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[ 本格/新本格 ]
Butterfly World 最後の六日間
改題『紅招館が血に染まるとき The last six days』
岡崎琢磨 出版月: 2021年07月 平均: 7.25点 書評数: 4件

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双葉社
2021年07月

双葉社
2024年09月

No.4 7点 パメル 2024/10/16 19:27
物語の舞台は、現実とVR空間(バタフライワールド)の二つの世界。バタフライワールドとは、蝶の翅が生えた人型アバターが生息するVR空間のこと。花沢亜紀は、学生時代のいじめがきっかけで引きこもりとなり、逃げ込むようにバタフライワールドへ。バタフライワールドは自分の好きな姿になれる理想郷。アキとして永遠にこの世界にいたいと願うほどだった。そんな中、ログアウトせずにとどまり続けている人々の噂を耳にする。彼らが共同生活を送る紅招館を目指す。だが、館に辿り着いたところでサイバー攻撃を受け、周辺一帯が孤立してしまう。
そして住人たちが閉じ込められた一帯で事件は起こる。館の住人ステラが、死体となって発見されたのである。だが、そもそもバタフライワールドは非暴力が徹底された世界なので、アバターが殺される事態など起こるはずがない。館に取り残された11人の中に、ステラを殺した犯人はいるのか。アキたちが手掛かりを探す中、第二第三の事件が立て続けて起きてしまう。
この暴力が許されない世界で、不可能犯罪が起きるという筋立てが実に魅力的。この作品は、不可能殺人の解決だけを主眼にした物語ではない。現実世界における亜紀の事情も並行して描かれ、それがバタフライワールドで起きた事件と有機的に結びついている。後半に挟まれた読者への挑戦状、もしくは嘆願書で5つの謎が提示され、バタフライワールドと現実が複雑に絡まった真相は、本格ミステリの面白さに満ちている。また亜紀が引きこもる原因となったルッキズムによる差別の本質にも迫っている。当初は部屋に引きこもり、バタフライワールドに惑溺していた亜紀。彼女が外の世界へ踏み出す勇気を得て、成長していく姿も本書の読みどころとなっている。

No.3 7点 蟷螂の斧 2023/10/10 18:07
非暴力が徹底された世界(VR)で、殺人が起きるはずがない。プログラムの欠陥、またはクラッキング?。事件が起きてから実験を行ってみる。アバターにナイフを突き刺してもはね返ってしまう。やはり、非暴力の世界は生きている・・・。どのような方法で殺人を行ったのか?ハウダニットを中心に物語が展開。解決篇も明快なロジックで楽しめた。なお、わずかだが「荘子」に係る蘊蓄も披露され、好感度アップ(笑)。

No.2 8点 人並由真 2022/02/28 05:57
(ネタバレなし)
「わたし」こと花沢亜紀は、同じ高校の学友で彼氏だった秀才・西園寺和馬との恋愛に破綻。自宅に引きこもり、VR空間「バタフライワールド(BW)」の住人「アキ」となっていた。現実に背を向けたアキはずっとログアウトしないでこの世界にいられるという特異な場の噂を聞き、BWでの相棒・マヒトとともに、そんな連中の集うBW内の館「紅招館」に辿り着く。だがそのとき、BWの外部からサイバー攻撃があり、システム上の移動手段を奪われたアキとマヒトは、館の中に住人たちとともに閉じ込められてしまう。そしてBW世界には、管理運営者の設けたルールによって、いかなる暴力行為も認めないという絶対のルールがあった。だが館の中の住人が、次々と「殺されて」ゆく!?

 この数年『さよなら僕らのスツールハウス』『夏を取り戻す』と、ミステリとして読み応えのある、そして情感に富んだ秀作を刊行している作者。
 昨年はアバター住人が集う電脳世界を舞台にした特殊設定の、クローズドサークルもののパズラーを上梓した。
 
 刊行後、半年目にしてようやっと読むが、多重的な意味で起こりえない不可思議な密室殺人? が3件、さらにVR空間と現実世界の相関に関わる大きな秘密などを用意し、しかもクライマックス直前には6つの項目にわたり、作者から読者への挑戦状まで提示してくれるサービスぶり。
(評者はそのうち、設問のひとつめのみ正解。あと設問6の真犯人は、半ば当て推量でヒットした~汗~。
 ちなみに前者の方は、しばらく前に非・ミステリ小説以外のメディア&ジャンルで出会った某作品から、評者は正解のヒントをもらっている。)

 実によく練りこまれた作品だが、先のレビューの文生さんがおっしゃる通り、「連続殺人」の形成の経緯に、ちょっとどうしても強引さが生じてしまうのが難点。
 ただまあ、得点の方の加算(特にこのVR空間でしか成立しない複数の××トリックなど)で、十分に面白い謎解きミステリにはなっている。

 ただね、この本に高い評価をしたいのは、謎解きミステリとしての練度もさることながら、クロージングのどうしようもなくやるせない(中略)であった。ジャック・フイニィの大々々・大好きなあの作品のラストを思い出し、夜中に本気で泣いてしまったりする。
 『スツールハウス』『夏』もそれぞれ本当に良かったが、今回はさらにそれ以上。
 途中の描写もね、313ページのあの一行とか。たぶん作者も自覚的に読者の弱いところをついて泣かせてるんだろうけど。あー、くやしい(笑・汗)

No.1 7点 文生 2021/09/12 09:09
ハッカーからの攻撃を受けた結果、仮想空間内に存在する館及びその周辺エリアが封鎖(現実世界との行き来は可能)されたうえに連続殺人が起きるというクローズドサークル&特殊設定ミステリー。

まず、アバターが殺されるというとびきりの不可能状況が魅力的でぐいぐい引き込まれまれていきますし、そのトリックも盲点を突くもので秀逸。また、サブの仕掛けや犯人特定のロジックなども良く考えられています。

ただ、一連の事件がなぜ起きたのかというホワイダニットの部分に関しては、偶然に偶然が重なった結果であり、少々ご都合主義に感じました。


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