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[ 短編集(分類不能) ] 精神盲 大心地先生もの、志賀博士もの ほか |
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木々高太郎 | 出版月: 不明 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2018/05/17 13:23 |
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(ネタバレなし)
昭和22年に東京の自由出版株式会社から、ミステリー(一部SF含む)専科の文庫サイズの叢書「DS選書」(ディテクティブストーリー選書の意味だろう)の一冊として刊行された、木々高太郎の短編集。当然、現時点のAmazonには、ISDNなんか登録されていない。 全220ページの紙幅に全部で7編の中短編が収録され、そのうち5編がおなじみ精神病学教授の大心地先生もの。残る2編が、木々高太郎の別のレギュラー探偵である法医学者・志賀博士もの。 以下、巻頭から収録の順番に寸評。 ①「精神盲」(大心地先生)・・・若年ながら治療の見込みのない痴呆症、そして視界に入る事物の実態を情報として認識できない疾病「精神盲」でもある患者が、ある夜、入院先の病院で自分の顔に熱湯をかけて大火傷を負った。それは心を病んだ患者の悲惨な奇行かと思われたが・・・。 いきなりドラマチックな導入部と短い紙幅の割に込み入った心理劇の交錯で、なかなか面白い。まあ現実の犯罪としては無理筋な面もあるが。ライバル学者相手に論戦を展開する大心地先生、カッコイイ(笑)。 ②「債権(「権」は旧漢字)」(大心地先生)・・・ある日、一人の男が、生活上の行動の何もかもを、金銭上の収支に換算して周囲の者に請求するようになった。この異常な事態の裏にある奇妙な心理は? ちょっとチェスタートンの秀作編を思わせる一編。劇中人物の過去のドラマから、倒錯した思考に基づく犯罪劇に発展させる手際は見事。 ③「女の復讐」(大心地先生)……無学で粗暴な男が、とても釣り合わないような美しい美人と同棲を始めた。だがその女は病死。遺された男は……。 トリッキィな心理劇というか、××××テーマのクライムストーリーの佳編。題名に一考の余地があるのは残念。 ④「二本の前歯」(志賀博士)……タイピストの娘が夜間にロマンス映画を観た翌日、彼女自身がまるでその劇中ヒロインになったような不思議な事態に遭遇する。その訳は? なんか普通小説っぽいというかメロドラマっぽい展開は、本書のなかではちょっと異色。最後まで読むと、良くも悪くもホームズ譚の一本にありそうな話で、本書中では一番の下位作品かも。 ⑤「ポストの中の明日」(大心地先生)……誤って、本意では無い手紙をポストに投函してしまった若者。彼はポストの前に立ち続け、なんとかその手紙を回収しようとするが、事態は予想外の殺人劇へと……。 これもチェスタートンっぽい感じだが、さらにどちらかといえば「奇妙な味」系の趣もある一編。主人公の若者にからむ街の人々の描写が妙に印象に残る。 ⑥「法の間隙」(大心地先生)……資産目当てに、同居する後見人の遠縁の富豪を殺そうとする若者。彼は法律の隙を突き、殺人を犯しても罰せられないプランを画策するが・・・。 明確な倒叙もの。時代性のなかで、今の刑法の解釈と違うのでは? という部分もあるような気がするが、話の転がし方と正統的なサスペンス、それに犯意露見のスリルは相応の手応え。 ⑦「迷走」(志賀博士)……ある富豪の家で、一人の子供が殺される。遡って事故死と思われていた別の子供の変死も、実は謀殺だったのでは? との疑惑が浮上した。やがて・・・。 トリを占める長め(約50ページ)の一編。事件の真相が発覚すると同時に、ある人物の人生の××と、そこにいたる異常なシチュエーションが浮かび上がってくる。読み応えは十分だった。 あー、木々高太郎の短編、面白い。人間心理の綾や心の闇に踏み込んでいき、そこから人生の一幕を鮮烈に語るその筆の冴えは、前述の通りチェスタートンとかに通じるものがあるわ。 今回は思うところあって、すでにインクも滲んだ旧漢字の読みにくい(しかし奇蹟的に紙の破れはそんなに無かった)古書を大枚はたいて買った(涙)が、その価値はあった・・・かな(笑)。 ところで誰か、木々高太郎ファンまたは研究家の方、大心地先生と志賀博士の事件簿(登場作品一覧)リストを作ってくれませんか。あるいはすでにもしあったら、どこで見られるかご教示願えませんか(汗)。 |