| ◇・・さんの登録情報 | |
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| 平均点:6.05点 | 書評数:212件 |
| No.92 | 5点 | もう終わりにしよう。 イアン・リード |
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(2022/11/28 21:19登録) カップルである男女の不穏な会話劇で読ませる心理スリラー。 二人が男の実家に行き、謎の男からの無言電話に悩む女性が、交際相手の男の両親に挨拶をするまでのシーンの合間に、おそらく二人の帰省の後、何かしら常軌を逸した形で家から死体が発見されたことが語られる。謎解きミステリ的なアプローチではないが、読了後には「何が起こっていたか」という事態の真相を読者に解釈させる作りになっている。 作中で哲学的な問いが男女の間で交わされるが、再読すればその会話から見えなかった景色が見えてくるはず。 |
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| No.91 | 3点 | 聖ウラジーミルの十字架 イーヴリン・アンソニー |
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(2022/11/15 19:43登録) 何十年もの間、歴史から忘れ去られていた十字架に国家の運命を左右する力を与えてしまった設定からして、すでに無理があるような気がするが、それ以上に気になるのが、安手のテレビドラマのような人物設定。 ストーリー構成も全体的に荒く、中盤ルーシーとウォルコフのラブロマンスがだらだら続いたかと思うと、終盤になっていきなり話は急展開、スイスを脱出したルーシーをウォルコフの命を狙って、殺人マシンのような人物が突如登場してくる。ラストでは、さらに意外な事実が明らかになるのだが、これまた強引な仕掛けのため、驚くというより笑いがこみあげてくる。 |
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| No.90 | 5点 | 独捜! 警視庁愉快犯対策ファイル 霞流一 |
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(2022/11/15 19:36登録) 愉快犯事件を専門に捜査する警視庁の特殊チームの活躍を描く本格ミステリ。 物と物とを繋いで珍妙なオブジェもどきを作る愉快犯の連続事件を追ううちに、別の事件、それも密室殺人の凶悪事件に遭遇してしまう。不可解と不可思議、二つの謎は表裏一体にリンクし、双方の解明のために、不愉快なくらい愉快な刑事たちが奮闘する。 日常の謎と非日常の謎を合い盛りにしたダブル・テイストのハイブリッド本格。 |
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| No.89 | 6点 | サバンナの奥 T・A・ロバーツ |
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(2022/11/15 19:29登録) ケニアの国立公園の中でヘリコプターが墜落し、パイロットと共に著名な女性野生動物学者アレクサンドラが事故死した。さらにヘリコプターの残骸の下からアフリカ人の死体が発見された。事故機の製造元はエンジニアのアランを現地に派遣し、事故究明に乗り出した。 アフリカの大自然をバックに、滅びゆく者への愛着や、自然を奪おうとする悪への憤りを、不器用な主人公であるヘリコプターの設計者の目を通して淡々と描いている。 アフリカの大地、民族間の紛争、利権争いなど作者の経験に基づいた丹念な書き込みがあり、航空機器に対する造詣も大変なもの。 |
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| No.88 | 6点 | 罪悪 フェルディナント・フォン・シーラッハ |
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(2022/11/02 19:14登録) 作者は犯罪について書くが、そこに至る感情を描かない。冒頭を飾る「ふるさと祭り」でも、傑作「間男」でも、焦点となる犯罪の原因は空白のまま。百万言を費やしても描き得ない人と世界の暗い不思議を、作者は百万言を費やす。代わりに空隙として残す。そして起きたことだけを読者に差し出す。余白に思いを巡らせるのは読者たちの仕事と言わんばかりに。 |
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| No.87 | 4点 | クライアントの姪 ジニー・ハーツマーク |
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(2022/11/02 19:08登録) ケイト・ミルホランドは、ロス法律事務所の合併・買収部門に所属する女弁護士。会議中、伝言を受け取ったケイトは、恐れていたことが事実になったのを知る。事務所の最上の顧客でもあるアゾール製薬会社への敵対的買収が始まったという宣戦布告の知らせだった。 全体を通して、ある企業の乗っ取りに対抗する法律事務所と、その敵との駆け引きを描くのだが、乗っ取りが成功するのか、それとも阻止できるのかというスリルが読みどころになっている。 しかし、弁護士たちの反撃とそれによる相手との駆け引きといったところまでは描けておらず、不満が残る。また、容易に想像がつく手がかりに主人公が終盤まで気づかないのはなんとも腹立たしい。 |
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| No.86 | 4点 | 秘めやかな宴 T・J・マグレガー |
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(2022/10/20 20:03登録) 殺人淫楽症に憑かれた二人の連続殺人魔。彼らとコンタクトをとってベストセラーを書こうとする女性作家、劇団のメンバーを中心とした秘密クラブなどが絡み合った複雑なプロットを、視点をいろいろ変えて描くことによって効果を上げている。 しかし、複雑なプロットは整理されておらず、やや消化不良になっていき、主人公が襲われる場面からもスリルが伝わってこない。 |
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| No.85 | 6点 | 災厄の紳士 D・M・ディヴァイン |
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(2022/10/20 19:56登録) 登場人物は書割りだけど、しっかりキャラクターが書き分けられているから説得力がある。ある人物の性格を前提として論理的に考えれば分かるというところは、書き割り的キャラクターならではこそ可能なのでしょう。 ただ、前半で純潔を奪うことにやたら焦点が当たっていて、後半、絵解きをされると少し拍子抜けでしたが。 |
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| No.84 | 5点 | 遊戯室 フランセス・ヘガティ |
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(2022/10/20 19:52登録) 一見平和に見える家庭に潜んでいる異常性と、その崩壊していく様が淡々と、しかも綿密に描かれているが、一気に崩れ落ちていくのではなく、危うい均衡を保っている辺りがなんとも不気味。 主人公のアレンデール夫妻は確かに異常なのだが、ではソフィーやメアリなど周囲の人々は正常なのかというと、決してそんなことはなく、彼らも目に見えるほどではないが、やはり確かな歪みを抱えている辺り、現代社会に対する批判精神に満ちているといえるかもしれない。 |
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| No.83 | 4点 | オフ・マイナー ジョン・ハーヴェイ |
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(2022/10/03 19:54登録) チャーリー・レズニック警部とその刑事たちのチームが手掛ける事件を描いたシリーズの第四弾。ミリントン部長刑事を始め女性のパティル刑事などお馴染みのメンバーが出演する警察ミステリ。 目まぐるしく人物の視点が交錯する技法は、警察ミステリとして各刑事の人物を描き分けると同時に、事件の全体像をモザイク的に拡散させながら収斂しようという試みだろうが、集中力を欠く結果に陥る弊害も伴い、大部の割には印象の薄いストーリーになってしまった感がある。 |
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| No.82 | 4点 | シャーマンは歌う ジェイムズ・D・ドス |
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(2022/10/03 19:48登録) 冬の近づいたある夜更け、南ユート族に属するシャーマンの老女は目に見えぬ小人の使者の声を聞いた。何か恐ろしい異変が起ころうとしているのだ。 科学技術に関する謎の設定とシャーマンに見られる神秘主義の融合が売りのようだが、その二つが有機的に結びついているとは言い難い。全体的な構成もぎこちなく、登場人物の描き方や結末の捻りといった点でも多くの不満が残る。 |
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| No.81 | 4点 | チャイナ・ウォー13 ボブ・メイヤー |
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(2022/10/03 19:42登録) 様々な立場の人間が最善を尽くそうと努めながらも、実際には駒として利用されていただけというのは、軍事ものやスパイものの常道ではあるのだが、本書ではその最も単純な図式が用いられている。 事情を全く知らされずに現地へ飛ばされた兵士たちばかりではなく、その計画を練った人物もまた、さらに大きな力によって操られていたというだけのことだ。ラストシーンで語られる新聞記事にしても、ある意味では極めて類型的なオチといえるものである。ミステリ的な要素もなくはないが、ラストも付け足しのような印象が強く、これだけで謎解きと呼ぶのには明らかに無理がある。 |
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| No.80 | 7点 | 死の舞踏 ヘレン・マクロイ |
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(2022/09/23 18:33登録) 一九三〇年代のマンハッタンが舞台。雪の中から、高熱を発する死体が見つかる。謎の死体は誰か、なぜ寒い雪の中でも死体が熱を発していたのかと謎の設定が魅力的。 事件の鍵を握る若い女性は、自分が別の人間と間違えられていると訴える。彼女の精神が正常ならば、なぜこのような奇妙な状況に置かれているのか。都会に生きる者のアイデンティティ・クライシスを背景に、混迷を極めた物語は、カタルシスへと導かれる。 |
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| No.79 | 6点 | 間違いの悲劇 エラリイ・クイーン |
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(2022/09/23 18:28登録) 短い中にも二転三転、プロットは目まぐるしくどんでん返しをし、万華鏡さながらの様相を呈する。 物語の主題は現代的だが、普遍的な人間性に裏打ちされている。神聖さと俗っぽそが混じった独特の手触りがある。 |
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| No.78 | 5点 | 赤い館の秘密 A・A・ミルン |
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(2022/09/10 06:20登録) 全編に漂う呑気さ、殺人事件が起き館の主人が失踪しているのに、全く緊張感のない面々。探偵役のアントニー・ギリンガムとワトソン役のビル・べヴリーの漫才のような掛け合い。ユーモラスな各登場人物の言動・行動。 プロットが雑でトリックに無理がある。本作はお伽噺として読むのがベスト。 |
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| No.77 | 9点 | 三つの棺 ジョン・ディクスン・カー |
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(2022/09/10 06:15登録) 本書の魅力は、密室トリックの解明にあるというより、読者を錯覚させるカーの手腕の巧みさにあるといえる。それはまさに芸術と呼ぶにふさわしい情報提示の巧みさであり、また棺やトランシルヴァニアというガジェットの使い方の巧みさである。 |
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| No.76 | 5点 | フェイスメーカー ウィリアム・カッツ |
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(2022/08/30 19:49登録) 作者がも最も得意とする都会派ホラー・サスペンスに、医学的な猟奇趣味の薬味を利かせた意欲作。 完璧な美貌の創造に憑かれた医師と、彼の被造物たるヒロインとの対決という構図には、フランケンシュタイン幻想の遥かな反映が認められよう。 扱い方によっては相当にスプラッターするはずの素材をサラリと書いてしまうあたりが、作者の都会派たる所以でもあるわけだが、反面いささか迫力不足の感があることも否めない。 |
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| No.75 | 5点 | ハルイン修道士の告白 エリス・ピーターズ |
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(2022/08/30 19:41登録) このシリーズでは若者の恋愛が描かれることが多いが、本書では二つの恋愛がテーマになっている。一つは結ばれることのなかったハルインとバートレイドの恋愛、もう一つは、小貴族センレッド・ヴィヴァーズの妹ヘリセンディとセンレッドの息子ロースランの恋愛である。 作者の温かい目は、その双方に救いを与えており、そのことが殺伐した物語を爽やかにしている。 |
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| No.74 | 4点 | ハッテラス・ブルー デイヴィッド・ポイヤー |
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(2022/08/30 19:37登録) 作者は海軍兵学校出身者で、小説の舞台であるハッテラス岬に詳しい。海底の様子やダイビングのテクニック、水中爆破作業など、深い経験に裏付けされた描写には迫力がある。 物語は、一九四五年と現代のハッテラス岬が交互に描かれていく。登場人物と歴史的事実の結びつきが安易で、ご都合主義なところが見受けられ、終結は冒険小説特有のハッピーエンドで終わり残念。 |
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| No.73 | 6点 | 雨に祈りを デニス・ルヘイン |
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(2022/08/10 23:20登録) ストーカーに悩まされている女性の窮地を救うところから始まるが、簡単に解決したはずの事件が、実は終わっていなかったというところから、複雑な様相を呈していく。その裏側に潜む真実を捜し出すパトリックとアンジーの活躍を色彩感豊かに描いていく筆致の冴えは、さすが。人物造形も、巧みな構成も、特筆ものといっていい。特に幼馴染の殺人者ブッバの活躍が光っている。 |
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