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[ 本格/新本格 ]
加賀美雅之未収録作品集
アンリ・バンコランのパスティーシュ、シャルル・ベルトランもの ほか
加賀美雅之 出版月: 2022年09月 平均: 7.33点 書評数: 3件

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光文社
2022年09月

No.3 8点 ボナンザ 2023/06/18 17:08
黄金時代のミステリの趣に現代のミステリマニアの知識を高度に融合させたところに加賀美の偉大さがあると思う。
本格推理に載せていた作品集もまとめて読むといかにもながらのストーリーも相まって素晴らしい。

No.2 6点 nukkam 2022/12/23 08:31
(ネタバレなしです) 加賀美雅之(1959-2013)の生前には単行本化されなかった、1999年から2011年にかけて発表された中短編9作を集めて2022年に出版された本格派推理小説の短編集です。寄せ集め的な短編集かと思ってましたが最初の3作は三部作を形成していますし、他の作品も(「EDS 緊急推理解決院 怪奇推理科」(2005年)を除いて)作品世界が互いに関連づいており意外とまとまりを感じさせます。長所でもあり短所でもあるのですが先人作家のパスティーシュ色が濃厚で、ジョン・ディクスン・カーのアンリ・バンコランを筆頭に他作家作品の登場人物が多々出揃ったりカーを連想させる演出があったりする作品が多いので原典作品をあまり読んでいない読者だとその特徴がわかりにくいです。個人的に印象に残るのはバンコランとフェル博士を共演させた豪快トリックの「鉄路に消えた断頭吏」(2006年)とパスティーシュにしてもここまでやって大丈夫かと心配の「ジェフ・マールの追想」(2011年)です。

No.1 8点 人並由真 2022/11/15 17:48
(ネタバレなし)
 評者の場合、2013年に50代前半という若さでご逝去された作者のことは、亡くなられてから意識した。
 今からすれば苦笑ものではあるが、90年代後半から2010年代の前半くらいまでは、自分(評者)の年間のミステリ読書数は新旧作品あわせても、多くてもニ十冊程度。少ない年にはヒトケタの冊数しか読んでない時期もあったので、本書の作者・加賀美雅之先生のご活躍はまるで視界の外だったのである。
 最初にお名前が評者の気に留まったのはSRの会の会誌「SRマンスリー」のいつかの年(たぶん2014~15年くらい?)の年間ベスト発表号で、ベスト投票に参加されたどなたかのコメント「今更ながらに、加賀美雅之の早逝が惜しまれる」といった主旨の物言いであった。
 それから少しずつ、90~2010年代の国内ミステリの動向や歴史を探求してゆくうちに、この作者の高名と高評は自然と目についてくる。一時期は本サイトでも、代表作らしい『監獄島』が国内ベスト5にランクインしていたこともあり、そのときは目を瞠った。

 そういう意味で、加賀美雅之先生という人は、私にとってある意味で大きくすれ違ってしまったとても貴重で凄そうな作家、という強い思いがある。それゆえ遺された長編や短編集は少しずつ買い集めてあり、今もすぐそこにあるが、永遠にその著作がもう増えることはないのだと思うと、なかなか読めない。読むのがもったいない。
(いや、倉田英之の『R.O.D.』の中で登場人物が言う通り、本というものは、まず読み手に読まれてそこから存在価値が生まれるものだということは重々、わかっているのだが……。)

 そんなことを数年感じていたら、思いがけず未書籍化の、あるいは一冊の本にまとまっていない中短編ばかりを集めた本が今年出た! もちろん、これがおそらく最後の作者の新刊で、著書となるであろう(今後、新編纂の個人全集などが出る可能性はあろうが)。

 ならば加賀美雅之作品を新刊で読み、SRの年間・新刊ベスト投票にも一票を入れられる、自分にとって最初で最後の機会! これこそ神が与えてくれたチャンス! という思いで手に取った。

 ちなみにこれまでの述懐の流れで、大方、察してもらえるともらえるとは思うが、これがマトモに読む本当に最初の作者の一冊(なにかベルトランものの短編は大昔に一本くらい、どこかで読んだような気もするが、勘違いかもしれん)。
 ミステリや書物に妙な思い入れを抱く自分の性癖は十分に自覚してる(?)が、こういうケースもなかなかないことだとは思う。

 で、本書の内容に言及すると、10本の狭義~広義のパズラー中短編を収録。そのうちの大半が、作者の構築したパスティーシュ的な世界観によってカーのバンコランものの物語世界に繋がっていく趣向で、物語の舞台や時代、登場人物は変遷するが、何かしら既存作と接点のある連作になっている。ほかに純粋なバンコランもの、フェル博士もののパスティーシュや、作者自身が生み出した名探偵ベルトランものなども収録。
 一部のものを除いて不可能犯罪のトリッキィな作品ばかりで、感触でいえば昭和の「宝石」時代から新本格の時代にまで受け継がれていくような「パズラーの心」みたいなのが通底するようなのがとても愛おしい。
 機械トリックも多く、さらに「実は(中略)でした」パターンの趣向も多いが、作者自身もこういう形で作品集を組まれるとは予期しておらず、いずれもっと複数の中短編集にバランスよく配置する可能性もあったので、似た話が多いという文句は酷というものだろう。

 それぞれどれも楽しい作品ではあったが、個人的には巻末の最後の3本(アレキサンドラ、首吊り判事~、マールの追想)がお気に入り。特に収録作で最も長い『マールの追想』は犯人も仕掛けも先に読めるが、それでも作者のミステリ愛を改めて実感した好編。
 現在もご健在で国内ミステリ界の一角におられたら、たぶん青崎有吾の「アンデッドガール・マーダーファルス」シリーズとか横目に、俺も負けないぞとそっちの方面の健筆をふるわれたんだろうなあ、と夢想する。いやもしかしたら、青崎先生の「アンデッドガール~」の方が、加賀美パスティーシュ作品のスピリッツをどこか継承して生まれたものなのか……?

 企画に大きく関わってくださった二階堂先生ほかの関係者には、深く感謝。加賀美ビギナーの自分にもとても楽しい一冊でした。
 遺された著作は、改めまして今後、少しずつ楽しませていただきます。

 評点は企画に感謝の意味を込めて、この点数で。


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加賀美雅之
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