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ミステリの祭典

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処刑までの十章

作家 連城三紀彦
出版日2014年10月
平均点5.67点
書評数6人

No.6 6点 ぷちレコード
(2022/05/22 22:56登録)
まさに連城節前回の序章から、物語は直行と義理の姉との禁断の恋をはらみながら、思考が追い付かないほどの反転劇を繰り広げてゆく。
連城小説のキーワードのひとつである「疑心暗鬼」が極限まで突き詰められた作品。

No.5 6点
(2021/01/08 06:00登録)
 結婚して十一年目のある朝、ひとりの平凡なサラリーマン・西村靖彦が突然消えた。彼の弟直行は、土佐清水で起きた放火殺人事件、四国や奈良の寺で次々と見つかるバラバラ死体が、兄の失踪と関わりがあるのではと疑い高知へ向かう。真相を探る度に嘘をつく義姉を疑いながらも翻弄される直行。彼は夫を殺したかもしれない女に熱い思いを抱きながら、真実を求めて迷路の中を彷徨う。
 海を渡る蝶・アサギマダラと、ショパンのノクターン・第ゼロ番のメロディが導く深い謎。消防署に届いた放火予告に記された時刻「五時七十一分」が示すものとは? 稀代の名手が闘病中に書き上げた、千枚を超す執念の大長編!
 雑誌「小説宝石」2009年1月号~2010年2月号、2010年7月号~2012年3月号にかけて連載された、著者最後となる33番目の長編。胃癌による闘病のためか、この時期の短編は「オール讀物」2009年6月号掲載の「小さな異邦人」のみで、最後の二年間は実質これ一本に傾注。バラバラ殺人や旅情ミステリー的趣向など、第24長編「わずか一しずくの血」と共通するモチーフは多いものの、肩透かし気味な結末の「わずか~」に比べればそれなりに読み所のある作品に仕上がっています。
 冒頭で失踪時の兄の行動と、「家に放火して出てきた」「蝶々になって土佐清水から飛んできた」と囁く女との逃避行が描写され、それに対置する形で高知の火災を知った兄嫁の純子と、弟の直行の調査や推理が進んでゆく展開。兄の足跡が残る多摩湖畔の旅館や土佐清水へ調査に向かううち、第三章でこの作者らしい仕掛けが用いられ「おおっ」となりますが、その後は概ね煮え切らない進行ぶり。肝心の火災は〈三角関係の果ての自殺〉で片付けられてしまい、データもロクに入らないまま義理の姉弟双方が疑心を募らせ、ああでもないこうでもないと仮説が積み重ねられていきます。
 大きく動き出すのは第七章後半以降、西村家に奇妙な時刻が書かれた寺の絵葉書が届き、それに従い四国四県の各寺で人間の体の一部が発見され始めてから。年明けと並行して純子と直行の二人も体の関係を成立させますが、お互いの疑心暗鬼は変わりません。そうこうするうち序盤の端役たちが意外な形でクローズアップされ始め、やがてあの多摩湖畔の旅館近辺で、今度はまた別の殺人が行われ・・・
 〈私は嘘つき〉とのたまう純子を始め、誰も彼もが思わせぶりかつ場を撹乱させる言動を。ストーリー自体は纏まったデータを持つある人物の告白で一気に収束に向かいますが、この結末だとここまでの長編にする必要は無いような。まあ失望まではしなかったからいいんですが。
 点数は遺作補正も入れてギリ6点。正直甘めに付けてます。

No.4 6点 E-BANKER
(2018/12/31 13:09登録)
作者没後に何作か発表された長編作品のうちのひとつがコレ。
「小説宝石」誌に連載された後、2014年単行本として発表。
遺作でも“連城マジック”は披露されているのか?

~平凡なサラリーマンであった西村靖彦が突然消息を絶った。弟の直行は、真相を探るうちに兄が殺されたという疑念を持つ。義姉の純子を疑いながらも翻弄されるなか、高知で起こった放火殺人事件の知らせが入る。高知と東京を結ぶ事件の迷路を彷徨いながらたどり着いた衝撃の真相とは? これぞまさに連城マジックの極み!~

なかなか“言い得て妙”の紹介文である。
私個人も、文庫版で600頁弱、まさに「迷路を彷徨いながら」の読書だった。
本当にこれは真相にたどり着くのか? ぐにゃぐにゃとした迷路或いは暗路を歩いているような感覚・・・なのだ。

登場人物はそれ程多くない。物語の主軸はあくまでも靖彦の妻と弟。このふたりの愛憎劇が中心。
ただ、物語が進むにつれ単なる端役でしかないと思っていた登場人物たちがまさかのクローズアップ、「ここで出てくる!?」の連続!
これも“連城マジック”なのかと唸らされた矢先に、それまでも否定されてしまう・・・
もう何が何だか・・・である。

ただ、「暗色コメディ」など過去の佳作で見せていたようなアクロバティックな反転劇ではない。
表現するなら万華鏡だろうか。
読者に見せる角度をつぎつぎと変えていく技法。物語もひとりひとりの人物も、最初に見せていた角度はあくまでも読者に対する欺瞞。
角度を変えて見せれば、予想外の姿が見えてくる・・・
そういう意味では、年月を経て熟練、円熟味を増した作者のテクニックを味わえる。

ただ、他の方も書いているとおり、死を目前にした書き急ぎが見えるのも事実。
特に終章はこじんまりとまとまりすぎ。
もちろん仕方ないのだけど、これだけの大作なのだから、それに相応しいシメやオチが欲しかったなあとは思う。
でもまあ、久々にあのネットリした連城節を堪能できたからよしとしようか。
評価としてはこんなもんだけどね。

(何とか年内に間に合った・・・。本作を読了するのに相当時間がかかったせいだな・・・)

No.3 5点 YMY
(2018/06/17 11:25登録)
突然、夫の靖彦がどこかに消え去った。妻の純子は、靖彦の弟である直行とともに夫の行方を追う。
渡りをするアサギマダラという蝶の同好会。高知県の土佐清水の火災現場で見つかった焼死体。「午前五時七十一分」という奇妙な時刻が記された犯行予告のはがき。謎の女。そして香川県の寺で発見されたバラバラ死体。
いくつもの不可解なものごとが絡みつつ、章が移るごとに事件の様相も変わり、別の見方が示される。男女の三角関係や奇妙な数字の読み方など、作者ならではの世界が展開していく。

No.2 5点
(2015/08/31 10:38登録)
少ない登場人物の中で、いったい誰がどんな役割を演じているのか、その辺りを探りながら読むのがいちばんでしょう。

突如蒸発した靖彦、その妻の純子、靖彦の弟の直行。残された二人がいっしょに聞き込みしながら、靖彦を捜索し、さらなる事件に遭遇する、それだけなら普通の推理小説だが、そこは連城氏らしい味付けになっていて、幻惑的なサスペンスが創出してあります。
互いに腹の探りあいに発展していくところや、登場人物の事件への関わり方が徐々に解明していくところは、それなりに楽しめます。

ただ、肝心要の謎の解明はあっけないし、それが事件にどう関わっているのかも中途半端な感があります。最後までもやもや感は拭い取れません。
結局、中途のサスペンスだけが唯一の楽しめる要素だったようで、総合的にはちょっと?という感じでした。

No.1 6点 kanamori
(2014/11/04 18:23登録)
いつもどおり会社へ出勤したはずの兄の靖彦が失踪した。弟の直行は、残された義姉の純子とともに兄の行方を追ううちに、土佐清水市で起きた放火殺人が関連するのではと睨み高知へ向かう。やがて、送られてきた絵はがきに呼応するように、四国の寺で次々とバラバラ死体が見つかる--------。

作者の一周忌に合わせて刊行された遺作大作の一冊。
多摩湖畔や、高知、奈良などと舞台を移しながら、真相を探る度に、義姉・純子の意味ありげな言動や嘘に翻弄される直行。彼といっしょに、読者も多くの謎に彩られた迷宮に引き込まれてしまう。まさに終盤近くの第八章までは、細かな反転を織り込んだいつもの連城ミステリという感じだったのですが........。
本書は一昨年の春まで「小説宝石」に連載されたものの書籍化で、恐らく闘病中の執筆ということが影響しているのでしょう。終章はかなり駆け足気味に語られ、唐突に明かされる真相もすっきりしない。直行と純子を中心に展開されてきた物語だけに、このような結末だと、登場人物や全体構成のバランスの悪さが目立ってしまう。
もはや、作者による加筆・改稿が叶わないのが残念だ。

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