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[ 時代・歴史ミステリ ]
ふくろう党
人間喜劇
オノレ・ド・バルザック 出版月: 1973年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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東京創元社
1973年01月

No.1 7点 2021/05/09 01:16
 一八二九年に発表されたバルザック最初期の歴史長篇小説で、分類は〈軍隊生活情景〉。クーデターによるナポレオンの独裁権掌握からマレンゴの戦い辺りの時期、フランス西部ヴァンデ地方を根拠地とするカトリック王党ゲリラ〈ふくろう党〉の首領、ガーことモントーラン侯爵と、彼を葬らんとする統領政府との戦闘を交えた執拗な抗争を描く作品だが、内容的にはコランタンの謀略に弄ばれつつも侯爵との恋を成就させようとする数奇な運命のヒロイン、ヴェルヌイユ嬢を主体とした恋愛悲劇の色彩が濃い。
 構成はペルリーヌ山頂での序幕〈待ち伏せ〉、アランソンの旅館トロワ・モールに主要人物たちが集う〈フーシェの策略〉、要塞都市フージェールを舞台に急展開し大団円に至る〈明日なき日〉の三部に分かれるが、これは伝統芸術たる演劇を意識してのものらしい。当時新興ジャンルであった小説は、資本階級の台頭と共にこの後メディアと結合して黄金時代を迎えるが、まだまだ発展途上であった。
 先にメリメの「シャルル九世年代記」評で述べたように、バルザックも又ウォルター・スコットの『ケニルワース』に感激し小説家を志した一人だが、この英作家の人気もこの頃には、一九二六年翻訳のジェイムズ・フェニモア・クーパー『モヒカン族の最後』に取って代わられていたらしい。本書での大胆な自然描写や、山羊皮を纏ったブルターニュのふくろう党員たちの姿には、明らかにクーパー作の影響が仄見える。
 ヴェルヌイユ公爵の私生児として生まれ認知されながら無知ゆえに社交界から追放され、共和主義者ダントンと結ばれるも夫の処刑後さらに身を落とし、統領政府の手駒として三十万フランの報酬でガーの逮捕を請け負う身の上となったマリ・ナタリー、彼女の乳姉妹にして忠実な僕フランシーヌ、フーシェのお目付け役としてマリを監視する密偵コランタン、海軍士官母子に偽装してその眼を欺こうとする恋敵デュガ夫人と、王命を奉じふくろう党を指揮しながら、やがてマリの虜となる反乱指導者モントーラン侯爵、侍女フランシーヌの恋人で勇猛なふくろう党員マルシュ・ア・テール。愚直な政府軍指揮官ユロ。惹かれ合いながらも敵対を繰り返すマリと侯爵との関係を中心に、各々に惚れたコランタンとデュガ夫人の策謀が絡み、物語は進展していく。
 ヴィヴチエール館での裏切りと屈辱からモントーランへの猜疑に駆られ、恋と復讐の間を振り子のように揺れ動くマリ。二部までは影が薄いものの、三部から急速に存在感を増し彼女の動揺に付け込むコランタン。野心一辺倒と思いきや、意外に純情なのがらしいと言うか、らしくないと言うか。とはいえ遣り口のエグさは変わらず、ここでも偽手紙が得意技なのね。一部二部は地味だけど、最終部が舞台共々作り込まれているのを買って、採点は7点ちょうど。


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