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[ 本格 ]
誕生パーティの17人
ドゥレル警部シリーズ
ヤーン・エクストレム 出版月: 1987年01月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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東京創元社
1987年01月

No.2 7点 人並由真 2020/11/25 05:40
(ネタバレなし)
 スウェーデンのヴォートフルト。そこのとあるお屋敷で、大地主で資産家の未亡人エバ・レタンデルの90歳の誕生日が開かれる。エバの亡き兄エリックの娘である三姉妹(つまりエバの姪たち)の家族が一堂に集結し、その総勢は20人近くにも及ぶ。が、彼らの一部では、秘めた思惑や愛憎の念が渦巻いていた。その夜、屋敷内で二人の人物が変死。状況から片方が片方を殺害し、施錠した室内で自害したと見られた。しかし捜査にあたったベルティル・ドゥレル警部は、さることから不審を抱いた。

 1975年のスウェーデン作品。作者の長編第8作目にして、レギュラー探偵であるドゥレル警部ものの第7弾。
 
 思い起こせば評者が初めて、作者エクストレムの名前を知ったのは、1970年代初頭のミステリマガジン誌上(たしかさすがにこれはバックナンバーで購読した)。
 そこで「スウェーデンにも興味深いトリック派、不可能犯罪ミステリの大物がいる」とかなんとかの触れ込みで紹介されたのが、このドゥレル警部シリーズの第6作「うなぎわな(仮題・現在もまだ未訳)」だった。河川に仕掛けられた鰻捕獲用の水門のなかが、密室不可能殺人の事件現場になっている。そんな設定が当時のミステリマガジンの未訳作品紹介記事のなかで2ページにわたって面々と興趣ゆたかに語られ、これはなんか面白そうだ、と思ったものだった。
(なお当時のHMMでは作者の和名、カタカナ表記は微妙に違っていたかもしれない。)

 そしてそのミステリマガジンの紹介記事から十数年後、ようやく初めて本邦に翻訳された「ドゥレル警部」シリーズが、この作品『誕生パーティの17人』である。だがら最初に本書の邦訳刊行を知ったとき、正直「なんだ最初の翻訳紹介作品は、あの「うなぎわな」じゃないのか……」とも思ったのであった。

 とはいえこの作品(『17人』)にしても「スウェーデンのカー」だの「密室」の謎だの、一応は面白そうに文庫の帯や表紙周りに書いてある。だからまずはこれを楽しんで、続くシリーズで待望の「うなぎわな」を待てばよかったのだが、実際、結局のところ、評者もついに今回までずっとこの作品を読まないでいたし(汗)、日本でもほぼ評判にならなかった(と思う)。邦訳もこれ一冊で終わったし。
(だから本サイトでちゃんと一人だけ、10年以上も前にこの作品を読んでいるnukkamさんは流石だ!)

 自分がなんとなく積ん読にしていた理由、また世の中にあまり読まれなかった理由は、たぶん<スウェーデンのパズラー>という、結局は海のものとも山のものともよくわからないもの(笑)に、つい二の足を踏んだこと、さらに、題名のままの多すぎる登場人物に恐れをなしたこと(この文庫の巻頭にはマガーの『七人のおば』みたいな家系図の形で、密度感たっぷりな人物の相関図が用意されている)、くわえてパラパラ本文をめくると、なんかP・D・ジェイムズかレンデルなどの英国文芸派みたいに文章が<じっくり系>なこと……。あと400ページを超える本文もやや長め。
 まあ、そういったもろもろ要素の累乗のためなんかじゃないか、と思う。
 
 とはいえ個人的にもせっかく入手した本(かなり前にどっかの古本屋で、古書を250円で買っておいた)をこのままずっと読まないでいるのもなんかクヤシイ。そこで今回もまた一念発起して、巻頭の家系図をコンビニでコピーし、その複写の白身の部分に、各キャラクターの情報をメモリつつ読み進めていく。

 ちなみに翻訳はおなじみ、仁木悦子のご主人だった後藤安彦。超A級の名訳者(私見)で、英語からの重訳ながら、最後には編集部や関係者の協力のもとで原作者とも連絡をとって情報のすり合わせや確認をしたようだから、手堅い。そういう意味でも日本語への翻訳には一定の信頼がおける。

 それで作品の現物を一読しての感想だが……いや、結構、面白い。
 スウェーデンのカーを謳うほどには密室の謎も不可能犯罪もウリにしてこない作りで、創元の宣伝はちょっとあさっての方向を向いていた感じもあるが(そんなこともまた、日本での反響が鈍かった一因かもしれない)、登場人物メモを作りながら読むかぎり、多すぎる劇中キャラは必要十分程度にはかき分けられており、かなり良いテンポでページをめくっていくことができる。
 まあそれでも物語の舞台を出入りする登場人物の絶対数が多すぎるのは事実だが、それはそれとして、小説として各シーンを読ませる。群像ドラマとミステリ要素との兼ね合いのバランスなども、まあオッケーであろう。

 特にぶっとんだのは(ここでは詳述はできないが)、後半最後の3分の1あたりからの探偵役ドゥレル警部の運用。ちょっとこれは英米の作者なら考えられないだろう、……いや、あえて名探偵キャラを<こういうポジション>に据えるにせよ、もうもっと当人の内面描写などでその行動や事情をイクスキューズするだろう! というものであった(繰り返すが、くわしくは書けないよ・笑)。
 このへんが1970年代当時のスウェーデンのお国柄、往年の北欧パズラー気質というものか?

 興を高めつつそのまま最後まで読んでいくと、さらに終盤の筋運びは二転三転。残りページが少なくなっていくなかで、正に「え!?」というサプライズに出くわし、そしてそれから……(以下略)。
 いや、かなり面白い一冊だった。終盤で明らかにされる、妙にテクニカルな密室殺人トリックも印象深い。でもやっぱり、この作品の真価は最後の(中略)。うーん、たぶんちょっとした70~80年代の我が国の翻訳ミステリファンなら、いろいろ思うことはあるんじゃないかと。

 なお本作のあとに続くドゥレル警部ものの第8作目が、正にこの作品の後日談だそうで(巻末の解説より)「ああたぶん、そういうことね」とちょっと興味が湧いてしまう。今からでも本シリーズ第6弾(うなぎわな)と、くだんのその第8弾だけでも発掘してくれないものか。

 昨今の我が国での北欧ミステリブームには、現状、ほとんど興味のない評者(ファンの方スマン・汗)なんだけど、そういった気運のなかでこの作者とシリーズがいまいちど顧みられれば、とてもウレシイのだが。

No.1 6点 nukkam 2009/01/19 18:01
(ネタバレなしです) 1975年発表のドゥレル警部シリーズ第8作の本格派推理小説で、息子を殺した父親が密室状態の部屋で自殺したかのような事件が起きますが自殺と判断するには疑問点が出て密室殺人事件の謎解きになります。そこは「スウェーデンのカー」と評価される作者らしいところではありますが家族間の複雑な人間関係を描くことに重点を置いているところはむしろクリスティーの作品の方に近いように思います。さすがに登場人物が多すぎて整理しきれていない感もありますが、手堅いプロットの本格派推理小説です。ちょっと変わった密室トリックが印象に残りました。犯人当てとしてはもう少し丁寧に謎解き説明してほしい気もありますが。


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