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[ 本格 ]
チューダー女王の事件
ルドヴィック・トラヴァースシリーズ
クリストファー・ブッシュ 出版月: 1959年01月 平均: 5.50点 書評数: 2件

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東京創元社
1959年01月

No.2 6点 弾十六 2024/03/04 07:34
1938年出版。トラヴァースもの第18作。国会図書館デジタルコレクション(NDLdc)で読了。元版は創元推理文庫(1959)。少しほっておくと接続が切れるが続けて読むぶんにはストレスは全くなかった。再接続も簡単、色味や拡大率も調節出来るので老眼族にはおすすめですよ。古くて綴じが緩い貴重本を壊さないかなあ、と大事に扱う必要もないし。さらに全文検索がついていてとても便利。
参照した原書Dean Street Press 2018はKindleで500円程度。Curtis Evansの序文付き。トラヴァースものはこの出版社が全作品を復刊しているようだ。
翻訳は1ページに一箇所くらいヘンテコなのがあって、まあ大筋は大体わかるのだが、文章の前後がつながらないところが多いので、真意をあれこれ考えて読書が中断してイライラする。原書がなかったらストレス溜まりすぎ物件。一番ひどい誤訳はラストのトラヴァースの感情部分。ここをこんな風に誤読してるんなら、私が気づいてない誤りがもっとある可能性がある。絶版もやむなし、と思うが、タダで英語のお勉強が出来たので、私としては結局面白かったけど…
もともと私はミステリ的な工夫とか、犯人当てに興味があんまりなく、当時の生活の細々した部分や当時の人々の(今となっては)意外な感覚などが描かれていれば満足しちゃうので、この作品自体もかなり面白かった。じゃあなんでわざわざミステリを読むの?と言われると、実は探偵小説って、そういう生活の細部を書いてないと推理の手がかりにならない。なので、普通小説よりも普通の生活を知るのに適してると思う。ヴァンダインも似たようなことを言っていて、それな!と思ったことがある。
それで私はミステリ的な細かい部分はほぼ薄目で読んで、本作にもタイムテーブル的なものもちょっと出てくるが全然検討すらせず、読み飛ばしに近い。そんな読み方で言うのもなんだけど、ミステリ工夫も割と良いのでは?と感じた(感じだけなので信用しないでね)。
いつもブッシュ作品に感じる、長編化されたヴィカース『迷宮課事件簿』という印象は本作品が一番強かった。やっぱりそうじゃん、と自画自賛。
本作で残念なのはインクエストの描写。英国読者はこれで理解できるの?と驚きだ。オモテではっきりものを言わない捻くれ者のブッシュさんだけど、あの表現で良いんですかね? (発表予定のインクエスト記事のネタになるので個人的には嬉しいが…)
以下トリビア。
作中現在はp200が決定的で1937年。p9から四月初旬の水曜日、4月7日でほぼ確実。英国社会の大イベント復活祭はその年は3月28日なので全く話題にものぼっていない。
価値換算は英国消費者物価指数基準1937/2024(85.37倍)で£1=16218円。
p(該当なし) 献辞 To / MOLLY PETRIDES / with love and good wishes◆ 翻訳されてないが原書には献辞があった。誰かは不明
p8 関係地名の簡易図面◆ 原書では第14章なかごろについていた。タイトルは「トラヴァースの旅」 もともとは第14章専用物件ということ。
p9 原書では PART ONE * Presentation となっている。第13章以降はPART TWO * Solution、一応、翻訳時の底本と思われるPenguin版(1953)もみたがちゃんとサブタイトルが付いていた。なんで訳者は省いたんだろう。
p9 ジャーシイ(Jersey)
p9 リンプヤード(Limpyard)◆ 架空
p9 ポーツマス街道(Portsmouth Road)
p9 四月の早春。水曜日(early April, the day a Wednesday)
p9 車には(in the Rolls)◆ 「ロールス」をなぜ省くかなあ
p9 街灯の柱ほどの背たけがあった(lamp-post length)◆ 誇張文の誤解?と思ったが、原文の直訳。試訳「街灯みたいにヒョロ長く」
p9 角笛型の眼鏡(horn-rims)
p10 警視庁はあまりうるさくいわなかったから(the General, as the Yard not unaffectionately knew him)◆ 何のつもり?試訳「警視庁では他人行儀でない感じで「大将」として知られていた」
p11 温和な意見(the suave theories)◆ suaveは「上品な」、theoryは「仮説」のニュアンスだろう。読み込みが浅い。
p11 生まれながらに氏も育ちもよかった(born with a gold spoon in his mouth)◆ ここはgoldが肝心。試訳「金の匙をくわえて生まれた; 最上級の家柄だった」
p11 いやしい身分(the ranks)
p11 個人的な召使(personal servant)
p11 走り使い(houseboy)
p11 従者(valeting)
p12 くちの中でふうふう言った(grunted)◆ 変な日本語感覚。試訳「唸った」
p12 私が方向探知機の役をつとめる(I’ll keep an eye out for a direction post)◆ 試訳「私が案内標識を見つけてやるよ」 誤訳だがぼんやり趣旨は当たっている。欧米でよくある、交差点などで、柱に「あっちは◯◯」と書いた矢印板が何枚も貼ってあるやつ。辞書になかったのでお手上げか?(リーダース第三版にちょっと違う形で載ってた)
p13 その顔つきは、いくぶん抜け目なさそうで、とっつきにくかった(with a face that had in it something calculating and hard)◆ もっと中立的で良いだろう。試訳「〜何か思案してる感じで、固かった」
p14 アーンフォード(Arneford)◆ 架空
p15 まったくお美しい(A very charming)ずっと後の方で「美人ではない(She wasn’t a beauty)」と言われてるので、ここでこう言っちゃあダメだよ。試訳「とても魅力的」
p15 オディロン座(Odilon)
p15 <かたくなな心>(Stony Heart)◆ 架空の劇の題名。エゼキエル36:26 (KJV) A new heart also will I give you, and a new spirit will I put within you: and I will take away the stony heart out of your flesh, and I will give you an heart of flesh.からか?(文語訳)我新しき心を汝等に賜ひ新しき靈魂を汝らの衷に賦け汝等の肉より石の心を除きて肉の心を汝らに與へ
p15 とてもお美しかったでしょう?(Lovely in it, wasn't she?)◆ ここもp15のcharmingと同じ。試訳「素敵だったでしょう?」 lovelyは女性語で現代語の「カワイイ」だと勝手に思ってます。
p15 気まぐれ娘(A rather jerky young person)◆ 試訳「ちょっとピチピチした若いこ」
p16 駅からどう見えるか、それを知りたかったんです(I didn’t know how she was coming)◆ 「駅から」は全く不要。試訳「どうやって来るのか知らなかったんです」 ここは車か、列車か、どの手段で別荘に来る予定なのか知らなかった、ということ。まあこんな感じで誤訳や誤解たっぷりの文章が続く。真面目に読めばつながりがオカシイと絶対気づくはずなので編集者の責任は大。キリがないので以下はよっぽどのヘンテコ物件だけ挙げる。かなりのヘンテコでもネタバレ回避で提示できなかったものが結構あるけどね。
p17 女中兼衣装係(maid and dresser)
p17 ウェストミード(Westmead)◆ 架空
p17 大西街道(Great West Roads)
p17 家僕(indoor servant)
p18 デイリー・レコード◆ トラヴァースものでお馴染みの新聞
p18 なぜご主人は、XXXX曜にやって来なかったんだ?(why shouldn’t she have come down on XXXXday?)◆ shouldも間違いやすいよね。ここも文の前後で明白にヘンテコ。should have not+過去分詞で「するべきではなかった…」という意味。試訳「なぜXXXX曜に来ちゃダメだったんだ?」
p21 錠はエールだ(lock is a Yale)
p21 窓のかけ金(the catch of the window)◆ catchは「錠受け」としたいなあ。誰かミステリ密室小説の錠前関係の用語集を作ってくれないかなあ。乱暴な翻訳だと全部「掛け金」になってるのがあるよ…
p24 ソーレント(Solent)◆ 定訳は「ソレント海峡」のようだ
p25 あの女は、どんなタイプの男が好きだったんだろう?(What’s she like herself?)◆ likeを動詞だと思ったんだね。試訳「彼女の方はどんな感じだ?」
p26 日曜新聞(the Sunday press)
p27 ガタガタ馬車(hell–wagon)◆ ここも当時のオモシロ、スピード狂のお笑いネタ。
p28 煉瓦づくりの柱に『アーデン』という門標(the name–plate Arden on the brick pillar)◆ 英国では屋敷を勝手に命名する習慣がある。アガサさんの「スタイルズ荘」など。あまり大仰な名前は中産階級的、と笑われるらしい。アーデンは、the Forest of Arden(イングランド中部の森林地帯)沙翁As You Like Itの舞台、が由来か。
p29 じゃあ、人声はしなかったんだな(You can’t make anyone hear then?)◆ 試訳「誰にも聞かれないようには出来なかったようだな」 ちょっとヒネくれの台詞。ストレートに言えば「しくじったな。物音が聞こえたぜ」
p33 昔の馬丁(an ancient ostler)
p34 賭けてもいい(for a fiver)◆ 意味はあってるけど「5ポンド札」で確実ぶりがわかるので残して欲しいなあ。なお当時の五ポンド札は証券みたいなWhite Note
p36 おのずから育ちが違っていた(he had never grown indifferent)◆ 呆れた誤訳。試訳「無感覚にはなりきれなかった」職業人とは違い慣れることは出来なかった、という事。
p42 珠那(ほうろう)張りの鏡(enamel-backed mirror)
p53 二十ギニー(Twenty guineas)◆ やはり美術品はギニーで売り買いされる習慣なのだろう。
p53 出馬(でんま)表(race-cards)◆ 当時の現物写真を見つけられず
p58 古いパイプが入っているのは虫よけだ(Uses his old pipes to keep moths away)◆ 生活の知恵。私はこういうのが楽しい。
p59 九ペンスか一シリングで買える類の小型の日記(a little diary book of the sort that sells for ninepence or a shilling)
p61 最後にトラヴァースが試みたかったのは、XXXXがどうしてそんな表情をしているのか、しらべてみることだった(the last thing Travers wanted to do was to make another ghoulish examination of the XXXX’s face)◆ 愚劣な直訳。試訳「トラヴァースは、XXXXの顔をさらに詳しく調べるなんて真っ平御免だった」
p68 ミルクといっても離入りしかない(there was only tinned milk)◆ 当時は家庭用冷蔵庫が普及しておらず、新鮮な牛乳は個配でしか手に入れられなかったのだろう。
p70 日曜にお給料を(paid on Saturday)◆ ケアレスミス。使用人の給料日。週払いだったのか。
p70 フットボールの賭けや、くだらない安直な競技会(football pools and the tricky catch-penny competitions)
p71 手当ては週1ポンドと食事つき(His wages were a pound a week and his keep)◆ indoor servantの給金
p72 カドマース(Cadmarsh)◆ 架空
p72 ケームブリッジ(Cambridge)◆ センスのないカタカナ表記。発音は合ってるのかな?
p73 かたくるしくて、お上品(prim and proper)◆ 成句。とても伝統的で道徳的な保守的信念をもち、いつも間違いのない行動をし、礼儀のマナーを絶対に破らない人。
p73 りっぱな家がらの出(came of a good family)◆ 毛並みの良さより「お金がある家」のニュアンスらしい。後段で「父親はvicarだった」と言っている。vicarは地域の名士のようだが… 調査不十分
p74 そのことは聞いている(That’s news to me)◆ なぜこうなる?試訳「初耳だ」
p75 離婚に対しての仮判決(obtained a decree nisi)◆ 当時の離婚は六か月の待機期間があった。その間に何か発覚したら離婚は無効となる仕組み。離婚は英国の場合、両者が合意していても必ずめんどくさい裁判が必要だった。アガサさん(1927)やバークリー(1930)は経験者。ブッシュも一回経験しているはず(1929年ごろか)。
p80 安手のおねえちゃん(A cheap little hussy)
p80 新聞にのせる死亡記事の片をつけてしまう(go through those press obituaries)◆ ここは「いろんな新聞に載っていた死亡記事を読む」という意味だろう。警察が死亡記事を書いてのせるわけ無いよね。
p82 ポケットから銅貨を一枚(a coin from his pocket)… 「表か裏か?(Head or tail?)」 / 「女だ(Woman)」 / 「表だよ、君の負けさ(It’s head and you’ve lost)」◆ 当時はジョージ五世(1910〜1936)〜ジョージ六世国王(1936-1947)なので、Headは男の肖像。ここでWomanと言ったらTailなんだろう。(2024-07-16追記: 表が国王の肖像で「男」、裏が「女」のデザインのコインがあった。1ペニー又は1/2ペニーでブリタニアの坐像。ここは大きい1ペニーだろう)
p83 だれかさんはきっと喜ぶ(I know someone who won’t be sorry)
p84 E・A・M(English Associated Motions)◆ 架空のようだ。英国映画協会、というような感じか
p85 百十二ポンド(Eight stone)◆ 原文では体重の単位は全てstone
p88 すぐに自分なりの方法で始め、最後にXXXXが寝台を…引きついだ(were soon in each other’s way and it ended by XXXX taking over the bedroom)◆ ここも後の文章と繋がらない翻訳。どっちがどこを調べるか、ひと揉めあって、結局XXXXが寝室担当となった、ということ。
p90 私立探偵事務所の発行した32ポンドの領収書(A receipt from a firm of private inquiry agents for thirty-two pounds)◆ 当時の相場の参考資料。調査期間は不明だが…
p103 美しい女(A charming woman)◆ やはりbeautifulではなかった。p15参照
p110 特徴(particulars)
p115 獅子の笑い(the smile of a lion)◆ 原文では闘技場で美味そうなクリスチャンを見つけた時の… となっている。
p115 小型の自動車(a small car)
p116 英国放送局(B.B.C.)◆ Portland Placeは本社ビルの住所。
p116 寄席協会(the office of Variety)◆ 原文Varietyはイタリック。 「ヴァラエティ誌の編集部」で良い? 英国にVariety誌のオフィスがあったのかは調べつかず
p116 「ラジオ時報」と「ラジオ画報」◆Radio Times誌は1923年創刊。Wireless Picturesは架空雑誌か。
p117 郵便局へ行き... 電話ボックスにはいっていた(gone to the post-office and had been in a telephone booth)◆ 田舎だと当時、公衆電話は公共施設内に設置されていた。英国名物の赤い電話ボックスK2は1926年からロンドン市内に設置されていたが、ロンドン市外への設置はコスト安デザインのK6で1936年以降のこと。なのでここは「電話室」のほうが誤解がないだろう。
p119 締切後の追加記事や早朝版(the stop-press or the early papers)
p119 影響は少しかなかったはずです(it wouldn’t make any difference)◆ 翻訳文のような刑事のセリフではなく、話題の人物が話していた言葉。試訳「全然違いはねえ、どっちでも良い(と彼は言っていた)」 この段落は最後まで話題の人物のセリフ。ひどい翻訳だなあ。
p120 自制できなかったために、奇跡を行なえなかった賭け好きの話を知ってる(know a punter who hadn’t faith enough to move not mountains but whole damn continents)◆ 山々どころか大陸全体を動かすまでの信念を持てなかったギャンブラー? 調べつかず
p120 午後の〆切が終わったら(when the pub closes this afternoon)◆ パブが昼飯後に一回閉まることを指しているようだ。p161参照
p122 中背で、色黒く(of medium height, dark almost to swarthiness)◆ swarthyは肌が浅黒いという意味だろうから、ここのdarkは肌の色?darkって単純じゃ無いのね。「黒髪で肌も浅黒に近い」という解釈で良いかなあ。
p122 からだつきもよく、色は浅黒で、細面(well built, dark, thin-faced)◆ こっちは別人の形容。このdarkは「黒髪」で間違い無いだろう。
p122 上背があり浅黒で、筋張っていた(tall, dark, and wiry)◆ さらに別人の形容。ここも「黒髪」
p122 お悔みになるとあっさりそれを片づけて(chastely subdued as became the sorrowful occasion)◆ ヘンテコ日本語。試訳「悲嘆の場面にふさわしい厳粛な態度で」
p126 とても顔だちは美しかった(Quite good-looking)◆ quiteは米国ではveryの意味だが英国ではsomewhatのことが多いはず。試訳「顔だちは綺麗なほうだった」
p127 ありふれた表現ですが、彼女はなんでも承知している女でした(I may put it tritely, she was a lady in every conceivable way)◆ 試訳「古くさい表現ですが、彼女はあらゆる意味でレディでした」 私にはlady概念がやっぱりわからない…
p128 クラウンに(a half-crown)◆ 「を」
p130 審問(inquest)◆ ここは「検死審問」がわかりやすい
p130 郵送すればよかったんでしょうか?(could I post it?)◆ ここは間接話法、前の文に続くセリフの一部。試訳「それを郵送できますか、と(私に言った); (意訳すると)それを郵送願います、と(頼まれた)」 ヘンテコな繋がりでも平気な訳者。
p131 本当にXXXXにいるわけじゃありません('d never actually been to XXXX)◆ これもヒドイ。試訳「実のところXXXXに行ったことは一度もありません」
p131 ずうっといなかに潜在しているようにみうけました(looking forward to her stay in the country)◆ これもヒドイ。試訳「田舎暮らしを楽しみにしていました」
p132 フレッチャーの照明器具(the new Fletcher lighting)◆ 調べつかず
p133 三時のお茶がすむまで(till after tea)◆ 原文にない時間の付加はいただけない
p134 ルイズ侯爵夫人(the Princesse Louise)◆ 原文イタリック。そしてthe がついてるよ。客船の名前だろう。「プリンセス・ルイーズ号」
p135 彼女はうまくやってくれるかな?(she has done rather well, hasn’t she?)◆ 「彼女はちょっと上手いことやった(良い相手に巡り合った)よね?」というギャグだろう。Web記事で玉の輿に乗った女性を、この文句で評してたのがあった。
p136 自分で十シリングかけろ、私は四シリングかける(he was to put ten bob on for himself and ten for me)◆ 原文の通り10シリング+10シリングじゃないと1ポンドにならない。
p140 形式的な審間(the formal inquests)◆ 「公式のインクエスト」
p142 修証罪(Perjury)◆ インクエストにおける証言は民事や刑事の法廷で証拠とは見做されないはずだが(なぜなら反対尋問が行われていないので証拠として確立していないから)、偽証をすると別途訴えられるようだ。2000年に警官がインクエストでの偽証で訴えられている。昔からそうなのかは未調査。
p147 楽士たちや映画俳優が流行させた… その口ひげ(That streak of moustache, so popular in the dance band and film worlds)
p157 上等のヨーク・ハム(a very nice York ham)
p159 今の時代なら、気遣いでも、無帽の婦人でも、ちっとも奇妙に思わない(in these modern days, there was nothing odd about a woman either distraught or without a hat)
p159 ミルス手榴弾をなげる(throwing live Mills bombs)◆ ここはliveが重要。「本物の」で伝わる? 実際にピンが抜かれて爆発直前、という意味なんだが… 「爆発直前」で良いか。
p160 彼の推理は、解決への道をたどっていた(his resolutions gone)◆ 試訳「彼の推理はどこかに吹っ飛んだ」 やれやれだ…
p161 二時が二十分ばかり回った(about twenty minutes past two)… 「看板」にするところ(just on turning-out time)◆ パブが昼飯どきと夕食どきの間に休む時間をturning-out timeと言うのだろう。辞書でもググっても出て来なかったが…
p165 きたないことをやって(doing the dirty)
p167 暗い感じのする下町ふうの少女(a little dark girl, cockney)◆ darkはその前のblondeと対比して使ってる。「黒髪」
p176 四ペニーの席で(have a fourpenny seat)◆ 映画館の席代。270円とはずいぶん安い。
p182 フラジニの店から昼食を取り寄せ(Lunch brought in .... from Frangini’s)◆ 調べつかず。架空だろう
p182 アリバイ調査でほとんどがお茶に言及してるのが可笑しい。午後のお茶の時間は五時とか四時四十五分のようだ。p133の時間も多分違うはず。
p184 伝統のある学校を卒業していた(was a product of the old school)◆ この訳者、面白いなあ… 試訳「古い流儀で訓練された男だった」
p186 とんがった帽子(peaked cap)◆ 試訳「庇付きの帽子」 別の翻訳書でも「とんがり帽子」となっていた。
p186 船賃は六ペンス(charged sixpence)◆ 川の渡し賃
p188 女は{あれ}(傍点付き)らしい歌をうたいだした… ラジオでよく聞くような歌(she started singing some song about she’d got It(...) a song you may have heard on the wireless)◆ この歌はHelen KaneのI've Got "It" (But It Don't Do Me No Good) (1930) だと思われる。類似の歌もたくさんあったと思うが、これが一番有名だろう。イット・ガールって、もう誰も覚えてないか…
p188 例の三十年型のおんぼろ車(old Dawburn thirty)◆ ここも固有名詞を訳さず。架空のメーカー。音が似てるのはAuburnだが…
p191 ガソリンを一杯わけてくれる(beg a part can of juice)◆ 昔はガソリンが足りなくなると、路上で他の車(本書ではlorryとしている)から分けてもらったりしていたのだろう。
p192 調度品ともで四百ポンド払いました(gave four hundred for it furnished)◆ 小さな別荘の値段。原文は「家具代のみ」とも読み取れる?
p194 百十二ポンドきっかり(Just nine stone)◆ 若い女性が自分の体重をためらいもせず答えている…
p199 検視陪審員の評決に、何か不合理な意見のようなものがあるんじゃないか(there’s something in the verdicts the coroners‘ juries always bring in, about being of unsound mind)◆ ここはインクエストの評決が自殺の場合、陪審員があまり根拠なく加えてしまう「病んだ精神による」という言葉を指している。自殺の原因が精神異常でなければ教会墓地への埋葬がやりにくかったので、ちょっとでもそういう感じがあれば、この文句を付加する習慣になっているはず。
p200 戴冠式(the Coronation)◆ 1937年5月12日のジョージ六世戴冠式のこと。
p205 クリスマスと誕生日の時だけ… 手紙のやりとりを(had written to one another only at Christmas and on their birthdays)
p226 審理(inquest)◆ ここは「検死審問」と訳さないと理解できないだろう。この訳者は今まで「審問」と訳してたのに!
p228 おすましで美しく(prim and proper)◆ p73と同じ成句。なぜ「美しく」が出てくるの?
p229 パイレニース(Pyrenees)◆ ピレネー山脈!トラヴァースの行きつけ(an old haunt 別荘か?)があるようだ
p230 水曜日、九月八日はパルマーの誕生日(Palmer’s birthday was on Wednesday, which was 8 September)◆ 1937年であってる。
p230 五ポンド紙幣を出して、これが贈物のかわりだと...(A fiver was handed over, out of which a present was to be bought...)◆ そしてショウを見るべきだ、と続く。中途半端な翻訳だなあ。
p231 高級酒場(Saloon Bar)◆ この語のニュアンスがよくわからず、爆笑の意味がつかめない。
p231 趣味はいたって単純で、昔からの寄席があまり好きでなかった(tastes were simple ones, with the music-hall of the good old days as a something to be regretted.)◆ 「〜遺憾ながら、古き良きミュージック・ホールなどが好みだった」という感じでは?
p233 オディロン座(テームズ・0101) ODILON. (Tern. 0101.)◆ 電話番号? テムズではなさそうだが… 1966年の一覧だがTERminusというKings Crossの電話交換局があった。Ternで始まるのは無し。架空かも。
p240 金が入った(came into)◆ 「相続した」
p243 里程計(The trip figures)
p244 サザンプトン街道(the Southampton Road)
p247 ビール樽のハンドル(the beer handles)◆ 機械式が村にも入り始めている
p252 <ケンジントンの流血>や<おえらがた殺人事件>(Kensington Gore or Murder for High–Brows)◆ 架空の探偵小説のタイトル。
p253 二シリング(Two shillings)◆ 小物の値段
p254 半クラウン(half-a-crown)◆ 2.5シリング
p255 私立探偵事務所(private inquiry agents)
p265 すぐそこまでだって言いつづけりゃあいいんですよ。切れたらそう言い、切れたらそう言ってるうちに、向うへ着いてしまいます(You keep saying you’ll stop at the next one on the near side, and then there isn’t another one, and there you are)◆ 忘れないようにする知恵なんだが、翻訳はヘンテコ。
p265 サセックスの妹のところで週末をすごすのは、彼[トラヴァース]のいつもの習慣だった(It was his usual custom to spend his weekends at his sister’s place in Sussex)◆ 他のシリーズ作品に言及があるのかなあ。未調査
p270 彼の名まえを言うと一騒動持ち上がった(as soon as Travers announced his name he found he had stirred up quite a lot of trouble)◆ 中途半端。試訳「彼の名前を告げると、一騒動持ち上がっていたことを知った」
p272 もう少しここにいて陳列品を見てみよう(Let’s get along to my flat and look at a few more exhibits)◆ なぜ前半をこう訳す?試訳「僕のアパートに行って〜」
p276 その地位をさらに強化したいなどということはばかばかしい話だった(and it was madness not to consolidate that position)◆ ここは誤訳ではなく誤植だろう。×「したい」→◯「しない」
p284 六ペンス(six pounds)◆ 不注意
p295 ぶちまけてやろう!(To hell with...)◆ なぜこんな風に訳してるのだろう。トラヴァースの気持ちを全然わかっていない。試訳「クソくらえだ!」
p292 まるで挑戦するような元気で(with almost a defiant jauntiness)◆ 出来る限り快活さを装って、というニュアンスだろう。ここもトラヴァースの気持ちを全然わかっていない。

<オマケ>
そういえば山口叢書「出るか分からないけど一応のせとこうリスト」に本作は計上されてたような気がする… ぜひ出して欲しいなあ!
この感想を書いていて気づいたが、iPadで新しい機種の場合、「写真」アプリからでも文字がコピペ出来る。pdfではない普通の写真なのに!すごい便利!(間違って文字を拾うことがちょいちょいあるが…)

No.1 5点 nukkam 2015/01/26 16:15
(ネタバレなしです) 1938年発表のルドヴィック・トラヴァースシリーズ第18作の本格派推理小説です。アガサ・クリスティーの某作品を連想させるメイントリックにある小道具を組み合わせた工夫が光ります。トリックの完成度では「失われた時間」(1937年)を上回ると思います。しかしプロットで損している印象を受けました。主な容疑者が揃うのがようやく第7章になってからという遅い展開に加えて、「自殺か他殺か」の議論が終盤まで続くのが冗長に感じられます。


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