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ミステリの祭典

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伏 贋作・里見八犬伝

作家 桜庭一樹
出版日2010年11月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 麝香福郎
(2019/09/16 10:50登録)
江戸市中で頻発している凄惨な殺傷事件は、人間離れした素早さと人の心を持たないような残虐な若者の仕業だった。人にして犬、江戸の民は彼らを「伏」と呼び、恐れおののいた。
幕府の懸賞金につられた食いつめ者は伏退治に明け暮れ始める。その一人、貧乏長屋に住む浪人の道節は、助っ人として祖父の下で猟師の修行を積んだ鉄砲の名手だった。二人は見物に訪れた吉原で花魁道中に遭遇する。だがその花魁・凍鶴も伏の仲間であった。滝沢冥土の筆による瓦版によって、吉原での伏との一戦の模様が記事となり、浜路は一躍名を売るが・・・。
曲亭馬琴の大長編小説「南総里見八犬伝」は後の世に多大な影響を与え、多くの芝居や文芸作品を生み出した。本書もまたその世界を下敷きにした歴史ファンタジーで、三つのパートを入れ子にした構成が特徴となっている。「現代」である江戸のパートでは、浜路たちと伏との激しい闘いが視覚的に描かれる。
父の馬琴に隠れ、息子の冥土がひそかに書き綴っている贋作・八犬伝の内容が二つ目のパートである。時代を中世にさかのぼり、伏誕生の由来である安房里見家の伏姫と妖犬・八房との因縁がゴシック風味を加えて描かれる。ここは原作以上に濃厚。さらに生を受けた森へ、伏たちが帰郷の旅をする最後のパートは、幻想風味たっぷりで味わい深い。
この三つのパートが混然となり、ロマンチシズムあふれる世界が見事に構築されている。時代小説特有の言い回しを用いず現代語を多用した文体と併せ、疎外されたマイノリティーの暴発という現代的なテーマが内包されていることも、作者の狙いでしょう。
信義や忠孝をキーワードとした勧善懲悪の物語を、新たな形で現代によみがえらせた作者の手腕は喝采ものである。

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