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[ 本格/新本格 ]
疑問の黒枠
小酒井不木 出版月: 1956年01月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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河出書房
1956年01月

河出書房新社
2017年09月

No.2 6点 人並由真 2020/09/17 10:50
(ネタバレなし)
 その年の10月の名古屋。実際にはまだ健在な金持ちの死亡告知記事が、相次いで新聞に掲載される。しかし怪事の三人目の被害者で大会社「村井商事」の社主である当年60歳の村井喜七郎は、この珍事を面白がり、菩提所・東円寺の住職の協力をとりつけながら実際に葬儀を行おうとする。喜七郎は葬儀の場に奇術師・旭日斎松華を招いて趣向も考えるが、そこで生じたのは当人も予期しない出来事だった。

 昭和2年の作品で、オリジナルの創作物としては日本最初の長編ミステリという見識もある一編。浅学の評者でも作者・小酒井不木については本当にわずかばかりの知識はあり、以前から関心はあったが、このたび「別冊幻影城」の小酒井不木編で読了した。

 一読、これが本当に本邦最古の長編だったのか!? と驚かされるような仕掛けと趣向に富んだミステリで、その豊潤な内容に感嘆した。作品の方向としては謎解きの興味がそれなり以上にあるスリラーという趣だが、起伏の豊かな展開、特に中盤以降の登場人物の意外性のあるポジショニングに独特な感興を覚える。
 前述のように評者の不木観はまだまだ貧弱なものだが、それでもこの一編を著するに至ったこの時点の作者の海外ミステリをかなり読み込んだ確かな素養は実感する(実際、物語の冒頭はソーンダイクの探偵法に触れる法医学者・小窪介三の会話で開幕。物語の中盤にはチェスタートンの『知りすぎた男』の話題も登場する)。
 
 終盤に至る意外性や物語のテンションを求めるあまり、多少の無理筋、さらに伏線の張り方やものの考えの詰め方の甘いところは見受けられる気もするが、とにもかくにも昭和最初期に書かれた、全ての国産長編ミステリの先駆という事実を考えればエレガントな出来だという評価をするにやぶさかではない。
 登場人物もそんなに多くないし、文章も時代を考えればかなり平明。国産ミステリファンは、趣味を楽しむ上の素養として機会を見て触れておくのもよいと思う。

No.1 6点 nukkam 2018/10/11 21:10
(ネタバレなしです) 早逝が惜しまれる小酒井不木(こさかいふぼく)(1890-1929)は医学者でありますが海外留学中にミステリーに目覚め、国内ミステリーの父と呼ばれる森下雨村と共に江戸川乱歩のデビューを後押ししたことで知られます。海外ミステリーの翻訳にも携わっていますが現代でも入手が難しそうなスウェーデンのS・A・ドゥーゼの作品を翻訳したというのはとても不思議ですね。小説家としてのデビューは乱歩より後発で、活動時期は最晩年の約4年間に留まりますが100作近い短編を書き、その中には国内初のSF小説もあるそうです。1927年発表の本書は唯一の長編ミステリーで国内初の長編ミステリーと評価している文献もあります。これには異説もあって黒岩涙香の作品こそ国内初と主張する文献もありますが、黒岩の長編は海外ミステリーの翻案小説なので創作小説である本書と同列にはできないのではと思います。本書のプロットですが、まだ存命中の人の死亡広告が新聞に載る事件が3件続きます。3件目の被害者がこのいたずら(?)に便乗して自分の葬式を企画するのですが、棺桶の中で死んだふりをしているはずの彼が本当に死体となっていたという事件が起きます。さらに彼の家族、事件の鍵を握ると疑われた人物、そして被害者が飲んだと思われる丸薬の残りが次々と消えてしまう展開に読者は引きずり込まれます。大袈裟な芝居のような言動が気になったり、容疑者として残すのか外すのかの推理が根拠不十分だったりと問題点もありますが国内ミステリー黎明期の作品としては予想以上によく出来た本格派推理小説だと思います。私の読んだ河出文庫版は現代仮名遣いに改訂されていて読みやすくなっています。


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小酒井不木
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平均:6.00 / 書評数:2