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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
シスコの女豹
SASプリンス・マルコ
ジェラール・ド・ヴィリエ 出版月: 1977年04月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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立風書房
1977年04月

No.1 6点 人並由真 2021/05/12 02:14
(ネタバレなし)
 1960年代半ば。アメリカの西海岸エリアで、それまでは保守派で愛国者の一般市民がなぜか突然、中共のコミュニスト支持者に転向するという事態が続発する。CIAは現状の裏に市民の洗脳を促す「疫病」を蔓延させる何者かの意志を察知し、サンフランシスコのチャイナタウンに住む65歳のジャック・リンクスが情報を得たらしいと知る。だがリンクスは情報を暗号として秘めたまま変死した。CIAは外注エージェントの「プリンス」マルコ・リンゲに調査を求めるが。
 
 1966年のフランス作品。SAS「プリンス」マルコ、シリーズの第五弾。
 一般市民を巻き込む残酷描写は苛烈だわ、猫はひどい目にあうわ、で、正直、あんまりいい点はやりたくないのだが、うー、くやしいかな、通俗スパイアクションスリラーとして予想以上に面白かった(笑・汗)。

 そもそも本シリーズの日本への翻訳紹介が始まったのが1970年代の後半からなので、なんとなくこのSASシリーズは、60年代の007人気に牽引されたスパイスリラーブームからは遅れて出てきた次の世代ヒーローのような印象があった。
 が、実はシリーズ開幕はフレミングが逝去した翌年の65年からで、そんなに離れているわけではない。
 改めてそういうタイムテーブルを意識しながらまだシリーズ初期の本書などを読むと、エロティシズムやサディズムなどの描写もどっか本家? 007を模倣しているような悪くいえば生硬さ、よく言えば一種の骨太さをかんじないでもない。これがシリーズが15冊目を超えたあたりの70年代に入ると、もうちょっとルーティーンの毎回の事件簿っぽくなってゆく感触もあるような。
(まあ厳密に言い切るには、改めてのまともなシリーズの読み込みが必須だが。)
 タイトルロールの美女悪役のキャラクター設計や、中盤でのマルコがとあるシチュエーションのなかで敵の遠距離狙撃に見舞われるシーンのテンションなど、それぞれなかなか鮮烈だ。

 それと謎の「疫病」の正体は21世紀の今ではありふれたもので、もちろんここでは書かないが、現在では科学的・医学的に疑義ももたれているもの。
 とはいえ多くのフィクションで物語のネタとして使われてきたある種の技術であり、Wikipediaなどにも独立記事として存在している。そしてそのWikipediaの記事の最後に、くだんの技術を使ったフィクションとして複数の作品が羅列されているが、この作品『シスコの女豹』はそれらのどれよりも早い。つまり多岐にわたるメディアのなかで、かなり早めにそのネタの導入において先鞭をつけた作品のひとつといえそうである。正直、評者自身も軽く驚いた。当時の読者には、相応に革新的でショッキングなアイデアだったであろう。

 第一作や先日読んだ『白夜の魔女』にも登場したCIAの正規エージェントで、マルコとよく組むミルトン・ブラベックとクリス・ジョーンズのコンビが大活躍。特に外道な悪役の非道ぶりについ激昂して、我を忘れてしまうジョーンズの人間くさいプロらしからぬ描写なんかいい。
 改めて意外に楽しめるな、このシリーズ。


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