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[ サスペンス ]
女の顔
新章文子 出版月: 1962年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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文藝春秋新社
1962年01月

講談社
1984年08月

No.1 6点 人並由真 2019/03/20 23:28
(ネタバレなし)
「東洋映画」の専属女優で24歳の夏川薔子(しょうこ)は絶世の美貌を誇りながらも役者としては致命的なほどに演技力に欠け、東洋映画の主力監督で婚約者でもある倉敷保樹の手を煩わせていた。女優業からの引退を何度も考えながらも稀に演技や表現がうまくいった時の達成感と周囲の賛辞の味が忘れられない薔子は、転身する勇気も湧かなかった。映画製作の日程に空白期間を見出した薔子はカメラから逃げるようになじみの地・京都への旅路につき、そこで知り合った京大医学部のインターン・葉山努と肉体関係を結ぶ。今後の関係の継続を願う努を振り切って東京に帰る薔子だが、自宅で彼女を待っていたのは元女医であった実母・兼子の頓死の知らせだった。だが母の死の状況に不審を感じた薔子は…。

 ややこしい(今風に言うならめんどくさい、か)心情の主役ヒロイン像を主軸にした普通小説っぽい作りで開幕し、途中から殺人事件? フーダニットの謎? を追いかけるミステリっぽくなる。それでそれ以降は双方のジャンルを行ったりきたりするような、そんな感触の長編作品。まあ確かに広義のミステリの一冊ではあろうが、確実に謎解き作品またはサスペンスものの定石を外している。
 ただ読み物としては、この掴みどころのない感じの筋運びに妙な緊張感が見出せて、最後まで結構面白かった。
 今回は1984年の講談社文庫版で読んだけれど、巻末の解説は同時期の乱歩賞作家ということで多岐川恭が担当。その多岐川はくだんの1980年台前半の観点で、作者・新章文子の主人公・薔子の突き放した描き方がドライだと書いている。まあそれはそうなんだろうけど、21世紀の今読むと、自分の心のままに生きていこうと迷いながらも一歩一歩行動する薔子の描写って、当人の自由な心情をしっかり大事にされているようにも思えたよ。旧来の一般常識に照らせば相応に破天荒なヒロインではあるが、そういう意味では嫌いではなかった。
 といいつつ中盤以降の展開はかなりショッキングで、一体この作品どこへ行くのかと思ったが、まあ最後は……。後半の内容は半分許せて、半分認めたくない感じ。なかなか地味に刺激的な一冊であった。


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新章文子
2020年03月
沈黙の家
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