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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
SAS/ケネディ秘密文書
SASプリンス・マルコ
ジェラール・ド・ヴィリエ 出版月: 1980年04月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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東京創元社
1980年04月

No.1 7点 人並由真 2023/01/08 15:51
(ネタバレなし)
 1960年代半ば~後半のニューヨーク。米国国家安全保障会議(NSC)の一員であるディヴィッド・リーベラーがハニートラップに引っかかり、保管していた機密のアタッシュケースを盗まれる。機密ケースはKGB側の手に渡り、ダブルスパイの中年映画プロデューサー、セルジュ・ゴールドマンの手によってオーストラリアに運ばれた。SAS「プリンス」マルコ・リンゲは、CIAウィーン支局の指示でゴールドマンとその若い愛人マリサ・プラットナーの身柄を確保。マルコ自身の自宅の城に匿うが、そこにゴールドマンの知人と称してポーランド人のKGBの外注工作員シュテファン・グレルスキーとその妻グレーテが来訪してきた。

 1967年のフランス作品。SAS「プリンス」マルコ、シリーズの第六弾。
 一年ちょっと前に読んだシリーズ第五弾『シスコの女豹』(佳作)の次の長編。
 で、機密物件の中身が何かは、タイトルでいきなりバレバレ(原題の時点から明かしてあるので、訳者や創元の編集部を怒ってはいけない)。
 前半~中盤まではこの機密文書の争奪戦がメインで、特に、当時まだ政治統制が厳しかったチェコスロバキア、その一角からケースを回収し、脱出する辺りは中盤の見せ場。ここも自由を求めてあがくゲストキャラの若者を登場させて、なかなか盛り上げる。

 しかしこの作品の本当のキモは、奪回した国家レベルの秘密文書の実態を知ってしまったマルコが、これまでの雇い主であるCIAから本気で口を封じられかける展開。

 いうならばヴィクトリア王朝の公安が総力をあげてホームズを暗殺にかかったり、MI6の要員たち総勢がボンドを抹殺に動くような趣向で、正に絶対の危機。ちなみにその手のクライシスが到来の場合、ホームズならマイクロフト、ボンドならMなどが最終的には絶対に主人公を守ってくれるはずだという予見が読者にも働くが、マルコの場合はそこまでの支援キャラクターもおらんし、テンションは一途に窮まる。
 いやコドモ的な発想で、シリーズもののなかで、作者なら誰でも一回はやってみたい? 厨二的なアイデアだとは思うが、刺客側は結構な本気度で、マルコの城に乗り込んで暗殺を行なうは、無関係の市民を平然と巻き込むは、なかなか緊張度は高い。10年前後、CIAに御奉公してきた実績? そんなもん、屁でもない。いくら腕利きでも、所詮は使い捨てのフリーランススパイじゃ。この作品はプリンスマルコ版『消されかけた男』でもある。
 
 もちろんこの後のシリーズ継続に繋げるため、最後の最後でのマルコ救済策は用意されている。まあその辺はある程度の力技だろうなとは、経験上、こちらも何となく予測できるので、実際に想定範囲。呆れるとか、これはないだろ、的な文句は出にくいように、作者も気を使った気配はあるので、個人的にそんなに不満はない。
(まあそれでも、今回のハイテンションに付き合った読者が、万が一本作のどっかを減点するなら、結局はここ(最後の決着ドラマの仕上がり)かもしれんが。)
 
 それで読了後にTwitterで感想を覗くと、シリーズ中でも評判いい、ベスト作品? との声もあり、そうでしょう、そうでしょう、と頷く。

 マルコが敵側の工作員を自宅に迎える際、もうちょっと出来ることもあったんじゃ、とか、細部のスキがまったくない訳ではないが、種々の事態がそれっぽく進行してしまう機微は、作者の方も割と自覚的に心得て書いている? 気配もあるので、まあギリギリ。

 タイトルとネタからもっと大味なものを考えていたが(いや、ある意味で大味な作品なのは事実かもしれんが)、予期していた以上に結構な面白さであった。8点に近いこの評点で。


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