nukkamさんの登録情報 | |
---|---|
平均点:5.44点 | 書評数:2865件 |
No.1285 | 6点 | 金雀枝荘の殺人 今邑彩 |
(2016/06/09 12:00登録) (ネタバレなしです) 1993年発表の本格派推理小説です。冒頭に置かれた「序章という名の終章」では幽霊視点のような描写があり、霊感豊かな(?)登場人物が何度か「出た~っ」と騒ぐなど、ホラー小説的な味付けがなされていますがあくまでも味付けに留まっておりホラー小説が苦手な私でも許容範囲でした(逆にホラー要素に期待し過ぎると物足りなく感じると思います)。作者のあとがきで、犯人はAかBか、2つの可能性だけ提示して答えは出さず、どちらを選択するかは読者の自由という無責任な探偵小説を当初は構想していたと書いていたのには驚きました。後年発表の東野圭吾の某作品の先駆になった可能性があったのですね。結局本書はきちんとした解決を迎えており東野作品ほどの知名度は得られませんでしたが、私は作者の良心的な姿勢が感じられる本書の方が好きです。謎解きも巧妙なミスディレクションに感心しました。カーター・ディクソンの「ユダの窓」(1938年)のネタバラシは勇み足だと思いますが。 |
No.1284 | 5点 | 山師タラント F・W・クロフツ |
(2016/06/08 18:52登録) (ネタバレなしです) 1941年発表のフレンチシリーズ第21作の本格派推理小説です。時代が時代だからかもしれませんが、素性の知れない薬品が簡単に市場に流通するストーリーにはそれほどリアリティーを感じられませんでした。前半は野心家の薬局店員タラントの物語ですがタラントばかりに焦点を当てているわけではなく、彼と利害関係のある人間も丁寧に描写されていて群像ドラマ風です。もっともクロフツなので性格描写という点ではそれほど成功してはいません。フレンチの登場は中盤以降で、いつもながらの地味な捜査に加え、法廷シーンがあるのがクロフツとしては珍しいです。作者は更に法廷後の場面も用意するなどプロットに多少工夫しているところがありますが、棚ぼた気味の解決に加えて謎解き説明が十分でないのが残念です。 |
No.1283 | 6点 | クッキング・ママの依頼人 ダイアン・デヴィッドソン |
(2016/06/08 18:46登録) (ネタバレなしです) コージー派ミステリーでアマチュア探偵が事件捜査に顔を突っ込むのは、自分自身か大切な人が事件に巻き込まれたのがきっかけというケースが圧倒的に多いのですが、1997年発表のゴルディシリーズ第7作である本書は何と大嫌いな人のために探偵するというのが非常に珍しく、これはどういう結末になるんだろうとわくわくさせます(できれば過去のシリーズ作品を読んでから本書に取り組むことを勧めます)。最後はやや棚ぼた式に犯人が判明していますが、推理するための伏線も張ってあります。ゴルディが逃げようとする犯人を捕まえるやり方も機知に富んだものです。 |
No.1282 | 6点 | バースへの帰還 ピーター・ラヴゼイ |
(2016/06/08 18:28登録) (ネタバレなしです) 警察をやめて2年が経過しているピーター・ダイヤモンドがかつて自分が殺人犯として逮捕したマウントジョイの脱獄の件で警察から協力要請される、1995年発表のシリーズ第3作です。過去の2作品に比べて本格派推理小説要素が増え、CWA(英国推理作家協会)のシルヴァー・ダガー賞を獲得しています。ただキャラクター描写はやや表面的になり、特にマウントジョイの無実を訴える声や誘拐犯としての危険な雰囲気がそれほど伝わってこないところは評価の分かれそうなところです。良くも悪くも淡々とした筋運びの作品で分厚い割りには読みやすいです。謎解きは動機についてはかなり細かく追求していますが、逮捕するだけの具体的な証拠探しについてはやや不十分の印象を受けました。 |
No.1281 | 5点 | グリシーヌ病院の惨劇 ジャック・バルダン |
(2016/06/08 18:20登録) (ネタバレなしです) フランスの高校教師ジャック・バルダン(1965年生まれ)が友人の勧めで夏休みの間に書き上げた1997年発表の本書はかなり風変わりな本格派推理小説でした。目を引くのが「読者に対する意識」です。作者からの読者へのメッセージのようなものが随所で挿入されるだけでなく、作中人物のアルソノー刑事にまで「推理小説の人物として読者を意識した発言」を何度も言わせているのが斬新です。「重要容疑者を物語の終盤になって登場させては読者も不満に感じるだろう」などとまともな本格派推理小説を期待させておいて、最後に型破りな結末が待ち構えているところなどは油断なりません(不満に思う読者もいるでしょうが)。 |
No.1280 | 4点 | 猫は床下にもぐる リリアン・J・ブラウン |
(2016/06/08 17:43登録) (ネタバレなしです) 1989年発表のシャム猫ココシリーズ第9作のコージー派ミステリーです。些細なトラブルがやがて凶悪な大事件の謎解きにつながっていくというプロット構想は悪くないのですが、クィラランの推理は最終章でアマンダが言うように「あほらしいたわごと」レベルで、運のよさとはったりで解決したようにしか感じませんでした。クィラランと大工のイギーの漫才みたいなやり取りはなかなか面白かったですけど。 |
No.1279 | 5点 | デーン人の夏 エリス・ピーターズ |
(2016/06/04 05:03登録) (ネタバレなしです) 1991年発表の修道士カドフェルシリーズ第18作です。1144年4月、懐かしのマーク(かつてのカドフェルの弟子)との再会で物語は幕を開け「死者の身代金」(1984年)に登場した某人物も重要な役どころで出演します。内容は完全に冒険スリラーと言ってよいでしょう。一応殺人事件と犯人探しも用意されていますがストーリーのメインテーマではなく、カドフェルも単なる傍観者的な役回りに留まります。冒険スリラーとしては様々な登場人物の思惑や行動が入り乱れ、どんでん返しの展開がスリリングですが、本格派推理小説を期待する読者には楽しめる部分は少ないと思います。 |
No.1278 | 4点 | 封じられた指紋 アントニイ・オリヴァー |
(2016/06/04 04:50登録) (ネタバレなしです) 英国のアントニイ・オリヴァー(1923-1995)はアンティーク商を営む一方で1980年代にジョン・ウェバーと未亡人リジー・トーマスのコンビを主役にしたミステリーを4冊発表しており、そこにはアンティーク業界にまつわる知識が散りばめられているそうです。ウェバーがフランスで起きた夫婦焼死事件を調査する本書は1985年発表のシリーズ第3作で、本格派推理小説と紹介されている書評も多いのですが犯罪スリラーとして読んだ方がいいと思います。確かに推理によって容疑者を犯人候補から外したりしてはいますが犯人当てミステリーとしては反則級のトリックが使われています。焼死トリックの謎解きも本格派推理小説の常識範囲を超えたものです(確かに意表を突かれましたけど)。 |
No.1277 | 6点 | 嘘から出た死体 A・A・フェア |
(2016/06/04 04:38登録) (ネタバレなしです) 1952年発表のドナルド・ラム&バーサ・クールシリーズ第13作です。もっとも本書のバーサは金勘定ばかりでちっとも役に立っていないのですが(笑)。バーサの援護はなし(秘書のエルシーは影で支えてくれますが)、警察にはにらまれ、ドナルドは四方八方敵だらけみたいな状態に陥りますがそこからの戦局打開はまさに快刀乱麻、複雑な事件背景を一気に解決します。結末も痛快に締めくくっています。 |
No.1276 | 4点 | カモミール・ティーは雨の日に ローラ・チャイルズ |
(2016/06/04 04:20登録) (ネタバレなしです) 2005年発表の「お茶と探偵」シリーズ第6作で、ランダムハウス文庫版の巻末解説ではこれまでの作品とは違うように評価していますが謎解きとしては特に変化は感じません。強いて挙げるなら容疑者数が少ないので早い段階で犯人の見当がつきやすいことでしょうか。セオドシアの日常の人間関係に関しては前作「ジャスミン・ティーは幽霊と」(2004年)を読んだ人はちょっと驚くかもしれない変化が起きていますが、問題の人はドレイトンやヘイリーに比べると影が薄かった人物なので正直どうでもよかったです(笑)。 |
No.1275 | 2点 | 悪夢はめぐる ヴァージル・マーカム |
(2016/06/04 04:13登録) (ネタバレなしです) 米国のヴァージル・マーカム(1899-1973)は1920年代から1930年代にかけて8作のミステリーと2作の歴史小説を書いたことが知られているのみで、そのミステリーもいわゆるB級ミステリー系らしいです。1932年発表の本書の原書房版の巻末解説でマーカムの作品を「中盤までは文句なく面白いものの竜頭蛇尾の結末を迎えるものが少なくない」と紹介していますが、本書に関しては主人公の行動原理がわからないままに場当たり的に怪しげな人物たちと出会い、場当たり的に事件が起きていく展開で、冒険スリラー風ながら物語の筋が見えないゆえにサスペンスが犠牲になっています。後半になって密室内の溺死体という不可能犯罪の謎が唐突に発生し、第24章では本格派推理小説風の謎解き議論が活発になりますが真相解明はあっけなくしかも魅力的でありません。序盤の場面を再現するような締め括りになっているのが工夫として光ってはいますが、個人的には「中盤まで文句なくつまらなく、竜頭にさえ至らないまま結末を迎えた」作品のように感じます。 |
No.1274 | 3点 | 太陽黒点 森村誠一 |
(2016/06/03 17:52登録) (ネタバレなしです) 「新本格推理三部作」の第1作として1980年に発表されましたが、一体何が「新」で何が「本格推理」なのか私にはよくわかりませんでした。殺人事件とその犯人探しはあるのですが捜査描写は断片的で、しかも不満の残る解決のため推理物としてはほとんど面白さを見出せませんでした。経済犯罪の描写などはさすが森村と感心するところもあり、本格派ではなく社会派推理小説として一般認知されているようです。復讐物語要素もありますが初期作品に見られた執念のようなものが希薄になったように思います(まあ初期作品の描写がくど過ぎたとも言えますが)。なお山田風太郎の「太陽黒点」(1963年)との共通性はありません。 |
No.1273 | 6点 | 奇想、天を動かす 島田荘司 |
(2016/06/03 17:45登録) (ネタバレなしです) 1989年発表の吉敷竹史シリーズ第10作です。社会派推理小説要素の強いこのシリーズは王道的な本格派推理小説の御手洗潔シリーズがあまり売れなかった時代の打開策的に書かれたと理解しています。しかし新本格派の全盛時代になっても作者は本格派ばかり書かれることは決して好ましいことではないと思っていたうようで(心境複雑ですね)、このシリーズは打ち切られずに精力的に書き続けられました。本書はいきなり犯人が現行犯で逮捕され、その後は犯人や被害者の過去を調べていく地味な展開で、ここは狭義の(犯人当て)本格派好きの私には少々辛かったですが後半になると様相が一変、首なし死体が歩いたり(結構恐いよ~)、走行中の列車の車両が突然空中に浮かんだり、天を衝くような巨人が目撃されたりと、派手な謎のオンパレードが謎解き好き読者にはたまりません。社会派と本格派のジャンルミックス型として高く評価されているのも納得です。 |
No.1272 | 5点 | 姑獲鳥の夏 京極夏彦 |
(2016/06/03 17:33登録) (ネタバレなしです) 綾辻行人の「十角館の殺人」(1987年)に端を発した本格派推理小説の大流行の中、数多くの作家が登場しましたが1990年代で最も注目を浴びた存在の1人が1994年発表の本書でデビューした京極夏彦(1963年生まれ)でしょう。もっとも必ずしも一般受けしないのはまず著書の分厚さで、百鬼夜行シリーズ(京極堂シリーズとも呼ばれますが作者はその呼称を気に入っていないそうです)第1作でもある本書は講談社文庫版で600ページもありますが実はこれでも薄い部類で、1000ページを超す作品が珍しくないのです。また一部で「妖怪ミステリ」と紹介されているのも読まず嫌いを誘発していると思います。本書の謎解きは極めて合理的なもので本当に妖怪が容疑者になったりするするものではありません。とはいえ妖怪に関する知識や情報は半端ではなく、単なる物語の添え物でもありませんが。文章は明快で探偵役の京極堂も意外と気さくな面を見せていますが、むしろワトソン役である関口巽(せきぐちたつみ)の方が結構問題でした。非常に不安定な心理状態の上に、時に観察者としての信頼性を欠くことがあるので結局読みにくい作品になっています。この厚さで事件性がなかなか見えてこないプロットもミステリーとして冗長な印象を与えています。終盤はなかなか盛り上っていますけど。 |
No.1271 | 6点 | 寅申の刻 ロバート・ファン・ヒューリック |
(2016/06/03 16:03登録) (ネタバレなしです) 猿が落としていった指輪が犯罪解決の手掛かりとなる「通臂猿の朝」、水害で孤立状態となった田舎屋敷で黄金紛失と怪死事件を調べる「飛虎の夜」の2つの中編作品を収めた、1965年発表のディー判事シリーズ中編集です。英語原題は「The Monkey and the Tiger」という、十二支の動物に由来したシンプルなもので、もしヒューリック(1910-1967)がもっと長命を得ていたなら残りの動物タイトルの作品も書いてくれたのではと惜しまれます。どちらもハヤカワポケットブック版で100ページに満たない作品ながら内容は充実しており、「通臂猿の朝」は複雑な謎解きプロットが楽しめるし、「飛虎の夜」はそれに加えて賊徒の来襲の危機を絡めてサスペンスを盛り上げた贅沢な逸品です。 |
No.1270 | 5点 | <未亡人の小径>殺人事件 レズリー・G・アダムソン |
(2016/06/03 15:38登録) (ネタバレなしです) ジャーナリスト出身の英国の女性作家レズリー・グラント・アダムソン(1942年生まれ)の1985年発表のデビュー作で、レイン・モーガンシリーズ第1作の本格派推理小説です。P・D・ジェイムズ絶賛とのことだったのでジェイムズ風に重厚で難解な作品でないかと心配しましたが、軽妙な会話をバランスよく織り交ぜており、プロットもストレートに謎解きに取り組んでいます。とはいえ全体的に地味過ぎて印象に残りにくい物語です。この内容なら舞台となる村の地図も欲しかったです。 |
No.1269 | 4点 | 桟橋で読書する女 マーサ・グライムズ |
(2016/06/02 17:30登録) (ネタバレなしです) 1992年に発表された本書はシリーズ探偵の登場しないミステリーです。文春文庫版の巻末解説でも「幻想」という言葉が使われていますが、確かに蜃気楼のようにゆらゆらした雰囲気に終始しています。本来なら派手なシリアル・キラー(連続殺人)ものなのに意図的にサスペンスを封じ込めたかのようなゆったりとした展開です。一応本格派推理小説に分類しますが謎解き要素が希薄で推理もほとんどありません。会話はちぐはぐで理解しにくいし、登場人物リストに載っていない人物が多くて頭の中を整理しきれませんでした。読解力が平均点未満の私には難解過ぎました。 |
No.1268 | 6点 | 毒殺は公開録画で サイモン・ブレット |
(2016/06/02 17:20登録) (ネタバレなしです) 1985年発表のチャールズ・パリスシリーズ第11作はテレビ局を舞台にした本格派推理小説です。この種の作品だとウィリアム・L・デアンドリアのマット・コブシリーズを思い出す読者もいるでしょうが、ブレットの方が番組制作現場の雰囲気がよく描かれているように感じます(まあマット・コブは撮影現場の人間でないのでその点では不利にならざるを得ないのですが)。プロットもしっかりしていてチャールズの探偵活動がいつになくストレートに伝わってくるのもいいですね。ただ最後は推理でなく犯人に仕掛けた罠で真相が明らかになるのは、本格派の謎解きとしてはちょっと物足りないです(なかなか巧妙な罠ではありますが)。 |
No.1267 | 6点 | 論理は右手に フレッド・ヴァルガス |
(2016/06/02 17:13登録) (ネタバレなしです) 木の根元の格子蓋の上の白っぽいものに興味を惹かれたルイ・ケルヴェールはそれが人間の骨だと推測し、歴史学者マルク・ヴァンドスレールの助けを借りて骨の主を探すというプロットの1996年発表の三聖人シリーズ第2作の本格派推理小説です。三聖人ことマルク、マティアス、リュシアンにしろマルクの伯父アルマンにしろ脇役扱いで、特にリュシアンとアルマンは実質出番がありません。まだシリーズ2作目にして配役バランスが崩壊しています。でも本書のルイも主役にふさわしい個性を発揮しています。最初の3章あたりまではとっつきにくかったものの、それ以降はすらすらと読めました。緊迫感に満ちた終盤の謎解きが印象的です。余談ですが最初にルイが訪れた警察署には「青チョークの男」(1996年)のアダムスベルグがいたんですね。でも残念、彼は異動してしまったようです(本書で警視と表記されているのは署長でなくなったから?)。いつかは三聖人とアダムスベルグが共同捜査(または探偵対決)する日が来るのでしょうか? |
No.1266 | 5点 | 案外まともな殺人 ジョイス・ポーター |
(2016/06/02 17:05登録) (ネタバレなしです) ドーヴァー主任警部シリーズで有名なジョイス・ポーター(1924-1990)が新しいシリーズ探偵を創造しました。それが1970年発表の本書に登場するホン・コンという女性で、なぜホン・コンと呼ばれるかも本書で説明されています(ちなみに中国の香港とは全く関係ありません)。ドーヴァーの女性版ですが、違いはアマチュア探偵であることと行動型であることです。推理というよりほとんど勝手な思い込みで猪突猛進しながら犯人探ししています。このいきあたりばったりな探偵方法はある意味、後年の米国コージー派ミステリーのアマチュア探偵にも通じるところがあります。ただ雰囲気がコージー派と程遠くなっている理由は品位のかけらもないホン・コンの言動です。本書は推理はちょっと物足りませんが、犯人の殺人トリックがなかなかユニークです。 |