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[ SF/ファンタジー ]
セラフィタ
人間喜劇
オノレ・ド・バルザック 出版月: 1948年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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東京堂
1948年01月

角川書店
1954年12月

国書刊行会
1986年08月

国書刊行会
1995年06月

No.1 6点 クリスティ再読 2021/10/13 08:23
リアリズムの帝王バルザック。でもこの人、浮世離れした「哲学者」が主人公の作品があったりするわけで、「リアル」とは人間の活動分野全体を平等に観察すること、と言ってもいいのかもしれない。

でもね、本作は強烈に異質。「宗教」とは言っても幻想のうちに、神と人とが媒介なしに結び付く神秘主義の世界を借りて、神人が人間としての生を終えて熾天使として神の元に参じるプロセスを描いた....という奇書の部類である。
ベースになるのはスウェーデンボルグの神秘哲学だから、今みるとキリスト教色が強いけども、20世紀以降の「スピリチュアル」の間接的な先祖にあたる神秘思想と言ってもいいだろう。バルザックなんて自身の母親譲りでスウェーデンボルグにハマっていたらしい。まあだから、主人公が縷々述べる科学哲学と信仰の問題は、事実上カント哲学批判なんだけども、読み流しても大丈夫だ(と評者は断言)。
しかし、セラフィタ、といえば....両性具有テーマ。バルザックだと「サラジーヌ」もあるからねえ。主人公であるセラフィタ・セラフィトゥス男爵令嬢(でいいのかな?)は、遍歴の科学者ウィニフレッドと地元の牧師の娘ミンナの両方に恋されるのだが、男性のウィニフレッドには女性のセラフィタとして、女性のミンナにとっては男性のセラフィトゥスとして顕現して、この二人の愛を退けつつも、その愛を神への愛へと昇華させるべく、自らの死と変容の目撃者にする、というのがおおまかな話の流れ。
だから、「闇の左手」みたいなジェンダーSF的なカラーが今読むとあることになる。なので詳細な宗教科学哲学の議論は横目に眺めて、ノルウェーの荒涼とした冬景色と春の到来を描く自然描写を背景に、セラフィタ/セラフィトゥスの神秘の婚姻をジェンダーSF風に楽しむのが今はいいだろう。

花崗岩よ、さようなら。汝は花となるであろう。花よ、さようなら。汝は鳩になるであろう。

宗教科学哲学のややこしい議論を吹っ飛ばす美が、やはり一番の楽しみである。


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