皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ サスペンス ] ポセイドン・アドベンチャー 改題『ポセイドン』 |
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ポール・ギャリコ | 出版月: 1973年01月 | 平均: 7.50点 | 書評数: 2件 |
早川書房 1973年01月 |
早川書房 1977年12月 |
早川書房 2006年05月 |
No.2 | 8点 | 蟷螂の斧 | 2021/09/12 18:49 |
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1972年にジーン・ハックマン氏主演で映画化。ポセイドン号が転覆するというパニック映画の先駆的な大傑作でした。映画は脱出までがメインですが、小説の方は脱出後の各人のそれぞれの想いがメインのように感じられました。スコット牧師にとって神とは何だったんだろう?。ラスト、スーザンの「どうぞ神さま、そういうふうになりますように」は読者にとっては一種の希望となるのかもしれませんが、私にとっては彼女がそう考えざるを得ないという悲劇に思えてならないのですが・・・ |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2019/02/11 06:12 |
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(ネタバレなし)
その年の12月26日。アフリカと南米を巡航してリスボンに向かう大西洋航路の大型客船ポセイドン号。だが8万1千トンの同船は最後の出港の際、日程が不順という事情から、バラスト(船の重しとなる給水)の処置が不十分だった。さらに折悪く、航路の周辺で海底火山が突然活動。その影響で生じた大津波を受けて、当初から安定を欠いていた客船は船腹を完全に空に晒して転覆してしまう。天地が一瞬で逆転した船内が大惨事となり多数の死傷者が出る中で、たまたま夕食時、食堂に集っていた会食仲間「健胃クラブ」の十数名の男女は九死に一生を獲得。一同は徐々に進行する水没の危機を避け、救助隊との接触率が高そうな、高層マンションの高さほどもある最高頂=転覆した船腹を目指すが……。 1969年のアメリカ作品。映画(旧作の方)は大昔に観ていたが、原作の方はウン十年遅れてようやく読んだ。昔のミステリマガジンで刊行当時の本書を担当した書評子がやはり先に映画を観てしまい、書評が映画との比較ばかりになってしまうので我ながらやりづらい、とぼやいていたことを思い出す。 実際、床が天井になり、頭の上から備え付けのテーブルや階段が生えていたり伸びていたりするシュールなビジュアルイメージは、さすがに映画の方がずっと伝わりやすい。けれど、やはり小説には小説独自の面白さと読みどころがある。 今回は元版の翻訳ハードカバーと、全一冊版の文庫を用意し、前者の方で読んだ。そのハードカバーで全380ページの本文中、メインキャラたちの紹介を過不足なくまずは一回済ませたのち、巻頭の30ページ台でクライシスを起こすテンポの良さも最初から申し分ない。 メインキャラ十数人の扱いが細部で映画と相応に違うということはくだんのミステリマガジンの書評などで知っていた(もちろんここでは詳しくは書かないけれど)が、さらに終盤の6章分の小説独自の厚みにもちょっと度肝を抜かれた。ある意味ではこれは、映画(旧作の方。新作は知らない)を観ていた方が、え、え、え……! と驚かされること必至である。 パニック小説の先駆の一つだが、同時に良く出来た群像劇で人間ドラマ。特に13章は活字で読んでこそ良い。 そして331ページの、限られた時が迫る中での地の文 しかしそれでも彼女は死にたくないと思った。 この何でも無いワンセンテンスが胸を打つ。 ……しかしギャリコの作品は幅がありすぎていささか掴み所がない面もあるんだけれど(ほかには『ハイラム氏』や『ズー・ギャング』とか読んでるが)、その筆力の高さと相応の屈折と苦みを交えたヒューマンドラマはたぶん一貫しているものと思う。 本書(旧版)の訳者・古沢安二郎氏はそんなギャリコの作家性を認めて、主だった作品を自分で訳せたことを喜んでいた(1977年のNV文庫版の新規あとがき)が、それって本当に翻訳者冥利だったろうなあ。 |