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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
人狼を追え
ジョン・ガードナー 出版月: 1979年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1979年01月

No.1 7点 人並由真 2021/02/03 07:16
(ネタバレなし)
 1970年代半ば。ベルリン駐在の英国情報部員で、獲得した情報の精査や分析を担当する33歳のビンセント・クーリングは突然、本国に呼び戻された。クーリングを待っていたのは、1945年5月、落日の第三帝国から脱出した少年で、今は前身を隠して英国に生きる男「人狼」の内実を探る極秘調査の任務だった。ゲッペルスの息子ヘルムートの可能性すらある、くだんの「人狼」。現在の彼は英国にとって、本当に脅威になりうるのか? 複雑な思いに駆られながら任務を続行するクーリング。一方で英国在住のデンマーク人実業家ジョセフ・ゴッターソンが購入した古い屋敷では、怪異な子供の幽霊が出没していた……?

 1977年の英国作品。たぶんノンシリーズものの、単発作品。
 旧ナチスの潜伏エージェントが、ヒットラーに認められたというそのカリスマをふりかざし、ネオナチや極右組織の旗頭になるかもしれない……という、英国内閣の危惧に振り回される情報部。
 一方で、旧家に起こる恐怖の幽霊騒動。この二つの事象がどう結びつくのかと思っていたら……。

 いや、途中3分の2まで読んで物語の骨子が明かされた時点でボーゼンとした。スパイ小説にもバカミスはいくつかあるが、これほどのものはそうはないだろう?
 とはいえ一方で(中略)ではあるし……。
 うん、いかにも、あのポイジー・オークスものやハービー・クルーガーもの(特に後者の初期三部作)を著したジョン・ガードナーらしい作品。

 コレは、60年代の隆盛(というか質的&量的氾濫)を経て70年代の新世代に移行していく英国エスピオナージュ分野へのサタイアでもあるし、同時にたぶんこの頃に世界的に熱気をおびてきたオカルトブームへのウィットでもあった。
 ネタバレになるから詳しいことはあまり書けないし、ひとによっては色んな面でバカバカしいと怒るかもしれないけれど、こういうものこそ<スパイミステリの醍醐味>といえる面もある。
 あまり堂々と……というのはムズカシイけれど、すっとぼけた顔で支持したい一作(笑)。
 
 なおまったくの余談だが、作中で主人公ビンセントの恋人のOLステフ(ステファニー・ビショップ)が、彼氏の秘密の職業を半ば察しながらレン・デイトンの新作を話題にしたり、ル・カレの『鏡の国の戦争』を購読する場面があって愉快。まあこれは、そういう英国の当時の主流派? エスピオナージュ群から一歩引いたところで語られたストーリーであり、作品だよね。 


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