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[ サスペンス ]
ターミナル・マン
マイクル・クライトン 出版月: 1993年04月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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早川書房
1993年04月

No.1 6点 人並由真 2021/08/01 07:12
(ネタバレなし)
 1971年3月のロサンジェルス。2年前の自動車事故で脳に後遺症を生じた、現在34歳のコンピューター技師ハロルド・ベンスンが、大学病院に入院する。交通事故の後遺症で何回も発作を起こし、人事不省になりながら傷害・暴行を繰り返したベンスンは、警察官に護送されながら、大学病院内のNPS(神経精神科研究室)によって、当人の了承のもとに脳内にコンピューターの端末を埋め込み、暴力衝動を制御する治療=脳外科手術を受けることになっていた。手術は無事に完了するが、その直後、ベンスンは病院から姿を消した。

 1972年のアメリカ作品。クライトン名義で描かれた2冊目の長編フィクションで、ややSFじみた医学スリラーサスペンス。

 科学の力で(中略=某有名モンスターの名前が入る)の一種が生み出されてしまう、という本作のコンセプトは著名で、評者も大昔から聞き及んでいたが、実際に読んでみるとモンスターはモンスターでも、(中略)というより、瞬発的に切り替わる(中略)のようであった。
 半世紀前ならそれなりのリアリティを醸す手法であったのだろう、専門的な医学用語を並べているが、さすがに21世紀の今では、自分のような完全なシロートでも情報が古くなっている感はある。
 それでもマクベインの87分署シリーズのように、専門の書式の書類やら果ては医学データのグラフやらレントゲン写真などのビジュアルまで動員してくるあたりにはちょっと笑った。
(本文の活字の中に、レントゲンがいきなり出てきた時には、新旧『必殺仕置人』やら『暗闇仕留人』などの「必殺シリーズ」かと思った~笑~。)

 中盤からは、クリミナル・アト・ラージならぬ、クランケモンスター・アト・ラージといった内容になる。
 が、若き日のクライトン先生、妙なストーリーテリングで勝負をするよりは、素材のセンセーショナルぶりでストレートなサスペンス・スリラーをまとめようとした感じで、とにもかくにもお話には良くも悪くも曲がない。
 そのため、読んでる間はそれなりに楽しめるものの、結局はどうも食い足りなさが残る。
(後半の、とあるワンシーンだけは、なかなかショッキングでスリリングではあったが。)

 ちなみにHN文庫版の逢坂剛の解説はなかなか力作で、クライトン作品への傾注も伺えて好感が持てるもの。ただし本作の弱点として挙げている某ポイントについては、ちょっと見解に異を唱えたい。女性主人公にしてヒロインのジャネット・ロスの内面の推移など、<その辺>についての作者クライトンの思惟を如実に反映してると思うんだけれどねえ。
 直球勝負が大きな実を結ばず、秀作の域には行かないけれど、佳作くらいにはなっている一冊というところ。


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マイクル・クライトン
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