麝香福郎さんの登録情報 | |
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平均点:6.68点 | 書評数:82件 |
No.2 | 8点 | 新しきイヴの受難 アンジェラ・カーター |
(2018/08/04 11:05登録) おそらくは1970年ごろ、大学教員の職を得たイヴリンこと(俺)はイギリスからニューヨークへと飛ぶ。ところが、自分たちの権利のために闘う黒人や女性の戦闘的集団によって街はカオスと化しており、勤務先の大学も爆破され、(俺)は職を失ってしまう。 そんなさなかに出会ったのが、17歳の黒人女性レイラ。(俺)は彼女の体に夢中になるものの、すぐに飽きてしまい、妊娠を告げられると、むりやり堕胎手術を受けさせ、自分は親から送ってもらった金で買った中古車で、逃げ出してしまう。 という、ろくでもない男を主人公にした長編小説。しかし、ここまではほんの序の口。砂漠で迷ってしまった(俺)は、軽機関銃を持ち、電気砂橇に乗った女に捕らえられ、地下の街ベラウスへと拉致される。 そこは、巨体の(ホーリー・マザー)が君臨する女だけの街。マザーの施術によって、完璧な女性(新たなイヴ)に生まれ変わらされた(俺)は、自分の精子を用いる処女懐胎を強要されそうになり、逃亡。ところが、今度は7人の若い女性にかしずかれた(詩人ゼロ)というセクハラとパワハラの権化のような男に捕まり、性の奴隷にされてしまい。 と、ここまでが物語中盤。イヴリン/イヴが味わう奇想天外な冒険と、(俺)から(あたし)へと意識が移っていくことで変わっていく魂のありようを描いて、これはたしかにジェンダーをテーマにした物語ではある。でも、ゴリゴリのフェミニズム小説ではない。 スラップスティックかつオーバーアクション気味な展開によって生まれる、さまざまなトーンの笑い。そう、コミックノベルとしても冴えた一作になっている。 |
No.1 | 8点 | 下町ロケット2 ガウディ計画 池井戸潤 |
(2018/07/06 15:04登録) ロケットエンジン研究者のキャリアを捨て、実家の町工場を継いだ佃航平が主人公。前作では巨大メーカーが手掛ける国産ロケット開発計画で重要な位置を占めるべく、丁々発止と渡り合う佃の奮闘ぶりが描かれた。 続編である本書では一転して医療機器の開発に挑む。佃は福井の私立医大と地場の繊維メーカーと提携し心臓の人工弁開発に乗り出すが、大手医療機器メーカーと有力医大が行く手を阻む。佃を追い詰めるのは大手企業だけではない。社内にも考えを異にする若手が現れて佃とぶつかる。ハラハラしっぱなしの、てんこ盛り展開。しばしば「勧善懲悪」と言われる著者の作風。中心企業が知恵を絞って汗をかき、大手企業相手に一歩も引かずに立ち回る本書にもそうした面はある。ただ主人公をこれでもかと攻める敵役の極端なほどの存在感もこの物語の妙味。 医大のボス、大手メーカーの発注担当、医療機器の審査担当。いずれも大なり小なり権力者。権力を得ると人は簡単にそれを乱用する。彼ら敵役の人物造形があまりにも憎たらしい。読んでいると思わず佃に一体化し、一緒に歯噛みし、心拍数も上がる。 ドラマでは前作が5話までの前編、本書は後編に当たる。一度でもドラマを見ると、本で活字を追っても俳優陣の顔が勝手に浮かんできてしまう。それほど濃い演技を脳内で再生しながら読むのもまた一興だ。 |