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[ 本格 ]
シェーン勝負に出る
私立探偵マイケル・シェーン
ブレット・ハリデイ 出版月: 1961年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1961年01月

No.1 7点 人並由真 2021/05/03 04:41
(ネタバレなし)
 愛妻フィリスを失い、傷心の私立探偵マイケル・シェーンは、9年間過ごしたマイアミを離れようとしていた。そこに友人の新聞記者ティモシイ・ラークが、シェーンに仕事で心の張りを与えようと、依頼人を連れてくる。依頼人は、ラークの友人で編集者のジョーゼフ・P・リトル。リトルの願う依頼内容は、彼の娘で作家志望の23歳のバーバラ(バブス)が別名でニューオーリンズに滞在中だが、不穏な人物によって麻薬中毒にされかけている気配があるので、現状を確認の上、危険がないように監視してほしいというものだった。依頼に応じたシェーンは現地にとび、懇意な、あるいは不仲の地元の警官たちと再会しながら、目的の娘に接近する。だがそこで、予期せぬ殺人事件が発生した。

 1944年のアメリカ作品。マイケル・シェーンシリーズ第9弾。
 本作の次のシリーズ第10弾『殺人と半処女』は読了済みなので、読む順番が後先になったが、いずれにしろ本作が、愛妻フィリスと死別直後の、そして二人目のメインレギュラーヒロイン、ルーシイ(本作では最初から最後まで「ルシール」表記だが)・ハミルトンのデビュー編である。
(同時に、ここから数作続く、シェーンのニューオーリンズシリーズの開幕編。)

 もうこれだけでシリーズの重要なイベント編、ファンにはたまらない一冊だが、あにはからんや(?)、行動派私立探偵小説としても、フーダニットの謎解きミステリとしても、期待以上によくできていた(嬉)。
 土地の大物と癒着しているらしい分署の署長ダルフ・デントンが、以前からシェーンと旧知同士の悪徳警官で妨害にかかるが、単純な悪役という扱いではない。シェーンの方もこの署長相手に、かなり際どい腹芸を使って対応したりするあたりとか、小説としても面白い。
(ちょっと『マルタの鷹』の一場面まで想起させる、スレた者同士の姦計めいたシーンなどもある。)

 なお本書の眼目たるルーシイ(ルシール)は、当初、事件関係者の友人として登場。巻き込まれタイプのサブヒロインから次第にシェーンとの距離感を縮めていく。シェーンのフィリスへについての心情吐露などに対するルーシイの反応など、わずかな描写がすごく泣ける。

 実際の証拠の確保(秘匿)や、さらにはニセの証拠を用意して関係者を欺くシェーンのやり口はかなり際どいが、その分、メイスンやドナルド・ラム的な即妙性と機動力を十全に感じさせて頼もしい。シリーズのなかでもかなり切れのいい動きではないか。
 
 終盤の謎解きは、名探偵が関係者を一堂に集めて、の王道パターンだが、ページ数がどんどん少なくなるなかでこれをやる辺りはゾクゾクワクワク。事件の真相(真犯人の狙い)については、どこかで見たような部分もなきにしもあらずだが、かなり精緻な一方でわかりやすいロジックで、よく出来ている。最後に犯人をはめるシェーンの作戦が、クリスティーのポアロものの某初期作品を思わせるのも楽しかった。

 評者が読んだシリーズの中では『殺人の仮面』と同様に、謎解き興味の強いフーダニット編。ただし中盤の展開は別の方向で楽しませるので、感触としてはさっき例にあげたメイスンものやバーサ&ラムものとかに近いかも。
 いやトータルでは普通に十分に面白かったけどね。
 個人的には何より、ルーシイ・ハミルトンの今まで知らなかった情報がたっぷり得られたのが、嬉しいし(笑)。 


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