皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
空さん |
|
---|---|
平均点: 6.12点 | 書評数: 1525件 |
No.1525 | 5点 | 信濃梓川清流の殺意- 梓林太郎 | 2025/05/10 00:03 |
---|---|---|---|
30冊以上ある、旅行作家茶屋次郎を主役とするシリーズの大半には「川」がタイトルについていますが、これはその第1作。長野県出身作者のペン・ネームと同じ漢字の、松本市西方の梓川あたりを舞台にした作品で、最初のうち場所を紹介するのに参考資料からの引用が多いのは多少気になりますが、トラベルミステリらしい作品です。
第1作ということで、茶屋は殺人事件に巻き込まれ、容疑者扱いされたことで怒って、自分で真相を探り出そうとするのです。本作だけ見ると、刑事や私立探偵を主役にしたものと違い、たくさんの続編が書かれるようになるとは思えません。しかし茶屋と、その助手兼秘書のサヨコ、ハルマキに、週刊紙編集長山倉の掛け合い漫才は、確かに1作だけでは惜しい気もします。そのユーモアを特徴としたシリーズなのでしょうか。 過去を追っていく展開と、最後の落としどころはなかなかよくできていました。 |
No.1524 | 6点 | シャンゼリゼは死体がいっぱい- レオ・マレ | 2025/05/06 10:20 |
---|---|---|---|
私立探偵ネストール・ビュルマ・シリーズの中でも「新編パリの秘密」サイクルでは『殺意の運河サンマルタン』に続く第7作。
本作では、前作で活躍したビュルマの秘書エレーヌ・シャトランは田舎の実家に帰っていて登場しません。その前作に登場する老俳優は映画なんて「くだらないものですよ」と言っていましたが、今作ではビュルマはアメリカ映画女優のボディガード役を終えた後、その仕事で宿泊していたシャンゼリゼ大通のホテルに、先払い期限まで滞在しながら、今度はフランス映画界で起こる事件に関わっていくことになります。 15年ぶりにカムバックした女優がアヘンの摂りすぎで死亡するところから始まり、次々に人が殺されていく(シャンゼリゼでというわけではありませんが)という事件です。ハードボイルドらしい麻薬密輸組織を暴いていくストーリーは、起伏に富んでいて、なかなか楽しませてくれます。 |
No.1523 | 6点 | 耳をすます壁- マーガレット・ミラー | 2025/05/03 00:04 |
---|---|---|---|
読み始めてすぐ、これ本当にミラーの作品? と驚かされました。この作者に期待していたのとあまりに違っていて、特に冒頭メキシコでホテルのメイドがボーイフレンドの賭博癖について思いをめぐらせるところなど、彼女の浅薄さになんだこれ、と思ったのです。その後の部分もかなり軽いノリで、行方不明(?)になったエイミーの夫ルパートが犯罪者なのかどうかというサスペンスはありますが、基本的にはルパートを、私立探偵ドッド(リュウ・アーチャー並みに渋い奴)の視点、つまり外側から捉えているので、怖いような不安感はありません。
特定の作中人物に感情移入して引き込まれるということがなかったからでしょうか、パズラー的にかなり冷静に読み進めることになったため、真相の大枠はかなり早い段階で見当がついてしまいました。もちろんそれでも面白いことは確かなのですが。最後1行については、何なんでしょうね… |
No.1522 | 7点 | まんまこと- 畠中恵 | 2025/04/28 20:17 |
---|---|---|---|
表題作で始まる6編を収めた連作短編集です。主人公は神田の町名主の「お気楽な」跡取り息子麻之助で、彼が名探偵ぶりを発揮して様々な謎、持ち込まれる町の揉め事を解決していくわけで、最後の誘拐事件を扱った『静心なく』を除くと、日常の謎系と言っていいでしょう。5編目『こけ未練』では、それまで勤勉だった彼が16歳の時にお気楽になってしまったきっかけも、回想の中で明かされます。時代背景は、2編目『柿の実を半分』の中で寛政元年が10年と少し前とされているので、1800年頃。
ユーモラスで人情味のあるいい話の中に、そんなにアクロバチックでこそありませんが論理的な謎解きをうまく溶け込ませ、麻之助とその仲間たちも魅力的に描いていて、なかなか気に入りました。 なお、「まんまこと」とは真真事・ほんとうのこと、と『江戸語辞典』抜粋の注釈が付いています。 |
No.1521 | 6点 | 月射病- ジョルジュ・シムノン | 2025/04/25 19:35 |
---|---|---|---|
1933年、メグレ以外のRoman dur最初期作品です。舞台はアフリカ中西部のガボン、主役のジョゼフ・ティマールが伯父の口利きで、首都リーブルヴィルに赴任してくるところから始まります。監修・解説の瀬名秀明氏によれば、パリの霧も雨も出て来ず、「読者の目には異色作と映る」かもしれないが、「旅の作家」であるシムノンにとっては「人生の方向を決めるほど重要な一篇」だということです。
第1章最後でホテルの黒人ボーイが殺され、その犯人は途中で判明、エピローグ的な最終章の前の章はその殺人事件の裁判、という構成であるにもかかわらず、あまりミステリっぽくない話の作りになっています。いくらフランス植民地時代のアフリカでも、こんなでたらめな裁判があり得るのかと思えますし、なんとも居心地の悪くなるような結末です。 なお、単に「月明り」とも訳せるタイトルの言葉は最終章で出てきます。 |
No.1520 | 6点 | サンドラー迷路- ノエル・ハインド | 2025/04/22 20:47 |
---|---|---|---|
1977年に発表された作品。若い弁護士トマスの事務所で放火事件があり、調べてみると、最近死去したヴィクトリア・サンドラー関係の書類が紛失していたところから始まり、第二次世界大戦中のナチスの経済的陰謀に端を発するスパイ事件に発展していく、ひっくり返しの意外性が連続する作品です。しかしこの意外性というのが、同じ趣向を何度も繰り返していて、最後の方はまたその手かと思わせられました。クライマックスの海上でのスリリングな出来事も、その趣向の(部分的)一種と言っていいでしょう。
トマスが、既にスパイ関係の事件だと知っているのに身辺に気をつけないなんて、ちょっと間抜けすぎるのではないかと思えるところがある一方、最後には探し求める相手の正体について名探偵的な推理を見せるなど、少々バランスが悪い気もします。最後まで刺激的なおもしろさが持続する点では文句なしなのですが。 |
No.1519 | 5点 | 横溝正史探偵小説選Ⅱ- 横溝正史 | 2025/04/17 17:50 |
---|---|---|---|
すべてジュブナイルの13編の中短編と金田一耕助が登場する推理クイズ2編、それにごく短い随筆3編を収録。なお推理クイズ解答は巻末解題の中に入っています。
三津木俊助・御子柴進の事件簿として戦後の作品が5編ありますが、最後の『怪盗X・Y・Z おりの中の男』を除くとどれも短すぎて、あっけない感じがしました。名探偵が登場する荒唐無稽なミステリは、ある程度の長さがないとおもしろさを出しにくいのかもしれません。 その後の戦前作品中でも長めの『怪人魔人』『渦巻く濃霧』『曲馬団に咲く花』『変幻幽霊盗賊』『笑ふ紳士』は、いずれも特筆すべきところこそありませんが、ご都合主義な展開が楽しい波乱万丈、荒唐無稽な子供向け作品として楽しめます。ただ『渦巻く濃霧』のラストは解題でも触れられているようにさすがに説明不足。『爆発手紙』は意外にも短い中に単純な事件をすっきりまとめていました。 |
No.1518 | 7点 | Le voyageur de la Toussaint- ジョルジュ・シムノン | 2025/04/14 23:17 |
---|---|---|---|
タイトルの意味は『万聖節の旅人』。19歳のジルは、北欧で両親を事故で失い、親戚を頼ってラ・ロシェル(『ドナデュの遺書』第Ⅰ部の舞台でもある港町)に、万聖節前夜ほとんど密航者のようにやって来る。成り上がり者の伯父は数か月前に死んで、莫大な財産はすべてジルに遺されていた。伯父と対立していた町の有力者たちからの接触を受けた彼は…
1941年に書かれた、文庫本に翻訳すればたぶん350ページ以上ある、シムノンにしては長い作品です。上記冒頭部分だけでもミステリっぽい感じがしますが、さらに金庫を開けるパスワードは何かとか、妻の殺人容疑で逮捕された医者を救うことはできるかとか、伯父が実は毒殺されていたことがわかり、その犯人は誰かとか、ミステリ要素たっぷりで、おもしろく読んでいけます。ただ事件全部が解決した後のエピローグは、まあわからないことはないのですが、といったところです。 |
No.1517 | 6点 | マーチ博士の四人の息子- ブリジット・オベール | 2025/04/09 18:22 |
---|---|---|---|
様々なジャンルを試みながら、独自のスタイルを保持しているオベールの第1作は、やはりこの作者らしいひねりの効いた作品になっています。国内現代の「本格派」が好きな人は、オベールは本作しか読んでいないことが多いでしょう。しかし本作が新本格派ファンに受けるのは、たぶんエピローグの意外性のためだけであり、それまでは手記・書簡形式の、目次からもわかるとおりスポーツ・ゲームを意識したサスペンスものです。
何人かの方も指摘されているとおり、この手記がしつこくてうんざりしてくるところがあります。中心になる発想はいいのですが…マーチ家の4人姉妹の話『若草物語』を念頭に置いたのだろうと訳者は書いていますが、そんなことに拘らず思い切って息子を2人に減らして、どっちが犯人かという謎で押し切っていれば、兄弟の個性を描き分けることができてよかったのではないかとも思えます。 |
No.1516 | 6点 | カード・ウォッチャー- 石持浅海 | 2025/04/06 11:08 |
---|---|---|---|
タイトルのカードとは、勤退時刻をつけるタイムカードのことです。製造業本社工場から離れた場所にある研究所で、研究員が椅子が壊れて転んで手首を痛めたという軽い事故が、労災に該当するようだということで、労働基準監督官が臨検にやって来ることになります。この事故自体は、労災になるとは思わなかっただけなので、大した問題ではないのですが、研究所では毎日長時間のサービス残業が続いていたということで…
それだけだと、どこがミステリなんだという感じですが、臨検直前にある研究員の死体が発見される展開で、最後はその死の原因が論理的に解明されて幕を閉じる、パズラー系の作品です。序章と終章を除くと、ほとんどが若い総務職員小野勝典の視点から描かれます。「特別司法警察職員」であると説明される監督官の対応にあたふたする研究所職員たちの姿を軽いタッチで描きながら、謎解き要素もきっちりできた楽しい作品です。 |
No.1515 | 6点 | 死体銀行- カトリーヌ・アルレー | 2025/04/01 19:44 |
---|---|---|---|
訳者あとがきによれば原書裏表紙に「この作品はSFではない」と書かれていた、1977年発表作です。あえてそのように言う以上、逆にSF的なところはあるということで、実際当時の科学技術水準からすれば、タイトルの発想はまだ実験的段階と言ってよかったぐらいでしょう。アルレーはその発想を、政治体制と結びつけて小説化しているのですが、それが作者のこの新技術に対する捉え方だったのかもしれません。なお「近未来」という言葉があらすじで使われていますが、時代設定は発表当時。
作品自体は、ボアロー&ナルスジャック、あるいは現代ミステリをも思わせるような、主人公が目覚めてみると全く知らない他人として扱われていたという不可解な出来事から始まります。この謎は巻半ばで解き明かされることになるのですが、日付の問題だけは気になりました。その後、表題問題が話の中心になり、なかなか息苦しくなる展開です。 |
No.1514 | 7点 | 私が愛したリボルバー- ジャネット・イヴァノヴィッチ | 2025/03/28 20:42 |
---|---|---|---|
厳密にはハードボイルドでも私立探偵小説でもないのですが、ジャンルとしては一応ハードボイルドにしました。2作目以降はコメディー色が強くなるこのシリーズですが、本作ではラブコメ的ユーモアはあっても、スラプスティックな笑いというと、一ヶ所メイザおばあちゃんの暴走ぶりぐらいのもので、むしろサスペンス・スリル・バイオレンスの要素が強いのです。最後には、ステファニーもマジでガン・アクションを見せてくれます。作中の一人称は「あたし」となっていますが、タイトルどおり、「私」でもよかったかもしれません。
捜査で手がかりをつかむところは、かなり偶然を重ねたご都合主義があるというものの、説得力を持った工夫も見られますし、ミステリとしての真相の意外性も一応あります。 なお、原題は "One for the Money"、ステファニーが前の職を解雇され、お金欲しさでバウンティ・ハンターを始めたことを示しています。 |
No.1513 | 6点 | 山下利三郎探偵小説選Ⅱ- 山下利三郎 | 2025/03/24 23:34 |
---|---|---|---|
山下利三郎の選Ⅱは8編の創作(うち戯曲2編)と評論・随筆31編+アンケート等への回答で構成されています。分量的には創作が約2/3。
中編の『横顔はたしか彼奴』、長めの短篇『見えぬ紙片』『野呂家の秘密』の3編は、現代的な意味での「本格派」と言えるかどうかはともかく謎解き的興味のある作品で、作者の古風な文体も相まって、なかなか読みごたえがあります。『横顔~』の真相は複雑で意外ですが、巻末解題でも触れられているとおりタイトルが内容に合っていません。『見えぬ紙片』は被害者と加害者の過去の因縁に重点を置いた作品、『野呂~』は吉塚亮吉シリーズの一編だそうですが、それを知らずに読むと展開に意外性があります。 作者自身まえがきで「探偵味が希薄」と認めているラジオドラマ戯曲『運ちゃん行状記』、難解な文体が特に読みづらい『小奈祇の亡霊』、歴史小説の『越中どの三番勝負』も結構印象に残りました。 |
No.1512 | 6点 | 甦える旋律- フレデリック・ダール | 2025/03/19 18:07 |
---|---|---|---|
フレデリック・ダールは、フランス語版Wikipediaによれば公式には288冊の小説を発表しているそうです。訳者あとがきには本作がダールの3作目のミステリであると書かれていますが、ミステリかどうかはともかく、本作以前に別ペンネーム作を含めると既に60冊以上の作品があります。
ともかく、フランス推理小説大賞を受賞した本作は、記憶喪失の美女と恋におちる画家ダニエルの一人称形式で書かれた作品です。まあそれだけだと平凡な話ですが、さすがに話術が巧妙です。彼女は誰なのかという謎は最初からあるわけですが、実際にある手掛かりから彼女の過去が明らかになり始めるのは、ほぼ半分ぐらい経ってからです。そしてそこから、緊迫感が盛り上がってきます。 「みごとなドンデン返し」だとは思いませんが、皮肉で哀しいオチはきれいにまとまっています。残念なのは冒頭の出来事の直接経緯が最後まで不明なこと。 |
No.1511 | 7点 | 断崖- スタンリイ・エリン | 2025/03/15 14:25 |
---|---|---|---|
エリンの長編第1作は、父親を辱めた男を殺そうと決意した16歳の少年ジョージの一人称形式物語です。ポケミスで約140ページ(文庫本なら200ページ弱)の短い作品ですが、作中の経過時間も短く、たった一晩の出来事です。
実際の断崖(『ゼロの焦点』ラストのような)が出て来るわけではありません。原題は "Dreadful Summit"、冒頭に『ハムレット』のホレーショーの「(わが君を)恐ろしき断崖の絶頂にみちびこうとして…」というセリフが引用されています。 話の転がっていき方は、ほとんどコメディと言ってもいいくらいのとんでもなさなのですが、ジョージの必死な思いが、作品をシリアスな雰囲気にとどめています。彼が特に背が高いこと、また彼の父親が酒場の経営者であることが、重要な意味を持っている点も、うまく考えられています。そして訪れる衝撃的な結末…これはさすがエリンという感じでした。 |
No.1510 | 6点 | 美しき屍- 藤田宜永 | 2025/03/11 20:15 |
---|---|---|---|
1988年に『モダン東京物語』のタイトルで発表された、私立探偵的矢健太郎シリーズとしては最初に書かれた作品です。その後、本作より前の時代設定の第4作『蒼ざめた街』執筆により、1996年に加筆訂正・改題されて、本作はシリーズ2となっています。
昭和6年(1931年)5月に起こった事件ということで、まあ時代ミステリと言えなくもありません、的矢が「秘密探偵」と言われたりしているのも、時代を感じさせ、当時の雰囲気はよく出ていると思いました。あとがきには参考文献が多数並べられています。当時と言えば、ハメットが出てきたころですが、一方乱歩の『吸血鬼』等が発表されていた時代でもあるわけで、本作もスタイルこそハードボイルドで、格闘や銃撃シーンも豊富ですが、ほとんど乱歩のいわゆるエログロナンセンスに近いところもあります。あまり具体的に書くと、ネタバレになってしまうので控えますが。 |
No.1509 | 7点 | 消える魔術師の冒険- エラリイ・クイーン | 2025/03/05 21:03 |
---|---|---|---|
クイーンのラジオドラマ・シナリオ集の第4作に収められた7編は、「活字化されたもの」(本や雑誌で出版されたものの意味でしょう)ではなく、脚本から直接訳したのだそうです。それに日本で上演された短い舞台版「13番ボックス殺人事件」脚本も付いています。
さすがにここまで来ると質が多少落ちているのではないかと危惧してもいたのですが、そんなことはありませんでした。最初の『見えない足跡の冒険』からして、カーばりの雪密室、しかもそのトリックはディクスン名義の某作品とも共通する発想で、なかなかうまくできています。表題作もタイトルどおりの不可能を演出(犯罪ではなく一種のショー)、これは『三つの棺』の中で解説されていた方法のバリエーション。『十三番目の手がかりの冒険』では後に『十日間の不思議』以降クイーンが得意とするパターンが見られます。 個人的には『不運な男の冒険』『タクシーの男の冒険』が気に入りました。 |
No.1508 | 6点 | この声が届く先- S・J・ローザン | 2025/03/01 09:47 |
---|---|---|---|
リディア&ビルのシリーズ第10作は、なんとリディアが誘拐され、ビルが彼女を救出するためニューヨーク中を駆け回るという話です。原題 "On the Line" は、巻末解説では「危機的な状況の意」と書かれていますが、誘拐犯人からの電話による指示も意味しています。その電話を聞いた複数の登場人物から「狂っている」と言われる男が相手で、ビルがいつもの冷静さを完全に失うシーンが何度もあります。その彼をなだめるのが、リディアの親戚で18歳のライナスで、ガールフレンドのトレラと共に、ビルを補佐して活躍します。ライナスが専門家であることもあり、ネット系技術がふんだんに使われるのも本作の特徴です。
そんなストーリーなので、ハードボイルド・私立探偵小説とは言い難い内容になっています。巻末解説で引合いに出されているジェフリー・ディーヴァーは未読なので、どの程度共通点があるのかわかりませんが。 |
No.1507 | 4点 | 死刑狂騒曲- 嶋中潤 | 2025/02/25 17:54 |
---|---|---|---|
裁判シーンのプロローグとエピローグの間が4章に分けられた作品。判決確定後、刑が未執行の死刑囚を解放しないと、人質を殺害するという脅迫状が、警視総監等に送られてきた、という事件です。こんな大げさな事件の捜査で重要な役割を果たすのは、雲上(うんじょう)菜奈刑事で、第3章まではほぼ彼女の視点から描かれます。
真相には驚きはないものの、展開はサスペンスフルでおもしろくできています。ただ問題は80ページ近くある第4章です。その大部分は、それまでの警察捜査ではなく、雑多な人物の会話や心理でできているのです。それも本作のテーマ性とは関係ない描写までかなりあります。丹下親子のシーンで、本作の発想の問題点がある程度示されるものの、本来その人物の行為は許されるかどうか、それが問われるべきことだと思えました。 エピローグも意外性はあるのですが、テーマにそぐわないような… |
No.1506 | 6点 | ミッドナイト・ララバイ- サラ・パレツキー | 2025/02/16 11:57 |
---|---|---|---|
ヴィク・シリーズとしては前作の4年後、2009年に発表された作品です。その間にもシリーズ外作品はあるのですが。原題は "Hardball"、直訳そのもの「硬球」の意味で、ヴィクの父親がしまい込んでいた有名選手(実在の)のサイン入り野球ボールのことです。このボールが事件に重要な意味を持ってくるらしいことは、発見時から明らかです。その事件というのが、1966年キング牧師が中心となったデモ行進の時に起こった殺人で、ヴィクの父親が警官としてその事件に関わっていたということもわかってきます。さらにヴィクの従妹や叔父も登場し、親族を巻き込んだ事件になっていきます。過去の事件をヴィクが再調査しようとしたため新たな殺人まで起こることになる構成で、なかなか楽しめました。
前作に続き、冒頭に印象的なシーンを持ってきて、その後過去に戻る構成になっていますが、本作はそうする必要があったのかなとも思えました。 |