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[ 短編集(分類不能) ]
みどり町の怪人
彩坂美月 出版月: 2019年06月 平均: 5.50点 書評数: 2件

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光文社
2019年06月

光文社
2023年01月

No.2 6点 びーじぇー 2023/11/06 21:27
若者の恋愛感情、嫁と姑、小学生の友達付き合いや先生との親交など、日常での心の揺れを優しく凛とした視線で綴った七編からなる短編集。
みどり町という地方都市で若い男女がようやく二人暮らしを始める。第一話では、甘い共同生活が、ふとしたきっかけで変容していき、そしてその果てでいささか残酷で、しかし見方を変えれば誠実な真実が明かされる。第二話では、ある人物の心の棘が見逃していた「当たり前」に気付いて解消される様を描いていて、温かなサプライズが味わえる。そうした短編が、視点人物を替えつつ七編連なる中で過去の事件に囚われたみどり町の人間模様を浮かび上がらせていて、一編ごとに愉しみが増す。
そんな短編を、本書では深夜のラジオ番組の語りで繋いでいく。番組で話題の中心になるのは、「怪人を見た」という都市伝説だ。ラジオ番組の特性を短編パートの情景描写と重ねることで見えてくる伏線も仕込んであったりして巧み。

No.1 5点 人並由真 2019/09/19 04:13
(ネタバレなし)
 埼玉県の県庁所在地から電車で30分ほどのY市。そこのみどり町では、20年前に若い奥さんとその子の赤ん坊が不思議な怪人に殺されたという都市伝説があった。そしてその後も現在まで、怪人は町のどこかに潜んでいるという。FM放送の番組「ミッドナイト・ビリーバー」は、今回もその怪人について送られてきた情報のハガキを読み上げるが。

 関東の一角、辺鄙な住宅地を舞台にした連作ミステリ。全7本の事件がまとめられているが、別のエピソードの主要人物が他の話のサブに回ったり、またはその逆だったり、この辺はよくある趣向。
 評者は連作短編集の場合、人物メモを取らずに読み進めることが多いのだが、今回はたぶんキャラクターが前述の形で絡み合う事が予想されたので、当初から白紙とペンを用意。登場順に名前と情報を書きこみ、また後の話で再登場したらそのたびにデータを書き加えて整理していった。今回はこの作業がちょっと楽しかった。

 ただしミステリの出来としては、まあ、よくない意味でそこそこ。
 帯に「都市伝説×コージーミステリ」と謳っており、それって直球のパズラーでもなくトリッキィな仕掛けもなく、とにもかくにも今回は、都市伝説をネタにしたライトな連作ミステリを読んでくれ、ということなのか、という感じであった。
 実をいうと自分はいまだもって「コージーミステリ」の定義も形質もいまひとつピンと来ない人間なんだけど、少なくともその言葉って、こういう風に「歯ごたえのあるミステリではございませんよ」といった言い訳に使う類のものではないと思うのだが。

 それで7本の話の中には、人間ドラマ的な意味ではちょっといい話はいくつかあって、まあその辺が読みどころというか、この本の価値なのかな、と思う次第。
 一方で前述のようにミステリ的には全体的にどうってこともない話ばっかなので、うーん、まあ……積極的に悪口を言う気もないけれど、褒めるところにも困るよね、という感じであった(汗)。
 都市伝説としての怪人の正体、文芸の方は、作者のやりたいような事は見えるようなんだけど、それもまた「ふーん」という感じで終了。

 総括するなら、水で割った豆乳みたいな作品。栄養やうま味が皆無ではないが、良くも悪くも(どっちかというと後の方で)薄いよなあ、という食感。
 電車やバスの中での時間つぶしとかには、まあいいかもしれません。


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