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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
薔薇の環
カーク将軍&レヴィン卿
ジョン・ブラックバーン 出版月: 1973年10月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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東京創元社
1973年10月

No.2 7点 クリスティ再読 2018/08/01 21:36
暑中見舞い納涼三連発は、「涼しいタイトル」を優先したきらいがあるけども、さあ今度は本当にゾッとしてもらいましょう。ブラックバーンでも多分一番怖いのが本作。
冷戦下のドイツ。イギリスの駐留軍人家族の少年が、東ドイツを通過中の電車から消え失せた。冷戦下ということもあって、双方の不信感から情報の共有が進まないが、どうやら東独の作戦は絡んでいないらしい...少年は独力で西ベルリンの知人のもとに現れるが、失踪からの経緯を打ち明けない。帰宅した少年は高熱を発して死ぬ。細菌学者マーカス卿の診断は....ペスト。
少年の帰国には東ドイツから亡命するための秘密ルートが関わっているらしい。感染源と保菌者は? ペスト発症者が現れた。感染を食い止めるには?

一番のネタはアウトブレイク物なのだけども、東西冷戦と絡めて解決を難しくしているのが作者の工夫。ブラックバーンだしジャンルミックスはお手の物。最終的にはサイコホラーみたいな味も出てくるわけで、このサイコなキャラが一番怖い。

アティシュー、アティシュー、みんな倒れていく

ブラックバーンというと民話や民謡を使って不気味な雰囲気を醸すのが上手だけど、ペストだから言うまでもなく14世紀のヨーロッパ社会に大きな傷跡を残して、その痕跡がやはり民話や民謡のかたちで伝わっていたりする...「輪、ばらの花輪、ポケットいっぱいの花」だってペスト患者の発疹を歌った唄だった来歴があるらしい。本作の怖さ、はそういう恐怖である。
論創社で紹介された作品が「ウルトラQ」っぽいこともあって、ネタ作家扱いを受けて、ブラックバーンは軽く見られがちだけど、作家としてみたら盛り上げるテクニックは上手だし、なかなかの名文家で、小説にありがちな「...と誰々は言った。」を避けて「うまく」書いていたりする。工夫のある作家だと思うんだよ。「小人たちがこわいので」よりも本作の方が若干出来がいいと思う。

No.1 6点 kanamori 2013/11/16 21:24
東ドイツを通過中の夜行列車からイギリス陸軍少佐の息子が消えた。英国の機密情報を得んがための東側の拉致工作だと疑ったイギリス情報局のカーク将軍は、ソ連内務省のペトロフ部長に接触を図るが------。

幕開けは東西冷戦を背景としたスパイ小説の様相ですが、そこはブラックバーンのこと、ナチスの遺物やオカルト風民間伝承、バイオホラーなど色々な要素を絡めながら、事態はどんどん意外な方向に進展していきます。
今回カーク将軍は脇役で(緊急事態時なのにソ連の部長とチェスを指してますw)、以降のシリーズでタッグを組むことになる細菌学者レヴィン卿が主役ですが、”国家規模の脅威”に対するためソ連側と手を組む設定などがいかにもB級で面白いです。ただ、他の作品を読んでいると、脅威の正体や後半の展開がどれも似ておりマンネリ感も否めませんが。
なお、タイトルは少年の体に浮き出たバラ模様の発疹を表しているようです。


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