皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
こうさん |
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平均点: 6.29点 | 書評数: 649件 |
No.349 | 5点 | 夜に消える- ハワード・ブラウン | 2009/01/03 23:41 |
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「血の栄光」などで有名なジョン・エヴァンズが本名で書いた作品です。(個人的にはエヴァンズ作品は未読ですが)
大手広告代理店重役エイムズが主人公で妻、幼い娘と三人で長期休暇で旅行し車で帰宅、娘を寝室に寝かせ自分がシャワーを浴びて気づいた時には妻レオナが消え去っていた、という発端から始まる作品で出だしは非常に魅力的でした。 隣家の夫妻の夫マークも同じ時間に消え失せてしまいまもなく近所で頭部を一撃され重体となって発見されて、警察は露骨にレオナ殺害、死体遺棄容疑で主人公を追い詰めるが主人公は独力で妻の行方を追う、というストーリーです。 レオナ消失のトリックも実行不可能なもので主人公が現実に気がつかないのもあり得ないものです。 主人公が自分の職業を利用して行方を追う所は通俗ハードボイルド作品と一線を画しているとは思いますが、主人公が真相をつかんだのも明らかに偶然であり合理性には乏しいです。 また出だしの段階で明らかに主人公を容疑者扱いする警察の対応も安直なハードボイルド作品の私立探偵の扱いと同様で好きではありません。 出だしが魅力的なだけに残念な作品でした。 |
No.348 | 5点 | 死の内幕- 天藤真 | 2009/01/03 23:27 |
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うっかり愛人をつきとばし殺害した、と告白した女性が友人である内縁関係のある女性のグループに相談、架空の犯人をでっち上げたところ架空の犯人に瓜二つの人物が現れて、というストーリーです。
でっちあげにしては服装の描写まで一致することはまずなさそうなのでリアリティは低いですしまともな捜査をすればいくら昭和30年代でも容易に容疑者を絞り込めるだろうとは思いますがストーリーは天藤作品らしくよく考えられ、ほのぼのとした雰囲気で進みます。 ストーリーは当然展開して本当の犯人は、という流れになるのですがこの本当の犯人の造形は好きではないのと他作品とちがいストーリーがこじんまりして主要登場人物も少ないため予想がつきやすく驚きが小さいのが難点です。 「犯人」の心情の変化などの描写は上手いと思いますが他作品に比べればやはり小粒かと思います。 ただ一か所個人的に傑作と思っている都筑道夫氏の「猫の舌に釘を打て」に言及しているところがありその点はうれしくなりました。 |
No.347 | 8点 | 鶯を呼ぶ少年- 日下圭介 | 2009/01/03 23:15 |
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これも「木に登る犬」同様良質な社会派的短編集です。「木に登る犬」と同様推理作家協会賞を受賞しています。
主人公が事件にまきこまれ思わぬ誤解でストーリーが急転する、というスタイルが多いですしその点はある意味ワンパターンかもしれませんがしみじみとする筆致も含め個人的には満足です。 社会派的な作品としてはお手本の様な作品集だと思います。 |
No.346 | 6点 | 赤毛のレドメイン家- イーデン・フィルポッツ | 2009/01/03 23:04 |
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海外古典で日本ではミステリの人気投票で「Yの悲劇」と1位を争っていた作品の様です。
現代では残念ながらミステリとしての瑕は多い作品だと思います。明らかにアンフェアな描写、警察官(メインは一人だけですが)のあまりにも無能な点、トリックも通用しないトリックですし、訳もかなり古いので読みにくいです。 ただ、犯人の造形については1922年作ということを踏まえると素晴らしいです。その部分は個人的には評価したいです。 フィルポッツはこれしか読んだことがないのですがヘクスト名義の作品が面白い様なのでそちらに期待しています。 |
No.345 | 4点 | 壁抜け男の謎- 有栖川有栖 | 2009/01/03 22:53 |
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「ジュリエットの悲鳴 」以来のノンシリーズものですがまともなミステリは2~3作のみです。
有栖川有栖ファンなら楽しめるかもしれませんがミステリを期待すると正直いまいちです。 |
No.344 | 6点 | 乱鴉の島- 有栖川有栖 | 2009/01/03 02:53 |
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CC物ですが別に連続殺人が次々に起こるわけでもなく、被害者候補である各キャラクターの描写もそれほど強い印象もなく印象としては地味でした。
殺人動機がわからなくてもロジックで犯人が絞れることを重視していると思われますが二人目の殺人については個人的にはロジックもあったものではないと思います。 また「島に集まった目的」も最後まで興味を引っ張りますが最後に明かされても正直納得いきかねるものです。作者が書きたいのであれば自由なのでしょうがもう少し受け入れやすい内容の方が読後感が良くなると思うのでその点も残念です。 どうしても有栖川有栖のCC物だと過大な期待をしてしまいますが期待した内容と違った、というのが正直なところです。 |
No.343 | 7点 | コンピュータの身代金- 三好徹 | 2009/01/03 02:41 |
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シリーズキャラクター「泉」が主人公で「コンピュータ」を人質に10憶円の身代金を要求するクライムサスペンスです。
主眼は誘拐小説同様どうやって10憶円を手に入れるか、何故「コンピューター」を人質にしたか、ですが良く考えられています。 当時と今では携帯電話がないだけでも全然ストーリーが変わってきますしハイテク技術、あるいは法律の違いなどで現代では同様なことはそもそもありえないのでしょうが1980年代をイメージできる方には受け入れられるのではないかと思います。 主人公のキャラクターも魅力があるかはともかく、「血を好まず知能で勝負する」像がうまく描写されています。 ただしストーリーの結末もかかわってくるので詳細は控えますが主人公の読みにはかなり不満が残ります。 この手の作品の中では時代を割引けば良くできていると思います。 |
No.342 | 6点 | 急行エトロフ殺人事件- 辻真先 | 2009/01/03 02:24 |
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ポテト、スーパーの二人が登場するシリーズの番外編?です。
プロローグで軍国主義真っ只中の「昭和50年代」が描写され、その後アメリカに宣戦布告前の「昭和19年」を舞台にポテト(牧薩次)、スーパー(可能キリコ)のメインキャラクターはそのままでストーリーは進んでゆきます。 詳しくは書けませんがメタミステリぶりが十分発揮された作品ですが第二次大戦前後の知識が足りないと笑うべき所で笑えないかもしれません。(十分常識の範囲内ですがあとがきで作者が触れている通りで年月が経つほどに作者の伏線がわからない方が出てくるのが逆に怖いです) 「急行」とタイトルにあり「時刻表」も作品中に出てきますが別にアリバイトリックなどは出てきません。 作品をざっとみてその構成を見て楽しめれば良いと思いますがメタも現在では当たり前になっているのでさほど感心できないかもしれません。個人的には25年前の意欲作として評価したいです。 |
No.341 | 9点 | 世界短編傑作集3- アンソロジー(国内編集者) | 2009/01/03 02:04 |
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世界短編傑作集5冊の中では一番有名作が集まっていて出来が良いのでは、と思います。
所謂古典短編集なのでトリックだけは既に知っているものが多いと思いますし一種「推理クイズ」様なものも多いですが、そのオリジナルに触れるというだけでも価値があるかな、と思います。 バークリーの「毒入りチョコレート事件」の元ネタである「偶然の審判」も収録されています。「毒入りチョコレート事件」を読む前に一読されることをお薦めします。逆だと全く面白くないでしょう。 作品もしくはトリックが有名なのは(だと思うのは)「キプロスの蜂」、「茶の葉」、「密室の行者」、「二壜のソース」、「ボーダーライン事件」といった所でしょうか。 クリスティの「夜鶯荘」もシリーズ物ではないですがサスペンスとしてまあまあです。個人的にはウイリアムカッツの「恐怖の誕生パーティ」はこれを元ネタにしているのではないか、と思っています。 恐らく大多数の方はほとんどの作品、トリックが「読んだことある」感じがすると思いますが、オリジナルに触れる価値は十分にあると思います。 |
No.340 | 6点 | 北村薫の本格ミステリ・ライブラリー- アンソロジー(国内編集者) | 2009/01/03 01:52 |
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この作品集ではやはりクリスチアナブランドのジェミニークリケット事件のアメリカ版が入っているのが魅力です。「招かれざる客たちのビュッフェ」に入っているのはイギリス版でラストが違うだけですが正直アメリカ版の方が良いかなと思います。興味がある方は比較をお薦めしますが先に読んだ方に影響されるかもしれません。
他作品はあまりこてこての本格集とは言えません。中では「ケーキ箱」がまあまあ良かったです。 あとは吉行淳之介 の「あいびき」は作者が作者なだけにこんな小説を書くとは、という驚きがありました。 全作品気に入る方はまずいないと思いますが個人的には一作品でも気に入った作品が見つかればまあいいかなと思います。 |
No.339 | 6点 | シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険- ニコラス・メイヤー | 2008/12/24 00:53 |
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数あるホームズ物パスティッシュの一作ですが軽い読み物として楽しめると思います。
ホームズのいわゆる「最後の事件」からその後の失踪を説明づけている内容で「ホームズは重症のコカイン中毒だった」という所から話を膨らませ「フロイト博士」に治療させる、という内容ですが所々のホームズらしい初対面の相手の人となりを推理する薀蓄などは本家を上手く踏襲していると思います。 シャーロキアンには十分な内容ではないでしょうが数あるパスティッシュの中では上出来だと思います。 |
No.338 | 8点 | 法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー- アンソロジー(国内編集者) | 2008/12/24 00:34 |
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法月氏本人の作品ほどロジック集になっていないのが意外な作品集でした。
個人的には何といっても中西智明の「ひとりじゃ死ねない」が良かったです。このアンソロジーが出た時にはまだ「消失」が復刊されていなかったため中西智明という名前も初お目見えしましたが面白い作品でした。「消失」が再版された今ならば読者もある程度予想がつき衝撃は低いでしょうし確かに作品の構成も粗いですがつぐつぐ前情報なしで読めて良かったと思います。 少なくとも「消失」が高評価な方はこの作品のためにも買われることをお薦めします。点数はこの作品のみの点数で他作品は「法月綸太郎」風を期待すると拍子抜けすると思います。 尚ミステリ作家ではない大平健氏の作品も個人的には大好きなのですがその未読の一作が入っていたのも収穫でした。 |
No.337 | 7点 | 有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー- アンソロジー(国内編集者) | 2008/12/24 00:25 |
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個人的にはアンソロジーは一作品でも埋もれた作品が見られれば満足なのですが、この作品では海渡英祐の「「わたくし」は犯人」が一番気に入っています。この作品を読んでから氏の「閉塞回路」を手に取るようになりましたが傑作でした。
他にも有名なトリックであるロバートアーサーやハイデンフェルトの作品が読め大満足だった覚えがあります。 個人の短編集だと全体として面白くないと不満ですがこういうアンソロジーですと何作か面白ければ個人的には満足です。 |
No.336 | 6点 | 殺人者志願- 岡嶋二人 | 2008/12/24 00:15 |
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借金に困った夫婦が親戚に依頼された殺人に挑むストーリーですが、内容は岡島作品らしい明るさであふれていてあまりサスペンスフルではありません。
殺人を断念したところで死体が入れ替わる下りは良く考えれば予想がつく真相ですが明るい作風だけでなくきちんとミステリとして体裁をとっているのは流石です。 ラストもある意味能天気な結末ですがまあまあ楽しめました。 |
No.335 | 10点 | ジャッカルの日- フレデリック・フォーサイス | 2008/12/24 00:09 |
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これは国際謀略小説、ポリティカルスリラーの最高峰だと思います。
ドゴール暗殺計画を題材にした作品で実際に暗殺未遂事件があったドゴールを取り上げるだけでなく実在の人物が登場しこの部分は事実ではないか、と思わせる筆致が凄く、また当時の国際情勢の描写などいうことありません。自分が読んだときには既にブームは過ぎていましたがこのドキュメントタッチのスリラーが出た当時は衝撃作だったのは間違いないと思います。 主人公はプロの暗殺者「ジャッカル」で彼を追跡する刑事との勝負なわけですが当然「ドゴール暗殺計画」なので失敗といった結末は読者は誰でも知っているわけですがジャッカルのプロフェッショナルぶりに見せられ暗殺成功を期待してしまうくらいでした。 フォーサイスは4作目の「悪魔の選択」からはこれまでの事件を素材にせずいわゆる現代、近未来を描くスタイルに変化しましたがそれほど面白くありませんでした。それはフォーサイスの未来予想図が外れてしまうため仕方ないことだと思います。やはり初期三作とくに「ジャッカルの日」は一読に値すると思います。 |
No.334 | 10点 | 高い砦- デズモンド・バグリイ | 2008/12/23 23:55 |
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冒険小説のお手本と個人的には思います。これを読んだ高校生の頃はまだこの作品以外も普通に書店にありましたので「マッキントッシュの男」くらいまで読みましたがいずれも面白かった覚えがあります。
ハイジャックされた飛行機のパイロットが主人公でアンデス山中に強行着陸する犯人と乗客の一部が死亡、残った10人が救助を求めて下山するが乗客の中に元大統領がいたことが判明、彼と一緒に乗客全員をまとめて殺すために謎の一団が襲撃してきた。生き残りをかけて乗客たちが手元の材料から武器を作り上げ反撃して、というストーリーで乗客たちの職業、キャリアを生かしており非常に面白かったです。 「アカ嫌い」が全面に出ているのは時代性からやむを得ないですがはじめはバラバラの他人である10人が一丸となって敵にあたり(相手は共産主義)最後に勝利するという冒険小説のお手本と言える内容でしょう。 初期作はいずれも面白かったですが個人的にはやはり高い砦が一番だった覚えがあります。今ではこの作品くらいしか簡単に手に入らない様ですが冒険小説好きの方ならこの作品だけでも手に取る価値はあるかと思います。 |
No.333 | 7点 | ロシア紅茶の謎- 有栖川有栖 | 2008/12/23 23:34 |
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この頃の作品はロジカルなつくりの短編が多かったなあと今更ながら思います。「屋根裏の散歩者」「ロシア紅茶の謎」が個人的には気に入っています。
「八角形の罠」は舞台用の脚本のノベライゼーションの様ですが確かに舞台映えしそうな内容ですが犯行動機、トリックは大したことがなかったです。 しかし全体としては今のところ国名シリーズ短編集では一番良いと思います。 |
No.332 | 4点 | 香子の夢−コンパニオン殺人事件- 東野圭吾 | 2008/12/22 01:11 |
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本格的テイストも入った作品ですがやはり軽いミステリだと思いました。真相につながる「カセットテープ」もそろそろ若い人には分からなくなってきていると思い本質と関係ないところで時代を感じました。
残念ながら東野作品というよりあの頃乱造されていたミステリの一冊の域は超えないと思います。 |
No.331 | 6点 | 仮題・中学殺人事件- 辻真先 | 2008/12/22 01:03 |
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メタミステリの大御所?の処女長編作です。ポテト、スーパーの若い男女がシリーズキャラクターです。
この作品は「読者が犯人」ということに挑戦しておりまた作中作、作中作の作中作というスタイルをとっており正直早すぎた作品、といった印象があります。 作中のミステリは小ぶりですがこのスタイルは楽しめました。個人的には航空機事故を起こしたパイロットが胸をナイフが刺さった状態で墜落死する下りで「誰もいないはずの部屋」で「貴様」と叫んだあと墜落死する下りが好きです。正直これも発売当初は新しすぎたのでは、と思いますが。 ずいぶん前に読んだのですが今年「牧薩次」の「完全恋愛」が発売されていたのを今週知ったので入れてみました。 ミステリとしての出来はともかく作風、趣向は大好きな作家です。個人的には都筑道夫氏が亡くなった今メタミステリでは辻氏を超える方はいないのでは、と個人的には思っています。 |
No.330 | 7点 | 切り裂かれたミンクコート事件- ジェームズ・アンダースン | 2008/12/22 00:45 |
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2年前たまたま書店で見つけて狂喜した「エッグコージィ」の続編です。
今回もオールダリー荘へ様々な人物が集まりそこで殺人事件が起こりそこへウイルキンズ警部がいやいやかけつけ事件を解決する、というスタイルで前作のスタイルを踏襲しています。 いわゆる古き良き本格のスタイルでありそのミステリパロディシリーズなのですがパロディではなくミステリがメインなので個人的にはとても好きです。 プロローグは謎の女の独白、それから前作引き続きの伯爵一家の紹介、その後各登場人物が紹介され「お屋敷」に向かう様が描かれ、やがて全員が集合したところで殺人が起きて、というお約束通りです。 前作同様登場人物が一癖も二癖もあり真相がわかる前に暴かれる登場人物たちの正体、狙いが相変わらず面白いです。 また今回は海外作品でよく見られる「名探偵への皮肉」を見せる為に「オールグッド警視」というキャラクターを配し効果を上げています。 ミステリとしての出来は前作の荒唐無稽ぶり、バカミスぶりには及ばず「ミンクコート」もあまり効果を上げていませんが前作が楽しめた方には十分楽しめると思います。解説によると第三作がある様ですが是非出版してほしいです。 |