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miniさん
平均点: 5.97点 書評数: 728件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.6 7点 俳優パズル- パトリック・クェンティン 2013/03/21 10:00
本日21日に創元文庫からクェンティン「人形パズル」が刊行される、パズルシリーズ第3作だが創元としては復刊ではなくて未訳作では無いにしても過去にまともに紹介されてなかった幻の作だった
創元では題名的にパズルシリーズでは無いけど同じくダルースが登場する「女郎蜘蛛」も新訳復刊予定らしい
便乗企画として「俳優パズル」をいつ書評するか?今でしょ!

「人形パズル」の一つ前、第2作がシリーズ最高傑作との噂が有った「俳優パズル」である
私は書かれた年代を考慮しない書評は意味を成さないという信念が有るのだが、クェンティンのパズルシリーズもその”パズルシリーズ”という通称から誤解を招きやすい典型だと思う
シリーズ第1作「迷走パズル」が1936年、この「俳優パズル」が1938年、その後戦争のブランクが有り、戦後の1944年の第3作「人形パズル」以降は毎年コンスタントに書かれている
その為1作目・2作目と3作目以降には違いが有り、1・2作目での謎を解く探偵役はレンツ博士であってピーター・ダルースではないのである
いやもちろん主役はダルースと彼女のアイリスなのだが、探偵役=主役じゃないのだ、語り手ダルースは単なるワトソン役でもなければ狂言回しでもない、あくまでもダルースが主役なのである
でも主役ではないにしても一応の探偵役はやはりレンツ博士なのだ
ところが第3作以降になるとレンツ博士は探偵役から外される
のりりんの解説にも有るがドイツ生まれのレンツ博士を戦後に書かれた3作目以降には使い難かったという事情ももちろん有ると思う
しかしそれだけじゃなくて、そもそもこのパズルシリーズはその通称からガチな謎解きパズラーと思い込みがちだが、それは読者側の勝手な期待であり他の黄金時代本格と同列には扱えないんじゃないだろうか

このシリーズが書かれた時期はアメリカン本格が質的変化を起こし、マクロイなどサスペンス風本格へと変遷していく時代と符合する、つまりクェンティンは行き詰まりかけていた他の本格派作家達の轍を踏まず、当時の潮流に乗ったのものだと解釈したい
パズルシリーズの何となくシリーズを通した作風の統一感の無さというのはやはり時代背景を考慮しなくてはならないだろうと私は思う
例の二階堂はパズルシリーズについてあまり好みじゃないと以前に述べていた、そりゃそうだよなCCや館ものばかりをを好む二階堂みたいな奴の嗜好にはいかにも合わない感じだ
私は今回「俳優パズル」を読んでこのシリーズを見直した、他の書評済みのシリーズ作も文章と採点を変更した、それは「俳優パズル」が噂に違わない名作だったからだ
特にホワイダニットには感心した、動機が物語全体と有機的に結び付いているのだ
例えばいかにも本格派らしい真相を求める読者は「悪女パズル」の方を好むだろうが、そういう読者ではない私は「悪女パズル」などよりこっちの「俳優パズル」の真相の方が好きだ
パズルシリーズはどうもプロットのゴチャゴチャ感が有るのだが、これはサスペンスとパズラーを融合しようとした良い意味での試みだったと解釈し直して、今後は弱点とは思わない事にしようと私は心に決めた

No.5 5点 迷走パズル- パトリック・クェンティン 2012/07/17 09:44
* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年に当たる作家は意外と多い、今年の私的テーマ”生誕100周年作家を漁る”の第5弾、クェンティンの5冊目
合作コンビの内の1人、ヒュー・ホイーラーも生誕100周年である(コンビのもう1人リチャード・ウェッブの方は少々年上)

クェンティンのパズルシリーズについては私は「悪女パズル」1冊しか読んでいなかった、今回で2冊目である
そりゃ高値の古本漁るとか、未訳のシリーズ作が論創社などから刊行されたときは迷ったが結局手を出さなかった
まぁ私がこのシリーズにあまり興味が無かったのもあるし、こういう”幻の未訳・絶版もの”って名前だけ伝説化してしまう風潮なのも気に入らなかった
しかし最大の理由は、順番的にシリーズ初期の第1、2、3作目が読めないというのが致命的だと思ったからだ、いずれ刊行されるだろうと
創元は律儀だよな、他の出版社ならシリーズ最高傑作と言われる第2作「俳優パズル」をまず先に出して様子を窺うところだろうが、知名度的には地味な第1作目を先行させるんだもんね
発表順主義な読者には創元という出版社が人気なのは分かる

まぁそんなわけでストイックにシリーズ初期作が出るまで待ってたからには順番通り、第1作目からだ
クェンティンのデビュー自体はもっと前だが、このパズルシリーズが始まったのは1936年で意外と遅く、第2作「俳優パズル」が1938年、その後は戦争のブランクが有って第3作以降は戦後に書かれている
パズルシリーズという通称から黄金時代らしい本格派シリーズと誤解されやすいが、実は行き詰っていたアメリカン本格派の戦中戦後にかけての質的変化の潮流に乗っかった作風と解釈すべきだ
それ故にかパズルシリーズというのはサスペンス小説的要素を絡ませた本格であって、活躍時期の近さや作風の変遷などから見てもマクロイなどと同列に見るのが正しい位置付けだと思う
トリック一辺倒から袋小路に入った黄金時代末期の他のアメリカ本格派作家達と同じ轍を踏まなかったのだ、こうした面は再評価する必要が有ると思う
このシリーズ第1作は、まだ夫妻でなかったダルースとアイリスの出会いなども描かれているし、シリーズに初めて接する読者だったらまずこれから読むのがベストだろう
この時期のクェンティンらしい軽くて明るい謎解きで気楽に楽しめる、翻訳も良い、この訳者はクェンティンだと「死を招く航海」と同じ翻訳者なんだな

No.4 7点 二人の妻をもつ男- パトリック・クェンティン 2012/06/28 09:58
* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年に当たる作家は意外と多い、今年の私的テーマ”生誕100周年作家を漁る”の第5弾、クェンティンの4冊目
合作コンビの内の1人、ヒュー・ホイーラーも生誕100周年である(コンビのもう1人リチャード・ウェッブの方は少々年上)

クェンティンは時期によって合作パターンが変遷した作家だが、戦後の後期になると合作の片割れウェッブが健康問題でリタイアし、もう1人のホイーラー単独執筆時期となる
その後期作の中で最も知られているのが「二人の妻をもつ男」だろう、と言うか昔のファンにとっては、”クェンティンと言えばこれ!”、みたいな感じじゃないかな
つまりそれだけ初中期作に絶版が多かったというのが原因だったのだが、今後は埋もれた初中期作の復刊や発掘が主流となるのだろうし、またそれによって作者の代表作も初中期作から選ばれる時代になるのだろう
しかし‥だ、将来的には代表作から外されるかも知れないこの「二人の妻をもつ男」だが、実はかなりの名作である
この作を代表作とは見なさない昔からのファンも居たらしいが、それは本格中心主義のファンが初中期の絶版作の復刊を要望する声が多かった風潮と無関係では有るまい
つまり「二人の妻をもつ男」が基本サスペンス小説であり、初中期の本格作品こそがクェンティンの本流と考える人が多かったと言う事だろうね
もっとも初中期の本格作品は私は一部作品しか読んでないので確固たる意見は出せないが、本格がベースだが結構サスペンスをトッピングしているんだよなぁ
どうも基本が本格であることに固執しているのが必ずしも作者に合ってないような‥
後期の「二人の妻をもつ男」では逆にあくまでもサスペンスが基本で、そこに本格要素を散りばめる構成になっており、これが作者の資質に上手く合っていたので名作となったという印象だ

No.3 5点 死を招く航海- パトリック・クェンティン 2012/06/21 09:57
* 今年の私的マイ・ブームの1つ、船上ミステリーを漁る

* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年に当たる作家は意外と多い、今年の私的テーマ”生誕100周年作家を漁る”の第5弾、クェンティンの3冊目
合作コンビの内の1人、ヒュー・ホイーラーも生誕100周年である(コンビのもう1人リチャード・ウェッブの方は少々年上)

初期作「死を招く航海」については、書評の前提として合作の変遷について言及しておくのが必須だと思う
クェンティンは合作の変遷がややこしい事で有名だが、大きく分けると次の3期に分類出来る
第1期は、ウェッブ単独執筆及びマーサ・ケリーやメアリー・アズウェルとの合作時代、これが1935年位まで続く
合作相手が2人とも女性だった事は押えておく必要が有る
第2期はリチャード・ウェッブとヒュー・ホイーラーとの合作期でこれが1940年代まで続く、この時期はジョナサン・スタッグ名義も含めて作品数が多く、一般的にクェンティンと言えばこの時期を連想する人が多いだろう
ただこの時期の作は案外と未訳や既訳でも絶版だったりする作品が多い
第3期はウェッブが健康問題でコンビを離れたホイーラーの単独執筆期で、1950年代以降は晩年まで全てこのパターンである
昔は絶版の多い第2期よりもこの時期の作の方が比較的入手容易だったので、古くからのファンだと第3期の方が馴染み深いという人も居るかも

「死を招く航海」は第1期に属すが、第1期の作は割と最近になってハードカバー版で刊行されたものが中心で、若い読者だとむしろこの時期の作でこの作家を知ったか、逆に昔からのファンが久し振りのクェンティン刊行に飛びついて読んだかのどちらかだろう
ただ昔からも現在も、ファンの復刊や翻訳要望が圧倒的に多いのが第2期で、創元が順次刊行中だし今後は第2期が新訳刊行の中心となるであろう
「死を招く航海」は他のクェンティン作品とは作風がかなり異なっており、合作の変遷を知らなければとでも同じ作家が書いたとは思えない
推測だが謎解きのアイデアはウェッブだろうが、女主人公の活き活きとした語り口調から見ても、実際の執筆は合作者アズウェルだったんじゃないだろうか
お洒落に無難に纏まった軽い謎解きって感じで、軽いっちゃ軽いがコージー派っぽいわけでも無く純粋に普通の本格である
むしろ第2期の「悪女パズル」なんかの方がコージー派っぽい感じがする位だ
後期作とは魅力の方向性が違うが、これはこれで軽い本格として楽しめた

No.2 5点 追跡者- パトリック・クェンティン 2012/06/01 10:00
* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年に当たる作家は意外と多い、今年の私的テーマ”生誕100周年作家を漁る”の第5弾、クェンティンの2冊目
合作コンビの内の1人、ヒュー・ホイーラーも生誕100周年である(コンビのもう1人リチャード・ウェッブの方は少々年上)

「追跡者」は中期から後期にかけての頃のノンシリーズ作である
題名通り追跡する話なのだが、結構紆余曲折が多い
て言うかさ、そそもクェンティンには話が錯綜するプロット自体が多い、読んだ中ですっきりしたプロットって「二人の妻」くらいだ
「二人の妻」は後期のホイーラー単独執筆時代の作だから、やはり合作ってややこしいのかね
そんなわけで読んだのが相当昔ということもあり、細かいプロットなんて覚えてねえや、まぁとにかく単純なプロットじゃなかった印象だけはある
どうもパズルシリーズなんかだと持ち味の複雑なプロットが上手く機能してない感じなんだよなぁ、その点この「追跡者」はまぁまぁ良い方向に働いているのかな

No.1 6点 悪女パズル- パトリック・クェンティン 2012/04/27 09:59
本日27日に創元文庫からパトリック・クェンティンの初期パズルシリーズ第1作「迷走パズル」が刊行される
これが他社だったら、まず「俳優パズル」を復刊して様子見てってな順番だろうが、ファンの間で復刊要望の高い「俳優パズル」を後回しにして、順番としてシリーズ第1作目から手を付けるなんていうあたりがいかにも律儀な創元らしいよな

* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年に当たる作家は意外と多い、今年の私的テーマ”生誕100周年作家を漁る”の第5弾はクェンティンだ
合作コンビの内の1人、ヒュー・ホイーラーも生誕100周年である(コンビのもう1人リチャード・ウェッブの方は少々年上)

マクロイなんかもそうだが、幻の絶版本が有って予てから復刊要望が寄せられるような作家の場合、悪い意味で一種の伝説化してしまう傾向が有る
クェンティンもそんな典型的な1人(2人だけど)で、特にパズルシリーズっていうと神的に崇め奉られてる印象が有るんだよな
その最大原因と思われるのが”パズルシリーズ”という通称である、この通称からガチガチの論理パズラーみたいに誤解されやすい風潮を生んでしまったのがこのシリーズの一番の悲劇なんじゃないかなぁ
トリック一辺倒だったアメリカ本格派は黄金時代末期に行き詰まり戦中戦後にかけて質的変化を起こしていく
この時期のアメリカン本格派作家達はヘレン・マクロイなどのようにサスペンスタッチの変化球的本格に移行していくわけだが、クェンティンのパズルシリーズも同系統だと思う、少なくとも黄金時代真っ只中の本格派とは異質だ
まさにアメリカン本格の辿った変遷潮流に乗ったシリーズと解釈すべきである
そう考えると、ちょっとごちゃごちゃしたプロットも必然性が有ったと見なせる気がする、パズルシリーズは再評価されるべきなんだろうな
ただこの「悪女パズル」はごちゃごちゃし過ぎて上手く纏まっていない印象は有る

※ (追記)
その後「俳優パズル」も読んだが、私はこの「悪女パズル」よりも「俳優パズル」の方が好きだ
何故かと言うと、「悪女パズル」を「俳優パズル」より上に評価する読者というのはいかにも本格派らしい真相を求める読者な気がするのだ、私は「俳優パズル」のちょっとスレな真相の方が好きだ

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