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[ 警察小説 ]
シンジケート
ジョン・デレック・トリー警部
ジョン・ガードナー 出版月: 1973年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1973年01月

No.1 7点 人並由真 2025/02/21 19:35
(ネタバレなし)
 イタリア系の英国人で、若き日はアメリカの市警に奉職し、現在はニュースコットランドヤードの敏腕警部として活躍するジョン・デレック・トリー(旧名トリーニ)。厳粛なローマン・カトリックである彼は惹かれ合う婚約者同士でありながら、小学校教諭の恋人スーザン・クロンプトンがそれとなく求めて来る婚前交渉の要求を、1960年代後半という20世紀の現代社会において、愚直に拒み続けていた。そんなトリーは英米を股にかけた裏社会の捜査のなかで、謎の人物「ウェックストン」の暗躍を認める。重大事件の予兆が色濃くなるなか、トリーと捜査陣は、ウェックストンの苗字を持つ該当の人物たちのなかで、凶悪犯罪に関与している可能性があるものを絞り込んでいくが、暗躍する敵はさらに計画を進めていた。

 1969年の英国作品。原題は「A Complete State of Death(死、完璧な状態)」だが、1974年のチャールズ・ブロンソン主演による映画化にあわせて、映画と同じ邦題で邦訳された。
 
 級数の大き目な一段組の本文で、約300ページのハヤカワ・ノヴェルズ。
 深夜に読み始め、途中で1~2時間の仮眠をとって朝に読み終える。

 物語の序盤~前半は多国籍な属性を持つ主人公トリーの人物像を、延々と描写。青年時代にアメリカで同僚の警官に死なれたのち、英国のスコットランドヤードでやり直しをはかった逸話などが語られる。
 主人公に独特の人間味を託す狙いだろうが、異性に対して健常な欲情を感じながらも、それに待ったをかけるローマン・カトリックの禁忌の設定も、外野である読者(評者)には、そこそこ面白い。

 そんな主人公周辺の素描と並行した多面多角描写の形で、叙述のカメラは英国の裏社会の現在図にも向けられる。そしてそんななかで情報があれこれ積み重なって、どうやら暗黒街で謎の大物が暗躍しているらしいことがわかってくる。

 この犯罪プロデューサー的な謎の悪役「ウェックストン」の描写が正に1960年代後半の現代に復活したモリアーティという感じで、もしかしたらのちにガードナーが「モリアーティ」シリーズのパスティーシュに着手するのは、本作などの実績を踏まえてのものかも? と夢想したりもした。いや実際のところは知らんが(笑)。

 そういう訳でトリーと謎の敵「ウェックストン」との対峙の構図がだんだんと浮き彫りになっていく一方で、話の細部はそのトリー周辺の公私のややこしい案件がからんだり、あくまで脇筋ながら一応は捜査の手順でこなさなければならない任務が意外な方向に暴走したり、この辺のストーリー全体の立体感がとても面白い。
 言い変えるなら、クライマックスに向かう物語のベクトルがはっきりしている一方で、細部のこまごまな描写もひとつずつなかなか読ませるエンターテインメントだ。
 英国ミステリ界きっての職人作家ジョン・ガードナーの作家性が、今回は良い方向に向かった感がある。
 ラストはややあっけないが、そこがまた味になっているのもなんとなくわかる。
 多彩な作風で幅広いジャンルをこなす作者だが、これは「ハービー・クルーガー初期三部作」のような殿堂入りの傑作を別カウントにした上で、作者の諸作中でも、けっこう上位に行く方ではないか? とも思う。
(ただし、良くも悪くもB級感がどこかに漂う面もあり、8点がややあげにくい。で、この評点~7点の上の方……だが。)

 ちなみに英語Wikipediaを見ると、トリーの主役編はもう一本だけ「The Corner Men 」(1974)なるものが書かれているらしいが、こっちは未訳。ちゃんと作者のシリーズキャラクター(主人公)である。しかしタイミングを考えると、その続編も前作の映画化に合わせて執筆されたんだろうな。

 主人公とヒロインの関係を含めて、続編がどのようになったか、ちょっとだけ気になる。まあ今さら翻訳なんか、されっこないとは思うけど(涙)。


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