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ミステリの祭典

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追憶のカシュガル
御手洗潔シリーズ/別題『御手洗潔と進々堂珈琲』

作家 島田荘司
出版日2011年04月
平均点5.14点
書評数7人

No.7 4点 測量ボ-イ
(2020/10/31 07:24登録)
予測はしましたが、ただの読み物でした。
ミステリ-性はほぼゼロです。

No.6 6点 名探偵ジャパン
(2015/07/02 10:05登録)
新潮文庫nexにて、「御手洗潔と進々堂珈琲」の改題版で読了。

若き御手洗が世界各地で経験した出来事を綴った短編集。
皆さん書かれている通り、ミステリではない。(「戻り橋と彼岸花」のみ、島荘らしいトリック要素があるが)
権力への反抗。容易には窺い知れない人の心の深層。そして、弱者へのいたわり。中編集「Pの密室」と合わせて、後の名探偵御手洗潔のルーツを探ることができる。
御手洗ファン必読。ライトノベルの新鋭レーベル「新潮文庫nex」ということで手にし、初めて御手洗に触れた若い読者には、ぜひとも他の御手洗シリーズも読んでみてほしい。
構成上仕方がないのだが、御手洗の独白の長さが凄すぎ(笑)
御手洗の話を小説風に再構成した、とかではなく、回想の登場人物の台詞に『』が付いていることから、すべて御手洗が口述したそのままなのだ。この記憶力。アドリブでの口述にもかかわらず、この構成力。こんなところに、すでに超天才の片鱗が出ている。

No.5 5点 E-BANKER
(2015/04/16 23:18登録)
2011年発表の連作短篇集。
~進々堂。京都大学の裏に佇む老舗珈琲店に世界一周の旅を終えた若き御手洗潔は日々顔を出していた。彼の話を聞くため、予備校生のサトルは足繁く店に通う・・・~
今回は文庫版(「御手洗潔と進々堂珈琲」と改題)にて読了。

①「進々堂ブレンド1974」=軽い導入部的一編。御手洗の相手役となるサトルの少年時代の淡い恋の話。この頃って、年上の女性に憧れるものなんだろうなぁー
②「シェフィールドの奇跡」=ハンディキャップを持つ人々に対する偏見は洋の東西を問わずということか。御手洗という登場人物を通じて、作者はよく社会的弱者へのいたわりの思いを読者に伝えているが、本作もそれがよく出ている。
③「戻り橋と彼岸花」=“彼岸花=曼珠沙華”という花を象徴的存在として、戦時中の日本と韓国の関係を描いた作品。どこまで実話に沿っているのか不明だが、こういう話に接すると心が痛くなってくる。ラストはある伏線が明らかにされるのだが、それが見事に作品に華を添えている。
④「追憶のカジュガル」=現在、新疆ウイグル自治区にある街・カシュガル。砂漠にあるオアシス都市、東西文化の結節点として、昔よりあらゆる民族から征服を受けてきた街・・・。そんな独特な雰囲気を持つ街で御手洗が出会ったのは、パン売りの少年と白髯を蓄えた老人。その老人は日本に纏わる過去を有していた・・・。アキヤマが死ぬ間際に発した『アジア人としての誇りを持って・・・』という言葉が泣かせる。

以上4編。
他の方も書いているとおり、本作はミステリーではなくいわゆる「謎」は登場しない。
御手洗が体験談がひたすら語られる・・・・のだ。
本作が楽しめるかどうかは、その体験談をいかに楽しめるのかにかかっているのだが、個人的には・・・微妙。

とにかく御手洗潔が好きという方には必読なのかもしれないが、少年時代を描いた「Pの密室」といい本作といい、そこまで御手洗を超人にしなくても・・・という気にはさせられた。
せっかく連作形式にしたのなら、もう少しそこに凝ったプロットを仕掛けて欲しかったしなぁ・・・
まぁ、いい話ではある。

No.4 7点 Tetchy
(2015/02/21 00:31登録)
日本の古都京都はその永き歴史ゆえに様々な言い伝えや伝承が今なお息づいており、点在する名所や史跡にはそれらが成り立った理由や逸話が残っている。
そんな古都にまさか御手洗潔が住んでいたとはミタライアンでも驚愕の事実であっただろう。しかも京大の医学部出身だったとは。横浜の馬車道を住処にしていた御手洗が関西ならば神戸辺りが適所だと思うが、京都とは意外だった。そんな京大時代に御手洗は休学し、海外放浪をしていた。そして京大を目指す予備校生サトルを相手にその時に出遭った人々の話を始めるというのがこの連作短編集だ。

特徴的なのは御手洗潔の短編集でありながら本書では御手洗潔は推理をしない。つまりミステリとしての謎はなく、御手洗はあくまで彼が海外放浪中に出逢った人々から聞かされた話をサトルに語るだけなのだ。謎を解かない御手洗の姿がここにある。
しかしこれら彼が経験した出逢いは御手洗にとって人間を知る、歪んだ社会の構図を知る、そして島国日本に留まっているだけでは理解しえないそれぞれの世界のルールを知り、その後快刀乱麻の活躍ぶりを発揮する名探偵としての素地を形成するための通過儀式のように思える。社会的弱者に対する優しき眼差しはこの放浪で培ったものなのだ。

今や社会は弱者に対して優しくなったと思う。バリアフリーは進み、知的障害者に対する理解も増え、学校では支援学級が必ず存在するようになった。また外国人への規制も緩くなりつつあるし、さらにはトランスジェンダーへの理解も広がり、性同一障害者がテレビをにぎわすほどにもなった。
しかしそんな社会もかつて虐げられた人々の犠牲の上にごく最近になって築かれてきた理解の賜物であることを忘れてはならない。この御手洗潔が語る弱者への容赦ない仕打ちこそがほんの10年位前にはまだ蔓延っていたのだ。
本書は御手洗の海外放浪記であるとともに世界の歴史の暗部を書き留めておく物語でもある。人間の卑しさを知った御手洗がその後弱者の為に奔走する騎士となる、そんなルーツが知れるだけでもファンは読み逃してはならない。

No.3 3点 simo10
(2012/01/25 21:24登録)
御手洗シリーズ最新版、四話の短編集です。京都大学時代の御手洗の語りを友人が聞き手となって解説するのが主な構成で、ミステリではありませんでした。

①「進々堂ブレンド1974」:御手洗の友人が語るほろ苦い恋物語。
②「シェフィールドの奇跡」:知能に障害を持ちながらも、秘められた才能(重量挙げ)を開花させる子とその親の奮闘記。実話が基になっているとしたら感動秘話ですが、フィクションだとしたらただのご都合主義です。
③「戻り橋と彼岸花」:戦時中の日本を舞台に、強制労働させられた朝鮮人の姉弟の物語。若干の謎かけがあり、オチもうまくまとまっています。重い話ですが、ラストは感動的です。
④「追憶のカシュガル」:表題作ですが全然内容を覚えていません。読み返す気もありません。

「溺れる人魚」で懲りていたのですが、文庫化を待てずにまたしてもハードカバー版を購入。結果、やっぱ買うんじゃなかったと思いました。

No.2 5点 まさむね
(2011/06/18 10:21登録)
 2つの短編+2つの中編で構成。ちなみに,どれもミステリではありません。
 今回の御手洗は,探偵役ではなく語り手役に徹しています。御手洗が過去に世界放浪の旅で出会った(聴いた)方々の人生を語るスタイル。
 特に「戻り橋と悲願花」が印象的ですね。個人的には作者の後記も沁みました。ミステリではなかったけれども,こういう読書もたまにはいいかな。

No.1 6点 kanamori
(2011/05/24 18:27登録)
御手洗潔シリーズの中短編集。
といっても、奇想天外な謎や大技トリックが出て来ないどころか、御手洗が推理する場面もありません。70年代に世界を放浪した御手洗が各地で出会った人物から聞いたエピソードを回想し語るという構成で、社会的弱者への差別と奇蹟の物語が中心になっています。
中編の2作が印象に残った。ともに、戦争を背景に花(曼珠沙華と桜)をモチーフにした、ある人物の悲哀あふれる生き様を描いている。とくに「戻り橋と悲願花」のラストシーンの奇蹟は感動的。いつまでも余韻が残る名作でしょう。

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