずれにせよ伏線はあっても確定的な手がかりは読者に提示されません。 そんなわけで、論理性や結末の意外性はあまり評価できないのですが、ミスディレクションはかなり効いています。しかし話としては、謎解き性よりも、ダイエットに対するパージェター夫人(=作者)の辛辣な視線がやはり読みどころでしょうか。 |
No.580 | 5点 | 存在しなかった男- 大村友貴美 | 2012/12/11 21:44 |
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初期作品は横溝正史と比較されることも多かった作者ですが、本作は全く違っていて、某古典的フランス映画をどうしても連想してしまいます。その映画を知らなくても、またミステリを読み慣れていなくても、この真相には早い段階で気づいてしまうでしょう。飛行機の中の人間消失という冒頭の謎に対しては、論理的に考えればただ一つの答しかありません。
まあ、そのような謎解き的観点からのみ論じられるべき小説を書く作家でないのは、『死墓島の殺人』からもわかっていたことですが、今回ヒロインが津軽方面を訪ねるシーンには、水上勉に近い雰囲気さえ感じてしまいました。2011年発表作品で、東日本大震災にも言及されていたりして、現代の状況が描かれてはいるのですが。 真相のほとんどが明らかにされた後も70ページぐらい残っていて、逮捕後の犯人取調べ部分が一番の読みどころと言えるでしょう。 |
No.579 | 6点 | 死の盗聴- エド・レイシイ | 2012/12/09 08:31 |
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本書の巻末解説は小鷹信光氏による私立探偵小説論になっています。私立探偵であってもホームズ等を除外するところから始まり、private eye novel という呼称を最初に用いたのがロス・マクであること、エド・レイシイの先駆性等について書かれていて、興味深い内容です。
レイシイはシリーズ探偵を持たず、本作に登場する私立探偵ビル・ウォレスもこの1作だけの探偵だそうですが、確かにこれは続編が考えられません。ウォレスはマイク・ハマーみたいなタフな探偵だったのが、心臓病を患って家で主夫をしている(結婚して娘が1人)という設定で、挫折を味わった男の再生の物語です。小鷹氏の言葉によれば「私小説風主人公」を描いた小説であって、事件そのものはたいしたことはありません。犯人は疑心暗鬼から余計なことをして自滅するという、あっけなさですが、主人公の再生という点から見れば、うまくまとまっています。 |
No.578 | 6点 | Les complices- ジョルジュ・シムノン | 2012/12/04 21:43 |
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『共犯者たち』というタイトルから想像していたほどミステリ系ではありませんでした。犯罪心理サスペンスではありますが、主人公が犯すのは故意の犯罪ではありません。地方の工場経営者であるランベールは、車で移動中助手席の秘書といちゃついていて、40人ほどの子どもたちが乗ったバスの事故を引き起こすことになってしまうのです。バスは炎上し、女の子1人以外全員死亡という惨事になる現場から、彼は逃げ出してしまいます。現場には、酔っぱらい運転のような蛇行したタイヤの跡が残っていました。
半ばぐらいで、共同経営の弟に正面切って「あれは兄貴だったのか? と尋ねられ、事故原因の車の運転者は自分ではないと嘘をつくランベール。一方保険会社が依頼した腕利きの探偵が調査を始めて… いつ警察が逮捕に来てもおかしくないと覚悟はしていながらも、沈黙を続けるランベールの心理を描いて、なかなか味わいがありました。 |
No.577 | 7点 | 天使の眠り- 岸田るり子 | 2012/11/30 21:55 |
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13年ぶりに再会した女が別人としか思えない、という本作の不思議さは、小説の文章表現だからこそ可能な微妙なもので、不自然という人もいるようですが、個人的には気になりませんでした。それに過去に起こった2つの殺人のアリバイが絡んできます。
さらにその女の娘の視点を取り入れているのも巧みで、読み終わった後で振り返ってみると、娘の視点部分が必要であった理由がよくわかります。一方、この娘が銀閣寺を散策するシーンなど純文学風とも思えるタッチで、驚かせてくれました。 本作では『出口のない部屋』や『ランボー・クラブ』のような変な物理的トリックは使われておらず、すっきりとまとまった出来になっています。ただ、殺人動機を生むきっかけになったある要求はいくらなんでも無茶で、まともな機関と思えないのが難点でしょうか。 真相が明かされた後の短い最終章のさわやかな余韻も魅力的です。 |
No.576 | 5点 | 神が忘れた町- ロス・トーマス | 2012/11/26 21:32 |
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トーマス初読ですが、登場人物たちの気の利いた台詞がいいとの評判には一応納得できました。しかし「気が利いている」のは台詞だけではありません。新たな登場人物や舞台を紹介する時には、何かしら気の利いたことを言わなければならないという固定観念に取りつかれているのではないかと思えるほどです。特に主人公アデアが収賄罪で起訴されかけた経緯が語られ始める170ページ目ぐらいまでは、1件殺人が起こるとはいうものの、ほとんどその世界、登場人物紹介に筆が費やされているため、うんざりしてしまいました。
しかし後半になって事件が動き始めるとおもしろさも加速してきて、クライマックスはなかなかサスペンスもあります。主要登場人物たちがドゥランゴにそろうことになる経緯と犯人の計画との関係や、アデアたちの写真を撮った女の扱いなど、整合性についてはケチの付けどころもありますが。 |
No.575 | 6点 | 完全殺人事件- クリストファー・ブッシュ | 2012/11/22 20:07 |
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ブッシュのミステリで邦訳されたのは現在5冊のみですが、著作は60冊以上もあるそうで、本作はその第2作です。1929年発表と言えば、アメリカではクイーンがデビューした年。
殺人予告状を警察と大手新聞社に送りつけるという芝居がかった犯人で、「完全殺人」という言葉もこの予告状の中で使われています。で、なぜ予告状を送りつけたのか、『ABC殺人事件』みたいに意味があるのかというと、ただ犯人(作者)のはったりというだけのことでした。 作者のはったり好みは、プロローグの中に手がかりが隠されているぞと冒頭で宣言しているところにも表れています。それにしては、実際に殺人が起こってからは容疑者たちの地味なアリバイ調査が続きます。ただクロフツや鮎川のようなトリックの意外性を期待すると肩すかしでしょう。むしろプロローグがアリバイ崩しとどう絡んでくるかが謎解き的な意味での読みどころです。 |
No.574 | 6点 | カオスコープ- 山田正紀 | 2012/11/20 20:57 |
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山田正紀は何冊か読んだことがあるのですが、それらは『神狩り』を始めすべて純粋なSFでした。で、本作はというと、書き出し部分からしてやはりSF的(精神医学中心)な感じがつきまとうミステリです。二つの視点から交互に描いていって、どう関連付けるかというタイプ。
一方の主役は記憶障害だということで、ほとんど支離滅裂な記憶の断片、それも実際の記憶かどうかも分からないことが語られていきます。この部分がカオス(混沌)的雰囲気を出しています。一方の刑事からの視点部分はもちろん一応まともですが、それでも彼のキャラクターはちょっと変。 最終的な結論には多少整合性に欠ける部分があるようですが、まあいいでしょう。それより真相説明部分と脱出の安易さが気になりました。最初にゴミ捨て場で出てくる老人の正体は、はっきりとは書かれていませんが、う~む、やっぱり山田正紀だ。 |
No.573 | 7点 | ハムレット復讐せよ- マイケル・イネス | 2012/11/16 20:18 |
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文学研究者J・I・M・スチュアート(イネスの本名)の、シェイクスピアを始めとするイギリス文学・演劇への薀蓄が満載の作品です。
『ハムレット』を近代的な劇場形式ではなく、古風な舞台形式により邸宅内の大広間で行うという企画で、上演中に起こった殺人事件ですが、最初のうちは芝居に関する説明描写が興味の中心。100ページ目ぐらいで殺人が起こるまでにも、文学引用による犯行予告(らしきもの)の謎はあるのですが。 初期のイネスは文章が難解だと言われていましたが、翻訳者滝口達也の手腕でしょう、日本語では凝った表現ではあるものの、それほど難解でもありませんでした。むしろ最初から紹介される登場人物の多さが読みづらさの原因でしょうか。 第2の殺人、さらに殺人未遂まで館内で起こってしまうのは、警察がちょっと間抜けな気もしますし、エピローグで犯人があわて出す原因は根拠が弱すぎますが、全体的には楽しめました。 |
No.572 | 6点 | メグレとリラの女- ジョルジュ・シムノン | 2012/11/08 20:57 |
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健康を害して、湯治場ヴィシーに来たメグレ夫妻が、毎日ゆっくり散歩し、湯を飲んで静養する日々を送っているという状況がまず微笑ましい作品です。しかしもちろんそれだけではミステリにならないので、そこで目についたリラ色の服を着た周囲から孤立した感じの女が殺されるという事件。
地方警察の本部長がメグレの元部下だったという偶然を、メグレが捜査に関わるきっかけにしています。といっても休暇中で管轄外ですから、アドバイザー的立場を最後まで貫き、尋問には全然口を出しません。そういったことも本作の緩やかな雰囲気づくりに貢献しています。定石通りの捜査が進められ、当然のように容疑者が浮かんできます。容疑者は任意同行を求められ、ある程度覚悟もしていたのでしょう、すぐに自白して終りという、平凡と言えば確かにそうなのですが、そこがいい味を出している作品です。 |
No.571 | 5点 | 課長補佐殺人事件- 斎藤栄 | 2012/11/05 20:09 |
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新薬許可をめぐる薬品会社と厚生省官僚との間の収賄事件を扱うという、斎藤栄にしては意外なほど社会派的要素の強い作品です。汚職事件が背景にあるので、犯人の目星は最初からついています。
だからといってトリックの方がおろそかになっているわけでもありません。第2の殺人での密室の方はすぐに解明されてしまいますが、それでも現実性はともかく根本的なアイディアはそんなに悪くないと思います。しかし中心となるのは何と言っても第1の殺人におけるアリバイ崩しです。考えてみれば無駄に複雑なことをしているような気もしますが、手順はかなり凝っています。 ただし、プロローグには疑問を感じました。読了後読み返してみたのですが、叙述トリックと考えるにはあまり効果が出ていないし、無理な記述があるのです。また、被害者の妻による手がかり発見に大きな偶然を2回も使っているのは減点対象。 |