皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ ハードボイルド ] それまでの明日 沢崎シリーズ |
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原尞 | 出版月: 2018年03月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 5件 |
早川書房 2018年03月 |
早川書房 2020年09月 |
No.5 | 7点 | E-BANKER | 2023/01/07 15:02 |
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遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。
毎年恒例(?)となりましたが、どの作品を新年一発目にセレクトするかということで・・・2023年の“読み始め”はコレでした。 2018年の「このミス」第1位にも輝き、作者が発表まで14年も暖めた(?)「探偵沢崎シリーズ」の最新作。恐らく読み応えのある作品のはず。 単行本は2018年の発表(当たり前!)。 ~11月初旬のある日、渡辺探偵事務所の沢崎のもとに望月晧一と名乗る紳士が現れた。消費者金融で支店長を務める彼は、融資が内定している赤坂の料亭の女将の身辺調査を依頼し、内々のことなので決して会社や自宅へは連絡しないようにと言い残して去っていった。沢崎が調べるとすでに女将は癌で亡くなっていた。顔立ちのよく似た妹が跡を継いでいるというが、調査の対象は女将なのかそれとも妹か?しかし当の依頼人が忽然と姿を消し、いつしか沢崎は金融絡みの事件の渦中に。14年もの歳月を費やして遂に完成したチャンドラーの『長いお別れ』に比肩する渾身の一作~ 本作を読んでいて驚かされたのは主につぎの2つ。 1つめが単行本241頁で主要登場人物のひとりである海津一樹が沢崎に向かって放ったひとこと。まさかの展開!って思ったけど、これは次章で肩透かしのように否定されてしまう。いやぁービックリした。これが真実だったらもうドラマのような展開だったんだけど・・・(どっちもフィクションだから「ドラマのような」は変かな?) そして2つめは当然ラスト。どなたかが書かれているとおり、オンボロビルにあった探偵事務所から移転した沢崎が、記念すべき移転オープンの日にかの東日本大震災に遭遇してしまう! これこそまさか、だろ。「生きている」というセリフどおり、命に別状はないようだが、物語はここで唐突に終わりを迎える。 こんなサプライズを用意するなんて憎らしい!っていう感じなのが、どうにもこれは過去作に比べて随分と「薄味」に思える中身に作者がスパイスとして「敢えて」加えたものなのではと邪推してしまう。 「薄味」と書いてしまったけど、言い換えるなら「迷走」なのかもしれない。紹介文のとおり、事件の発端はハードボイルドではお馴染みの「人探し」或いは「身辺調査」に過ぎなかった。それが、偶然が偶然を呼ぶ形でどんどん繋がり、ついには作者ですら制御不可能なほど広がってしまった・・・と思えるのだ。それを「迷走」と評してしまうのだけど、最終的に広がっていった事件は実は単なる竜頭蛇尾、取るに足りないチンケな事件だったということになる。結果として残ったのは、最初の依頼=「人探し」或いは「身辺調査」なのだ。 ここが、どうにも過去作に比べて緊張感の欠如という作品の雰囲気になってしまっているような気がする。物語の終章。ついに件の「望月某」の正体も判明するのだが、正直なところ、その素性も経緯も謎も、そこまで引っ張ることだったのか、という疑問が湧いてきた。 本作は完成まで14年の歳月を費やした作品である。ワインなら14年のうちに熟成するが、本作は14年のうちに迷走してしまった。そして14年もの間、緊張感を保つのは無理なのは道理である。 本作の裏テーマは「父と息子」ではないかと思うのだが、沢崎も齢50を超え、いい意味で熟成され、悪い意味で衰えた。そんな印象を強く持った。 もちろん秀作である。こんな大作、書ける人なんてそうはいない。読み応え十分だし、シリーズファンなら尚更、発表が待ち遠しかったに違いない。かくいう私もその一人。 でも如何せん。ハードボイルドに老いは禁物なのかもしれない。人は誰でも年をとる。体も精神も熟成され、そして同時に衰え始める。仕方ないこと。作品だって同じだろう。そうだ、やっぱり「熟成」なのだ。そう思って「熟成」に対する評点にしたいと思う。 (今年も訳のわからない書評になってしまいそう・・・) |
No.4 | 7点 | 小原庄助 | 2022/11/19 09:27 |
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物語は、渡辺探偵事務所の私立探偵である沢崎が、赤坂の料亭の女将の身辺調査という依頼を望月皓一と名乗る紳士から受けるところから始まる。沢崎の口調や依頼人との会話の流れが素敵だし、依頼人が語る渡辺探偵事務所を選んだ理由も印象深い。
起伏に富んだ物語の中で、作者はしっかりと関係者の人となりを描き切る。女将の凛とした接客や、彼女と縁のあった画家の才能と矜持などが沢崎の調査を通じて浮かび上がり、さらに組員の人情や紳士の狡猾さなども見えてくる。同じく人質になった縁で沢崎と行動を共にする青年の造形も絶妙。 人間関係を巧みに編み上げた事件の真相を堪能。最後の最後には、超ド級の衝撃も襲ってくる。 |
No.3 | 7点 | 雪 | 2021/08/25 21:42 |
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11月初旬のある日、西新宿のはずれのうらぶれた通りにある〈渡辺探偵事務所〉を、望月皓一と名乗る紳士が訪れた。消費者金融〈ミレニアム・ファイナンス〉で新宿支店長を勤めているという彼は、融資が内定している赤坂の老舗料亭〈業平〉の女将・平岡静子の身辺調査を依頼し、内々の事なので極力連絡は控えてくれと言い残し去っていった。
だが調べるとすぐ、静子が今年の夏の初めに膵臓癌で病死した事実が判明する。顔立ちのよく似た妹・嘉納淑子が跡を継いでいるというが、調査の対象は先代の女将・静子なのか、それとも妹の淑子なのか? 私立探偵・沢崎は望月支店長と連絡を取ろうとするが、電話はいずれも空振り。最後の手段として〈ミレニアム・ファイナンス〉新宿支店に張り込む沢崎だったが、彼はそこで折悪しく発生した強盗事件に巻き込まれてしまう・・・。 切れのいい文章と機知にとんだ会話。どれだけ時代が変わろうと、この男だけは変わらない。14年もの歳月を費やし完成した、チャンドラー『長いお別れ』に比肩する渾身の一作。 『愚か者死すべし』より十三年四ヵ月を費やし、2018年に上梓されたシリーズ長篇第五作。著者七十二歳の時の作品だが、時間を掛けただけあってなかなかの出来。前作にあった不自然さや臭みも取れ、かつての香気が戻ってきていいる。 ネット公開されている〈著者あとがき〉(https://www.hayakawabooks.com/n/n8aca92e80979)には、本書で沢崎の助手を務める若者・海津一樹の存在感が日に日に著者の中で増していった事が記されているが、〈沢崎に負けないだけの存在感を持つ副主人公〉の設定は本シリーズでも初。抜け目なさと爽やかさを併せ持つその魅力で、作者にとっても特別なキャラクターとなったようだ。〈あとがき〉の最後には続篇として、『それからの昨日』なる仮題を編集者と選んだことが記されている。本書がシリーズ最終作となるおそれもあるので、二人が再び読者の前に姿を現すかどうかは分からないが。 上記の事件で強盗の説得に成功し、その後幾度かの邂逅を経て疑似親子関係とも言えるコンビを組む事になる沢崎と海津。警察立会いの元開かれた支店の金庫からは、ジュラルミンケースに詰まった四億から五億になんなんとする札束が姿を現し、滞りなく帰社する筈だった支店長はそのまま行方を晦ます。更に賃貸マンションの浴室のバスタブには、同居人の男の死体が浮かび・・・・・・ 果たして望月皓一はどこに消えたのか、沢崎への依頼の真の目的は何か、また金庫の札束が意味するものは? 事件を覆う暴力団の影、動き出す〈清和会〉の橋爪、そして錦織警部の再登場と、充実した内容と円熟の筆致で、評価は『さらば長き眠り』に次ぐ7点。 |
No.2 | 5点 | HORNET | 2019/01/26 20:07 |
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各ミステリランキングで悉く1位だったので、初めてだったが読んでみた。知らなかったのだが、どうやらものすごく寡作の作家らしい。だからおそらく、一定のファンがいて、「待ちに待った…!」という感じなのだろう。ただ、新規参入で初めて読んでも全く問題はなかった。
金融会社の支店長を名乗る男から、料亭の女将の身辺調査を依頼された探偵の沢崎。ところが沢崎が調べると、女将はすでに死んでいた。そのことを報告しようと金融会社を訪ねると、強盗事件が発生し、沢崎は巻き込まれてしまう。なんとか事件は収まったものの、支店長の行方は依然として不明。その行方を追究するうちに、今回の依頼の裏にあった事情に巻き込まれていく―。 読んでいくうちにだんだん事情がややこしくなってきて、整理しながら読まなければ理解が及ばない難しさを感じた。物事に動じない沢崎のキャラクターは好ましく確かに面白いが、この作品が各ミステリランキングの1位を総ナメするほどのものなのかは自分にはわからなかった。 |
No.1 | 9点 | fareastnorthern | 2018/03/06 01:58 |
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ずいぶん待たされた久しぶりの新作。新宿の片隅に事務所を構える孤高の私立探偵沢崎シリーズ。
以下ネタバレ感想。 前作では出てこなかった錦織警部との相変わらずのやり取りは最早微笑ましいレベル。とはいえ時間の流れを感じさせずにはいられない人や街の変化も。あの相良が、親孝行キャラになったり。 謎解き度合いは抑えめながら、まさか沢崎に叙述トリックを仕掛けられるとは。。。 あと噂で語られる同業者の描写が御手洗潔風の天才型探偵なのが気になる。いつか絡んでくるのかな。 最後は東日本大震災が発生するところで、物語の幕は閉じる。これは次回作を書かざるを得ないでしょう。 「それまでの明日」から「それからの今日」が描かれるのを、また待ちましょう。 |