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[ 短編集(分類不能) ] 日本探偵小説全集(7)木々高太郎集 |
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木々高太郎 | 出版月: 1985年05月 | 平均: 5.50点 | 書評数: 2件 |
東京創元社 1985年05月 |
No.2 | 4点 | クリスティ再読 | 2021/05/05 08:06 |
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長編「折蘆」「わが女学生時代の罪」を中心に、短編9本を収録。「探偵小説芸術論争」の一方の当事者であり、「文学派」の総帥として、社会派ミステリの先駆者だった....というと、いかにも凄そうなんだけども、はっきり言うけど、この人作家としては二流である。
いや主張はなかなか正しいし先駆的で、その理屈を小説に生かそうと頑張ってはいるのだけども、人物が理屈から導き出された人形みたいで、「文学」というわりにまったく魅力がないのはどうしたものだろう...でプロットも長編は2作ともゴチャゴチャと混乱した印象が強い。「折蘆」は最終期クイーンみたいな「迷探偵」をしようとしているけども、この東儀四方之助くんに全然魅力がないので、単に愚かにしか見えない....読んでいて困る。 これは評者の問題かもしれないが、精神分析ってエセ科学だと思っている。オハナシの設定くらいにしか思ってないから、そのレベルで読むと「大心池センセ名探偵!」になるかもしれないけども、セオリー通りに「精神分析」されてしまうと、何かシラケるものがあるのは確か。林髞ってパブロフの直弟子で、大脳生理学の専門家で、学問上は精神分析とはあまり関係のない人なんだけど...タレント学者のハシリみたいなものだし「頭脳パン」とか香ばしい話もいろいろ、あったなあ。 というわけで、評者この本だと「柳桜集」の短編2作「緑色の目」「文学少女」以外は、見るものがない、というのが正直な評価である。この2作だけは、小説とミステリがうまく融合してロマンの香りがある。「新月」はアタマでコネて作った、そう悪くはないが褒めるのはどうか?という話を、さらに「月蝕」で言い訳している。言い訳はいつでもカッコ悪い。 |
No.1 | 7点 | kanamori | 2011/07/12 22:53 |
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「推理小説」という呼称の生みの親といわれ、松本清張を見出したことで知られる木々高太郎の傑作作品集。
昭和9年の処女短編「網膜脈視症」と「就眠儀式」は、大心地先生が精神分析によって隠された犯罪を暴くという作者十八番のプロット。フロイト心理学を援用して謎解く手法は当時として目新しかったのではないか。 同じ大心地先生もので戦後の長編「わが女学生時代の罪」は毒殺トリックが非常にユニークだけど、核心の部分で医学的にありえない(と思われる)事象がどうもひっかかる。 代表作の一つといわれるノンシリーズ長編「折蘆」は、いわゆる”名探偵の●●●”ものの先駆とも読めるが、最後に重要な役割をするある人物の行動には唐突感があった。 結局、ミステリかどうかは微妙ながら、ある女性の特異な半生を描いた「文学少女」が一番印象に残った。 長編2作、短編10作収録で800ページ近い分量のうえ、登場人物の行動原理、犯行動機が観念的で文芸寄りの作品が大半なので、読み終えるのに予想以上の時間がかかってしまった。 |