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[ 時代・歴史ミステリ ]
十三人組物語
人間喜劇
オノレ・ド・バルザック 出版月: 1974年02月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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東京創元社
1974年02月

藤原書店
2002年03月

No.1 6点 2021/03/29 08:05
 500冊目はバルザック。この文豪の膨大な作品群『人間喜劇』のうち〈パリ生活風景〉の皮切りとなる作品で、「フェラギュス」「ランジェ公爵夫人」「金色の眼の娘」の三つの挿話からなるもの。各篇それぞれ作曲家ベルリオーズ、リスト、画家ドラクロワに捧げられている。いずれも改稿を繰り返しながら、一八三三年三月~一八三五年三月まで約二年のうちに完成を見た。ナポレオン帝政のころパリに存在した、デヴォラン組頭領フェラギュスを中心に十三人の男たちで構成される秘密結社〈十三人組〉メンバーの絡む諸事件を扱う。
 なお彼らの中で最も抜け目のない青年ド・マルセーは、『暗黒事件』に於てフランス首相兼謎解き役として登場するらしい。通俗の趣を残しながら、同時期発表の『ウジェニー・グランデ』『谷間の百合』といった最盛期作品の先駆けともなる小説である。
 一番最初の「フェラギュス」は最も伝奇味が濃い。ある夜物騒な裏町パジュヴァン街で、かねてから想いを寄せる美女ジュール夫人が怪しい家に入っていくのを見かけた近衛騎兵隊長オーギュスト・ド・モランクール。だが彼女は言を左右にして真実を語ろうとはしない。狩人のように夫人を付け回すモランクールだったが、雨の日駆け込んだポーチで長身痩躯の只者とも思えない乞食に出会い、かれの落とした手紙を切っ掛けに何度も命を狙われるようになり・・・
 代表作『ゴリオ爺さん』と表裏一体を成す作品。連作の中ではこれが一番長篇ぽい。男爵オーギュストを愛するパミエ老爵士が解決を依頼する相手として、例のヴィドックの名前が出てくる。ただし作品は徐々に妻を熱愛する富裕な仲買人、ジュール・デマレの視点に移ってゆく。『人間喜劇』の場合、善人はおおむね不幸な最後を遂げるようだ。
 「ランジェ公爵夫人」は一番長いが、作者の卓抜な構成が利いて読後には中篇のように感じる。地中海の暗礁に守られたスペイン領の島。その島の突端にある岩塊の絶頂に建てられた、カルメル会の修道院。やっと探し当てた恋人をそこから奪わんとするフランスの将軍モントリヴォー侯爵の冒険の顛末だが、それが描かれるのは最後の数ページだけ。読み終われば納得するが、それでも大半を占める恋の鞘当て描写はキツい。
 ラストの「金色の~」は引き締まった中篇で最も短い。英国貴族ダッドレー卿の私生児として誕生し、〈心も知性も十六歳で四十のおとなを手玉にとるほど完成し〉〈男も女も神も悪魔も信じない〉美青年アンリ・ド・マルセーと、彼を慕いつつもなにかを怖れるハバナ生まれの美女、パキタ・ヴァルデスとの血塗られた謎めくロマンス譚だが、「凡庸な奴らなぞ死んじまえ!」「自分の無力を〈良俗〉だの〈誠実〉だのと誤魔化す律義者こそが国を腐らせるんだ!」なぞと延々長広舌を奮う文豪バルザックはノリノリである。同著者のヴォートランや『パリの秘密』のゲロルスタイン大公ロドルフを経て、アルセーヌ・ルパンが現れるまであともう一歩だ。バルザック自身、ナポレオンがまだぶいぶい言わせてる頃に少年期を送った人だもんなあ。


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オノレ・ド・バルザック
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