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ミステリの祭典

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◇・・さんの登録情報
平均点:6.03点 書評数:193件

プロフィール| 書評

No.73 5点 ミスティック・リバー
デニス・ルヘイン
(2022/08/10 23:16登録)
哀しみに彩られたクライム・ノベル。喜びは一瞬、哀しみはいつまでも居座るという言葉が出てくるが、まさにそんな哀しみを内に抱えて生きる男たちの悲痛な物語。
無理矢理人生を変えられ、もはや誰も信じられなくなった男たち。そんな彼らの姿に苦悩を深める家族たち。作者は祈りに満ちた眼差しで、傷つき、汚れ苦しむ者たちの心を慰撫していく。極めてエモーショナルな作品。


No.72 6点 切り裂かれたミンクコート事件
ジェームズ・アンダースン
(2022/07/26 17:24登録)
一九二〇年代から三〇年代にかけて英国で隆盛を極めたカントリーハウス・ミステリのパスティーシュになっているのが楽しい。あのイネスやアプルビイ警部やマーシュのアレン主任警部と並んでスコットランドヤードの三羽烏と称される名警視がロンドンから乗り込んでくるくだりは、ニヤリとさせられることしきり。遊び心満載の一冊。


No.71 6点 赤髯王の呪い
ポール・アルテ
(2022/07/26 17:19登録)
作者の実質的処女作。小屋の中から消えた少女という見事な密室トリックが盛り込まれている。舞台となるその地方で囁かれる恐ろしい呪いや、死んだはずの少女が起こす殺人という怪奇性も充分で少しも飽きさせない。
しかも、主題性や叙述性の部分で日本の新本格との共時性が深く、実に興味深い。


No.70 5点 草の根
スチュアート・ウッズ
(2022/07/26 17:15登録)
暴行殺人容疑者の裁判と上院議員選を控えたウィルの選挙行動と、奇怪な殺人者を追うキーン刑事の捜査活動が交互に進行する。
これがどう結びついてクライマックスを盛り上げるか。ややご都合主義的な点はあるが、南部ならではの特異性や差別思想が引き起こす事件を、よく書き込んだ土着ミステリである。


No.69 7点 女刑事の死
ロス・トーマス
(2022/07/26 17:11登録)
玄人好みとか職人芸、作家が敬愛する作家などと言われた、逆に言えば一般受けのしなかった作者。
妹の死の謎という題材ながら決して感傷に溺れない文章、複雑なストーリー、リアルで個性的な登場人物の描写と、彼らの冴えた会話、深い余韻。


No.68 7点 利腕
ディック・フランシス
(2022/07/26 17:08登録)
勝利を約束されたような人気の本命馬が、次々とレースに負けていく不可解な現象が起こっていた。ハレーは、ジョッキイ・クラブの不正疑惑と先妻の巻き込まれた詐欺事件を調べる傍ら、調査に着手する。
大がかりな謀略も派手なアクションも登場しない。にもかかわらず、最後まで惹きつけて離さないのは、いったん脅迫に負けて自尊心を失ったハレーが、いかにしてそれを取り戻すかが軸になっているからだろう。


No.67 8点 カラマーゾフの兄弟
フョードル・ドストエフスキー
(2022/06/30 19:04登録)
ここには愛と憎しみ、淫蕩と純潔、金銭欲と殺人、悪と恥辱、無神論と信仰、人間の低劣さと高潔さが詰まっており、その作品世界ははるか後に生きる私たちさえも射程に入れているのだ。
この小説には、生と死の根源的な問題を、ぐっと鷲摑みして読者を虜にしたら離さない力が備わっている。価値のよりどころが曖昧なまま、生活を送る者がこれ読めば、頭を殴られたような衝撃を覚えるに違いない。


No.66 6点 呪われた極北の島
イアン・キャメロン
(2022/06/30 18:57登録)
鯨の墓場を探しに行ったまま行方不明となった青年を探索する三人の男の物語。
前人未到の地を大ぞりで駆け抜けようとするが、食料が尽き飢餓に瀕し、猛吹雪に襲われ、不可解な雪崩が起き、謎の部族から襲撃を受けてと次から次へと襲ってくる脅威との闘いはまさに興奮の連続。


No.65 5点 ジョン・ランプリエールの辞書
ローレンス・ノーフォーク
(2022/06/30 18:52登録)
ロンドンの地下に潜む秘密組織、東インド会社をめぐる陰謀、空飛ぶ男、ユグノー弾圧、インドの殺し屋、自動人形などガジェットが満載。
とにかく壮大な、相当広い家じゃないと広げきれないような大風呂敷の特大バロック小説で、爆笑しながら読みました。


No.64 6点 みちのくの人形たち
深沢七郎
(2022/06/30 18:48登録)
自己の意識内に置かれた事象たちは我々たちにとって安全で親しいが、その親しさの中から俄かに顔を出す「家中にあって家中にあらざるもの」、それが「不気味なもの」だ。
この小説は、一見親しく穏やかな日常世界を描きながら、ある瞬間、不意に読者を「不気味なもの」と出会わせ、その暗中で孤絶させる。
不気味さはその内容以上に、独特な語り口にある。文末「と言う」、「のだ」の多用や、語り手を殊更無学に見せるための故意に稚拙な文体。それら表現方法は深沢の真骨頂だが、彼の小説は一個人が外部に晒されることの衝撃を超え、日本という共同体さえ脅かす危険な他者性をはらんでいる。


No.63 6点 夜明けのメイジー
ジャクリーン・ウィンスピア
(2022/06/30 18:39登録)
イギリス人の階級社会は第一次大戦を境に崩壊していったが、女中から大学生、そして看護師から女性私立探偵になったヒロインの半生も、そんな激動の時代を反映している。メイジーが抱えている悲劇的な過去は、彼女が請け負ったケースとは別の謎として最後に明らかになるのだが、事件の結末よりも読者の心に長く残るだろう。
メイジーは知的で思慮深く、ほかのシリーズものの主人公にはない静かな魅力がある。彼女を支える脇役たちの心優しさも嬉しく、彼らと再会するためにシリーズを読み続けたくなる。イギリスの変化を伝える歴史小説としても興味深い。


No.62 6点 シスター
ロザムンド・ラプトン
(2022/06/30 18:33登録)
イギリス人著者による簡潔でありながら美しい文章は、アメリカのミステリにはない独自の雰囲気を作り出している。
主人公が自分自身の心理分析をしながら登場人物を紡ぎあげてゆくという手法も、謎を最後まで謎のままにさせておくのに一役買っている。姉妹の深い愛情を思わせる詩的なエンディングも格別。生命倫理や医療倫理のテーマも興味深い。


No.61 7点 ラスト・チャイルド
ジョン・ハート
(2022/06/30 18:28登録)
十二歳の少女の失踪事件をきっかけに、壊れてしまった家族。父親は行方をくらまし、母親は悲しみと怒りを薬物で癒すことしか出来なくなっている。母も警察も少女の生存を絶望視する一方、双子の兄であるジョニーだけは、どこかできっと生きていると信じて妹捜しに明け暮れる。
神の声が聞こえるという体重三百ポンドの大男の存在が不気味な影を落とす中、事件は次第に連続殺人の様相を呈していく。家族の物語と少年の成長と謎解きが見事に調和していて、このバランスが絶妙。
黒人奴隷とその解放の歴史や信仰の話も無理なく盛り込まれ、物語に深みを与えている。そして小さいながらも希望の光を灯してくれる秀逸なラスト。最後の一文で救われた気分になれるはず。


No.60 6点 ボグ・チャイルド
シヴォーン・ダウド
(2022/06/30 18:21登録)
少女の死にまつわる謎、調査にやってきた老古学者の娘との淡い恋、イギリス本土の医大進学を目指す受験生としての焦り、信念を貫くために命を削ってハンガーストライキをしている兄への複雑な思い、ひょんなことから加担させられることになった悪事に対する苦悩など、盛りだくさんの要素を織り込んで、一人の若者のひと夏を彩り豊かに描ききった清々しいホラー風味の青春小説。


No.59 4点 ホワイト・ジャズ
ジェイムズ・エルロイ
(2022/06/30 18:14登録)
独特な文体がまず合わなかった。単語と短文がダッシュやスラッシュやイコールで結ばれながら、語り手の意識をスタイリッシュに紡いでいく。また、人名だけでなく役職名も単語だらけの言い切りで頻出するから、アメリカの司法と行政のシステムに詳しくない自分には二重苦・三重苦。
話としても、はめたつもりがはめられたという、よくある愚かな物語。その点からいっても魅力に欠ける。


No.58 5点 空のオベリスト
C・デイリー・キング
(2022/06/30 18:07登録)
当時、最先端であった旅客機内の殺人事件を描いて、そこに流行の心理学や怪しげな超化学みたいなものを絡め、図版や容疑者の行動時間表、手掛かり索引などを盛り込んでいく。
当時の本格ミステリの趣向を総ざらいした感じだが、その割には謎解きのスケールが小さい。


No.57 7点 太陽がいっぱい
パトリシア・ハイスミス
(2022/06/30 18:02登録)
ミステリの分類上は犯人側から描く倒叙ミステリである。全体の三分の一当たりで殺人が実行される。
ただこの作品の場合、殺人で犯罪計画が完了するのではなく、その後犯人が被害者になりすまし、財産を横領する部分が計画のメインでもある。殺人がどう暴かれそうになるのかというスリルと、●●●●がどこまで通用するのか、財産横領は成功するのかといった犯罪小説としての面白さが並行していく。
その過程で、予定外の殺人も犯してしまうなど、主人公のリプリーの行動は場当たり的で、必ずしも綿密な完全犯罪とは言えないのだが、作品そのものは高度で緻密な構成のミステリである。


No.56 6点 きず
アンドニス・サマラキス
(2022/06/30 17:55登録)
全体主義国家の悪夢を意表を突く形で描いた小説。
登場人物の状況設定、物語展開全てが異色。唯一無二のスリラー。


No.55 7点 まるで天使のような
マーガレット・ミラー
(2020/11/14 19:13登録)
ギャンブルですっからかんになった探偵が偶然訪れた新興宗教団体で、とある人物の身の上調査を依頼されることから始まる。
出だしは極めてオーソドックスだが、ここからこの作者特有の超絶的な心理スリラー劇が展開される。
結末の衝撃と余韻は圧倒的な印象で心に残る。


No.54 7点 川は静かに流れ
ジョン・ハート
(2020/11/07 20:27登録)
主人公を含め、登場する者すべてに弱みがある。過ちを犯し、嘘をつき、わがままな行動をとり、傷つく。だが、それを許し、受け入れ、癒すことが出来るのも人間である。
抒情詩のように美しい文体と、アメリカの南部の男らしいハードボイルドさがマッチして、特別な雰囲気を醸し出している。ミステリとしてだけでなく、純文学としても楽しめる。

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