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バラントレーの若殿
別題「バラントレイ卿」
ロバート・ルイス・スティーヴンソン 出版月: 1948年01月 平均: 9.00点 書評数: 1件

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八雲書店
1948年01月

雄鶏社
1953年01月

角川書店
1954年01月

岩波書店
1996年04月

No.1 9点 2019/01/18 21:11
 ダリスディアとバラントレーの両荘園を所有するデューリー家は、スコットランドの有力貴族であった。だが「若僭主」ことプリンス・チャーリーがスチュアート家の王位復権を賭けた戦いに乗り出すや一族は運命に呑み込まれる。当主である大殿は息子二人が両派に分かれる策を立てたが、「バラントレーの若殿」こと長男ジェームズがプリンス側での出陣を強硬に主張したのだ。
 次男ヘンリーは権利と爵位の分離を理由にこれに反対するが、金貨を放り投げた結果ジェームズが戦いに赴くこととなる。プリンスはカロドンの敗戦で勢いを失い、若殿を含む出征者たちの大部分は故郷に戻らなかった。ヘンリーは大殿に説得された亡兄の婚約者アリスン・グレイムを娶り、ダリスディアの後継者となる。
 だがその四年後、「バラントレーの若殿」の生存を伝える使者がダリスディア館を訪れるのだった。
 副題「冬の夜ばなし」。1887年11月~1889年10月までアメリカの月刊誌「スクリブナーズ・マガジン」に約1年間連載。ホームズ物の処女長編「緋色の研究」とほぼ同年代の作品。主要な登場人物の一人であるダリスディア家の執事、イーフレーム・マケラーの覚書に、時折端役の記述を挟みながら語られます。
 なぜこれを読んだかというと大藪春彦の処女作「野獣死すべし」に、主人公伊達邦彦のモデルと思しき人物としてこの「バラントレーの若殿」が挙げられていたからですが、果たして実際に読んでみてどうだったか? 「ジョジョの奇妙な冒険」のディオ・ブランドーですな。
 浅黒い美貌で生まれながらの命令者。才気煥発で手練手管に長け、立ち居振舞は優雅そのもの。苦もなく人を魅了するが、良心など欠片もなく、上昇志向と野心の塊り。まあひとかどの人物ではありますね。
 爵位を奪われたと弟を逆恨みする若殿はスコットランドに立ち戻り、大殿と弟の妻となった婚約者アリスンを味方に付け、態度を使い分けて弟ヘンリーを苦しめ、さらに姪のキャサリンまで手懐けます。凡庸そのもののヘンリーはこれに耐え続けますが、妻を侮辱された事から激高し兄と決闘。
 霜の降りた厳寒の真夜中、蝋燭の炎をともした灌木林の中で怒りに燃えるヘンリーは兄を刺殺。だが蘇生した若殿は密輸入者に助けられ、再び復讐を誓います。
 とにかくこの若殿が悪い奴なんですけど魅力的ですね。トントン拍子に出世して最後に盛大にコケるタイプ。カロドンの敗戦後、逃走中に海賊に捕まるんですけど逆に頭目に成り上がり、海賊たちを指揮しては最後に全員始末して宝を奪います。後半の展開は彼が埋めた財宝が鍵。
 またディオのように全てを嘲笑するだけの人間でもない。執事マケラーは終始彼に相対して弟ヘンリーに付くのですが、思い余った彼が若殿を殺害しようと試みた後の台詞がこれ。

 「とにかくわかってもらいたいんだが、お前にたいする評価は四十フィートも上昇したよ。おれが忠節に価値をおいてないとでも思っているのか。(中略)変に思うかもしれないが、今日の午後の事件以来、一層おまえが好きになったぜ」

 海外では「彼の著作のなかで最も重要なもの」と位置付けられている作品。スティーヴンスンの最高傑作ではないのかな。終始暗いムードと厳しい寒気の印象がありますが、無類に面白い。マスターピース候補の一つです。


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ロバート・ルイス・スティーヴンソン
1988年07月
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1950年01月
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1948年01月
バラントレーの若殿
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