home

ミステリの祭典

login
◇・・さんの登録情報
平均点:6.03点 書評数:181件

プロフィール| 書評

No.61 7点 ラスト・チャイルド
ジョン・ハート
(2022/06/30 18:28登録)
十二歳の少女の失踪事件をきっかけに、壊れてしまった家族。父親は行方をくらまし、母親は悲しみと怒りを薬物で癒すことしか出来なくなっている。母も警察も少女の生存を絶望視する一方、双子の兄であるジョニーだけは、どこかできっと生きていると信じて妹捜しに明け暮れる。
神の声が聞こえるという体重三百ポンドの大男の存在が不気味な影を落とす中、事件は次第に連続殺人の様相を呈していく。家族の物語と少年の成長と謎解きが見事に調和していて、このバランスが絶妙。
黒人奴隷とその解放の歴史や信仰の話も無理なく盛り込まれ、物語に深みを与えている。そして小さいながらも希望の光を灯してくれる秀逸なラスト。最後の一文で救われた気分になれるはず。


No.60 6点 ボグ・チャイルド
シヴォーン・ダウド
(2022/06/30 18:21登録)
少女の死にまつわる謎、調査にやってきた老古学者の娘との淡い恋、イギリス本土の医大進学を目指す受験生としての焦り、信念を貫くために命を削ってハンガーストライキをしている兄への複雑な思い、ひょんなことから加担させられることになった悪事に対する苦悩など、盛りだくさんの要素を織り込んで、一人の若者のひと夏を彩り豊かに描ききった清々しいホラー風味の青春小説。


No.59 4点 ホワイト・ジャズ
ジェイムズ・エルロイ
(2022/06/30 18:14登録)
独特な文体がまず合わなかった。単語と短文がダッシュやスラッシュやイコールで結ばれながら、語り手の意識をスタイリッシュに紡いでいく。また、人名だけでなく役職名も単語だらけの言い切りで頻出するから、アメリカの司法と行政のシステムに詳しくない自分には二重苦・三重苦。
話としても、はめたつもりがはめられたという、よくある愚かな物語。その点からいっても魅力に欠ける。


No.58 5点 空のオベリスト
C・デイリー・キング
(2022/06/30 18:07登録)
当時、最先端であった旅客機内の殺人事件を描いて、そこに流行の心理学や怪しげな超化学みたいなものを絡め、図版や容疑者の行動時間表、手掛かり索引などを盛り込んでいく。
当時の本格ミステリの趣向を総ざらいした感じだが、その割には謎解きのスケールが小さい。


No.57 7点 太陽がいっぱい
パトリシア・ハイスミス
(2022/06/30 18:02登録)
ミステリの分類上は犯人側から描く倒叙ミステリである。全体の三分の一当たりで殺人が実行される。
ただこの作品の場合、殺人で犯罪計画が完了するのではなく、その後犯人が被害者になりすまし、財産を横領する部分が計画のメインでもある。殺人がどう暴かれそうになるのかというスリルと、●●●●がどこまで通用するのか、財産横領は成功するのかといった犯罪小説としての面白さが並行していく。
その過程で、予定外の殺人も犯してしまうなど、主人公のリプリーの行動は場当たり的で、必ずしも綿密な完全犯罪とは言えないのだが、作品そのものは高度で緻密な構成のミステリである。


No.56 6点 きず
アンドニス・サマラキス
(2022/06/30 17:55登録)
全体主義国家の悪夢を意表を突く形で描いた小説。
登場人物の状況設定、物語展開全てが異色。唯一無二のスリラー。


No.55 7点 まるで天使のような
マーガレット・ミラー
(2020/11/14 19:13登録)
ギャンブルですっからかんになった探偵が偶然訪れた新興宗教団体で、とある人物の身の上調査を依頼されることから始まる。
出だしは極めてオーソドックスだが、ここからこの作者特有の超絶的な心理スリラー劇が展開される。
結末の衝撃と余韻は圧倒的な印象で心に残る。


No.54 7点 川は静かに流れ
ジョン・ハート
(2020/11/07 20:27登録)
主人公を含め、登場する者すべてに弱みがある。過ちを犯し、嘘をつき、わがままな行動をとり、傷つく。だが、それを許し、受け入れ、癒すことが出来るのも人間である。
抒情詩のように美しい文体と、アメリカの南部の男らしいハードボイルドさがマッチして、特別な雰囲気を醸し出している。ミステリとしてだけでなく、純文学としても楽しめる。


No.53 6点 証言拒否
マイクル・コナリー
(2020/10/25 19:49登録)
法廷ミステリとしてのスリリングさは無類で、上下巻を一気に読ませるが、一番の大ネタと言うべき部分には前例があり気付いてしまった。
とはいえ、犯行手段が暴かれると同時に犯人も判明する...。つまりハウダニットとフーダニットが密接な関係にある構想はお見事。


No.52 5点 王者のゲーム
ネルソン・デミル
(2020/09/12 18:35登録)
くだらない冗談を言ったり、上司に逆らったり、周囲の人々に迷惑をかけ、イライラさせるくせに頭の回転が速く、行動力があり、美女にモテる主人公が魅力的なシリーズ。
警察、FBI、CIA、ムスリム教徒、アメリカの西海岸、東海岸などに関して主人公の冗談や偏見から学ぶことのできるステレオタイプは、「アメリカ入門書」の役割も果たす。2001年のアメリカ同時多発テロ以前に刊行されていることも感慨深い。


No.51 5点 終りなき夜に生れつく
アガサ・クリスティー
(2020/09/05 18:52登録)
切なくも美しい、悲恋の物語が、恐ろしい真相に反転する。
犯行の状況が著しく具体性を欠いている。フェアプレイの問題を度外視し、物語の構図の鮮やかな反転を試みた作品。


No.50 5点 ウサギ料理は殺しの味
P・シニアック
(2020/08/09 14:31登録)
風が吹けば桶屋が儲かるという日本のことわざを地で行くように、ひたすら成り行きの数珠繋ぎによって構成された奇怪な事件の顛末を描いた作品。
人智を超越した偶然の連鎖が華麗なアラベスク模様のように、ひとつの秩序に収斂されてゆく摩訶不思議さを、全て見通す神の視点で堪能することが出来る。


No.49 7点 中途の家
エラリイ・クイーン
(2020/08/01 16:38登録)
探偵エラリイの推理によって正体を暴露された犯人が男性なのか女性なのか判明する瞬間をギリギリまで引き延ばしてみせる。日本語と比較して男言葉と女言葉に差がない英語の特性を利用したギミックだけに、その部分を邦訳で読むといかにも不自然だが、むしろその不自然さこそが図らずも、クイーンの執念が尋常の域ではないことを逆照射する。事件の真相を限りなく読者の目から遠ざけようとする執念には恐れ入る。


No.48 6点 ゴーン・ガール
ギリアン・フリン
(2020/07/26 12:01登録)
エイミーとニックの視点で交互に語られるこの物語は、事件の真相がかすかに見えてきたところで、突然ゾッとするような心理スリラーに方向転換する。
通常のミステリとは一線を画す複雑な構成の心理スリラーで、読者は何を信じてよいのか絶えず分からなくなる。通常の心理スリラーでは物足りなくなっている人でも満足できるのでは。


No.47 5点 居合わせた女
クレイグ・ライス
(2020/07/26 11:53登録)
夜の遊園地というものの哀しい陽気さと、不穏な気配、日常性と非日常性、不意にのぞく暗さと静けさを、見事に閉じ込めた文章は繊細かつ大胆。


No.46 7点 妖魔の森の家
ジョン・ディクスン・カー
(2020/06/27 18:15登録)
名探偵のコミカルな登場、興味を掻き立てられる謎、巧妙なミスディレクション、そして戦慄的な最期の一文。不可能犯罪の巨匠の真髄が味わえる一編。


No.45 7点 貴婦人として死す
カーター・ディクスン
(2020/06/20 19:01登録)
記述者のクロックスリー医師を空襲で死なせてしまうことで、記述者が最後まで真犯人の正体を知らなかったということにして語りの自然さを保ち、なおかつ記述者が真犯人のことを自分の肉親であるが故に、嫌疑の対象外とする設定によって、フェアな犯人当てを徹底しつつ犯人を読者の死角に置くという難題を見事に成就させている。


No.44 8点 雪は汚れていた
ジョルジュ・シムノン
(2020/06/14 19:38登録)
純粋さを希求しながらも流されるままに生き、やがて殺人者となり、悪への道へと転落していく青年の物語。だが刑事とのやり取りの中で、生きる「意味」を掴んだ瞬間の描写は衝撃的だった。
青年の不安定で鬱屈した心情、絶望的な状況は現在にも繋がる。その意味では、これは永遠の青春小説である。


No.43 10点 Xの悲劇
エラリイ・クイーン
(2020/06/06 20:16登録)
第一の犯行現場も、続いて起こる惨劇の舞台もすべて公共交通機関という乗り物尽くしで、いったんは不特定多数の人間が容疑者となる。そこからたった一人の人物を突き止めるというスタイルをクイーンは完成させた。
またダイイング・メッセージはクイーンの十八番である。判じ物みたいなものだから、ロジカルに解読できるものではないし、間違っても犯人指摘の決め手にしてはならない。よってスマートで節度ある使い方が求められるのだが、本作においては上々の出来上がりだろう。
またこの作品で展開されるレーンの推理は、溜息が出るほどで、「こうだったとも考えられるではないか」という反論の余地がなく真相の意外性も十分。


No.42 5点 レッド・オクトーバーを追え
トム・クランシー
(2020/05/30 19:47登録)
きわめて正確と評されたソ連とアメリカの諜報機関に関する分析、潜水艦の構造の詳細、腹の探り合いなどが興味深く、刻々と変化する状況にどっぷりのめり込んでしまう。
シンプルな文章だが専門用語が多く、状況把握が難しいかもしれない。

181中の書評を表示しています 121 - 140