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[ 法廷・リーガル ]
判事に保釈なし
ヘンリー・セシル 出版月: 1958年01月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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早川書房
1958年01月

No.1 5点 人並由真 2021/01/24 05:48
(ネタバレなし)
 高等裁判所のカタブツ判事として知られる70歳のエドウィン・プラウトは、ある日、路上で車に轢かれそうになった子供を助けた。だがその際に頭を打ち、精神の平衡を欠いた彼は、たまたま近くにいた善意の売春婦、フロッシー・フレンチに救われる。記憶を半ば欠損しつつも自分の職務だけは覚えていた彼は、その後、数日にわたり、フロッシーの家から裁判所に通う。だがその夜、フロッシーの家に戻ったプラウトを待っていたのは、刺殺された彼女の死体だった! 殺人容疑をかけられたプラウトの潔白を信じるのは、彼の唯一の肉親で娘である、まだ若い美人のエリザベス。エリザベスは必死に警察に事件の再調査を願うが、父の容疑は晴れない。そんななか、プラウトの趣味である高価な切手のコレクションを狙って、泥棒紳士の青年アムブローズ・ロウとその一味が登場。賊の犯行現場を押さえたエリザベスは、父を救う起死回生の手段として、裏の世界に通じた機動力を期待できるロウに、半ば脅迫の形で協力を求める。

 1952年の英国作品。
 セシル作品は今回が初読だが、以前から何か面白そうなのをまずは一冊、読みたいとは思っていた。そうしたら昨年だったか、この本作『判事~』をヒッチコックが映画化の企画として考え、かなり作業を進めていた? という事実を知った。それで俄然、興味が倍加してwebでちょっと高めの古書を購入。半日かけて読んでみた。

 ただ感想は、……う~ん、期待が先走りすぎたのか、評価はやや微妙(汗)。
 設定そのものはあらすじ通りになかなか面白く、細部の英国流ユーモアも、ああこの辺で笑いをとりたいのだな、というところもあちらこちら、よくわかる(被告席に立たされたプラウト老に、慣例とは違って敬称「サー」をつけるかどうするか、裁判官たちがグダグダ悩むところとか)。
 しかし翻訳がマジメで固いのか、いまひとつ愉快に笑えない(素人ながらに、英国の司法制度そのものは丁寧に翻訳しているっぽいのは、巻末の解説とあわせて、なんとなくわかる)。

 もちろん、プラウトの冤罪を晴らそうとするロウ(とエリザベス)側の試みがすったもんだするくだりはそれなりに面白いけれど、要は(中略)戦術なので、さほどサプライズも、また「こんなおバカな作戦を」的な愉快さもちょっと薄い(さらにたぶんこの辺も、固めの訳文が足を引っ張っている感じ)。

 くわえて中盤から、読者の方にはフロッシー殺害の真相が明かされる。
 ここでカードをテーブルの上で表返して、半ば倒叙サスペンス風の要素を導入したのは悪くなかったが、じゃあどういう風にロウ側が真犯人を追いつめるの? どんなエンターテインメントになるの? という興味にもうひとつ応えてくれなかった感触が強い。同じ趣向で、こういうのの扱いに長けてそうなヒラリー・ウォーとかが書いていたら、きっと3~5倍は面白くなったろうねえ。
 大枠も構成もけっこうハイレベルに狙いをつけながら、全体的に練り上げがもうちょっと欲しい、そういう減点評価ばかりをしたくなってしまう、ソンな作品。
 
 考えてみればヒッチコックがこれを映画化したかった、というのは、改めてよくわかるな。
 原作のケレン味あるネタだけどんどんつまみ出して整理して&潤色して再構築すると、かなり面白い映画ができそうだもの。原作が完璧に面白いものよりは、オレが手をかけてもっと面白くできそうだ、の方が、そりゃやりがいがあるよね。

 幻の映画版をいまいちど惜しみつつ、評点は残念でしたの気分で、少しキビシめに、このくらいで。


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