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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 白夜の魔女 SASプリンス・マルコ |
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ジェラール・ド・ヴィリエ | 出版月: 1977年08月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
立風書房 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2021/03/19 06:21 |
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(ネタバレなし)
無数のユダヤ人を虐殺したナチス軍人オシップ・ヴェールンは大戦末期、侵攻してきたソ連軍に粛清されそうになった。だがアメリカ軍の情報部がオシップを後見し、新たな名前オットー・ヴィーガンドを得た彼は戦後の東ドイツに残留。オットーは東ドイツ情報部の№2という要職について表向きはソ連のために働きつつ、同時にコードネーム「リナルド」なるダブルスパイとして、恩を売られたアメリカにひそかに情報を送り続けた。だが60年代末、素性がばれかけた55歳のオットーは美貌の若妻ステファニーとともに西側に亡命を画策。CIAの契約工作員マルコ・リンゲが、その身柄を引き受けにコペンハーゲンに向かう。しかし東側の意を受けたステファニーはオットーに亡命をやめて帰国するよう促し、次々と夫の眼前でほかの男と寝ては、彼を挑発する。 1969年のフランス作品。SASシリーズ(または、プリンススパイ、マルコ・リンゲシリーズ)の第13弾。 Wikipediaで作者ジェラール・ド・ヴィリエの著作リストを参照したら、評者は第1作『イスタンブール潜水艦消失』を含めて大昔に5冊くらい、このシリーズを読んでいた。それでも何十年かご無沙汰だったが、書庫で未読の分が何冊か見つかったので、そのうちの一冊のコレを久しぶりに手にとってみる。 (ついでに、安かったので、webでさらに何冊か持ってない分を購入してしまった。) 今回のマルコの任務はあらすじの通り、東側からの亡命スパイの身柄引き取り。ただし、このゲスト主役のオットーがどうしようもないクズ。さらにこのオットーに大戦中に家族を殺されて復讐をはかるユダヤ人女性とか、戦時中にオットーとともにリヒテンシュタインに多額の隠し金を預けた悪党神父とかも登場。もちろん本命の敵である東側もオットーの身柄奪還のためにステファニーのエロ作戦をふくめてあれこれ画策。そういうわけでなかなかネタの多い話で、飽きさせない。 くわえて原書刊行当時の北欧はポルノ解禁直後、いわゆるフリーセックス時代だったため、その時勢に便乗して作中にあふれんばかりのいやらしネタが登場。興奮するというより、作者の強引な手際に何回か爆笑してしまう。まあ60年代の作品だし、ポルノだのアダルトだの言っても、のどかなもんだ。 ちなみにタイトルの「白夜の魔女」とは、もちろんコペンハーゲンでの祭事の熱狂のなかで、快楽にふけるステファニーのことだね。 ただしその辺の興味(笑)をさっぴいても、先の多様なメインゲストキャラたちの掛け合わせが功を奏した筋立てで、これはシリーズの中でも結構できがいい。 今まで読んだSASシリーズのなかで一番面白かった記憶があるのは、第29弾の『チェックポイント・チャーリー』(ベルリンの壁もの)だったけど、これはそれに準ずる手応えだった(最後の着地点はまあ読めるが、これは良い意味で、そうなるべきところに収まった感じである)。 あとシリーズ第一弾『イスタンブール』では、当初、暗黒街の殺し屋として登場したエルコ・クリサンテーム(創元文庫版ではクリサンテム)がマルコのカリスマ性にまいって、彼の忠僕(レギュラーキャラクター)となる経緯が描かれたけれど、本作ではその際の事件に関わったマルコの同僚のCIAコンビが再登場。この2人とクリサンテームとが互いに当時の遺恨を引きずったまま、犬猿の仲という描写も楽しい。 つまみ食いで読んでる自分でもニヤリとしたんだから、マトモに順々にシリーズを追いかけているファンならさらに大喜びの趣向だろう。 ちょっとアホっぽく見えるポルノ志向はトッピング的な味付けとして、少なくとも今回はB級活劇スパイ小説の枠の中で、なかなか楽しめた。またそのうち、気が向いたら購入してある未読の分を読んでみよう。 |