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ミステリの祭典

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YMYさんの登録情報
平均点:5.89点 書評数:372件

プロフィール| 書評

No.232 6点 カルカッタの殺人
アビール・ムカジー
(2022/12/14 23:11登録)
一九一九年の大英帝国植民地下のインド、カルカッタを舞台にした歴史ミステリ。元スコットランド・ヤードの警部を主人公に混沌の地カルカッタでの殺人事件を悪戦苦闘を描いている。
本作で扱われるのはガンジーが不服従運動を開始した時代であり、民族運動の高まりによる緊張感が読みどころ。主人公と現地の人々、同僚のインド人新米刑事や混血の美女アニーとの交流の中で改めて浮き彫りになる当時の人種問題は、ポピュリズムから不寛容な時代となりつつある現代にも通じるものだ。


No.231 5点 七つの墓碑
イーゴル・デ・アミーチス
(2022/12/14 23:06登録)
二十年の服役を終えたばかりの元マフィアの男ミケーレが、ミケーレを含む七人の犯罪者たちに暗殺予告を出した謎の連続殺人犯・墓堀り男と対決するまでを描くロード・ムービー的な怪作。
実質的なデビュー作とあってストーリー・テリングに粗い部分もあるが、登場人物たちの殺伐とした数々の犯罪を描いているにもかかわらず、ミケーレの行動はなぜか謎の爽快感がある。言葉少なで古典小説を好む内省的な主人公像も面白い。


No.230 5点 カジノ
ニコラス・ピレッジ
(2022/12/02 23:14登録)
ともにシカゴ時代に暗黒街に身を置いた友人同士でありながら、フランクの妻ジェリをめぐって、仲たがいするフランクとスピトロ。
ギャングとその関係者の人間模様もさることながら、知られざるカジノの舞台裏が詳しく描かれている点でも興味深い。その代表的なものがスキミングと言われる、いわゆる賭博の売り上げのごまかし。
取り締まる側の賭博管理局や州のゲーム委員会も、、監視カメラの設置や抜き打ち検査など、あらゆる手段で対抗。その駆け引きは一流のスパイ小説以上。


No.229 5点 わたしの名は紅
オルハン・パムク
(2022/12/02 23:07登録)
十六世紀のコンスタンティノープルを舞台にした、トルコの歴史ミステリ。
フーダニットで、容疑者は二人に限定される。章ごとに語りの視点が変わり、殺人者の章もあれば、容疑者の章もある。容疑者三人は細密画師なのだが、彼らの細密画に対するスタンスの違いを理解することで、殺人者もわかるという作者からの挑戦が感じられる。


No.228 5点 二つの時計の謎 アジア本格リーグ2
チャッタワーラック
(2022/11/18 23:26登録)
マフィアの姿も見え隠れするハードボイルド仕立てながら、クロフツの有名作品をもとにした犯行が描かれる。
クロフツのトリックのような精緻なアリバイを犯人は試みたはずだったが、タイのゆるやかな空気の中、事件は当初の計画とは違う方向に転がってしまった点にとぼけた味がある。


No.227 6点 裏切りの紋章
ドナルド・ジェイムズ
(2022/11/18 23:20登録)
登場人物はいずれも曲者ぞろい。前半は見事なサクセス・ストーリーで、二人の兄弟が懸命にのし上がっていく様がスリリングに描かれ興味をそそる。後半になって、一族の生臭い闘争シーンに突入するや、殺伐というよりドロドロした人間模様が描き出されて、異様な雰囲気を漂わせている。通俗に陥りがちな設定にもかかわらず、風格を感じさせる。


No.226 6点 死んだレモン
フィン・ベル
(2022/11/07 22:32登録)
冒頭、主人公が危機に陥るところから始まるというサスペンスフルな展開で魅せる謎解きミステリ。
謎解きの後、主人公が犯人たちと対決する現在のパートと、その対決までに至る、下半身不随で車椅子生活となった主人公が、心機一転の引っ越し先である一軒家で過去に起きたという誘拐殺人事件の真相を探る、というパートが交互に語られる。
そんなサスペンス中心の物語の合間に読者に全く予想がつかない方向での伏線を紛れ込ませているところも面白い。


No.225 5点 汚れた雪
アントニオ・マンジーニ
(2022/11/07 22:27登録)
ある事件による懲罰人事でローマからアルプス山麓の町に飛ばされた副警察長ロッコがスキー場で重機に轢かれバラバラになった死体の謎を追う。
ミステリとしてトリックが優れているというタイプの作品ではないが、ロッコと彼を取り巻くキャラクターがとても魅力的。一匹狼で口が悪い、酒とマリファナを愛し、容疑者に高圧的な態度をとることも厭わず、金のためには犯罪に手をつけることもあるというロッコだが、刑事としての腕はピカイチの上、倫理観は一本筋が通っておりどこか憎めない。


No.224 5点 パシフィック・ビート
T・ジェファーソン・パーカー
(2022/10/23 22:40登録)
主人公ジム・ウィアーは、警察官として十年間務めたあと、メキシコ沖に沈んだ海賊船の宝を引き上げるため旅に出た。六カ月間の探索は実を結ばず、挙句の果てに麻薬に関連したという疑いでメキシコ警察に逮捕されてしまった。
環境保護と有毒廃棄物投棄、警察内部の個々の人物から被害者を巡るさまざまなキャラクターが、謎を秘めて登場し趣向は盛りだくさんだが、奥行きがやや浅い。


No.223 6点 ジェイコブを守るため
ウィリアム・ランデイ
(2022/10/23 22:35登録)
ひとり息子が殺人事件の容疑者とされ、苦悩する検事補の姿が描かれる。自身も父親との関係に悩む二重の家族の絆の物語でもあり、愛弟子だった後輩検事補の仕事ぶりを被告側から見つめる異色のリーガルスリラーにもなっている。
息子の無実を信じつつも、忍び寄る疑惑と闘う葛藤のドラマは迫力満点。


No.222 5点 バビロンの青き門
ポール・ピカリング
(2022/10/07 22:48登録)
若い外交官のトビーが西ベルリンに赴任し、運命に翻弄された三十年間、幼少時代に焼死した美貌の母との思い出、辛い学生時代、古代ペルシャ時代の王たちとの幻想上の対話、現実の自分などが時代を飛び越えて交差し、幻想、耽美、デカダンを織り交ぜた不思議な作品で現代のアラビア千夜一夜を思わせる作品である。


No.221 5点 パーフェクト・キル
A・J・クィネル
(2022/10/07 22:42登録)
クリーシィの爆破犯探索は、ローリングズの策謀もあって、ジブルの知るところとなり、まず上院議員が狙われる。それを防ごうとするクリーシィ一家の活躍。
復讐に燃えるクリーシィの果断な行動力、後継者を育てる厳しさと愛情、緻密な暗殺計画をめぐる敵味方の好守など、情のある冒険小説として独特の味を持っている。


No.220 5点 ボヘミアン・ハート
ジェイムズ・ダレッサンドロ
(2022/09/22 22:47登録)
古き良き時代のサンフランシスコに対する愛と郷愁を散りばめながら、アクション、恋愛、法廷劇と作者は盛り上げるため、あらゆる趣向で攻めまくってくる。そして、最後のどんでん返し。
B級アクション映画でも観るようなノリで読めば楽しめるでしょう。


No.219 5点 バッド・ラック
アンソニー・ブルーノ
(2022/09/22 22:42登録)
FBI捜査官トッツィとギボンズ・シリーズの第三作。今回トッツィは悪徳不動産業界の大物ナッシュのボディーガードを装ってマフィアの犯罪を追跡する。ユーモアとアクションと、口汚い罵り合いが散りばめられた悪漢小説である。
悪徳サルの憎めない存在感、正義心のひとかけらもないFBI捜査官とのシーソーゲームは秀逸。このジャンルの大御所エルモア・レナードの作風を十分意識した作品だ。テーマも語り口も先人たちの焼き直しの作品のようで、やや新鮮味に欠ける。


No.218 7点 終りなき夜に生れつく
アガサ・クリスティー
(2022/09/05 22:13登録)
本書の世評は、さほど高くないものの、著者の自選ベストテンに含まれている。
前半のロマンティックなラブ・ストーリーが悲劇によって暗転し、結末に至って恐るべき犯罪計画が浮上する構想も見事だが、事件が合理的に説明されるにもかかわらず、結局すべてはジプシーが丘にかけられた呪いのせいだったのかも知れないという含みもあり、犯人像の秀逸さと相俟って、宿命論的な物哀しさがいつまでも心に残る。
サブ・プロットの説明不足が惜しまれるものの、クリスティーの筆力の素晴らしさを示す作品といえる。


No.217 6点 マーチ博士の四人の息子
ブリジット・オベール
(2022/09/05 22:05登録)
どんでん返しのあるミステリだが、ラストの仕掛けをはずせば、全編は異様なサスペンスで成り立っている。正体不明の殺人者の日記とそれを盗み見てしまった女性のつづる手記を交互に配する構成が、効果的にサスペンスをあおっている。
奇抜なシチュエーション設定や構成の妙など、極めて技巧的に緊張感を醸造していくあたりは、従来のフランスミステリと一線を画している。


No.216 7点 囮弁護士
スコット・トゥロー
(2022/08/20 22:52登録)
ロビー・フェイヴァーは、キンドル郡に法律事務所を構える弁護士。ある日、連邦検察官の訪問を受けた彼は、囮捜査を持ち掛けられる。
そこまでやるか、と思わせるFBIの囮捜査の策略に、まず舌を巻く。事件のでっち上げから、盗聴、盗撮まで作戦の用意周到ぶりには、リーガル・サスペンスの面白さがたっぷりと詰まっている。また登場人物の内面をあぶり出し、事件をめぐり揺れ動く人間ドラマとしても優れている。


No.215 7点 暗闇の囚人
フィリップ・マーゴリン
(2022/08/20 22:48登録)
無実の罪を晴らすべく、必死に事実関係を追求する女性と、怪しく立ち回る狂気の凶悪犯、それに辣案弁護士が織り成すサスペンスとロマンスは、小気味良いテンポで進行しつつ、読者を謎解きの世界に運んでいく。そしてラストにあっと驚くサプライズをを用意するテクニックは、ムードの高まりもあって巧み。


No.214 5点 25時
デイヴィッド・ベニオフ
(2022/08/07 22:33登録)
主人公は麻薬の売買の罪で挙げられ、連邦刑務所へ収監される日が明白に迫っている。物語は、明日にデッドリミットを控えた主人公の一日を淡々と追いかけていく。
そもそも小悪党なのだが、人生の窮地に立たされても、世間に背中を向けたり、めそめそしたりしない潔さのある主人公の造形がいい。しかし、それに輪を掛けていいのが、彼を取り巻く脇役たち。人物像が、くっきり浮かび上がる懐の深さがある。


No.213 5点 ざわめく傷跡
カリン・スローター
(2022/08/07 22:28登録)
冒頭から子供たちをめぐるショッキングな場面が展開していく。銃をかまえて少年を殺そうとする少女ジェニーを現場にいた警官ジェフリーがやむなく射殺する。しかも現場付近のトイレから未熟児の遺体が発見された。
女性刑事レナは、前作の事件で受けた傷を負ったまま捜査を続けていた。壮絶な体験をし、肉体も精神も修復不可能なまでに傷ついてしまった者たちが対峙することで、物語はますます重く深く熱くなっていく。何人もの子供たちを巻き込み、殺人にまで発展した事件の真相はおぞましいものだが、さまざまな意味で現代アメリカの病根に通じているのかもしれない。

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