皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1530件 |
No.1010 | 7点 | 赤く灼けた死の海- ジョン・D・マクドナルド | 2018/02/03 08:33 |
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原題は "The Empty Copper Sea" ですから、ただの赤ではなく赤銅色です(以前に『赤い雌狐』があります)。色付きタイトルのシリーズなのですから、ただの「赤」は別出版社から出ていたにしても、全く同じ色は避けるべきじゃないでしょうか。
トラヴィス・マッギー・シリーズの中でも、邦訳があるものの中では最も新しい作品です。直前作の『レモン色の旋律』をminiさんはハードボイルドに投票されたと書かれていますが、本作も文章さえそれっぽくすれば、典型的なハードボイルドと呼べそうなストーリーです。まあバウチャーが、作者を取り違えて読んでも失望しないだろうと言っていたロス・マクみたいな深みを期待すれば、不満があるかもしれませんが、それでも結末には意外な哀しみがあります。真相はこんなところかなと予想できるものの、心理的な矛盾があり迷っていたのですが、なるほど、そういうオチでしたか。 |
No.1009 | 6点 | 孔雀の羽根- カーター・ディクスン | 2018/01/30 22:28 |
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久々の再読ですが、メインの密室トリックだけはかなり細部まで覚えていました。それほど印象的な基本アイディアなのですが、今回気づいた不備もあります。物理的可能性を問題視する人が多いようですが、そうではなく、不可能犯罪を演出するには犯人が警察にその監視方法を強制できなければならないはずだという点が引っ掛かったのです。また、HM卿が第19章で言う「四番目の方法」には説得力がありません。
なお、この「方法」(手段)という言葉は変で(たぶん翻訳が)、実際には「理由、動機」です。H・M卿は『白い僧院の殺人』の時「殺人者が密室状況を作り出す手段は三つしかない」と言ったというふうに本書では訳しています(p.295)が、その『白い僧院』(同じ厚木氏訳!)では「不可能な状況を作り出した動機だ」(p.201)となっています。 トリックに疑問はあるものの、再度の謎の手紙以降一気に盛り上がる構成は気に入っています。 |
No.1008 | 5点 | 戸田巽探偵小説選Ⅰ- 戸田巽 | 2018/01/25 22:21 |
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巻末の解題によれば、作者は神戸に生まれ、関西で活動した人だそうで、選集Ⅰには、発表が1931年5月の『第三の証拠』から1936年3月の『ムガチの聖像』まで16編の小説の他に、評論・随筆もいくつか収録されています。
最初の『第三の証拠』はサスペンス調の犯罪小説で、結末に意外性のあるものになっていて、特にタイトルの証拠はちょっとしたアイディアです。ところが続く4編(内3編がショート・ショート)はミステリじゃない…『或る日の忠直卿』なんて変な時代小説です。どれもつまらなくはないのですが、「探偵小説選」と言えるのかと思っていたら、『目撃者』以後はちゃんとミステリになっていました。1編だけ中編と言える長さの『出世殺人』は3つの独立した事件を組み合わせたもので、ちょっと偶然が過ぎる気もします。たった2ページの『吸血鬼』はもっと長い小説の冒頭部分だけ取り出した感じで、拍子抜けでした。 |
No.1007 | 5点 | ベーカリーは罪深い- J・B・スタンリー | 2018/01/22 00:02 |
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作者のファースト・ネームのJは、どうやらジェニファーらしいですが、本作はその作者のダイエット・クラブ・シリーズの第1作です。のんびりした田舎町、殺人事件の捜査より「デブ・ファイブ」のメンバーたちのダイエット食品に筆を費やすところなど、まさにコージーという感じの作品になっています。各章の頭には、その章で出て来る食べ物(ダイエット食品とは限らない)の成分表が付けられているという徹底ぶり。あとがきで訳者は作中の鶏胸肉のハーブ・ローストを試したところ好評だったなんて書いてあります。「つぎはナマズのボンベイ風に挑戦してみよう」というのは、材料を手に入れるのが難しそうですね。ちなみにナマズは刺身を食べたことがあり、美味です。
評も殺人事件より食べ物中心にしちゃいましたが、実際謎解きとしてはたいしたことはありません。犯人が判明した後30ページぐらいはサスペンス風味になります。 |
No.1006 | 7点 | カリブの鎮魂歌- ブリジット・オベール | 2018/01/16 22:48 |
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1作ごとに様々なジャンルを試みる(少なくとも6作目までは)オベールの5作目は、タフな中年私立探偵ダグ・ルロワがカリブ海の島々を飛び回って活躍するハードボイルドです。三人称形式ですが、ほとんどダグの視点から書かれているので、コンチネンタル・オプのパターンを踏襲して一人称形式でもかまわなかったのではないかとは思えます。また最後の方は冒険小説といった方がいいくらい派手な展開も見せてくれます。
カリブ海域の地理はほとんど知らなかったので、読んだついでに調べてみると、特に事件の中心となる「グアドループ島の北西約五十キロメートルのところに位置」するサント=マリー島は架空の島ですね。 サイコな感じの連続殺人をテーマにして、灰汁の強い登場人物たちを揃え、意外性にもあれこれ工夫を凝らしたところはこの作家らしく、軽快な筆致で楽しませてくれました。 |
No.1005 | 5点 | 火車と死者- 高木彬光 | 2018/01/12 22:57 |
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神津恭介シリーズの中でも、最初のうち捉えどころのない事件が続くという意味では珍しい作品ではないでしょうか。「火車」とは熊本に伝わる特殊な伝説(という設定)ですが、事件との関わり方はちょっとこじつけめいています。伝説通りに事件が進むのは最初から犯人の意図したものではなかったという解決は、悪くないと思うのですが、だからと言って火車伝説を持ち出す必要もなかったのではないでしょうか。それによって不気味な雰囲気が漂えばいいかもしれませんが、むしろ全体的にはシリーズ中でも軽めの現実的な作風になっています。
謎解き面では、事件が特異なものになった大きな偶然の使い方は鮮やかだと思います。しかしその他にも二重の伝説利用、切断された腕の件など、小さな偶然を重ねすぎているところは不満です。元になるアイディアはいいのに、仕上げが雑になってしまった作品という気がしました。 |
No.1004 | 6点 | 殺人(ころし)は血であがなえ- ハドリー・チェイス | 2018/01/08 09:52 |
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ハドリー・チェイスにはハードボイルド系の作品はかなりありますが、私立探偵の一人称形式というハメット由来のパターンはめったにないようです。本作はその珍しいタイプで、しかも相棒が殺された事件の捜査という点だけ見れば『マルタの鷹』を連想させます。が、この作者ですから通俗的な暴力に徹し、冷血な大富豪、悪徳警察署長など典型的な登場人物を配して、殺人は繰り返されていきます。主役に本拠地を離れた観光都市で自由に捜査を継続させるため、途中で反現市政派の副検事を登場させたりもしますが、ラストの見せ場を作るためには、途中でこっそり退場してもらわなければなりません。
真犯人の正体はいかにも通俗ハードボイルドという感じで新味はありませんが、伏線はちゃんと張ってあります。しかし真相解明後のカーアクションになる流れが、チェイスらしいところで、一番の見どころでしょうか。 |
No.1003 | 5点 | 麻薬密売人- エド・マクベイン | 2018/01/04 00:11 |
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この87分署シリーズ第3作では、前作『通り魔』で功績をあげたクリング巡査が刑事になって、キャレラと一緒に死体発見現場に駆け付けるところから始まります。最初首吊り自殺と思われた少年はヘロインの過剰摂取により死んだことが判明し、タイトルの麻薬密売人による殺人と推測されます。検死で簡単にばれることは明らかなのに、なぜ縊死を装うことまでしたのか、というところが中心の謎になっています。本作は余計なものを入れずこの事件一本に絞った構成で、またキャレラが大変な目に会う事件でもあります。
しかし今回の主役は、一応ピーター・バーンズ警部と言っていいでしょう。彼の家族が事件に巻き込まれ、職務と家庭の問題の間で悩むのです。最後は彼が一人で犯人逮捕に赴き、「いっしょにきてもらおうか」と犯人に優しく言う結末になります。 ただ途中までの展開に比べて、この最後がスケール的に尻すぼみになってしまった印象は拭えません。 |
No.1002 | 6点 | 鳥少年- 皆川博子 | 2017/12/31 00:00 |
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表題作等13編の短編を収録。初出一覧によるとほとんどは70年台後半から80年台にかけて様々な雑誌に発表されたものですが、ショート・ショート『ゆびきり』だけは本短編集編集出版の1999年に書かれたものです。
大部分はミステリと言うより奇妙な味に分類できそうなもので、昔ながらの芝居に題材をとったものに代表されるように、古風な味わいがあります。科学技術系の物等にちょっと変更を加えれば戦前の「変格派」作品だと言われても信じてしまいそうになるぐらいで、異様な雰囲気は気に入りました。また、オチをはっきりと書かず、読者に推測させるだけに留める、あるいはその推測さえ不確定なものが多いのも本短編集の特長です。特に『滝姫』は冒頭部分と結末とがどうつながっているのか理解できません。また表題作のなんとも奇妙なラストは、小説テーマとしてわからなくはないのですが、この展開の最後で?という気はします。 |
No.1001 | 6点 | ハリウッド警察特務隊- ジョゼフ・ウォンボー | 2017/12/25 21:58 |
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原題は “Hollywood Crows”。「鴉」って何だと思われそうですが、市警の一部局であるCRO(地域防犯調停局:Community Relation’s Office)所属の警察官を指すことが、作中で説明されています。生活環境に関する苦情等に対処する部門であり、「特務隊」というハードそうな語感とは全然違います。ただしCROメンバーだけの話ではありません。
『ハリウッド警察25時』の続編で、2人のサーファー警察官や、俳優になる夢を持ち続けていてCRO配属になった警察官など、前作の登場人物たちが再度活躍します。巻頭に、「警官話」を提供してくれた50人以上のロサンジェルス、サンディエゴ市警の警察官に対する謝辞があり、それらの人々から聞いたエピソードを多数入れているのだろうなと推測されるモジュラー型です。その中にメインの事件を犯人の視点も含めて配しているのは、前作と同じですが、前作に比べると多少落ちるかなという感じでした。 |
No.1000 | 8点 | 縞模様の霊柩車- ロス・マクドナルド | 2017/12/21 19:27 |
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最初に読んだロス・マクが本作で、本当に久しぶりの再読です。初読当時は、特にラストのリュウと犯人との対話と、その後歩き始める「水の涸れた川床のような道」の情景に圧倒的な感銘を受けたものでした。
今回読み直してみると、事件の構成は意外にシンプルだと思いました。前後の作品のような大胆なアイディアもありません。まあ真相を知っているため、様々な出来事の裏の意味がわかるからというところもあるのでしょうが。それでも自然な形での結末の意外性は充分にあり、ミスディレクションも効いています。最初の方で出て来る縞模様の霊柩車が、ただ象徴的な意味を持つだけでなく、重要な手がかりを提供することになるのも、うまくできています。そしてストレートに突き刺さって来るアメリカの「家庭の悲劇」。 リュウが頭を枝から下がったマンゴーにぶつける場面などユーモラスなところも記憶に残っていました。 |
No.999 | 7点 | 塙侯爵一家- 横溝正史 | 2017/12/17 23:17 |
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読んだ角川文庫版には、戦前の中編が2編収録されています。
1932年7月から雑誌「新青年」に連載された表題作については、作者自身「何か本当のものを書きたい」という意気込みを予告の中で述べているぐらいで、確かにスケールの大きな気合の入った作品になっています。同年5月に犬養首相暗殺事件が起こった時代背景も取り入れられていて、クーデター的なことを企む組織の幹部の一人である畔沢大佐が、主人公を傀儡として使おうしている中、塙(ばん)侯爵殺人事件が起こる話です。とは言え、そこは横正、組織の政治的立場等については一切触れていません。組織の計画のどんでん返しより、殺人事件の犯人の意外性に驚かされます。論理的な穴はいろいろありますが、楽しめました。 女性雑誌に発表された『孔雀夫人』は、真相はわかりやすいですし、ラストはご都合主義ですが、すっきりまとまったサスペンスものになっていました。 |
No.998 | 6点 | 影と陰- イアン・ランキン | 2017/12/12 23:37 |
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リーバス警部シリーズ第2作―というより、『紐と十字架』の時はまだ部長刑事でしたし個人的な面の強い事件でもあったので、本作こそ後につながる本当の意味での第1作と言ってもいいでしょう。それにしても、そんなシリーズ化開始作から、作者はエジンバラの影の部分、有力者たちの秘密に大鉈をふるってくれます。そして後味のかなり悪い終わり方。国内作家であれば社会派に分類してもいいようなテーマですが、リーバス警部の孤独な個性の故もあり、全体的に粘つくような暗い雰囲気が漂っています。
巻頭と各章頭に『ジーキル博士とハイド氏』からの引用を置き、さらにリーバスが同書を再読中だとか、途中でハイドという名前の人物のことが出てきたり、その上脇役登場人物名を同じにするなど、執拗なまでの関連付けをしています。しかしアイディア、プロットについては『紐と十字架』の方がスティーヴンソンとの共通点がありました。 |
No.997 | 7点 | 消しゴム- アラン・ロブ=グリエ | 2017/12/08 22:58 |
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「難解」「散文詩的」等と評されがちなロブ=グリエですが、後の『覗くひと』や『迷路のなかで』に比べると、確かに新訳だからということも多少あるでしょうが、このデビュー作は非常に読みやすく、そのことに驚かされました。複雑緻密な文章による執拗な反復の中に閉じ込められたような気がするのを覚悟していたのですが、様々な人物の視点を次々切り替えながらどんどん話が進んでいき、とりあえずは普通におもしろいのです。反復性は、捜査官ヴァラスが特別な消しゴムを買おうとすることぐらい。この程度の難解さならカフカや安部公房並みで、普通のミステリ・ファンにも一応お勧めできます。
偶然を重ねたシニカルな結末にしても、巻末解説に安部公房の『燃えつきた地図』を引き合いに出して述べられている「謎解きを宙づりにする謎解きミステリー」パターンではなく、驚くほどまともです。まあ全然解決のついていない細部はいろいろありますけれど。 |
No.996 | 5点 | 山陰殺人事件- 津村秀介 | 2017/12/03 15:36 |
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ルポライター浦上伸介シリーズ第1作だそうで、確かに彼はジャーナリストとしての腕はあっても、探偵役としてはまだ不慣れでもたついた感じがします。
タイトルの山陰が話に出てくるのは6割を過ぎてからです。最初に事件が起こるのは横浜で、2件の強姦未遂に続いて強姦殺人が2件、簡潔に紹介されます。その容疑者と見られる男が鳥取で殺されることになるという展開で、さらに浦上伸介がその記事を書きたがっている岡山の暴力団事件と、強姦殺人が関連してくることになります(このことは、早い段階で読者にだけは明かされるのですが、この事前説明はない方がいいでしょう)。そのようなプロットが本作の読みどころになっています。アリバイ崩し中心のものが多い作家ですが、本作ではアリバイは添え物です。『点と線』の時代じゃないんだから、すぐわかるでしょうというレベルで、時刻表に隠された列車や飛行機の意外な使い方もありません。 |
No.995 | 6点 | ニューオーリンズの葬送- ジュリー・スミス | 2017/11/29 23:57 |
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1991年度エドガー賞を受賞した大作です。最初の方の「幕間」の章では、舞台となる都市名の発音についていろいろ書かれていて、そんな「街」を描いた小説としても高く評価されたのかもしれません。
基本的には交通巡査のスキップ・ラングドンが被害者家族の知り合いだったため殺人事件の捜査に抜擢されて活躍する警察小説です。しかしそんな特殊状況のせいもあり、警察組織の中でも孤立したこのヒロインは、むしろハードボイルド系のヴィクやキンジーに近いものを感じさせます。ただスキップの新人らしい戸惑い、感情の起伏が激しくひがみっぽい性格の強調には少々うんざりさせられました。 事件の真相も、ロス・マクに通じるような悲劇なのですが、事件関係者たちの内面をネタバレにならないように制御しながらもじっくり描いた展開になっています。その描き方が本当に効果的だったか、疑問ではありますが。 |
No.994 | 8点 | コンチネンタル・オプの事件簿- ダシール・ハメット | 2017/11/25 13:34 |
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創元推理文庫のコンチネンタル・オプ・シリーズを集めた『フェアウェルの殺人』と共通するのは、『放火罪および…』だけ。で創元の方が謎解き要素の高いものが多かったのに対して、こちらは中心となるのが2種類の2編の連作で、どちらもまさにハードボイルドって感じです。いや、『血の報酬第一部 でぶの大女』のとんでもなく派手な銀行強盗は、ここまでくるとハードボイルドの範疇から逸脱してしまっているかもしれません。しかしやはり文句なしにおもしろい。第二部の『小柄な老人』の最後に、コンチネンタル・オプが「おれはパパドパロス(作中の協力者を次々に始末する悪役)と同類さ」と言うのには納得。
異色短編とされる『ジェフリー・メインの死』も、こんな粋な解決をつけるタイプがあってもちっともおかしくないと思えます。シリーズ最終作『死の会社』は事件の基本的な部分は明らかですが、うまくまとめてくれていて、これも悪くありません。 |
No.993 | 5点 | 二万パーセントのアリバイ- 越谷友華 | 2017/11/21 23:03 |
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第12回(2013年)「このミス」大賞応募時には『生き霊』のタイトルで、その段階では刑務所に服役中でアリバイを持つ男の生霊が殺人を起こしたように見せる演出がされていたそうです。その後大幅に改稿された上で出版されているので、印象はかなり変わっているのでしょう。
その印象ですが、ジャンル分けの難しい作品になっています。小児殺人事件の現場付近にあったティッシュに付いていた精液のDNAが、16年前に起こった全く同じ手口の殺人事件犯人として服役中の男のもので、その時も同じように精液が決め手になっていたという、提出された謎はおもしろいのです。しかしなぜ全く同じ手口で不可能犯罪を演出したのかという、パズラーなら非常に重要な部分が、犯人の殺人動機に一応結びついてはいるものの説得力がありません。またアリバイトリックも、どうということはないものです。 一方、服役中の男たちを描いた部分は実に楽しく読ませてくれる作品でした。 |
No.992 | 6点 | そして殺人の幕が上がる- ジェーン・デンティンガー | 2017/11/17 22:20 |
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本作でデビューしたデンティンガーは女優でもあるそうです。
被害者の女優は「演劇界の鼻つまみ」と紹介されていますが、実際に読んでみるとそれほどとも思えませんでした。もっとわがままな性格なのかと思っていたのですが、むしろ知名度ほどの実力がない女優として描かれています。 謎解き的には完全にフーダニット・タイプですが、段ボール箱の配達人の話が出た瞬間に、だったら最も怪しいのはこの人物だと予想できてしまいました。また最重要手がかりについては、なぜそれがそこにあったのか殺人が起こる前から疑問に思っていたのですが、説明が全くできていません。それでもこの評価なのは、さすがに舞台となる演劇界の状況の描き方に説得力があり、おもしろくできているからです。 なお主人公は登場人物表では「ジョスリン(ジョシュ)・オルーク……わたし。女優」となっていますが、三人称形式で書かれた小説です。 |
No.991 | 6点 | マイケル・シェーン登場- ブレット・ハリデイ | 2017/11/12 10:25 |
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まるでシリーズ第1作みたいなタイトルですが、たぶん第18作です。原題は "This is it, Michael Shayne" で、「まさにこれだ」ということですが、何のことだかわかりません。
巻末解説ではハリデイとガードナーと売上を比較したりもしていますが、タイプ的にも、かなり謎解き要素が高く、また文学性ではなくエンタテインメントに徹していること等、なんとなくペリー・メイスン・シリーズと近い感じもします。さらにシェーンがハードボイルドでは珍しく全国的に有名な私立探偵という設定も、メイスンと共通するものです。 真相については、第2の殺人が起こる少し前に、これはどうしてもこうならざるを得ないなとは思ったのですが、予想以上に細かいところまでうまく辻褄を合わせてまとめてくれていました。結末の意外性はガードナーほどではありませんが、論理的整合性では、むしろ上かもしれません。 |