ゴースト・スナイパー リンカーン・ライムシリーズ |
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作家 | ジェフリー・ディーヴァー |
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出版日 | 2014年10月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 7人 |
No.7 | 6点 | E-BANKER | |
(2023/08/13 13:27登録) いまや世界で最も著名なミステリーシリーズになった感のある「リンカーン・ライム」シリーズも数えて十作目。 普通ならとっくに飽きられているに違いないのだが、それは他とは一味も二味も違う本シリーズ。十作目突入以降もきっと満足感を与えてくれるに違いない・・・と思いたい。 単行本は2014年の発表。 ~アメリカ政府を批判していた活動家モレノがバハマで殺害された。2,000メートルの距離からの狙撃。まさに神業。「百万ドルの一弾」による暗殺といえた。直後、科学捜査の天才・リンカーン・ライムのもとを地方検事補ローレルが訪れた。モレノ殺害はアメリカの諜報機関の仕業だという。しかも「テロリスト」とされて消されたモレノは無実だったのだ。ローレルはこの事件を法廷で裁くべく、ライムとアメリア・サックスを特別捜査チームに引き入れる。スナイパーを割り出し、諜報機関の罪を暴け! ライムと仲間たちは動き出す。だが、現場は遠く、証拠が収集できない。ライムはバハマへの遠征を決意する~ 本作の特徴のひとつは、紹介文のとおり、いつものNYマンハッタンの自室を離れ、ライムが遠くバハマまで捜査に出かけること。 (確か「エンプティーチェア」事件でもNYを離れたはずではあるが・・・) 現地警察も非協力的なバハマで、いつもと勝手が違う捜査に苦労するライムに更なる困難が降りかかる・・・スナイパーが送り込んだ男たちに危うく溺死させられそうになるのだ。 いつもならアメリアのピンチシーンに五感が刺激されてしまう私なのだが、まさか今回はライムのピンチシーンを拝むことになろうとは・・・(さすがにあまり刺激はされなかったけど・・・) それはともかく、最大のピンチを切り抜けた後のライムは、まさに神業級の推理をつぎつぎと披露する。 圧巻は、「真のターゲット」に関する考察だろう。 本シリーズでは「よくある手」なのは確かなのだが、複数人が殺害された現場で、真に殺害したかったのは実は「脇役」と思われた人物でした、っていう仕掛け。これはもう、本シリーズの「お約束」に近いプロットではある。 ただ、そこはディーヴァー。本作では更なる仕掛けを用意している。(「ウラ」の「ウラ」は「オモテ」という引っ掛け、ではない) かように本作は「引っ掛け」「ひっくり返し」の連続を味わえる。 最終的に判明した「真の」「真相」は、最初見えていた、予想していたものとはかなり異なる状態で読者の前に現れることになる。 それがライムの神業的推理によるもの、といえばかっこいいが、そこはやや唐突ではあるし、予定調和な感じがしないでもない。それが本作の弱み。 あとは、長らく本シリーズに接した副作用としてのマンネリ感かな。これはもう、如何ともしがたい。 ウォッチメーカーをはじめ、本シリーズでは魅力的(?)な犯人役がつぎつぎと出てくるが、本作の「未詳516号」もなかなか。日本製の「出刃包丁」を使って死体を切り刻むさまは・・・かなりエグイ。本作のみで捕まったのがやや惜しい気はする。 ということで、次作も楽しみ、という結論にはなる。 (その割には評点が辛いけど・・・) |
No.6 | 4点 | レッドキング | |
(2020/09/01 21:36登録) ライムシリーズ第十弾。証拠と科学分析の四肢(実際は三肢)麻痺探偵と膝関節症の元モデル女刑事コンビが、曰くありげな地方検事の女と組み、挑むのは国家諜報組織とスナイパー。 反米主義活動家、メンヘラ右翼風組織ボス、猟奇的にしてグルメな暗殺者、怪しげな兵器産業経営者などが複雑に絡み合い、当初の見え透いたフー・ホワイダニットテーマが、別のフー・ホワイダニットのハウ=手段にツイストして、おまけに当初のテーマ自体が半ひねりして終わる。 ※シリーズ読み慣れちゃうと、「ああ!○○がピンチ!」てな倒述描写も、どうせカットバックで「大丈夫だったんだよーん」になるの見え透いてしまい・・さすがにチビっと飽きてきた。 |
No.5 | 6点 | take5 | |
(2018/11/21 06:51登録) ライムシリーズとしていつも通り楽しめましたが、 作を重ねる毎に少しずつエンディングが大味になっているような気がするのです。すみません極めて主観的ですが。作品中の包丁同様、作品を常に研ぎ澄ましても慣れがあるのか…アメリカの支配をめぐる今日的課題を取り入れるのも素晴らしい事ですが、 安楽椅子探偵は細部にこだわっていた初期作の良さがあります。そのイメージを壊していく=進化させていくのが、万人受けは難しくなるということでしょう。 ちなみに作者の料理愛は相当のものを感じました。 細部にこだわっていたのはここです。 |
No.4 | 7点 | Tetchy | |
(2018/01/20 23:55登録) リンカーン・ライムシリーズ記念すべき10作目となる本書の敵はなんとアメリカ政府機関の1つ、国家諜報運用局(NIOS)の長官。バハマで隠遁中の政治活動家を暗殺した共謀罪で逮捕しようと計画するNY地方検事補のナンス・ローレルに協力する。 今回特徴的なのは犯行現場がバハマということで現場捜査を担当するアメリアもすぐには現場に行くことが出来ず、ライムと共に部屋で捜査を担当し、情報収集に徹する。 一方ライムは現場の遺物の情報を得ようとバハマ警察の捜査担当者に連絡を入れるが、これが南国の後進国特有の悠長さと捜査能力の不足から非常に不十分でお粗末な状況であり、全く有効な手掛かりが得られない。現場検証も事件が起きた翌日に成されているため、新鮮なほど有力な情報が集まる物的証拠が失われた可能性が高く、ライムはその捜査のずさんさに悶々とさせられるのである。 このようにいつものように遅々として進まない捜査に読者はライム同様にストレスを感じさせられるようになる。 従っていつものようにお得意のホワイトボードに次々と新事実を埋めていくそのプロセスも滞りがちだ。しかも書かれた情報は人づてに教えられた情報と憶測ばかり。通常のライムシリーズとは異なる進み方で読者側もなんともじれったい思いを抱く。 そんな膠着状態を作者自身も察したのか、ライム自身がバハマに赴くことになる。 前作の『シャドウ・ストーカー』でライムはキャサリン・ダンスの捜査の手助けをするために自らフレズノに赴いたが、今回は更に海外まで進出する。リハビリと手術により指だけだった可動範囲も右手と腕が動かせるようになったことでずいぶんと活動的になったことが解る。最新型の電動車椅子ストームアローに乗って野外活動に励むライムの進歩は同様の障害に悩む人々にとって希望の姿でもあるだろうし、また最新鋭の補助器具があれば重篤な障害者でも、介護士の補助が必要であるとはいえ、外に出て行動することが出来ることを示している。優れたアームチェア・ディテクティヴのシリーズだった本書もまた科学と医学の進歩に伴い、その形式を変えようとしているのが解る。 しかし一方で現実はそんなに甘くないこともディーヴァーは示す。バハマ警察の上層部の意向に背いてライムに協力するポワティエ巡査部長と共に独自で捜査するライムたちを暴漢達が襲い、なんとライムはストームアローごと海に放り出されるのだ。危うく一命は取り留めたものの、ストームアローは海の中。ライムは病院にある普通に車椅子に戻ってしまう。事件捜査という犯罪と紙一重の活動は健常者にも危害が及ぶ。まして障害者にとっては過分なことだと示すエピソードだが、それでもライムは屋外に、数年ぶりに海外に出たことが非常に楽しいようで、これからも外出したいと述べる。それほどまでに日がな一日屋内生活を強いられるのは苦痛だからだ。 ライムはニューヨークの自宅に戻り、新たな電動車椅子メリッツ・ヴィジョン・セレクトを手に入れる。それはオフロード走行機能も付いた機種で今回のバハマ行で外出の醍醐味を占めたライムの行動範囲が今後もっと広がることだろう。 しかし一方でライムの手足となり、フィールドワークを担当していたアメリア・サックスは逆に今回のチームに加わった特捜部のビル・マイヤーズ部長から持病の関節炎を見透かされ、更に健康診断の不備により、捜査を外れることを通告される。ライムの身体能力の向上と反比例するかのようにアメリアの関節炎は悪化してきており、逆に捜査活動に支障を来たす様になってきている。何とも皮肉な話だ。 突然だが本書の原題は“The Kill Room”。これは殺害された者がいた部屋を指すと最初は書かれていたが、実は別の意味を指す。ネタバレになるので書かないでおくが、少ない設備投資で一度居所を掴まれた標的はどんなに遠くに離れていても暗殺されるという実に恐ろしい時代となったと寒気を覚えた。 今回も相変わらずどんでん返しがあり、価値観の反転する。ミステリとしては読書の愉悦を味わえるが、実際面としては実に恐ろしいと思わされる。高度な情報を扱う仕事は常にその情報に隠された意味を考え、判断することに迫られている。しかしそこに感情が加わるとその情報は右にも左にも容易に傾く。それこそが本書のテーマであろう。 高度な情報を操る人々、権力を有する人々は共に自らの信条に従い、正しいことをしていると思っていながら、実は好き嫌いという子供の頃から抱く非常に原初的な感情にその判断を左右されていることに気付いていない。そのことが彼ら彼女らをして情報を読み誤り、また読み誤ったと勘違いしたりする。そんな権力を持つ一個人の感情のブレで対象となる人間の生死をも左右されることが実に恐ろしい。 思えば本書は鑑識の天才リンカーン・ライムが現場から採取した証拠という事実だけを信じ、緻密に推理を重ね、論理的に事件を解決するところが魅力であるのだが、その実理屈っぽく終始不平不満を呟くライムの感情っぽいところ、つまり人間臭さがシリーズの魅力でもある。 そしてまた本書ではライムがバハマに赴いて地元の警察と捜査をしている間、アメリアはアメリカで捜査を続け、その距離がお互いを強く意識し合い、そしていつも以上に求め合うことになる。 緻密な論理を売りにしているこのシリーズは実は人の感情を実に豊かに捉えた作品であることを再認識させられる。またその感情ゆえに生れる先入観が登場人物のみならず読者の感情を動かし、どんでん返しへと導かれていくのだ。 実は本書は人気シリーズの第10作と記念的な作品ながらシリーズ作で唯一『このミス』で20位圏内から漏れた作品だった。ランキングがその面白さと比例しているわけではないとは解っているが、このシリーズの特色である、ある分野に精通した悪魔的な頭脳の持ち主や超一流の技能を持つ殺し屋が登場しないことが他の作品に比べて魅力がないように思われる(みなさんが仰るように小粒ですね)。 もし今回は政府機関のNIOSが相手ということもあって情報戦に終始し、いわゆるいつも感じるヒリヒリとした緊迫感に欠けたように感じた。 あと最後に解るジェイコブ・スワンの正体と彼の標的を考えると一連の殺しに不整合さがあると感じるのは私だけだろうか?捜査の誤操作のためにやった、という理由かもしれないが、彼の正体を知るとそれはやっぱりあり得ない、行き過ぎだろう。 本書では上に書いたような不満を抱いたが、まだまだディーヴァーの筆は衰えていないことは既に立証済み。どんなシリーズにもある谷間の作品として記憶するにとどめ、次作に大いに期待することにしよう。 |
No.3 | 6点 | HORNET | |
(2015/12/07 21:02登録) 楽しく読めたことは間違いないのだが、充足感という域にまでは至らず、それがなぜなのか模糊としていたが、ここまでのお二方の書評にそれを教えていただいた。 1日ごとを追うお決まりの章立てで、スピード感、臨場感は変わらずあってよいのだが、そうか…なるほど…確かに「敵が小物」ね。それは当然組織の大きさとかそういうことじゃなくて、手ごわさとかそういうことね。 あと、微細証拠物件を収集して緻密に論理的に詰めていくのがライムの手法だけど…ラストの展開などはちょっと神がかりに飛躍しすぎ。大味なハリウッド映画みたいな詰め方だったなぁ。 個人的にうれしかったのは岐阜県関市のナイフ(要は包丁)が出てきたこと。まぁいい使われ方ではないけど。 |
No.2 | 7点 | 初老人 | |
(2015/10/01 09:35登録) リンカーンライムシリーズ記念すべき10作目はバハマで反米活動家を暗殺したスナイパーと指示を出した国家諜報機関とのライムの対決を描く。 事件の構図が刻々と色を変え変化していく過程を楽しむ事は出来たものの、ライムの推理が神がかり過ぎていて現実味に乏しいし、悪役が余りに小粒で読んでいて充足感を得る事が出来なかった。 とは言えそういった細かい点に目をつぶればストーリーやどんでん返しの妙を味わいたい方にとって最適の一冊。各キャラクターの成長ぶりや心境の変化などが描かれているのでシリーズを通して読んでいる人に特にお勧め。 |
No.1 | 6点 | kanamori | |
(2014/12/24 22:36登録) ライムのもとに女性検事補ローレルが訪れた。反米活動家モレノをバハマで暗殺した黒幕はアメリカ政府の諜報機関で、その首謀者を法廷で裁くべく、彼女はライムに捜査協力を依頼する。だが現場は遠く証拠が収拾できないなか、暗殺者によって目撃証人が次々と抹殺されてゆく事態に-----------。 リンカーン・ライム、シリーズもいつの間にか本書で10作目。 本書の目玉は、車椅子のライムが初めて米国を離れ、カリブ海に浮かぶバハマまで出っ張ることでしょうか。諜報機関の最新兵器やスナイパーが相手ということもあって、いつもよりアクション・スリラーの様相が強い仕上がりです。 中盤に何度か仕込まれているどんでん返しは、もう”期待通りのどんでん返し”で、サプライズ感はあまりないのですが、ダミーの犯人像を次々と繰り出してくる終盤の展開でだいぶ盛り返していますね。 ただ、このところ対峙する”敵”に初期作と比べていまいち歯応えを感じないことも事実。 次作の「スキン・コレクター」に期待しよう。 |