皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格/新本格 ] 素敵な圧迫 |
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呉勝浩 | 出版月: 2023年08月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 2件 |
![]() KADOKAWA 2023年08月 |
No.2 | 6点 | パメル | 2025/06/20 19:37 |
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社会の不穏さと人間の深層心理を鋭く描いた6編からなる短編集。
表題作は、狭いところで圧迫された感覚が好きな女性が、どうやら誘拐されている。なぜ誘拐されたのかが、彼女の性癖の来歴とともに丁寧に語られていく。主人公の語りが不穏で、理想の男性との関係が破滅に向かう展開は、ミステリとしての意外性と心理サスペンスが絶妙。 「ミリオンダラー・レイン」では、主人公が三億円事件に触発されて強盗を計画する。教育程度が低く、収入も低く、明日への希望を感じていない若者の、濁った日常意識の奥底からの反発精神が見もの。ラストでどんでん返しが待っている。実に皮肉な結末で、深い虚無感を覚える。 「論リー・チャップリン」は、息子から十万円を強請られた父親が、彼を論破しようと知恵を振り絞る話。現代の「論破文化」を風刺し、親子関係の歪みをコミカルに表現している。 「パノラマ・マシン」並行世界に行けるマシンを拾った男Fと、それに気づいた男Dが、こちらの世界での不満の捌け口として平行世界で好き勝手なことをする。最初から差している不穏の影が素敵。 「ダニエル・≪ハングマン≫・ジャービスの処刑について」は、ボクサーのスリリングな半生を描きながら大胆な仕掛けで幕を下ろす。読み終わってタイトルを見返すと誰しも感じるものがあるだろう。 「Vに捧げる行進」は、コロナ禍で人通りのない商店街のシャッターに落書き事件が続発し、それが多くの人に広まっていく。人々の閉塞感への反発を描いており、共同体の不気味さ、得体の知れなさが感じられる不穏な物語。 |
No.1 | 6点 | まさむね | 2023/11/12 17:52 |
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ノンシリーズの短編集。ミステリとしての評価が難しい短編もありますし、全体としてもミステリの味付けが強いとは言えませんが、何だろう、ひっそりと心に残りそうな短編もございました。個人的には、⑤と表題作の①、さらに当時の閉塞感を上質に伝えていた⑥を評価。
①素敵な圧迫:隙間に体を滑り込ませることによる圧迫を愛する女性の物語。 ②ミリオンダラー・レイン:3億円事件がモチーフ。当時の時代背景もポイント。 ③論リー・チャップリン:10万円渡さないとコンビニ強盗すると息子から脅迫される親。論破って何だろう。 ④パノラマ・マシン:所謂パラレルワールドに行き来できる機械を拾った二人組。あちらの世界ではどんな悪事も可能だが…。 ⑤ダニエル・《ハングマン》・ジャービスの処刑について:無敗の天才ボクサーを語る。 ⑥Vに捧げる行進:新型コロナウイルスが猛威を振るう中で…。 |