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[ パスティーシュ/パロディ/ユーモア ]
犯罪王モリアーティの復讐
犯罪王モリアーティ・シリーズ
ジョン・ガードナー 出版月: 1980年06月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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No.1 6点 2020/12/08 16:45
 一八九〇年代初期のロンドン犯罪界。サンドリンガムでの英国王室に対する卑劣な陰謀の失敗により、逃亡せざるを得なくなった大犯罪者ジェームズ・モリアーティ教授と彼の腹心たち。彼らは二年半にわたるアメリカでの生活を終え、かの地の無頼漢たちから巻き上げた収益と大掛かりな詐欺で得た富をトランクに詰めて、再びイギリスに帰国した。ロンドンにおけるかれの帝国を再建し、その悲願――自分を頂点とする犯罪活動の全ヨーロッパ組織網を構築し、西洋暗黒社会を牛耳る――を達成するために。
 それには六人の人物への復讐が必要だ。まず自分を裏切った四人のヨーロッパ犯罪界の首領たち――長身のドイツ人、ベルリンのシュライフスタイン。ダンスの教師みたいな歩き方をするパリのフランス人、グリゾンブル。肥ったローマのイタリア人、サンチオナーレ。無口で陰険なスペイン人、エステバン・セゴルペ。彼らにモリアーティこそが唯一の真の犯罪的天才であることをはっきりと教えて服従させたのち、いよいよあの二人を社会的に葬り去るのだ。レストレイドの後を継いだ小癪なスコットランド人、アンガス・マックレディ・クロウ警部と、あのいまいましいシャーロック・ホームズとを。
 そして教授とその親衛隊はサンフランシスコを発つと、四千トンの客船SS・オーラニア号でリヴァプール港に降り立った。自分たちを苦境に陥れた六人の男たちへの報復の決意を胸に秘めて・・・
 1975年発表。前作『犯罪王モリアーティの生還』を受けた三部作の第二作で、〈実は生きていた〉ホームズシリーズの悪の権化、モリアーティが一大犯罪帝国を築かんと暴れまくる作品。生きていたというよりどうやら〈ライヘンバッハの滝でのホームズとの密約(その詳細は不明)〉により、双方共に不本意ながら〈一種の相互不干渉状態〉になってるだけらしいですが。アメリカから帰還したモリアーティはこの取り決めを破り、新婚ほやほやのクロウ警部に色仕掛けを施した後速攻でノイローゼに陥らせたり、シャーロック・ホームズからコカインを取り上げつつアイリーン・アドラーを弄んだりと、下世話かつ有効な手で法の守護者二人を貶めようとします。それと並行して単独でモナリザを盗んでは、四人のボスに狡猾な罠を仕掛けたりと色々。
 ガードナーの解釈では教授は単なる犯罪者というよりもマフィアのボスに近く、彼の配下たちも「ファミリー」と通称されます(家族系犯罪組織の原点はアメリカではなくヴィクトリア朝のイギリス、という指摘もアリ)。この小説の原本とされるモリアーティ日記の提供者の祖父で顔の右半分に稲妻のような切り傷が走る参謀長、アルバート・ジョージ・スピア。残忍な中国人リー・チョウ。競争犬じみたエンバー。教授の情婦で売春宿の経営者サリー・ホッジス。この側近たちに新たなメンバーが加わり彼らの子供まで生まれ、その上に君臨する"ゴッドファーザー"たるモリアーティの人心掌握ぶりが描かれます。変装しまくりの奇術好きと冷酷ながら人間臭い面もあり、最後にはなんとモリアーティ・ジュニアも誕生。タネ本にした可能性はほぼありませんが、感触としては冲方丁のマルドゥックシリーズ最終作『アノニマス』のクインテット=ハンター一味に近いです。全員悪い奴なんだけど、付き合ってるうちになんか愛着が湧いてくるみたいな。
 作中年代は一八九四年五月から一八九七年五月までの約三年間。同時代人としてドガ、ロートレック、ボールドウィンなど、リアルタイムの事件では「サセックスの吸血鬼」「悪魔の足」への言及が見られます。
 とはいえお話的には最終決戦手前の前哨戦といったところ。手駒が出揃った上で、禁断症状に打ち勝ったホームズと家庭生活の危機を脱したクロウ、両者とモリアーティとの対決というか小競り合いを終えてフェードアウト。色々起伏のある前巻とは比較にならず、最終巻への橋渡しといった内容です。それでも流石にホームズパスティーシュの古典だけあって、通俗ながら徹底したリサーチのヴィクトリアン犯罪劇としての読み応えは十二分にありました。個人的には7点に近い6.5点で、以前読んだ『モリアーティ秘録』よりも点数は上。


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