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[ サスペンス ]
彼の求める影
大心地先生
木々高太郎 出版月: 1971年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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朝日新聞社
1971年01月

No.1 7点 人並由真 2016/07/18 04:42
(ネタバレなし)
 34歳の独身の大学教授・相生浅男は、病身の実父とまだ若く美しい継母から、ある日相談を乞われる。それは浅男と腹違いの18歳の妹・夏子のもとに来た縁談の件で、しかもその相手とは、かつて浅男がラテン語を教えた青年・柿岡初雄(25歳)だった。相生家の面々が見守る中、当初は夏子と初雄の交際は順調に進むと思えたが、やがて初雄の挙動に奇妙な影が宿る。それは初雄が数年前に死別した年上の恋人・芳川ひえいを今だ忘れられないためであり、さらにくだんの女性ひえいは、浅男にも夏子にとっても意外な間柄の人物だった。そして…。
 それから時が経ち、高名な精神医学者・大心地先生は、自分が教えるプラクチカント(実習学生)たちの前で、現実のある事件に基づいた己の見識を語り出す…。

 作者が昭和26年(1951年)に完成させた長編。いやとても面白かった。読者を捉えて離さない起伏豊かな展開ながら、これはどうも普通小説っぽいな…と思いつつ読み進めていると、終盤には物語はちゃんとミステリのジャンルへと転調し、我らが「名探偵」大心地先生をクライマックスに招聘する。
 人の心に潜む切ない暗闇をミステリの「謎」とする趣向はシムノンや現代の国内新本格派の一部とかに通ずるものもあり、その普遍性が豊饒な精神的快感をもたらす。『文学少女』などでは名探偵役でありながら傷ついた人の心を慈しむ役割も負った大心地先生(和製メグレのひとりみたいだ)が、ここではハードボイルドにズバズバと、事件の主要人物の心のあやを自分の学識でぶったぎっていくのもカッコイイ。

 それにしても本書の木々高太郎の文章は会話が多いこともあり、今でも非常に読みやすい。ただし浅男と夏子の関係=父親が同じで母親のみ違う、血の繋がった妹を「義妹」と叙述するのは今の語感でヘンだ。昭和20年代の当時には、そういう用法もあったのでしょーか。


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